絶望
「待て!泥棒野郎!」
砂埃が舞う市場に1人の男の声が響く。
(どうしてこうなったの… なぜ私はこんなことをしているの…)
「捕まえたぞ!今度こそ年貢の納め時だ!」
(こんなこと、私はやりたくない… )
あれは…1年前の出来事…
「やあ!マーセ!今回はどんな所に行こうか?」
家の窓からフリードの声が聞こえてきた。
「こんな荒廃した世界、もう行くところなんて残ってないんじゃないの?この王国なんて隅々まで探索したんだし、国外は何も無いわよ。」
お母さんが読んでくれた絵本で見たことがある。この世界は元々緑がたくさんあって色々な国がとても栄えていたみたい、しかし150年前に厄災が起こった。そしてこの世界の人間はこの世の全ての戦力を総動員し、この厄災を止めた。だけど、被害はとても大きくて国や森は焼け野原になってたくさんの人が命を落とした、それからこの世界は荒廃した…
お母さんが言うにはお母さんとお父さんが子供の頃よりはマシにはなったみたいだけど、まだ各国の物資を巡る戦争は後を絶たないみたい…
「お前いっつもそうだよな、もうちょっと日常の楽しみを見つけたらどうだ?」
「…あんたと一緒にいるとテンション狂うわね。」
(…だけど一緒にいると、とても元気が出てくる。)
「何考えてるんだよ、早く行こうぜ!」
「あ、うん!ちょっとまっててね!」
私は家を出る準備をしてお母さん、お父さんに行ってきますと言った。そしてお母さんは私が外に出る時にいつもこんな感じのことを言う。
「行ってらっしゃいマーセ、あなたは私たちの自慢の娘よ。」
「今日はどこへ行くの?」
私はフリードに言った。
「実はな、面白い場所を見つけたんだよ!」
幼い子供みたいにウキウキに話すフリードに対して私は頭に?を浮かべた。
「まだ私たちが行ってないところがあるの?」
「ちょっとこっち来いよ。」
フリードが案内した場所は国外の砂漠にぽつんとあるオアシスだった。
「このオアシス、以前行かなかった?まさか行ったこと忘れたの?」
「まぁ見てろって、俺の手に掴まれ。」
疑いの目を向ける私を横目にフリードは左手で私の手を掴んで首に掛けているペンダントを右手で握りしめた。
…すると突然オアシスの水が光り出した。
「ちょっとなにこれ?!」
困惑する私と平気そうな顔をしているフリードを白い光が包み込んだ。
「ここは…どこ?」
眩しくて閉じた目をゆっくり開けたら、ここには辺り一面に大自然が広がっていた。
「どうだ?驚いたか?」
フリードは笑顔で私に言う。
私は目を疑った、絵本でしか見たことがない木や花、川がここにはたくさんあった。
「すごい…こんな景色、絵本でしか見たことない…」
私は呆然と立ち尽くした。
「どうやら、このペンダントがカギになってるみたいだ。」
ペンダントを見せながらフリードは言った。
前に聞いた話だと、このペンダントはフリードが6歳の時にこのオアシスで見つけたみたい。見つけた時は錆び付いていたけど頑張って錆びを取ったって言ってた。
「このペンダントにこんな力があったなんて…」
「なぁ、せっかくならここで鬼ごっこしようぜ!」
「ちょっと?!こんな広大な場所で迷ったらどうするの?!」
相変わらずのフリードに私は言った。
「じゃあお前はこの広大な世界に興味ないっていうのか?」
フリードは言う。
「こんな未知の世界、何が起こるか分からないじゃない。」
私は恐怖でその場を動けなかった。
するとフリードが
「恐怖から逃げていたらずっと恐怖のままだ。だけど一歩踏み出せばこれはもう恐怖では無くて勇気なんじゃないか?」
