浄化の実をつくる
「世界樹、あなたの大切な実を一つ使わせてもらうことになったの。大切な大切なあなたの力をどうか、穢れた魂に体を奪われた女の子と、異世界から来た哀れな魂のために使わせてね」
蜂蜜パンと温めた牛乳をたっぷりと食べた私は、一年中氷みたいに冷たい聖なる泉の水で身を清めてから世界樹の前にやって来た。
世界樹が育っている大神殿の奥庭は、外の天気が雨だろうと嵐だろうと一年中晴れている。
昼間は綺麗な青空が広がって、夜はキラキラと星が瞬いている。
私はいつも時間を見つけてはここで世界樹と共にいて、聖力を世界樹に注いでいる。
本当は聖力を注ぐのは月に一度でもいいし、所用で大神殿から離れる時はごめんねと世界樹に謝ってしばらく離れることもあるけれど、私が大神殿にいられる日は一日に一度は必ず聖力を注ぐことにしている。
私が大神殿の中にいれば私から自然に漏れ出る聖力が世界樹に吸い込まれていくらしいけど、私が自ら世界樹に力を注ぐことが大切なのだと亡くなった大聖女様に教わっているから、一日に一度は必ず心を込めて聖力を世界樹に注ぐことに決めているのだ。
「世界樹、あなたを枯らすようなことはしないから安心して。私があなたを守るわ」
ごつごつした木の幹を撫でながら聖力を注ぐ、木の幹に熱なんてないのにそうすると少しだけ木の幹が温かくなる気がするし、私と世界樹の繋がりが強くなる気もする。
「怖い話よね、聖なる力を持っているのに悪しき心と私利私欲で他人を不幸にする者がいるなんて信じたくないわ」
それを神の神託で知ることになったのが、何より怖いと思う。
神は嘘を言うことはない、私があの穢れた魂を浄化の実に閉じ込め上手く浄化できなければ世界樹は枯れてしまう。
「あの穢れた魂は、自分のために世界があると思っているのが嫌だわ。世界はただ一人の為だけに存在しているわけじゃないし、自分の私利私欲の為に他人の人生を好き勝手にしていいわけでもないわ」
聖力を流し終えて世界樹の幹を優しく撫でながら、世界樹を見上げる。
天に届きそうな世界樹の枝に、金色に淡く光る実があちこちになっている。
その中でもひときわ大きな実が良いだろうかと見ていると、ぽとりと私の手の中に実が落ちてきた。
「世界樹?」
この実が自然に落ちることはないと、前大聖女様は言っていたのにこれはどういうことだろう。
「ありがとう、この実が一番適しているのね」
お礼を言ってから世界樹の幹に背中を預け根本に腰を下ろし、世界樹の実を膝にのせ抱きかかえる。
世界樹の枝になっていた時はそれほど大きく見えなかったのに、私の膝の上にのせて抱きかかえてなくてはならない程、落ちてきた実は大きい。
大聖女様から聞いていた作法は、実を片手で抱え、世界樹の幹にもう片方の手を添え祈ると聞いていたけれど、落ちてきた実があまりにも大きいから片手で抱くのは無理だった。
神殿の記録には、前大聖女様が二つ実を使用したと書かれていた。
その前の大聖女様の代ではかなり実を使用していたようだけれど、世界樹の枝にはまだ沢山実っている。
この実は数年に一つ新しい実がつくと言われているけれど、その実は採取しなければ延々と世界樹の枝になり続け、今のように自然に落ちることはない。
世界樹の実は、浄化の実、再生の実、修正の実などに使われると聞いていたけれど、私はどれも作ったことはなかった。
大聖女にはその時必要な実が分かるから、自分で選び採取するのだと言われて、ちゃんと選べるのかと不安だったけれど、今回は世界樹が私に実を渡してくれたのは、私が頼りないから世界樹が助けてくれたのだろうか。神官に言ったら驚くかもしれない。
ちなみに世界樹の実は、神の神託がなければ採取できないと言われている。
だから神官や大聖女がいくら世界樹の実を必要だと思っていたとしても、神託がなければ実を使うことは出来ないのだ。
「世界樹、力を貸して。あなたを枯らしたくないのよ」
さわさわと世界樹の葉が揺れる。
私は十五年しか生きてはいない、若輩者の経験不足の大聖女だけれど世界樹を守る気持ちに不足は無いと思っている。
「作るのは浄化の実、悪しき魂を取り込み浄化するための実。悪しき魂は元の世界で己の欲のため罪なき令嬢を殺し、こちらの世界で罪なき信心深い令嬢の身体を乗っ取っただけでなく、その限りない欲を満たすため世界樹を枯らす。私大聖女ミカは全ての力を実と世界樹に込めて、世界樹を守るため神にお願い申しあげます」
祈りを始める前に、浄化の実を作る理由と、浄化するものの罪を神に訴える。
大聖女の訴えと、神託に相違がある場合どんなに祈っても浄化の実は完成しない。
「私は大聖女ミカ、世界樹を、私の命、私の聖力全てを注ぎ守るために生まれた者、どうぞ私に浄化の実を作る許しを与えてください」
祈りながら世界樹と浄化の実に聖力を注ぐ。
すると、淡く光っていた実の光が強くなってきた。これが神が浄化の実を作る許可をくれた印になる。
「ありがとうございます」
空に向かい礼を言ってから、私は世界樹と実に注ぐ聖力を強くした。




