ラストのお仕事 その2
「あーテステス、よし」
感度良好。
「本日訓練に参加してるドリューナル騎士団の皆さん、午前中の訓練お疲れ様でした」
挨拶ってこんなんでいいのかな、上に立つ立場になってからまだ日が浅いからよくわかんないけど。
「あまりに急で申し訳ないんですけど、午後からは特別訓練を実施します。 なおこの特別訓練は義兄さ……じゃなかった、国王陛下から正式な許可を得たものです」
いや、即日許可出たのはわたしもビックリした。
「ルールは簡単、制限時間以内にわたしを確保できたら騎士団の勝ち。 逆に逃げきれたらわたしの勝ちです」
いやホント、なんでこんなイベントの許可があっさり降りたんだろう。
「制限時間設定は午後の訓練時間をそのまま流用します、最後にわたしは騎士団の皆さんが入れない場所には逃げ込みません」
これでよし、と。
「やるんですね先輩、向こうで恒例行事だった『主席鬼ごっこ』を」
「まあね、わたしに教官の真似事なんてできないし」
できることといったらこんなコトくらいだ。
「それはいいんですけど、何やってるんですか?」
「何って、逃げる準備だよ」
「窓からロープで!?」
「だってさっきの放送でわたしがこの放送室にいるのはバレてるんだから、馬鹿正直にドアから出ていったら廊下を封鎖されて終わりだし」
わざと負ける気はない。
それに、ここでカッコイイところ見せたらわたしに惚れる女の子だって現れるかもしれないし。
「向こうではそんなこと一度もありませんでしたけどね」
「考えてること読まないでよ!?」
「先輩は顔に出過ぎなんです」
くそう、エリオッタといい向こうでのわたしを知ってるヤツはこうグサグサと痛いところを突いてくるかなぁ。
でも昔よりはダメージ少ない、なんといっても今のわたしは結婚してるし!
「じゃあタユカ、開始と同時に窓から上に放り投げてね」
「そのロープで降りるんじゃないんですか?」
「コレはダミーだからね、下と見せかけて上へ行くんだよ」
「上の部屋の窓を開けたりしてるんですか」
「そんなことしなくても、この上はテラスになってて開けてるからね」
ドリューナル城内の見取り図はもう頭の中に入ってる。
そうじゃなきゃそこを逃げ回る特別訓練なんて自分から言い出したりはしない。
「さて、始まるよ」
「まったく、先輩はいつも無茶苦茶なんだから」
タユカの愚痴をスルーして上に乗る。
そう上に乗る、タユカにとって人を一人持つくらい楽勝だから。
「カウントダウンするよ、3、2、1……0!」
「どっせい!」
タユカに放り投げられて身体が宙を舞う。
上の階に到達したところで柵に手をかけて。
「よっと」
身体を翻して柵を乗り越え内側へ着地する、よし成……。
「ブッフォ!?!?」
「え、なに?」
変な声がした方を振り返る、そこには……。
「お、王妹殿下。 今しがた下から!?」
「あっ、ヤバ……」
いや、見つかったことは問題じゃない。
でもさっきの変な声は、飲んでたお茶を噴出した際のものじゃないかな。
「ごめん、正式な謝罪はまた今度!」
「いえ、そういったものは不要ですがって早っ!?」
またまたしまった、後で謝罪するっていってもあの人がどこの誰だか知らないわ。
城内にいる男なんて義兄さんとあの怪しい補佐官とおっちゃんくらいしか覚えてないし……。
いや、今は今やることに集中しないと。
「いたぞ、あそこだ!」
「こちらラティレス、応援を要請する!」
ハッタリで思った程には時間を稼げなかったな、わたしが以前相手にしたのは同じ訓練生だったし正規兵だと同じようにはいかないか。
しかし通信機で応援を呼ばれるのはヤバい、早くこのブロックから離脱しないと。
まあ、通信が使えるのはそっちだけじゃないんだけど。
