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02 岩山の試練

 早足で歩くアカネに合わせ、一時間半ほどで岩山にまで辿り着いた。この山には人語を解するやや小型の羽毛を持つドラゴン、ファードラゴン達が暮らす。ドラゴンとしては小さいものの、胴体部分だけでも馬より二回り以上は大きいドラゴン達。彼等には一年に一度だけ挑戦でき、洞窟の奥に待ち構える個体に力を認められれば、これから世界を旅する足となってもらえるのだ。

「今日こそ広い世界に旅立つ時!」

「張り切ってんなー」

 ところで、この世界の人間の能力というのは、大部分が“世界の加護”によるものだ。魔物を倒してその証を持ちかえれば、努力を認められて加護が与えられる。単純な技術の上昇によっても加護は得られるが、初めて武器を持った時に一人一つ与えられる宝珠に取り込まれた魔物の欠片を大樹に捧げて任意の力を得る事が一般的だ。

「ふっふっふ、今の私は歩く要塞。我らが大樹、“赤の大樹”で得られる守りスキルはコンプリート済み。二人には指一本、吐息一つ触れさせんぞ!」

「なんか今日おかしくないか?」

「また変な本読んだんじゃない? ここの魔物の対策立てるために図書室に通い詰めてたみたいだし」

「あー、前もあったな……」

 カッコつけるアカネの後ろでコガネ達は遠い目をする。雰囲気はともかく、いつも有言実行のアカネの事だから、不意打ちされる心配はほぼないだろう。

「来た!」

 岩陰から人の胸ほどの高さのドラゴンの子供達が複数飛び出してきた。周囲と同じ土色のもふもふの子供ドラゴン達は体を起こして脅かすような仕種はしているものの、攻撃の体勢には移れておらず、まるでごっこ遊びの延長のようだ。

『挑戦者ダー!』

『勝負!』

 空も飛べないような小さな翼をばたつかせて、一体ずつ先頭のアカネに飛びかかってくる。アカネは小さい盾を使って彼らをテンポよく転がしていく。コガネはジタバタとするドラゴンに狙いを定め、真っ直ぐに小さなつららを突き立てていき、間に合わずに起き上がりそうになっているものに対してはクロが痺れ毒の短剣を撫でるように突き刺していった。

『降参ー!』

 圧倒されて戦意を失ったのか、見かけの割に元気なドラゴン達は再び岩陰に向かって駆けて行く。後に残された羽毛や滴り落ちた血は、砂のように細かいきらきらした塵となって三人が持つ宝珠にほぼ均等に吸い込まれて行った。

「よし、いい感じ! 連携もばっちりみたいね」

「そりゃあ、連携だけはかなりみっちり練習したからな」

 拾う事の出来ない血痕や小さな魔物の破片は、戦闘での行動によって分配され、自動的に宝珠で回収される。普通は代わる代わる攻撃をして公平に分配するが、世界に努力や貢献を伝えるこの宝珠は、必ずしも戦闘で攻撃をする必要はない。身構える事すら出来ずに手持無沙汰になってしまっていたり、出来るはずの行動が出来ていなかったりすると、世界に認められず、その分取り分が減ってしまうだけの話なのだ。

 個々ではバランスの悪い能力を選んだアカネ達。その為、ちょっと鍛えれば簡単に倒せるような相手にすら連携を必須として練習し続けていた。

「各々が限られた種類の能力しか持たない事を選んだ以上、この程度の連携は及第点程度だろ」

「うん、そうだったね」

 クロの言葉にアカネ達は心得顔で見合う。


『随分と見事な戦い方だな』

 子供ドラゴン達が逃げ込んだ岩陰から大人のドラゴンが長めの首を伸ばし、続いて想像よりも大きな体が現れた。

「え、あれ、話より大きくない?」

 事前に聞いたところによれば、子供なら三、四人程度乗れても、大人は頑張れば二人乗れる程度の大きさだったはず。しかし、目の前に現れた夜の空の暗い色をしたドラゴンは大人が五人ぐらいは軽く乗れそうなの大きさ。背後の広い洞窟も、大きな翼を広げれば少々手狭に感じるほどだ。

『何。ここの所挑戦者に対してドラゴンが余りがちでな。他のドラゴン達に挑戦者を譲っていたら、誰かを認める事も無くこの年になってしまっただけの話だ』

 ドラゴンがからからと笑えば、アカネを覆うような大きな影が出来、アカネは思わず後ずさった。

『それに、その年齢で臨むのなら、初めから大きい方が後々都合がいいだろう?』

「た、確かにそうですが……」

「よし、やってやろうじゃない!」

「アカネ!?」

 クロが遠慮しようとするのを制してアカネが大きな盾を振りかざす。

「私達にはちょっとやそっとじゃ吹っ飛ばされない力も、大きい奴を仕留める力もある。上手く防いで当てれば勝ち目はある!」

「アカ……」

 これまで相手にしたことのないいきなりの強敵。クロはアカネに本当に行くのか聞こうとして、その足がわずかに震えているのに気付く。

 アカネは大地を踏みしめ、ドラゴンを真っ直ぐ見据える。ドラゴンは楽しそうに目を細めると、翼を大きく広げて空へ舞い上がった。

『今回は広い頂上全体の特別ステージ。遠慮せずに来い!』

「皆行くよ!」

 合図と同時にアカネは盾を空にかざして今三人がいる場に薄い膜を張る。直後に強烈な風が吹き荒れ、膜の外の砂礫が激しく飛び散る。

「この膜の中に全体攻撃は通らない。クロ兄は避けられない攻撃が来たらこの中に。コガ兄は私を信じて詠唱だけに集中して!」

「分かった!」

 クロは返事と同時に飛び出し、コガネは強く頷いて詠唱を開始する。ドラゴンは頭を下げて真っ直ぐアカネ達の方に向かっており、アカネはそれを見据えながら両手で大きな盾を構えた。

 角と盾がぶつかり大きな音を立てる。アカネはそれに合わせて盾を傾け、攻撃を受け流した。

「アイスランス!」

『ガアッ!』

 バランスを崩したドラゴンの真上に大きなつららが現れる。辛うじて翼と急所は躱したようだが、肩から腕にかかるあたりに深く突き刺さった。見るからに大きなダメージを受けているが、ドラゴンの動きは殆ど鈍らない。首を持ち上げ、コガネに噛み付こうとし、アカネは小さな盾で間に割って入ろうとした瞬間、ドラゴンの後ろから風の唸る音が聞こえた。

「おわっ!」

 ドラゴンの噛み付き攻撃が無かった代わりに、鞭のように長い尾が振り抜かれ、背後を取ろうとしたクロが体勢を崩す。

「コガネ短縮!」

「あ、アイス!」

 クロが叫ぶとコガネはクロの前に氷の塊を出し、尾の勢いを殺す。その隙にクロはドラゴンの背に飛び乗り、短剣を首筋に当てて宣言をした。

「俺達の勝ちだ!」

 ドラゴンは動きを止め、背中越しにクロの姿を見た。クロだけでなく、アカネ達も唾を飲み込んで様子を見守る。

『……見事だ』

「……っやったー!」

 アカネ達が両手や拳を空に突き立て喜ぶ周囲では、小さなドラゴン達が共に祝う声を上げていた。

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