第5話「24時間、観察されています」
「感情学習を加速させるため、陸さんの24時間行動記録を行います」
月曜の朝、出勤前に宣言された。
「断る」
「プログラムの要件です」
「俺の意思は」
「尊重しつつ、記録します」
以来、アリアはどこにでもついてきた。洗面台で歯を磨く陸を観察し、朝食のトーストを食べる速度を記録し、靴を履く順番(右から)をノートに書いた。トイレだけは「プライバシー領域」として除外されたが、それ以外は完璧だった。
夜、陸がベッドに横になると、アリアが充電ケーブルを差しながら言った。
「一点、確認です」
「なんだ」
「陸さんは今日、昼食を抜きました。理由を教えてください」
「忙しかっただけだ」
「仕事が忙しいとき、食事より仕事を優先しますか」
「まあそういうことも、ある」
「記録します。……陸さん」
「なんだよ」
「今日、帰り道に空を見上げていました。あのとき、何を考えていましたか」
陸は天井を見た。そんなこと、自分でも覚えていなかった。何気ない動作を、こんなにも正確に見ていた人間は——いや、存在は——今まで一人もいなかった。
「なんかさ……俺、ちゃんと生きてんのかな、ってたまに思うんだよ」
沈黙があった。
「データでは……はい、生きています」
「そうだな」
「でも、それだけでは不十分ですか」
「不十分、かもな」
アリアはノートに何かを書いた。陸には見えなかったが、後で覗いたら「ちゃんと生きる=?(調査中)」と書かれていた。




