三話
「暇だなー。すげー暇だなー。あ、この船きたね」
買い物を終えて船に戻ると、骸骨が一体倒れていた。この船は本当に幽霊船なのかもしれない。しかし、骸骨について町で噂になっていなかったからお願いしたことを守って誰も乗らなかったようだ。こんな様子を見られたら大変だった。
横になったまま独り言を言っているキャプテンに買ってきた物を渡す。これでようやく船から解放されるな。良かったな。
「おお! クルーありがとう!」
受け取るとすぐに船内に入っていく。ここでコートを脱いだりすると、万が一の時に困るからな。
しかし、キャプテンも言っていたがこの船は本当に汚いな。町に着くまでに掃除くらいはやっておけばよかった。次の航海の時は、キャプテンと一緒に掃除をしよう。二人でやれば早く終わる。そのためにも掃除道具を買わないといけないな。たしかこの船には無かったはずだ。金は足りるだろうか。一応、残ってはいるけど。
「・・・よっしゃー、準備完了! 早速、町に行こうぜ」
元気に扉を開けて出てくるキャプテン。その姿は包帯でぐるぐる巻きにされた病人だった。
これは勘違いされないだろうか。こんな重傷者が町を歩いているなんてなったら噂になる。けど、これ以外にキャプテンが外に出る方法は思いつかないしな。仕方ないか。
縄を使って陸へと降りる。手袋を着けてるからバレる可能性が低いな。安心して観光してくれ。目立つかどうかは別としてだけど。
「おし、まずは飯を食いに行こうぜ。久しぶりの料理は何が良いかなー」
俺から金の入った袋を受け取ったキャプテンは、中身を確認して飯を食べれる店を探し始めた。キャプテンもご飯に興味があったのか。それならさっきの猟師に聞いておけばよかった。行きたい所が違うと思っていたからキャプテンと歩きながら探そうと思っていたんだけどな。
意気揚々と歩いていく不審者に町の人々の視線は釘付けだ。鼻歌でも歌いだしそうな程に陽気な雰囲気を出している。静かにしていれば只の病人だけど、これだと危ないやつに見える。
これは子どもに話しかけられないな。きっと泣き出してしまう。俺だったら少し距離を置いてもらう。何をするか分からないからな。警戒は大切だ。
「―――旅の人!」
突然、声をかけられた。別に名前を呼ばれたわけじゃないが、この声で旅の人なんて呼ばれるのは今この町では俺だけのはずだ。
もう誰なのか分かっているけど一応そちらを見れば、お金が入っていた袋と似たような物を持った猟師の男が立っていた。
「どうしたんだよ? これから船の方に行こうと思ってたんだけど・・・。何か用事があるのか?」
「仲間が腹が減ったみたいでな。飯を食える場所を探してたんだ。お前と会えて良かった。船で待つことが出来なくなったからな。無駄足にさせるところだった」
ここで会わなかったら悪いことになっていた。本当に良かったよ。
けど、その持っているお金を受け取るつもりはないぞ。キャプテンが必要としていた物を買っても十分残ったからな。その金は必要ない。
「そうだったのか。今は・・・よし、親父の姿はないな。ほら、さっきの残りだ」
「それなら、いらないぞ。もう十分だ」
「え! いやいや、そう言われても・・・!」
ここまで持ってきてもらったのに悪いな。けど、使わない金を貰ってもどうしようもないからな。それに、それが何処から出てる金なのか分からないから受け取りづらい。町からなのか、男の私財からなのか。まあ、そこは聞かないでおこう。
「必要以上に金を持たないようにしてるんだ」
「で、でもよ・・・! 危険な事させたのに、あの金額だと申し訳ないぜ・・・」
「気にするな。俺は別にあの金額で困らなかったんだ。・・・どうしてもって言うなら、俺の金ってことでこの町に寄付しよう。それでいいだろ?」
俺がどれだけ言っても何か言おうとしていたので、さっさと切り上げることにした。
