26話 球技大会とお礼と恋
「ソラ氏・・・・・とうとう、来てしまいましたな。」
「ですな。」
友達のミノル氏が僕に言う。
今日は木曜日。
「ソラ!お前はバスケットか!頑張れよ!」
「ハイハイ。陽キャは早く行ってくれ。」
サトルが僕の肩を嬉しそうに叩く。
球技大会。
全学年が、球技を行うイベントの日だ。
ソフト、サッカー、バスケ、テニス、卓球、色々と選べたが僕はバスケにした。
はっきり言って、スポーツはほとんどやったことがない。ゲームなら得意だけど。
だから、どれでも良かったんだよね。
隣で友達が話しかける。
「・・・・・ソラ氏。バスケはあのネットみたいなのに、入れればいいんですかな?」
「そうですよ。ミノル氏。ゲームと同じです。」
ミノル氏は僕と同じバスケを選んだ。
頼もしいかぎりだ。
ちなみにマサキ氏は卓球だ。中学の時に結構ならしたらしい。・・・・・ズルいな。
そしてサトルはもちろんサッカーだ。
サッカー部のキャプテンだから、モテモテだろうな。・・・・・くそっ。彼女がいるくせに・・・・・爆発してしまえ。
バスケはゲームではやったことはあるが、現実ではもちろんない。
自信をもって私は言おう。
高校までは、ずっと部活は帰宅部だ。
ゲーム、アニメをこよなく愛する男として今まで生きている。まぁ、毎週探索には行っているけどね。
なので、ミノル氏と同じでまるきりルールが分からない。
体育館の二階席を見る。
「キャー○○先輩!キャー○○先輩頑張って!」
一・二年生が、自分の競技が終わったのだろうか。めっちゃ応援に来ている。
僕達三年一組は、なんと決勝まで残っていた。
バスケは五人。
うちのクラスには、奇跡的にバスケ部のレギュラー五人が揃っているのだ。
だから、難なく決勝まで勝ち進めた。
バスケのキャプテンが言う。
「ここまで来たんだ!あとはもういいだろ。参加してないソラやミノル!出てくれるよな?」
「「 はっ??? 」」
まさかの決勝での参加。
意味が分からん。いいだろじゃないだろ、いいだろじゃ!優勝狙えよ!
おそらく善意で参加させたいと思ったんだろうけど、いい迷惑だ。
ゲームだったら右に出る者はいないと自負しているけど、スポーツは無理だからぁぁぁぁぁ!
隣を見ると、ミノル氏もげんなりしている。
「ミノル氏・・・・・お互い、目立たない様に頑張ろうではないか。」
「そうですな。参加する事に意義があるといいますからな。」
二階席を見ると、相変わらず周りに囲まれながら、ココセがいつもの様に冷たい目線で僕を観ている。
はぁ。親友が観てるんなら、少しは頑張らないとな。
僕達陰キャは、黄色い声援が送られている、バスケの決勝に出来るだけ目立たない様に参加した。
☆☆☆
バンッッッ!!!
「ソラ!」
「おい!ソラ!・・・・・大丈夫か!?」
ルールは分からなかったが、出来るだけ真剣にやった。
ココセが観ていたからね。
僕とミノル氏は出来るだけ参加しないで、三人に任せていたけど、後半、後ろにいた僕に鋭いパスが飛んできた。
慌てて取ろうとしたんだけど、ボールを触ったことがない人間がうまく取れるわけもなく、顔面キャッチをしてしまった。
そのまま、仰向けに倒れた。
みっともなく鼻血を出しながら。
???????
倒れた時。
一瞬。
時が止まった。
体育館にいる全員がそう思った。
「・・・・・・・大丈夫!大丈夫だから!!!」
僕が叫ぶ。
すると、フッと元の雰囲気にもどった。
☆☆☆
私は保健の先生を務めている。
テニスの応援に行っていたが、今話題の二年生。ココセさんが血相を変えて私の所へと来て、生徒が倒れたと聞いたので、保健室へと足早に歩いていた。
ココセさんも一緒について行こうとしたが、戻る様に促した。
あの子が動くと今は大変だからだ。
変な噂がつくのはよろしくない。
保健室まで着いて、扉を開けようとすると声が聞こえる。
「・・・・・・・・・・・・・。」
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。」
倒れた生徒以外に誰かいるの?
