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風船娘・コレット

 通常、王族に生まれた者は王族としての責任を教え込まれ、それを自覚して生きる。

 しかし、教わったからといって自覚するとは限らないし、中には特権のみを意識して傲慢に育つこともあるだろう。


 そしてコレットは、王族としての意識どころか、国への帰属意識すらなかった。





 コレットの出自は、間違いなく王族である。

 王太子に嫁いだ他国の姫の子として生まれ、幼い頃は王族としてちゃんとした教育を受けていたし、その教育に応えるだけの聡明さがあった。

 そのまま何不自由なく育てば、ごく普通の姫として健やかに育っただろう。


 だが、運命は残酷だった。

 彼女は幼いうちに、いくつもの悲劇に見舞われる。



 悲劇の始まりは8歳の時だ。

 当時のコレットは歌が好きで、人前で歌を披露することが多くあった。

 その歌声は愛らしい容姿と合わせまるで天使のようと称され、多くのファンを作った。


 それが気に食わない者もいたのだろう。

 コレットは水銀を飲まされ(・・・・・・・)、一命をとりとめたものの、喉に致命的なダメージを負い歌声を失った。


 その事件で父親である王太子は怒り狂い、犯人一味を粛清した。

 だがその反動で、今度は王太子妃であったコレットの母が暗殺される。


 コレットの母は聡明な女性で、公私にわたり王太子を支えてきた人だ。いくつもの改革を実行し、結果を出してきた女傑である。

 結果を出し続けた事で国民からの人気も高く、王宮内でシンパが多い。

 そしてその結果、改革で不利益を被った者たち、敵も多かったのだ。狙われる理由はそれだけで十分だ。



 犯人たちは捕まる前に、コレットの前で醜い正義を主張した。

 異国の者に国土を荒らされることが許せなかったのだと。自分たちこそ正義なのだと。


 他国の姫とその子供。

 確かにコレットの母が異国生まれというのは間違いではない。

 だが、それを理由に命を狙うなど言語道断であるし、コレット自身は異国人ではなく自国の人間のはずである。それも王族だ。

 犯人の主張は完全な言いがかりでしかない。


 王太子(コレットの父)は当たり前のように犯人の言い分を認めず、一族郎党が処刑され、この件は決着となった。



 始まりはくだらない嫉妬と言ってしまえばそれまでだが、コレットは大好きだった歌と母親を奪われた。

 奪った者たちの言葉に傷ついたコレットは、声に続き表情を失った。

 そして、父親の愛情も、だ。


 この件で声と表情を失ったコレットは政治的価値を見出せなくなった事で、父親の愛情はともかく王太子からの期待は何一つされなくなった。

 父親として愛そうとも王太子としては役に立たない娘としか評価できず。

 いつしか、父親としての愛情も薄れていった。



 それでもこの場に送り出されたのは、父親としての最後の愛情。

 あのまま国にいるより、リュカのハーレムの方が安全。

 リュカがコレットを拒まなかったことを幸いに、この縁談はまとめられた。下手な貴族の嫁にするより、元平民のリュカのところにいた方がずっと大切にされるだろうと。





 コレットは王族としての自覚が無い。

 コレットは生まれた国への帰属意識が無い。

 コレットは、愛されるという事を覚えていない。


 ただ、流されるように生きている。

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