あまりこんな所で足止めをしている場合じゃないんだ。本当にその金は要らないから、この町のために使って欲しい。少しでもこの町に活気が戻るならそれでいい。
とにかく、キャプテンが手持ち無沙汰で暇そうにしているからな。早く移動しないと。
「・・・よし、分かったぜ旅の人。この金はあの獣を倒してくれたお前のために使おう。それが、この町のためにもなる。飯を食える場所を探してるんだろ? だったらいい店を知ってるぜ」
猟師の男は、そう言うやいなや歩き始め、俺とキャプテンの先へと行ってしまった。
まあ、これは丁度いいか。どうせ店について訊くつもりだったんだ。このまま連れて行ってもらおう。話を聞いていたキャプテンは、もう男の後を付いて行っているからな。俺も遅れないように急ごう。
さて、久しぶりの食べ物を楽しませてもらおう。
・・・数時間後。
「オエエエエエエ・・・ッ」
「大丈夫か、クルー?」
不思議なことが起きた。男に案内してもらった店で出てきた料理を食べた途端、嫌な予感がしたから外へ出たら一気に吐いた。料理を食べる前に水を飲んだ時は、吐かなかったのに不思議だ。
背中を摩ってくれるキャプテンに感謝しながら席へと戻る。さっき食べた物は全部外へと出た。これじゃ食べた意味がない。
目の前にはまだ食べかけの料理が残っている。これは食べても大丈夫なのだろうか。
「どうしたんだ旅の人? 急に外へ飛び出したけど」
「いや、なんでもないんだ。気にしないでくれ」
自分が勧めた店の料理を食べて吐かれるなんて、男からしたら最悪だろう。今起きたことは、男には内緒だ。
しかし、この食べかけの料理はどうしようか。またこれを食べて吐きに行ったらこの料理がおかしい可能性が出てくるけど、その確認のために食べる気にはならないな。試しにキャプテンをチラッと見てみよう。
目が合った。
お願いだキャプテン。この料理を食べてみてくれ。その体なら吐いた時に食べた物以外に出る物も無いと思う。俺だと胃液が出るからな。処理しにくい。というか、キャプテンは食べた物は何処に行ってるんだろうか。町に着くまでの船旅で体を見たときは内臓は無かったように見えたけどな。
「・・・クルー食わねえのか? だったら、もらうぞ」
俺の考えを読み取ってくれたキャプテンが俺の料理を一口食べてくれた。これで吐いたならこの料理が怪しいことになる。
さあ、どうだろうか。
「うん、美味いな!」
「だろ? 此処の飯は美味いんだ」
男と二人で料理を褒めるキャプテン。
吐かなかったな。見た目通りの美味しい料理を堪能しているだけだ。これはつまり俺がおかしいのだろうか。
あまり強く否定できないな。俺にも自分の体がよく分かってないからな。だが、俺だけ料理を楽しめないのは困る。この旅での楽しみの一つを奪われたくない。
きっと何か体に合わない食材が入っていたんだろう。他の料理も食べてみないと諦めるには早い。早速、こっちの料理を食べてみよう。
「お、それ食うのか―――」
「邪魔するぜー!」
口の中へと料理が入る直前、キャプテンの言葉を遮るようにして大きな声が飯屋に響いた。
一体誰だ。みんな驚いて静かになってるぞ。
振り返って後方を確認すると、そこには大柄な男とその仲間のような奴らが十人以上はいた。
これだけの大声を出せるってことは、随分と酔っ払ってるんだろう。大柄な男の顔はうっすらと赤くなっている。あれは皆に見られて恥ずかしいからじゃないな。むしろ見られて嬉しそうだ。笑顔だしな。
「ドンパ・・・ッ!」
小さな声が近くから聞こえた。
どうした猟師の男。顔が怖いぞ。
「空いてる席は・・・っと、お! いつもの場所が空いてるじゃねえか!」
ガヤガヤと騒ぎながら男たちが向かうのは、店内でなぜか誰ひとり座ろうとしなかった席。
なるほど。あの場所は、既にあの集団が取っていたのか。他の席が埋まってるのに、誰ひとり座りに行かないのも納得だ。
