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14話 大切な視聴者



「ゴホッゴホッ。」



咳が出る。



自分のパジャマを見ると、胸の辺りは吐血して真っ赤だった。


しかし、拭こうにも自分の手で動かす力がもう残っていない。


私は、自動ベットで上半身が病室を見渡せる位の位置までベットを立たせている。



「ハァ。ハァ。」



呼吸もうまく出来ず、息をするのも辛い。


ゆっくりと左を向いて、大きな窓の外を見た。



今は夕方。


夕日がとても綺麗だった。


その夕日を見ていると、自然と涙が出てきた。




私の名前は、安藤あんどう 春香はるか。16歳。安藤財閥の一人娘。


そして、ここは『安藤国際病院』。


日本の最先端の医療を受けられると評判の病院だった。


その最上階の特別室に私は十数年間ずっと病気と闘ってきた。



末期の白血病。



ここまで生きてこれたのも、父や母の愛情や、湯水の様にお金を私の為に使ってくれたから。


でも、昨日聞いてしまった。


先生と両親が話しているのを。


今日か、明後日か。・・・・・覚悟をしてほしいと。


私が寝ていると思い、病室の外で両親の泣く声が聞こえた。



だから私は覚悟を決めた。



諦めたくはないけど、流石に自分の体だから分かる。


だってもう、体がほとんど動かないんだもん。



・・・・・この一年間は楽しかった。



親が用意してくれた、特別なスクリーンとPC。


私はVtuber『まりも』となって、キーボードで言いたい事を入力するだけで、アバターが喋ってくれた。


そして、とても多くの人達が私を観てくれて、話しかけてくれた。


その時は痛みも忘れて、スクリーンに夢中になったな。



ギリギリ動かせる指で、手元にあるボタンを押す。


すると目の前のスクリーンが明るくなり、動画が流れ始めた。


「皆さん!今日もご視聴ありがとうございます!・・・・・『空ちゃんねる』スタートです!!!」


オープニングの曲が流れる。



「ハァ。ハァ。・・・・・面白かったな。」



今は再生動画。



何度観ても面白い。



私はVtuberだけじゃなく、もう一つ、夢中になっている物があった。



それがこの『空ちゃんねる』動画だ。



半年前にアップされて、徐々に人気が出始めたが、ここ最近の下層ソロ動画で一気にブレイクして常に話題にのっている動画。


私は、この『空ちゃんねる』の・・・・・ソラの大ファンだ。


一番最初にアップされた時からずっと追いかけている。



観た時に衝撃を受けたから。



チーム【星空】があまりにも生命力に溢れていて、とても眩しかったし、羨ましかった。


そして、それを撮影しているソラの声は、とても優しく、澄んでいて、私の心を癒してくれた。



「ゴホッ。ゴホッ。」



また血が服に飛んだ。



抗がん剤治療で髪はなく、もう食べる事も出来ない。



涙がまたこぼれ落ちる。



「・・・・・生きたい・・・・・生きたいよぉ。」



やっぱり生きたい。



お父さんとお母さんともっと一緒にいたい。友達と遊びたい。Vtuberも続けたい。もっともっと色々な事をやりたい。



スクリーンを見ながら私は呟く。


「もっと・・・・・もっと観たかったなぁ。」



ゆっくりと目を閉じようとしたその時、病室の扉が開いた。






☆☆☆






「でかっ!」


思わず声が出てしまった。



タクシーから降りた僕は、病院を見上げる。



ここは『安藤国際病院』。


安藤財閥が運営している、最先端の医療を受けられると評判の病院だ。


病院は、小さい頃によくお世話になってたから分かる。


この病院は、各県にある大学病院よりも大きい。



そんな事を思いながら僕は、病院の中に入って行った。





今日は木曜日。


学校が終わって、ここまでタクシーで来た。


なので服装は学生服。顔バレしたくないので、深く帽子をかぶり、マスクをしている。


窓の外を見ると、すっかり夕焼けに包まれていた。



日曜日にライブ動画が終わって、帰った後、いつもの様に編集動画を作っていたら、一通のメールが来た。



悲痛な文面で、娘さんが病気にかかっているというメールだった。


そしてあと数日の命だという事も。


たまたま娘さんが僕のライブ動画を観ていて、他の探索者を助けて、ポーションを全種類並べて説明をしていたのを見て、居ても立っても居られなくなり、メールをしたのだそうだ。