扉を開けると、一人の生徒が誰もいない天井を見ていた。
その生徒がこちらへ振り向く。
「佐藤先生。」
「あら、貴方ね。バスケでケガをしたのは。」
イスに座っている生徒へと近づく。
「えっと君は・・・・・。」
「三年一組の武藤空です。」
「ソラ君ね。それじゃ見せて。」
鼻血はすでに止まっていて、腫れもそんなにない。少し冷やせばすぐに治るだろう。
ちょっとした治療を終える。
「はいお終い。良かったわね。当たり所が悪くなくて。とりあえず球技大会も終わるだろうから、ゆっくり休んでから帰りなさい。」
「分かりました。ありがとうございます。」
一応、教頭には報告しないとね。
一度保健室を出ようとした時、ふと思い出して生徒に聞く。
「ところでソラ君。君以外に誰かいた?」
「いえ?僕一人ですよ?」
「・・・・・そう。」
気のせいみたいね。
保健室の扉を閉め、職員室へと歩いて行った。
☆☆☆
その日の夕方。
僕は帽子を深くかぶり、マスクをして、学校近くの駅前に立っていた。
いやぁ~、今日は災難だった。
バスケットボールとお見合いするとは思わなかったからだ。
ミノル氏や同じ教室の人達には心配されるしで大変だった。
まぁ、運動神経が悪い僕のせいなんだけどね。
親友がいて、たまに張り切ったりすると、だいたいロクなことにならない。
小さい時からいつもそうだ。
そんな事を考えながら突っ立っていると、一台の高級車が僕の目の前に止まる。
運転手の人が後ろを開けると、男性が笑顔で出てくる。
見ると40代後半位だろうか。
とてもダンディでカッコよく見える。
そのまま真っすぐに僕へとくると、手を差し出し、握手をする。
「君がソラ君だね?会いたかったよ。さっ、ここではあれだから、一緒に乗ってくれるかい?」
僕は頷くと、車へと乗り込んだ。
海が見える湾岸沿いの超高層ビル。
その最上階にあるレストランに案内された僕は、かなりビビりながら席に座る。
さかのぼる事、月曜日。
いつもの様に、自分のチャンネルチェックをしていると、気になるメールが届いた。
あの『ごわす』さんのお父さんからだった。
メールには助けてくれた事への感謝が延々と綴られていた。
そしてあの時、何も言わずに消えてしまったので、是非、一度でいいから会ってお礼がしたいと。
でないと、ずっと後悔だけが残ってしまうと。
そんな事が書かれてたら、受けるしかないよね。
それで今日を迎えている。
横を見ると全面大きなガラス張りの窓になっていて、海に沈む夕日が一面に見える。
これ。大人のカップルなんかが来る所なんじゃないか?
そんな事を考えていると、目の前に座っているダンディな男性が言う。
「さて、ちゃんと自己紹介してなかったね。私は安藤真司。一応、安藤財閥のCEOをやっている。」
「フフフ。私は妻の麗華です。」
「えっ!えっと・・・・・私は、春香です!」
僕が座っている円卓には、『ごわす』さんをいれた父母三人が座っている。
「ところで、顔を隠しているのは知っているが、どうか、この時だけでも見せてはくれないかい?もちろん秘密にする事は約束しよう。」
周りを見ると、僕達以外このレストランには誰もいない。
貸し切りなのだろうか。
この最上階の、この景色が見えるレストランの貸し切りとは、一体いくら位するんだろうか。
「礼儀に反しますね。失礼しました。・・・・・僕は武藤空です。」
僕は、帽子とマスクを取ると挨拶をする。
すると、三人がいきなり頭を下げた。
「今日は呼びかけに応じてくれてありがとう。どうしても君と面と向かってお礼が言いたかったんだ。」
「えぇ。・・・・・貴方がハルカを助けたあの日。私達がどれだけ嬉しかったか。感謝してもしきれない程の恩を貴方から貰ったわ。」
「ありがとうございました!!!」
僕は笑顔で三人に話しかけた。
「ちょ、ちょっと!三人とも頭を上げてください。僕は、美味しい食事をご馳走してくれるから来ただけですよ。これでチャラです。『ごわす』さん・・・・・いや、ハルカさんも気にしないでね?」
「本当に君という人は・・・・・ソラ君。これだけは言わせてほしい。約束しよう。君がもし何か困った事や助けが必要な時が来たら、私を訪ねに来て欲しい。この安藤真司が・・・・・いや、安藤財閥全てを使って君を助けると誓う。それだけは覚えておいて欲しい。」
「分かりました。ありがとうございます。」
良かった。これで配信で食えなくなっても就職先ができたかな。
僕たち四人は、とても綺麗な夜景を見ながら食事と会話を楽しんだ。
☆☆☆
私はベットに潜り込むと、隣で横たわっている同じ位大きなクマのぬいぐるみを抱きしめた。
「・・・・・ソラ様♪♪♪」
思わず声がでる。
ずっと声だけ聴いていた。
あの透き通る、安心できる声を。
まさか会えるなんて思いもしなかった。
両親でさえ、救う事が出来なかった私の病気を救ってくれた王子様。
会えて、見た瞬間、恋に落ちた。
普通に見れば、顔は特段カッコいいわけじゃない。他の女子なら普通と言うだろう。
でも私は違う。
どんな姿でも、貴方だから好きになった。
「フフフ。これからもずっと応援しなくちゃ。」
私はVtuber『まりも』。
まりもの動画でも、どんどんソラ様の良さをアピールして、広めていかないと。
「ソラ様、ソラ様、ソラ様・・・・・・・・ちゅき♪」
クマのぬいぐるみを抱きしめながら、ずっと呟くその少女が、親友達女子三人組のライバルになろうとは、今はまだ誰も想像つかなかった。
☆☆☆
「ふぃ~。今日も色々とあったなぁ。」
家に帰っていつもの様にゲームをして、動画チェックした後に、ベットに仰向けで横になっている。
最近、日曜日以外で、外食が多くなったような気がする。
まだ僕は学生だ。
ちゃんと出かける前に連絡はするけど、あまり親に心配をかけない様に気を付けないとね。
「ムフフフフ。」
思わずキモイ笑い声をだす。
この間のエイセイとのソロ動画。
その時のライブ動画の視聴者は80万人越え。
そしてチャンネル登録者数は、今日時点で、なんと500万人を突破したのだ。
まじパネェ。
ライブ動画が終わった段階で、一気にチャンネル登録が伸びた。
エイセイのファンが登録してくれたのだろう。
エイセイさまさまだ。
そんな感じで、今日は球技大会で散々な目にあったけど、ずっと機嫌はいいのだ。
「・・・・・・・・・・・・・。」
「おっ。今日は【フェイ】だね。おいで。一緒に寝よう。」
『幽霊さん』が現れると、嬉しそうに、僕の隣に潜り込む。
僕はゆっくりと目を閉じた。
今日もいい夢が見れそうだ。
「おやすみ。」