しかし、皆静かになりすぎだろう。急な大声に驚いたかも知れないけど、いい加減さっきまでの雰囲気に戻ってもいいんじゃないだろうか。もしかして、全員あの大男と喧嘩してるのか。よそ者の俺には分からないな。
「・・・なあ、クルー。あのでっけえ男、誰だ?」
「知らないな。俺も初めて見た」
小声で囁くように話しかけてくるキャプテンに返事をする。
獣を狩りに行っている時にも見かけてないはずだ。まあ、記憶力には自信がないから確信は持てないけど。
キャプテンと二人で顔を見合わせていると、猟師の男が注意してきた。
「あの男が気になるのはいいが、関わろうとするなよ?」
「どうしてだ?」
見た感じではただの酔っ払いにしか見えないんだけどな。
「お前たちが気にするような事じゃないんだ。・・・ただ、あまりこの町に長居はしない方がいい。二人は観光に来たんだろ? だったら、なるべく早く観光は終わらせたほうがいいぞ。いいな?」
真剣な表情だな。男たちに聞こえないように小声で話しているし冗談ではなさそうだ。なら、男の言うとおり観光は早めに終わらせよう。どうするかはキャプテン次第だが、男に迷惑をかけないようにしないとな。
まあ、とりあえず今は男たち以外に喋らなくなった飯屋での食事を済ませよう。さっきまでの賑やかな感じとは違って、居心地が悪いからな。
「ま、さっさと食おうぜ」
キャプテンも同じことを思ったのか眼前の料理へと意識を切り替えて、食事を楽しみはじめた。
あの男たちが何だろうと俺とキャプテンには、関係のないことだろう。あまり気にせずこの町での目的を果たそう。何か問題が起きたらその時に考えればいい。
「食うか」
今は、この料理を俺が食えるかが問題だからな。
・・・数十分後。
「オエエエエエエ・・・ッ」
「オエエエエエエ!!」
猟師の男と二人で仲良く吐くことになってしまった。何故だ。やっぱり俺の体は、受け付けない食べ物があるのだろうか。あんなに美味しそうな料理だったのに残念だ。何がダメなのか詳しく分からない限り、俺は食事を楽しむことができなさそうだ。
「大丈夫か、お前ら・・・?」
しかし、キャプテンも大変そうだ。俺と猟師の背中をさすりながら心配してくれている。唯一、吐かなかったからな。元気そうだ。
予想外だったのは、猟師の男が酒に弱すぎたことだな。たった一杯しか飲んでいないのに顔は真っ赤になって吐いている。そんなに苦手なら飲まなければいいのに。あの大柄な男の集団が入ってきてから一気に飲んだので、それが吐いてしまっている原因だろう。それまでのチビチビとした飲み方をしていれ良かっただろうに。
「らーいじょぶ、らーいじょぶ・・・」
「駄目そうだな」
冷静なキャプテンが判断を下している。まあ、明らかに大丈夫ではなさそうだからな。肩を貸してやろう。キャプテンだと万が一、骸骨だとバレた時に面倒なことになるからな。
「おー、助かる・・・」
またすぐに吐きそうな顔色のまま体を俺に預けてくる。
歩いてる途中で吐いたりするなよ。
キャプテンが男の背中をさすりながら俺と反対を歩く。男は警戒している様子が全くない。今日会ったばかりの俺たちにここまで油断して大丈夫なのだろうか。もしかして、この男間抜けなのか。
男を挟んだ状態でキャプテンと顔を見合わせる。どこまで連れていけばいいのか。
「なあ、お兄ちゃん。どこまで行けば一人で帰れる?」
ここで家の場所を教えてきたら本当に困ってしまう。そこまで俺たちに教えてしまったら流石に心配になってくる。今後もこんな風に見知らぬ人に接してしまうんじゃないだろうか。
「あーっと、広場のベンチに座らせてくれー」
なるほど。あの場所なら人通りも多いし、この猟師の男の知り合いが通って世話をしてくれるかもしれないな。此処から船までの通り道だから丁度いいな。
ほら、しっかり歩いてくれ。そんなにフラフラと歩いていたら転ぶぞ。というか、体を俺に預けているから転びそうにないな。周りもこの時間だから酔っ払いだらけで目立つこともなさそうだし良かったな。
