表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/7

第一話 「やっと見つけた」



「ああ、お前だったのか、ずっと探していた――」


 獣王様の腕が、私の体を強く抱き込む。


「……え?」


 思わず声が漏れる。

 誰にも必要とされなかった私に。

『ハズレ聖女』の私に、どうしてそんなことを言うの。


 今日、初めて会ったばかりなのに――。


 人々に蔑まれ、国のお荷物だった私が、あれほど求められるなんて。

 ――この時の私は、思ってもいなかった。




 私、ニア・フリュクスは、国でただ一人の『ハズレ聖女』だ。

 我が国ルブストでは、聖女は本来回復や強化の魔法を扱う。傷を癒やし、兵を強化する――それが聖女に求められるすべてだ。

 しかし、私が教会で初めて魔法を披露したとき、周囲の反応は今までの聖女たちと違った。


「風の、魔法?」


 周囲の神官や役人のざわめく声が聞こえる。


「風の魔法か……」

「我が国で風魔法を使えても使い道が……」


 その時私は悟った。

 自分の魔法が、『ハズレ』であることを。


 そこからの私は、国に持て余される存在となった。

 聖女である以上、追い出されはしないが、役割を与えられることもない。

 ただ雑用をしながら、国のお荷物として生きていく毎日。

 それでもせめて魔法を無駄にしたくなくて、雑用の合間に独学で魔法を鍛えていった。

 しかし私の風魔法が役に立った場面は、ほとんどなかった。


 そうしてただ風魔法を鍛えるだけの日々が、ある日突然終わりを迎えた。


「聖女ニア、あなたには隣国、ゼステアの王に嫁いでもらいます」


 女王陛下に召集され、国の重鎮たちもそろった宮殿の一室で、そう告げられた。


 ゼステア。ルブストと“砂の海”の間に位置する、半獣の獣人たちが住まう砂の国。


「今の国王……、『獣王』は、ゼステアの国民たちの強大な支持を得ています。小国と言えど、我が国の脅威とならぬよう……貴方には、ゼステアとの友好の架け橋となっていただきたいのです」


 女王は穏やかに言う。

 だが――これは命令だ。

 『ハズレ』の私に、逆らう権限などない。国の役に立てぬ聖女は不要。

 この国で、最初で最後に役に立てるのが、この結婚というわけだ。


「承りました、女王陛下」


 そうして私は、ゼステアの獣王様に嫁ぐこととなったのだ。




「……貴様が聖女ニアか」


 狼のような鋭い眼光。ゼステアの王宮で初めてお会いした獣王様は、冷ややかな態度だった。


「はい。私がルブストの聖女、ニア・フリュクスでございます。これから末長く、」

「形式的な挨拶は不要だ。所詮政治的な婚姻だ、聖女ならば、せいぜいゼステアの民に尽くせ。ヴィルト、あとはお前に任せる」

「承知いたしました」


 それきり獣王様は、威嚇するように立った尻尾を隠すこともなくその場を立ち去った。

 私が『ハズレ聖女』であることはゼステアにも伝わっているだろう。外交のため、『ハズレ』を伴侶に迎えなければならないなんて、あまりにも気の毒に思えた。

 残った獣王様の側近、ヴィルト様が私のそばにくる。


「申し訳ありません、ニア様。我らが国王、リオ陛下は誰にでもあのように振る舞うので……、お気に病まれないでください」

「誰にでも?」

「ええ。リオ陛下はこの厳しい土地で暮らす民を守るため、己を律し冷徹に振舞われるのです……」

「そうだったんですね……」


 ゼステアは砂の国だ。乾いた土地ではなにも育たず、国の外に広がる“砂の海”にはなにもない。

 そして時折砂の海からは“災害”がやってくる。

 そんな国を治め、国民から支持を得ている獣王様は、とても優れた為政者なのだろう。


「私はてっきり、私のような者が嫁いできたから、お怒りなのかと……」

「いいえ、そういうわけでは……」

「私のことは、陛下はご存知なのですか?」

「……通常の聖女様とは多少異なる方だとは、伺っております」


 普通の聖女のように、回復や強化は期待できない。そういったニュアンスで伝わっているのだろう。

 私はこの国でも、誰にも期待されない存在なのだ。


「それではニア様、この先の控室に明日の婚儀で着ていただくドレスをご用意しておりますので、ご確認を、」


 カンカンカンカン!


 ヴィルト様に促された瞬間、けたたましい鐘の音が鳴り響いた。


「まったく、なんでこんな時に……!」

「なにかあったんですか?」

「これは、砂竜巻が発生したことを知らせる鐘なんです!」




 急遽王宮の見張り塔に向かうヴィルト様に私も続く。

 塔の最上階にたどり着くと、そこには既に獣王様がいた。


「状況は?」

「砂の海との境界付近に発生! 周辺住人は避難させていますが、竜巻は徐々に王宮方面に向かってくると思われます!」

「威力は?」

「中規模の竜巻なので、古い建造物は倒壊の危険があります!」


 塔から見下ろすと、城下の街から砂の海との境界まで見渡すことができる。そして境界付近には、渦を巻いて竜巻が発生していた。

 砂や瓦礫を巻き上げた竜巻が、街の一角を削り取るように荒れ狂っている。

 竜巻のある方角から流れてきた風を感じとる。

 ……あの規模なら――もしかすると、私の魔法が通用するかもしれない。


「……貴様か」


 私に気づいた獣王様は、忌々しげな顔をして少しだけ唸った。


「何故ここにいる。ここで貴様ができることはなにもない。王宮に戻れ」

「恐れ入りますが、陛下。私はゼステアの王妃となる身。この国で起こることは知るべきですし……あの竜巻の対処、私に試させてもらえないでしょうか」

「……どういうことだ」


 私の風魔法は、ほとんど役に立ったことがなかった。

 しかし、たった一度だけ。この魔法で、人を助けたことがある――ずっと昔のことだけど。


「私の風魔法で、あの竜巻の威力を抑えます」


 私の言葉に、獣王様が驚いたように目を見開いた。


「私の風魔法で竜巻の威力を打ち消して、消滅させます。ただうまくいくかはわからないので、住人の皆さんには避難をしてもらった方がいいですが……」


 修練は積んできた。しかし、実践するとなると話は違う。

 『ハズレ聖女』の提案に、果たして獣王様は乗ってくれるかどうか。


「……そこまで言うのなら、やってみろ」


 意外にもあっさりと、獣王様は承諾してくれた。

 あとは私が、頑張るだけ。


「いきます!」


 竜巻を見据え、両手をそちらへ向ける。


「風よ。我が祈りに応えて、嵐を収めよ!」


 ふわりと辺りの空気が揺れる。

 獣王様がスンと鼻をならす。


「こ、の……風の香りは……」


 遠くに見える竜巻を打ち消すように、私の風魔法を放つ!

 砂や瓦礫を巻き上げていた竜巻が、目に見えて威力が落ちていく。

 そうして。


「な、なんと……」

「あの竜巻が一瞬で……」


 竜巻が、消滅した。


「――や、やれた……」


 安堵の息をついたのも束の間。


「やっと、見つけた……! お前だったのか……!」


 なにかに腕を掴まれ、バランスを崩してよろめいたと思ったら、温かいものに包まれる。

 視線をあげると、獣王様の腕の中だった。


「ずっとお前を、探していたんだ……!」


 どうして彼は、泣きだしそうな顔で私を見つめるのだろう。

 失くしたものを、見つけたみたいに。


 ――まるで、私が宝物かのように。

本日は2話まで更新予定です。

よろしければ続けてお付き合いください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