どんなにお金がかかってもいい。



どうか娘を助けて欲しいと。



正直、今回のポーション動画は撮影するんじゃなかったと反省していた。


このメールだけじゃなく、他にも何通か来ていたのだ。


助けて欲しいと。



僕は、そういったメールはスルーすると決めている。だって、ポーションは僕の物じゃなくて皆の物だから。


だから勝手に使うわけにはいかない。


ましてや、赤以上のポーションならなおさらだ。



受付で病室を確認してから、最上階の個室へと行く。




僕は個室の扉を開けた。




その部屋は病室なのにとても広い。


大きな窓からは、夕日が見える。


その窓の横の大きなベットに彼女はいた。


体はやせ細り、ミイラみたいだ。胸の辺りは血で真っ赤に染まっている。そして、髪はなく、瞳はほとんど光がない。


今にも永遠の眠りにおちそうな感じだった。


ベットで体を少し傾け、閉じそうな瞳でスクリーンを観ている。



ここからでも音が聞こえる。



僕が作った編集動画の音だ。



僕は彼女の方へと近づくと、ベットの横にあるイスに座って話しかける。


「やぁ!初めましてだね。僕はソラ。よろしく!」


僕が挨拶すると、彼女は大きく見開く。



良かった。何とか間に合いそうだな。



ポケットに入っている虹色の瓶を取り出すと、栓を開ける。



「いつも応援してくれる君に、僕からのプレゼントだ。飲んでくれるね?」


そう言うと、瓶を彼女の口元へと寄せて、少しだけ開いた口へ虹色の液体を流し込む。



コクッ。



液体が喉を通る。



体が淡く光った。



すると一瞬で美しい白い髪が生え、真っ青だった顔に赤みが戻る。


やせ細っていた体も、あるべき姿の年相応の体へと変化していった。


・・・・・見ると、とても綺麗な女の子だった。






私は両手を見る・・・・・そして髪を触る。



ポタッ。ポタッ。



頬からこぼれ落ちる。



大粒の涙が。



もう言葉になんてならない。



涙で前が見えない。



息が吸える。腕が動く。髪が生えている。



そして・・・・・苦しくない。



涙が止まらない。



今までは、絶望と悲しみの涙しか知らなかった私。



今日、生まれて初めてうれし涙を流した。



この日、この瞬間の出来事は、一生忘れないだろう。




ガシャン!!!


暫くすると花瓶が割れる音が聞こえて、僕は扉の方へ振り向く。


見ると女性が、花瓶を落として目を見開き、震えていた。


その隣で、男性が驚きの顔をしている。



「春香?」


「春香ちゃん?」



彼女は二人の方を向くと、大粒の涙をこぼしながら、今まで生きてきた中で一番の笑顔で言う。


「お父さん、お母さん・・・・・私、私・・・・・。」


「「春香!!!!!」」


二人が駆けつけると、僕の目の前で彼女を抱きしめる。



その光景を眺めながら、ゆっくりと立ち上がり、気づかれない様に離れる。


するといつの間にいたのか、斜め後ろに赤い髪の女の子が立っていて、僕の手を握ると何かを呟く。



女の子が呟いた瞬間。



僕達は病室から消えていた。






☆☆☆






「ねぇ。これでよかったの?」



僕は周りを見渡す。



人々が行きかい、夜のネオンが光っている。


僕達は街中の交差点に立っていた。



彼女の・・・・・親友の空間移動魔法だ。



「あぁ。」



僕は遠くに見える国際病院を見る。


本当はこんな事するつもりはなかった。


でも、あのメールを見た時、最後の文面が頭から離れなかった。


娘がライブ動画にコメントを打ち込んでいるのを見て、最後の語尾を『ごわす。』と付けていたのが微笑ましかったと書かれていたのを。



『ごわす』さん。



僕はそう勝手に名付けていた。



半年前。


動画を上げ始めた時から、ずっと応援してくれている視聴者さんだった。


最初の頃は、チャンネル登録が伸びるか不安だった。


そんな不安な時、『ごわす』さんのコメントに何度励まされた事か。



だから僕は助けたいと思った。



今回だけ。



親友の皆に頼んで。



売った素材以外で保管している物はリーダーが決めていいんだから、わざわざ了解は要らないと皆が言ってくれた。


ホント、親友達には頭が上がらないなぁ。



隣にいる親友は、僕の手を握りながら話す・・・・・もう離しても大丈夫だよ?



「まったく・・・・・相変わらずリーダーはお人よしなんだから。」


「ハハハ。そうかもね。でも、今日はありがとう。スピカ。」


「べっ別に、頼まれたからやっただけよ!」



顔を真っ赤にしながら答える親友。



僕の空いている手を握りしめると、親友は体を預けながら笑顔で言う。


「さっ。今日はこれから私に付き合う約束よ!まずは夕食してから映画観に行こ!」



両親には今日は遅くなると了解を貰っているから問題ない。



「あぁ!さぁ、行こう行こう!!」



絶世の美女・・・・・女の子が、帽子をかぶってマスクをした怪しい学生を、街の人波の中へと連れていった。






☆☆☆






「ふぃぃぃぃ。今日も楽しかったな!」



僕はベットにダイブしながら呟く。



久しぶりにスピカと遊んだ。


やっぱり親友と遊ぶのは楽しいな。



「・・・・・・・・・・・・・。」



見ると『幽霊さん』が僕の隣で横になっている。



「おっ。今日は【ミレ】か。元気だった?」


「・・・・・・・・・・・・・。」



僕の頬をツネりながら、笑顔を見せている。


だいたい、週の三日位は【エリア】がやってくる。


他の日はこうやって、かわるがわる違う『幽霊さん』が来ていた。



さて。


『ごわす』さんも元気になった事だし、また週末に向けて準備しないとね!



僕は隣で横になっている【ミレ】の頭を撫でながら目を閉じる。




「おやすみ。」


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[気になる点]  薄々思っていたけれど、幽霊さん達って仲間の生霊かしら……?
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