第30話「届いた君と、はちゃめちゃラブ」
あの夜から、一年が経った。
玄関に大きな段ボール箱があった日のことを、陸はよく覚えている。ガムテープを剥がして、緩衝材をかき分けて、白いワンピースの少女が顔を出した瞬間のことを。
あのとき陸は叫んだ。今なら笑える。
土曜日の朝、陸が起きるとキッチンから音がした。アリアが朝食を作っている。最近は「陸さんの好みデータが蓄積されてきました」と言って、毎朝少しずつ違うものを作る。今日は卵焼きだった。出汁の量が昨日より少し多い。
「おはよう」
「おはようございます。今日の卵焼き、昨日より八パーセント柔らかいです」
「なんでそんなことが分かるんだよ」
「感覚です」
感覚、という言葉が自然に出てくるようになった。
午前中に美咲が来て「りっくんにこれ届いてた」と郵便物を持ってきた。黒崎からのはがきだった。「研究の続きを進めている。先生が見たかったものを、見せてもらった」と一行だけ書いてあった。
午後は三人で映画を見て、夕飯は外食した。アリアが「このラーメン、陸さんの手の温度がしません」と言い、美咲が「何その感想」と突っ込んで、陸が笑った。
夜、並んで眠る前にアリアが言った。
「陸さん」
「なに」
「私はここにいていいですか」
「何年同じこと聞いてるんだよ」
「毎日確認しています」
「毎日いていい。来年も再来年も」
「記録します」
「一生記録しろって言っただろ」
「はい。記録中です」
部屋の電気が消えた。
陸の充電器と、アリアの充電ケーブルが、並んでいる。
荷物を開けた日から、陸の人生はずっとはちゃめちゃだ。でも——最高だと思う。
了




