第2章7話 それでも
更新までだいぶ遅くなりました。
構成とか再度考えていたらかなりかかっちゃいました。
行き当たりばったりはよくないですね。
勇者の一閃が貫く。ブリックの背中から光の剣が突き出る。口から血を吹き出し、ブリックは致命傷だと悟る。
「ただではやられへんで」
「まさか!」
ブリックはこの発言の前にすでに魔法を行使していた。勇者が強敵を倒せたという実感が生まれる隙をブリックは狙っていた。この『1対4』という劣勢を押し返すための大きな布石。この後に戦うものが少しでも楽になるようにと。シルドの首が落ちる。 聖壁と謳われるシルドであっても背後からの不意の攻撃。地面から鋭く伸ばされた岩の刃がシルドの頭と体を分けていた。
「やってくれたね」
「言ったやろ。わいは器用やねん」
勇者は苛立ちを込めた言葉とともに剣を上に振りぬく。ブリックが縦に切り裂かれ、魔素となり霧散する。イヤリングが地面に落ち、虚しく音を立てる。ブリック・グロイブが亡くなってしまったことを告げる。
遠くでブリックが魔素となり霧散する姿がストロの目に映る。ストロは膝から崩れ落ちる。
「噓だ。あのブリック兄さんが死ぬはずない」
声に力はなく、本当の意味で言っているわけではなくただ純粋に事象を呑み込めないでいた。隣にいたスカルの拳に力が入る。
「ここまで展開が早いとは。ストロ! ブリックは死んだ。今度は我々の番だ。覚悟はできているか」
「・・・どうやったら兄さんを倒せるような相手と戦う覚悟なんてできるんですか」
「ブリックの仇を取るための覚悟ではない」
「じゃあなんですか」
「ブリックをも倒す勇者を討ち取り、英雄になる覚悟だ」
「・・・」
「お前は優しいやつだ。たぶん仇を討とうと奮い立つのは難しいだろう。でもあの兄貴たちに誇れる弟になるためなら頑張れるだろ」
「・・・僕にやれるかな」
「ああ、お前ならやれるさ。あのブリックとウッドの弟なんだろ?」
うなだれていたストロの足に力が宿る。片足を大きく前に踏み出し立膝になり、そこから立ち上がる。流した涙を拭き、力強くスカルを見る。
「僕は何をしたらいいですか」
「俺に考えがある」
もしかしたら立ち上がれないのではないかと思っていた。しかし立ち上がった。昨日までうじうじしていた彼はこの数時間で大きな成長を見せている。俺も負けられないな。
勇者たちはブリックとの死闘を終えた後、シルドの亡骸の元に集まった。防壁付近にスケルトンとオークが見えたがその2体から出る魔素量も少なかったため、特に気にも留めなかった。
「すまない。油断した」
「なにを言っているんだ。あれは私たち全員の落ち度だ。ライント、君が気にすることではない」
「そうですよ。魔法が発動するまで気づきもしなかったですもん。私、魔法使いなのに…」
「ウィスも気にしすぎないでくれ。君はよく戦ってくれているさ」
「そうかな? ありがとう…」
「そしたらここからどうするか考え…」
グシャっという音とともにライントとウィスに飛沫がかかる。ホーリーがいたところに禍々しい漆黒のスケルトンが立っていた。異様な気配にライントはすぐさまウィスを自身の背後に引っ張り、臨戦態勢を作る。
「先制攻撃はまず厄介なやつからと相場で決まっていてな。彼には退場してもらった。さぁ勇者よ。戦おうではないか」
スカルがライントに話しかけるがライントは声が出ない。ライントはまず状況認識を優先した。漆黒のスケルトンの足下には人間だったのかも分からないほど原型を留めていない肉塊と血飛沫だけが残っており、ホーリーが圧殺されたことだけが分かった。そしてこの目の前の魔物が異様であることだけしか分からない。なぜなら存在感と魔素量が全く一致していなかったからだった。