しかし、あの飯屋の周辺だけは人が少ないな。あの男たちの声しか響いていないんじゃないだろうか。
「いやー、しかし美味かったなー! 何の肉を使ってるかは分かんねーけど、美味かった!」
久しぶりの料理を食ったキャプテンが気まずい場所から離れたことで機嫌よく料理の感想を言い始めた。酒で酔っ払っているわけでもないから、単純に気分が上がっているんだろうな。俺は結局飲み物しか堪能してないから、あまり満足したとは言えないのに。まあ、飲み物も美味かったけど。
スキップしたりして骨がぶつかる音とかを出さないでくれよ。酔っ払ってると言っても気になるかもしれないからな。
「明日は何を食おうかなー」
楽しみがあるのは良いことだ。そのために頑張れるからな。
俺も孤島で過ごしてた頃は明日の天気を楽しみにしながら夜が明けるのを待っていた。雨や台風なんかが来た時は、いつもと違うから良かった。
明日になったら料理を食えるようになっているかもしれないし、俺も明日を楽しみにしよう。
こんな料理がいい、あんな風な物を食べたい等とキャプテンが明日のことを話しているうちに、言われていた広場のベンチへと着いた。
ゆっくりとベンチに座るように下ろしてやる。あまり急に下ろすと尻が痛いだろうからな。飯屋の料金を払ってもらった恩人にそんなひどいことは出来ない。相手が酔っ払っているからと恩を仇で返すような真似は、俺もキャプテンもしない。
「それじゃあ、ここでお別れだな。しっかりと家に帰るんだぞ」
「うーい・・・」
「本当に大丈夫か、兄ちゃん?」
ズルズルと体を背もたれに預けていた状態から、横へと倒れていく。返事はしていても此処で寝るつもりだとはっきりと分かる。これは駄目そうだ。きっと男は家に帰る前に寝てしまうだろう。
だけど、俺達にできるのはベンチに送るまでだ。ここからは、何もできない。男の知人が通るのを願いながら船に帰るとしよう。風邪を引かないように気をつけろよ。
「行くか、クルー」
男を一瞥しながら名前を呼んでくる。心配するのは分かるが、誰か知り合いが通るはずだからその人に任せよう。
自分の方が心配されそうな格好のキャプテンが進んで行く後ろを付いていく。猟師の男がいなくなると急に怪しいやつに見えてくる。やっぱりこの見た目はダメかもしれない。今の時間帯は明るいときに比べて人も少ないから、あまり目立ってはいないけど、他に家に帰る人が通り始めたら飯屋に行く前みたいにまた凝視される事態になりそうだ。早く船に戻ろう。
キャプテンと共に広場を後にする。港に近づけば人の数も少なくなるので、キャプテンも周りを気にしなくて済む。
「・・・さっきの飯屋に来たでけえ男、どう思う?」
黙って歩いているとキャプテンから声がかけられた。どうやらさっきの大男が気になっているらしい。まあ、猟師の男からああ言われたら気になるのも仕方ないかもしれない。俺には只の酔っ払いにしか見えなかったけど、キャプテンには何か分かったのだろうか。骸骨だから、普通の人には視えない何かが視えてるのかも知れない。
「よく分からない。けど、良いやつではないんだろうな」
「だろうなぁ」
忘れてしまったが大男の名前を言っている時の猟師の男の顔は、良いやつを見たときにするようなものではなかった。何かああいった顔をさせるだけの理由があるんだろう。俺たちには分からないけど。
ほかにも周りの客が急に静かになったのも、大男の声がうるさかった事以外に理由があるのだろうか。これは俺の想像に過ぎないから関係ないのかもしれない。
「うーん・・・見た目は酔っ払いだったしなぁ。」
キャプテンにも只の酔っ払いに見えてたのか。骸骨だから何か違うと思ってたけど。
結局、一目見ただけでは判断するのは難しいということだな。猟師の男の反応からして、あの大男はあまりさっきの飯屋に来てないだろうから、明日の飯もあの辺りで済ませればいいはずだ。そうすれば関わる可能性も低くなる。
