外部監査④
イネス夫人の問いに、ディアーヌが立ち上がり反応する。
「私たちは対等な立場の者として、時に競い合いつつも互いを尊重し、協力を忘れず、想いを積み重ねてきました。
何一つ恥じ入る事はありませんわ!」
ここまで、ディアーヌ達は大きな揉め事を起こす事無く上手くやってきた。
彼女の視点において不備など無く、より上はあるだろうが、責められる謂われなどないと言い切る。
これがお付きの侍女の一人からの忠言であればまだ一考の余地があっただろう。
しかし、なぜハーレムに入ってから直接会ったのはこれが初めての相手に、こんな事を言われなければいけないのか。ディアーヌは納得しない。できない。
貴女に何が分かると、真っ向から受けて立った。
「屋敷に入り、ここまで来る間に、通路に飾られた絵画などの調度品を見ました」
イネス夫人は、ディアーヌから僅かに視線を逸らす。
そして訥々と語り出した。
「絵だけを見るなら統一性の無い並べ方、目的の無い配置。
ですが、ここに居る人間が四つの国から集まったとなると、多少なりとも意図が見えてきます」
四人を順に見て。
「四つの国の町並みを、自然を、人を組み合わせる。四つを一つのテーマにして、ここが異国の共同体であることを表現しています。
一つの国に偏らせない、互いを対等に扱うという考えでしょう」
そしてため息をつく。
「なんと、愚かなのでしょう。
いかにも表面を取り繕った、浅い考え。
住む人間の事を考えず、ただ外側だけを良く見せようとした、私たちを意識した姑息な態度。
淑女のする事ではありません」
別に、複数の国の調度品を組み合わせる事は悪くない。
国を意識したバランスを取ろうとして、失敗してしまった。
ただそれだけでしかない。
普段通りであればセレストが主に動いて家を飾っていたのだが。今回は外部監査を意識した為、でしゃばる事を止めていた。
四つの国の調度品を使い調和の取れた組み合わせを目指したものの、付け焼き刃で粗が出てしまった。
そこを指摘された形である。
「なぜ、四つの国の調度品を使い、わざわざ対等を表現したのか。
それはその様な事をせねばならない状態だから。貴女たちの間で対等も調和もできていないから。まだ、分かり合えていないから。だからああやって誤魔化した。
大方、問題を起こさぬように中途半端な態度でいるのでしょう。
違いますか?」
付け焼き刃は何の為か。
イネス夫人の舌鋒は鋭く、四人の胸を突いた。
「逃げるな、臆病な小娘達」
今度は、誰もがすぐに反論できなかった。