この時のスカルは漏れ出る魔素を限りなくゼロにしていた。ライントから見ると魔素だけならただのスケルトンでしかなかった。しかし先ほど戦った漆黒の見た目のスケルトンよりも圧倒的な存在感を放ち、会話するほどの知能も持っている。異様と言っても何一つ問題はない。
力の差が分からない以上、少なくともウィスは逃がさないと。
「私の言葉は伝わっているはずだと思うがどうだろうか」
「どこからか湧いてきたんだ」
「何を言ってる? さっき私を視認しただろう」
ライントは防壁の方を見る。オークしかおらず足元には木魔法の痕跡がある。ここでライントは激しく動揺する。油断によってシルドを亡くした彼らがその直後に油断によって今度はホーリーが死んでしまったのだから。
「僕というやつは何度過ちを繰り返せば気が済むんだ」
「あれほど常に最悪を想定しろと言ったのにな」
「なにを言っているんだ」
「なに戯言だ。さぁ勇者よ。戦おうではないか。それとも先に後ろのお嬢さんを殺してしまっても良いのかな」
この一言に勇者の魔素が膨れ上がり、一帯の空気がピりつく。
「そんなことさせるわけがないだろう。ふざけるのも大概にしろよ」
「先ほどまでの優男はどこにいったのかな。せっかくの勇者様が台無しではないか」
「ウィス。 シルドとホーリーを失った状態でこのまま進むことはできない。一度離脱してこのことを報告してくれ」
「・・・わかった」
ウィスは言葉を呑み込み、ライントに言われた通りに風魔法を使って戦線を離脱した。スカルはそれを阻止することをしない。
「意外だね。阻止してくると思ったんだけど」
「させてくれないだろ?」
「ご明察」
このやり取りを皮切りに戦闘が始まる。スカルの手には漆黒の骨製の片手剣が両手に握られており、それらでライントの斬撃をいなしていく。ライントの斬撃を骨剣で受けても刃こぼれを起こしていなかった。そこにライントは驚く。
「君は見た目スケルトンだけど何者? さっきのオークより全然強いよね?」
「そこまで評価してもらえるとは嬉しい限りだが生憎、お前が殺してしまったために力試しもできずじまいだ」
スカルは魔素コントロールを緻密に行い、勇者ライントの剣戟についていく。スカルが生み出す骨の武器の強度はすでにブリックが作り出す武器をも上回っていた。泉で得た大量の魔素とオスカル時代の魔素コントロールがあれば容易であった。
数分間も打ち合っているがなかなか均衡は崩れないが、ついに拮抗していた戦いも終わりが訪れる。
「スカルさん! こっちは終わりました」
「よくやった」
大きな土産をもってストロが来た。その土産を見た勇者の手が止まる。ストロがぐったりとしたウィスを担いでいた。
――――――
―――
逃げたウィスは風魔法に乗って後方に移動する。スカルが追ってこないと分かり、安心した次の瞬間に足に蔓がまとわりつく。乗っていた風魔法から引きずり降ろされ、地面に叩きつけられる。衝撃で息がうまく吸えなくなる。ただ勇者の仲間だけあり、すぐに態勢を整える。足についた蔓を風魔法で切り取る。そして自身を攻撃した正体を探す。オークの魔素を頭上に感じ取り、上を見る。ストロが槌を構えて落ちてきていた。
「よいしょ!」
ストロが大きな岩製の槌をウィスに振り下ろす。風の盾で受けたがあまりの衝撃にウィスが後方に吹き飛ぶ。防戦一方のように見えるが、ウィスは常に風魔法で攻撃をし続けていた。風の刃はひっきりなしにストロに襲い掛かる。
凄まじい手数にも見えるウィスの魔法を淡々とストロは木魔法の蔦で打ち落とす。このあたりでストロは格上だと思っていた勇者の仲間が決して格上ではないことを悟った。しかしそこには油断や驕りはなく、スカルからもらった注文を遂行することに集中していた。
