はじまりは一通の手紙から
「えーと、なになに? 突然この様な手紙を送る無礼をお許しください。夫が戦地におりすぐに連絡が取れず、かと言ってどなたに相談するのが正しいのか私では判断も出来ず、神のお力に縋るしかないと思い立った次第です。……なによ、前置きが長いわね」
下級神官がうやうやしく運んできた一通の手紙を読み始めた私は、手紙の冒頭で既に飽きてしまった。
私は、ミカ。この国の大聖女だ。
貧しい農村に暮らす夫婦の五女として生まれた私は、赤ん坊の時から神の力、通称聖力が使えたらしい。
勿論その時のことは私の記憶には無いけれど、生まれた時は私の全身が光り輝いていたんだとか。
光り輝き生まれた私を見て驚いた産婆が村長に知らせに走り、家にやって来た村長はまだほんのりと光っていた私を見て、隣町にある小神殿に知らせを走らせたのだそうだ。
小神殿に仕えている神官は、村長の知らせを疑うことなくすぐに村にやってきた。
実は王都の大神殿では、次代の大聖女がもうすく生まれると神託を受けていたのだ。
だから大聖女が生まれた時に備えて、全国各地にある神殿に通達がなされていたらしい。大聖女らしい者が生まれたらすぐさま対応し、王都の大神殿に知らせるようにと。
私の前の大聖女様は、すでに肉体の限界を超えた年齢まで年を重ねていた。
それでも聖力があったから、次の大聖女が生まれるまで耐えてくれていたのだそうだ。
そんなわけで、私は生まれてすぐ両親や兄弟と共に王都に来て、命が尽きるギリギリまで耐えてくれた大聖女様から聖女の能力と記憶を引き継ぎ生後五ヶ月で大聖女になった。
まだ首も座っていない未熟な私の体の負担にならないよう、大聖女様はベッドに横たわりながら五カ月もの時間をかけて能力を引き継いで下さったのだから、大聖女様にはどれだけ感謝しても足りないと思う。
ちなみに、神殿は私と家族を引き離すことはせずに家族は神殿の小間使いの一家として大神殿の中で暮らすようになった。
大聖女の能力と記憶を得ても、私はただの赤ん坊でまだまだお母さんのお乳が必要だったし、家族の温もりも必要だった。
大聖女とはいえ、人に生まれたのだから親や兄弟とのふれあいや愛情は必要不可欠な要素だと、神殿の中では共有されていたし、大聖女様もそれは絶対に必要だと助言されていたらしい。
大聖女様の助言は、すなわち神の言葉だと神殿の中で共有されて、私は家族と神官達の愛情を一身に受けて成長した。
王都の大神殿内で下働きとして働くことになった私の家族、お父さんは畑を耕す代わりに、神殿の敷地に植えられている木々を育て花壇の花を育てる役目を受けた。
お母さんは、私を育てながら神殿の敷地内にある孤児院の子供たちの世話を、長男と長女次女と共に始めた。三女と四女はお母さんが孤児院に行っている間の私の子守りだった。
私の家族は皆信心深くて、大聖女の家族だからと驕ることは無かった。
むしろ、私の名誉を穢さないように常日頃から慎ましく生きていた。
「これ、つまりはお悩み相談というものかしら、いつから大聖女の仕事にそんなもの追加されたのかしらねえ」
大聖女の仕事で一番重要なのは、神殿奥に植えられている世界樹に聖力を注ぐことだ。
最低でも一か月に一度、出来れば毎日ほんの僅かでもいいので聖力を注ぐ。
そうすると私の力を受けて、世界樹はキラキラと輝く。
これは浄化の力、らしい。
世界樹の根っこは実はこの国全土、隅々まで伸びていて穢れを吸収している。
世界樹はこの国に1本、海の向こうの国にもう一本ある。人族の国にあるのはこの二本で、あとはエルフの国、亜人の国、獣人の国、海の中の国にもあるらしい。
世界樹があるところには必ずその種族の大聖女が生まれ、世界樹に聖力を注いで守り育てる。
ちなみに、人族の国はいくつもあるのに世界樹がある国が二つしかないのは、世界樹がある国の人族が世界樹と大聖女の力を信じず蔑ろにした結果世界樹が枯れたのだと言われている。
世界樹がない国は、天候が荒れやすく土地が痩せ実りが減り魔物が出現する。
それでも人は生きていくし、無くても大丈夫なのだと世界樹のない国は言い張っているらしいが、大聖女はその国から出ないので他国のこと気にしない。
「大聖女様、どうぞ続きをお読みください」
神官に促され、私は渋々続きを読むのだった。