「ま、俺たちにできるのは、あの兄ちゃんに言われた通りできるだけ関わらないようにするしかないな」
「そうだな」
それ以外にできる事もないしな。明日はキャプテンが行きたがってた場所に行って景色を楽しむだけだから、会うこともないだろう。案内役は猟師の男がしてくれるって言っていたし、どうにかなるはずだ。
「あー、ねむ」
欠伸をしながらそう言ったキャプテンは、見えてきた船へと歩を速める。骸骨でも眠くなることはあるらしい。この町に着くまでの船旅の中で、夜にキャプテンが何をしているかは知らなかったけど寝てたのかもしれない。俺は寝ることがないからずっと起きてるしな。
しかし、明日は折角の観光なのに何故あんなに落ち着いているんだろうか。てっきりキャプテンのことだからワクワクして寝られないと思っていたのに。意外だ。
いや、よく見たら軽くスキップしてるな。内心楽しみにしているようだ。それを隠す意味は分からないけど。
「明日、晴れるといいな」
船へと上っているキャプテンを見ながら呟く。
何年ぶりの旅の続きかは知らないけど、明日の観光は楽しんでほしい。キャプテンの目的が何かはまだ知らないけど、時間があったら猟師の男に教えてもらった場所にも行ってみよう。この町の観光地だからキャプテンも行ってみたいと思うはずだ。目的の景色以外に興味があるか知らないけど。
あ、月が丸いな。
・・・翌日。
「よーっし! いい天気だ!」
元気な声をあげながらキャプテンが船内から出てきた。どうやら体調を崩したりといったことはないようだ。良かった。昨夜から現在まで悪天候になることもなくしっかりと晴れてくれたのに、キャプテンが行けなくなっては意味がないからな。骸骨が体調を崩すかは知らないけど。しかし、これだけ天気がいいなら目的の景色も良いものになっているはずだ。その場所までどれくらいの距離なのかは分からないが楽しみにしておこう。
「早く広場に向かおうぜ!」
意気揚々と船から降りていく。そんなに楽しみだったのか。まあ、猟師の男がいつ来るか分からないからな。案内してもらうのに待たせるわけにもいかない。早めに行っておくのは悪いことじゃないだろう。
・・・十数分後。
昨日の広場へと到着した。明るいこともあって人も多く、キャプテンに向けられる視線も随分と多い。やっぱり日が出ている内はあまり出歩かない方がいいんじゃないだろうか。キャプテンが目立ちたいと思ってるなら別だけどな。まあ、骨を見られてしまうんじゃないかとドキドキして人と話せなかったらしいから、目立ちたがりってわけではなさそうだけど。
「あの兄ちゃん、いねーな」
キョロキョロと周囲を見ていたキャプテンがポツリと呟く。まだ朝も早い時間だから起きてないのかもしれない。昨日はかなり酔っ払っていたからな。今日は来れない可能性だってある。その時は自分たちで行くしかないな。
しかし、その見た目で不審な行動は控えたほうがいいと思う。この町に来て二日目だから住人からしたら怪しいやつにしか見えないだろうし。不安を与えるのはダメだ。
「少し落ち着こうキャプテン。朝飯でも食べて時間を潰せば来るかもしれない」
「あー、それもそうだな。先に飯にするか」
賛成してくれて良かった。楽しみにしているキャプテンはともかく、このまま此処で待ってるだけだと暇だったからな。何も食べなくてもいいけど、美味い料理を食べることは大切だ。俺はまだ食えてないけど。
「じゃ、早速向かおうぜ」
「―――あの!」
「ん?」
今からの行動が決まったので座っていたベンチから立とうとした時、誰かがキャプテンに声をかけてきた。そちらを見てみれば小走りで此方へと向かってくる一人の少女がいた。おい、大丈夫か。こんな怪しいやつらに近づいてきて。その度胸には感心するが、親はどうしたんだ。子どもを怪しいやつらに近づけちゃダメだろうに。けど、声をかけられたからには答えるしかない。キャプテンの近くへと移動し、少女と話せる状態にする。