「追い込んで応援と挟み撃ちにするっておわぁ!?」
作戦通りに騎士団長がすっ転ぶ、そしてその後ろにいた兵も当然それに巻き込まれる。
「申し訳ありません騎士団長、これも王妹殿下のご命令ですので……」
「な、なんだって!?」
騎士団長に足を引っかけて転ばせた張本人こと、フォルトゥナちゃんが謝罪してる。
っていうか正直にわたしの命令って言っちゃうのか、いいけど。
「ま、まさか。 城の者皆が我々の妨害をしてくるのか……」
「ピンポーン、このために義兄さんの許可をとったんだし」
さて、騎士団長と悠長に話をしてる余裕はない。
さっさと逃げよう。
「どっちへ行った?」
「二手に分かれるぞ、見つけたら連絡をくれ!」
「おう!」
足音が遠ざかる。
「お二方とも去りましたよ」
「ありがとうミントちゃん、よいしょっと」
隠れてた場所から這い出る。
「王妹殿下には驚きました、スカートの中に隠れたいだなんて」
「床につくくらい長いんだからなんとかなるかなって、武器を隠してる娘もいるし」
「私は違いますけど、憧れではあるのですが」
前にリンナちゃんが言ってた名誉なことって本当だったんだ。
「じゃあわたしは引き続き逃げるから」
「はい、お気をつけて」
ミントちゃん、白だった。
手を出すのは禁止されてるけど、見るだけならいいよね?
「王妹殿下も時間切れを目前に油断しましたかな、袋小路に逃げ込むとは」
「いや追い込んだのは君達じゃん」
「それは我々の作戦勝ち、ということですかな」
その言葉をスルーして無言で跪き顔を伏せる。
パッと見、降伏のポーズ。
「いやあの、そこまでされると……」
騎士団長が言い終わる前に何かが落下した音がする。
次の瞬間、辺りが爆音と光につつまれた。
「ぐわぁ!?」
「目が、目がぁ!?」
「これは、スタングレネード!?」
兵士達が大混乱に陥る。
さ、今のうちに。
「いたぞ、廊下の角を曲がった!」
「よし、回復した者から追え!」
そうして立ち上がった兵士達は1人、また1人といなくなっていく。
そうして全員が去り、静かになった。
「ふう、作戦成功だねリンナちゃん」
「まったく、こんな無茶な作戦に付き合わされる身にもなってください」
「そんなに無茶苦茶だったかなぁ」
むしろシンプルだったと思うけど。
わたしが跪いたのを合図に天井で待機してたリンナちゃんがスタングレネードを落とす。
そして混乱してる間にウィーンと機械でリンナちゃんが待機してる上まで引っ張り上げてもらう。
最後にわたしと背格好が似てるメイドちゃんに同じ服を着てもらって兵士達に逃げる後ろ姿を見せる。
「スタングレネードだって光と音が弱い訓練用なんでしょ?」
「はい、後遺症が残っても困りますので」
「けど素直過ぎたかな、スタングレネードが落ちる音はしただろうに誰も上を確認しないなんて」
あそこまで綺麗に餌という名の偽物に釣られるとは思わなかった、と。
そんなことを話している内に訓練終了の鐘が鳴る。
「勝ったのはいいけど、こんなこと毎日できるものでもないから結局根本的解決にはならなかったなぁ」
今日1日だけじゃね。
身の振り方を考えるのって難しい……。
「で、わたしはどうして呼ばれちゃったんですか義兄さん……」
怒られるようなことなんてしてないハズなんだけど。
昨日だって許可された範囲のことしかやってないし。
「大丈夫、君が考えているようなことではないよ」
「そうね、昨日のことと無関係ではないのだけれど」
コルネリアも一緒にいるのが更にわたしを混乱させる。
いや本当に何を言われるのか見当もつかない……。
「ラティレス騎士団長から新たに君を中心とした近衛騎士団設立の話を持ち掛けられてね、意見が欲しかったのだよ」
「は?」
ではまた、明日お会いしましょう。




