第1話 いつか来る幸運
ここは薄暗い会社のオフィス
いつものように数箇所明かりが灯っていた。
「先輩、今日も俺たちだけ残業ですね。」
「そうだな。まあいつものことじゃないか。」
「なんでこんなに仕事あるんですかね。
時間もないし、こんなの無理ですよ。」
そう、いつものことだった。
上司が自分の評価のために取ってきた仕事のせいで
過剰なノルマが課せられていた。
「なんで俺たちだけこんなに仕事しないといけないんですかね。」
「まあ、頑張ってればいつかはいいことあるだろよ。」
「先輩ってほんとにいい加減なこと言いますよね。」
「いつかっていつですか。」
そんなの俺も知らねえよ。
心の中でそうでも思わないと
こんな仕事なんてできねえよ。
「いつかだよ…。」
「今日はもう先に上がっていいよ。」
「疲れてんだろ。やっとくから
明日から頑張ろうぜ。」
「先輩、ありがとうございます。
お先に失礼します。」
「お疲れ。」
はあ…。
また言っちまった。
なんで帰らしたんだろう。
いつも言ってから後悔するんだよな…。
まあ、神様は見てるだろ。
そうでもなけりゃ
こんな人生釣り合わねえよ。
「さあ、やるかー。」
それから残りの仕事を片付けて
いつものように深夜の夜道を歩いていた。
「1時か…。」
まあ、いつかいいことあるはず…
心の中でいつか来る幸運を期待して
その日のモチベーションに縋るしかなかった。
次の日。
「おい、お前のせいでこの案件がなくなったじゃないか。」
上司の怒号がとんでいた。
昨日遅くまでやった仕事で記載ミスがあったらしい。
「客先からの信用がなくなったんだよ
どうしてくれるんだ。」
「すみません。」
「すぐに確認しますので、その資料をもう一度確認させてください。」
資料を見ると後輩の担当している箇所だった。
俺が帰らせなければ、あいつも見直しをしていたかもしれない。
そして、なんで見てやらなかったんだろう。
そんなことを思いながら上司の説教を受けた。
「お前はもうこの部署には必要ない。」
そう吐き捨てて上司は部屋から出ていった。
後輩が慌てて駆けつけた。
「先輩すみません。」
「資料俺のミスですよね。」
泣きそうな顔をしていた。
「もういいんだよ。」
「俺がもっと確認してればよかっただけだ。」
「お前のせいじゃないよ。」
後輩は結局泣き出した。
「先輩。」
「ありがとうございます。」
「俺、これからも先輩についていきます。」
後輩にそこまで言われて
悪い気はしなかった。
「とりあえず、これ使え。」
ハンカチを渡した。
涙と鼻水まみれになるハンカチを
目にしながら少し気が紛れた。
その後も、いつも通りの夜中まで仕事をしていた。
なにしてんだろう。
自分でも思う。
あれだけ朝に怒鳴られたのに
不思議だ。
そもそも上司の評価稼ぎのために
やらされている仕事じゃないか。
むしろ今日の失敗は結果的によかったんじゃないか。
そんなことを思いながらいつも通りの
夜道を歩いていた。
「たっ…たすけてくれー」
薄暗い夜道に悲鳴が響いた。
助けを求めた男は50代ぐらいだろうか。
貧相な見た目で何かに追われているようだった。
後ろからナイフを持った男が追いかけていた。
男が俺の後ろに隠れた。
「何があったんですか。」
男は何も言わずに俺の後ろから離れない。
追いかけてきた男が俺にもナイフを向けてきた。
「どうしたんですか。」
「何があったんですか…。」
震えた声で男に聞いていた。
「そいつを渡せ。」
ナイフを持った男が言った。
「さもなくばお前も容赦しない。」
俺は男を差し出そうとした。
だがなぜだろう。
それができなかった。
「警察を呼びますよ。」
「こんなことはやめましょう。」
自分でもなんで言ったのかわからない。
ナイフの男が俺の後ろに回り
男を刺そうとした。
その瞬間、なぜか体が勝手に動いた。
「危ない。」
男を咄嗟に押し除けていた。
「あれ…これって血か。」
気がついた時には腹部を刺されていた。
刺した男と逃げた男も逃げるように
俺の周りから姿を消した。
俺は確信した。
これって俺はもう死ぬのか…。
それなりに徳を積んだ人生だとおもっていた。
困っている人は見過ごさない。
他人にもそれなりに優しくしてきたと思う。
辛い時もいつか来る幸運を期待して
心の支えにしてきた。
幸運ってなんだ。
徳ってなんだ。
人生ってなんだ。
こんな人生で終わるなんて
神様はいないのだろう。
そんなことを考えていると
視界がなくなってきた。
はあ、人生なんてもういいや。
あれ、ここどこだろう。
暖かい光が漂っている
そして、いかにも神であろう
光り輝く天使のような美女が前に立っていた。