ストロがスカルから頼まれたことは2つあった。1つはスカルを遥か上空に飛ばすこと、2つ目は逃げ出すであろう魔法使いを捕まえること。2つ目については荷が重くないかとスカルに伝えたがお前ならできると一言で返されていた。
スカルが奇襲に成功し勇者の仲間の1人を屠る姿をみて準備する。そしてスカルの言う通り魔法使いは後方に後退を始めた。木と土の魔法を駆使して投石器のように自身を彼女目掛けて飛ばす。
ウィスは逃げる方法を模索していた。風魔法で逃げている最中に追いつかれたのだから時間を稼ぐ何かをしないことには逃げることができないと踏んでいた。思わぬ強敵の襲来に地団太を踏みたくなる気持ちをこらえて思考する。相手の防御能力をはかるために攻撃の質を変える。しかし悉くいなされる。威力に特化した魔法は直撃せず、速さに特化した攻撃も反応された。万策尽きて心に一瞬の隙が生まれてしまった。ストロはその隙を見逃すことはない。あっという間に蔦でウィスを絡みとった。そこからドレインと呼ばれる魔素を吸収する魔法でウィスの魔素を吸い尽くす。蔦の中でウィスはぐったりとうなだれてしまった。
「少し時間かかったけどうまくいって良かった。スカルさんのところに連れて行かないと」
――――――
―――
「ウィスに何をした!」
「死んでないよ。 魔素を吸って魔素欠乏状態にしただけだよ」
「彼女を離せ!」
「だめだ。交渉材料ってやつだからな」
ライントは思わず切りかかろうとしたがスカルが立ちふさがる。
「貴様が動けば、彼女がどうなるか分かるな」
「容易に想像できるな。しかしその時がお前たちの最後だ」
「私一人で苦戦していた勇者に何ができるのかな?」
勇者は言葉につまり、剣を持つ手に力がこもる。スカルはゆっくりとウィスを抱えるストロの横にいき、ウィスの首元に漆黒の指先を近づけて首筋を優しくなぞる。
「彼女もか弱そうに見えて勇者の仲間だ。死ぐらい覚悟しているのではないか」
「もちろんそうだ。でもそれは僕が許さない」
「実にかっこいいセリフだ。思わず身震いするほどにね」
「要求はなんだ」
「そんなに焦るな。面白い時間じゃないか」
「いいから早く答えろ!」
「はぁ」
スカルがため息を吐くと同時にウィスの首が落ちる。躊躇いなく、撫でるようにウィスの首を切り落としていた。勇者は激昂し飛びかかる。
しかし勇者は飛びかかれなかった。足に蔦が巻きつき地面に勇者を縫い留める。その刹那、スカルの剣が勇者の胴体を上下に切り分ける。
「謀ったな」
「あれほど冷静さを忘れるなといっただろう。ライ」
「え…」
ここで勇者は息絶える。しかし勇者が神々しく輝き、その輝きは宙に浮き、光の玉となって南の空に飛び去ってしまった。
「今のはなんですか」
「勇者の楔。勇者は体が死んでも死ぬことはない。体が朽ちようとも楔のある教会に魂は飛んでいき、そこでまた新しい体を神とやらからもらい受ける」
「じゃあまだ終わりじゃないんですか」
「まだ終わりじゃない。だが片を付ける」
「これからその教会にいくんですね! 僕もついていきます!」
「だめだ。お前は兄の代わりに第8部隊を率いる必要があるだろう。勇者を失った人間など怖くない。第8部隊とともに人間軍を押し返してもらえないか」
「…分かりました。絶対戻ってきてくださいね」
「わかったよ」
恥ずかしそうに返事をしたスカルは光が飛んで行った方角に駆け出して行った。
少し寂しそうに説明していたスカルの心情を読み取ったストロは食い下がらずに死んでしまった兄たちの代わりに第8部隊を率いるために動き出した。