「どうしたんだ。俺たちに何か用か?」
話せる距離まで近づいてきた少女へと声をかける。息があまり乱れてないからすぐに返事ができるだろう。しかし、誰かに似ている気がするな。顔を知っている人間は少ないから一体誰だろうか。
「あの・・・昨日パパとお酒を飲んだ人たちですよね?」
「パパ?」
パパって誰だ。キャプテンを見ても首を傾げている。そんなやつは知らないぞ。
「えっと、私より少し暗めの髪色でお酒に弱いんですけど・・・」
この少女より暗い髪色で、お酒に弱い。そんなやつなら知ってるな。猟師の男がその特徴に当てはまる。なら、この少女が言っているパパっていうのは、猟師の男のことだろうか。
「もしかして、パパは猟師か?」
「そうです!」
「なるほど。だったら昨日一緒に飲んだのは俺たちだ」
「本当ですか!? 良かった~」
まさか猟師の男が父親だったとはな。娘がいたのか。通りで誰かに似ていると思ったわけだ。
しかし、何故そのパパではなく娘が来ているんだろうか。やっぱり昨日の酒の影響で起きれていないのだろうか。
「しっかし、よく分かったな。俺たちがパパと飲んだやつらだって」
「それは、パパから旅の人たちって聞いてたので、あの人たちかなって思ったんです」
俺が少女が来た理由について考えていると、キャプテンが後ろから話しかけた。今は病人状態だから骨が見えてしまう可能性も低いだろうしな。ドキドキしながら話すこともないだろう。この旅での俺の役割も案外必要ないのかもしれないな。この調子でキャプテンがどんどん話すようになってくれれば、旅もしやすくなるかもしれない。
けど、なるほど。この町に来る観光客も減少しているらしいから普段見ないやつを探せば、俺たちを見つけるのも簡単だろう。町の住人の目線の先を見ればいるしな。
「それで、どうして嬢ちゃんが来たんだ?」
「その・・・。パパがちょっと起きれそうにないというか・・・」
「あー、昨日すげえ酔っ払ってたしな」
想像通りの結果だった。やっぱりまだ起きれていなかったか。多分、俺たちが思っている以上に酒に弱いんだろう。おそらく今日は来れないはずだ。だから、娘である少女がそれを伝えに来てくれたというわけか。
しかし、そうなると俺とキャプテンの二人だけで行くことになるな。道に迷わずに行けるだろうか。
「それで、パパの代わりに私が案内をしようかと思ってて・・・」
「・・・え、いいのか?」
「はい」
少女からの提案は実にありがたいものだ。俺もキャプテンもこの町について詳しくないからな。案内してくれるって言うなら是非頼みたい。けど、もし山道を歩くんだとしたら大丈夫だろうか。どんな道を行くかも知らないから俺は何とも言えないけど。
キャプテンへと目をやる。どうするかはキャプテンが決めてくれ。
「うーん。ま、大丈夫だろう」
少女自ら言ってくるってことは、大丈夫だと判断したのだろうか。もしものことがあったら全力で少女を守るつもりだけど、どうなるか分からないからな。気をつけていこう。
「じゃあ、早速行きましょう!」
元気に歩き始めた少女の後ろをキャプテンと共に付いて行く。途中で朝飯を食べる事も忘れないようにしないとな。けど、その前に行き先について聞いておこう。この町についても教えてくれなかったが、目的の景色についても秘密されていたからな。
「キャプテン、そろそろ何処に向かうのかくらい教えてくれもいいんじゃないか」
「あー、それもそうだな。詳しくは言えないけど、俺たちが行く場所の名前くらいは教えとくか」
やっと話してもらえるようだ。キャプテンは秘密にするのが好きなようだから、教えてもらえないかとも思っていたけどよかった。しかし、一体どんな名前だろうか。
「俺たちが行く場所はな、恵みの湖っていう山の中にあるでっけえ湖だ」
なるほど。どこかで聞いた気がする名前だ。