この時フリードの真っ直ぐな瞳が、私の何かを変えた。
「…そうね、遊びましょう!だけどあなたが鬼ね!」
「おい!ズルいぞ!待てー!」
3時間後…
「結構遊んだな、そろそろ日が暮れるし、帰るか。」
「そうね、だけどどうやって帰るの?」
私はフリードに聞いた。
「このペンダントを空にかざすと戻れるぞ。」
「なんだ、なら迷うとか無いじゃない。先に言いなさいよ。」
私は頬をふくらませた。
「まぁまぁ、そんな怒るなよ。あと、この世界は俺たちだけの秘密な?」
「うん、分かったよ、じゃあもし誰かに言ったら?」
「それはもう針1万本くらい飲んでもらうか。」
「あんたの方が口が軽いんだから針飲まないように注意しないとね!」
「アハハハハ!」
私たちは一緒に笑った。
こんな日常が一生続けばいいと思ってた。
「ただいまー。」
私はフリードと一緒に家に帰ってきた。
「お邪魔しまーす。」
「あら、おかえりマーセ、それにフリード君もいらっしゃい。」
夕ご飯の香りと一緒にお母さんがお出迎えをしてくれた。フリードは戦争で家族を失ってこの街に逃げてきた、だからご飯はいつも私たちと一緒に食べるの。
「今日は2人でどんな冒険をしてきたのかい?」
お父さんはいつも私たちに遊びに行った内容を聞いてきた。
「お父さん、別に聞かなくていいでしょ、もう17歳なんだから恥ずかしいよ。」
「そんなこと言ったらあんたの父さんが悲しんじゃうぞ?」
フリードが揶揄った。
「フリード、揶揄わないでよ!」
それから夕ご飯を食べている時…
ドカーン!
「なに?!今の音?!」
私とフリードは慌てた。
お父さんはこう言った。
「ついにこの国でも…お前達は屋根裏部屋に隠れてろ!」
私たちは急いで狭い屋根裏部屋に隠れた。
それから無限に感じるかのような時間が続いた。
「あそこにまだ2人居るぞ!」
1人の男の声と同時に足音がこっちに近づいてきた。
「やばい!バレた!マーセ逃げるぞ!」
しかし、私は恐怖でこの声が聞こえなかった。
なぜなら両親の悲鳴が銃声と共に聞こえたからだ。
「おい!何やってるんだ!早く逃げるぞ!」
私はハッとして屋根裏部屋の窓から逃げた、このままでは私達も殺されてしまう。
親の死に悲しむ暇もなく、私はフリードと一緒にひたすらオアシスの方に走った。
向かってる途中だった…
「グハァ!」
横を走っていたフリードが後ろから追っていた男に撃ち抜かれてしまった。
「フリード!!!」
「…この…ペンダントを持って…今すぐ逃げろ…!」
血が混じったような苦しそうな声でフリードは言う。
「フリード!!!!」
「何…やってるんだ…はやく…行け…!」
私は頭が真っ白になりながら無我夢中で走った。
ペンダントを握りしめている左手の力がどんどん強くなっている。
オアシスに着いて、私はすぐにペンダントを握りしめた。
オアシスの水が光り、白い光が私を包み込んだ…
再び大自然が辺り一面に広まった、しかし最初に来た時と違い、私はこの大自然の美しさを感じれなかった。
「……」
沈黙が続く大自然…
「どうして…なんで…こんなことに…」
私はその場で膝を着き空を見上げた。
涙すら出ない、今の状況を受け入れられない、何も…感じない…
一体どれくらいの時間こうなっていたのだろうか、今でも思い出せない。
「あっあっ……うわぁぁぁぁ!なんでみんな死んじゃったの!なんで私だけ生きてるの!」
「どうして!どうして…」
1週間は絶望しただろう、空腹も何も感じないほどに泣いただろう。
しかしとある日の夜、お母さんの言葉を思い出した。
あなたは私たちの自慢の娘よ。
脳裏にお母さんとお父さんの顔が思い浮かんだ。
そうだ、このまま絶望していたらみんなが悲しむ、私が絶望している姿なんて、みんな望んでいない。
「少しだけ…頑張ってみような。」
あの惨劇から8日が経った頃だった。
「お腹減った…」
飲み物は川の水で何とかなってるけど、この森には食べ物が無い。
「そろそろ何か食べないと…だけどどうしよう…」
私は考えた。
「そういえば…ここの空って所々色が違うわよね、それによく見るとうっすらと元の世界が映っているような…一体どういうこと?」
最初に来た場所の空は真っ青だが、進むにつれ朱色になったり、緑色になったり、空が様々な色に変わっている。それと同時に空に映る風景も変わっている。
「…もしかして、ペンダントをかざす場所によって出てくる場所が違うとか?」
試しに朱色の空にペンダントをかざしてみようとした、しかし
「もし、あのオアシスに戻ったらどうしよう…」
違う場所に出てくる保証はない。それどころかオアシスに戻ったらまだ残っている敵に撃ち殺される危険性がある。
「一体どうすれば…」
この時、フリードの言葉を思い出した。
恐怖から逃げていたらこれは恐怖のままだ。だけど1歩踏み出せばこれはもう恐怖では無くて勇気なんじゃないか?
「…恐怖から逃げてたら恐怖のままだ、勇気をだして試してみよう!」
私は朱色の空にペンダントをかざした。
白い光が私を包んだ後、目を開くと全く知らない国が目の前にあった。
「ここはどこ…?」
この国もどうやら荒廃しているらしいので私の住んでいる世界で合ってるだろう。
「やっぱり、空が違うと出てくる場所も違うんだ。」
出てきた途端、私の鼻に何かが通った。
「いい匂いがする…」
匂いに釣られてやって来ると、美味しそうなパンが売っていた。
「焼きたてのパン売ってますよー!」
威勢のいい男の声が聞こえてくる。
焼きたてのパンの匂いが空腹の私の思考を狂わせる。
(このまま何も食べないと…死んでしまう…だけどお金が無い…だとしたらもう…)
男が目を離した瞬間…私は盗みを犯してしまった。
(…ごめんなさい、ごめんなさい!こんなこと本当はしたくないの!だけど…)
頭の中が罪悪感でいっぱいになった。
しかし生きるにはこれしかない、私は生きるために悪事を続けていった…
1年後…
「待て!泥棒野郎!」
砂埃が舞う市場に1人の男の声が響く。
「捕まえたぞ!年貢の納め時だ!」
最近盗みが失敗続きで何も食べられずにいたからか、今回はまともに走れずに逃げられなかったようだ。
「許してください…」
マーセは虚ろな目で男を見つめた。
「何が許してくださいだ!こんなたくさんの悪事を犯して許されるとでも思っているのか!今度こそぶちのめしてやる!」
「グアッ!」
男がマーセの腹を1発殴った。マーセが咳き込むと同時に口から血がポタポタと垂れてきた。
さらに2回目の拳を振ろうとしたその瞬間…
「な、なんだ?!」
マーセの首に掛かっているペンダントが突然光り出した。
ドーン!
マーセの胸ぐらを掴んでいた男は爆風で吹き飛ばされた。
「ふあぁ〜、なんかすごい長い間寝た気がするな…」
煙の中から謎の声が聞こえてきた。
「だれ…?」
煙から見える影をマーセはじっと見つめる。
「オレのことか?お前のペンダントだよ。」
煙から現れたのはスライムのように丸っこい身体の黒い生き物だった。
状況が掴めないで目が点になっているマーセを気にせずにこの生き物はさっきの爆発で飛び散った鉄の残骸に近づいた。
「何する気?」
「お前がオレを起こしたんだろ?ほら、はやくオアシスに戻るぞ。」
こう言ったあと、なんとこの生き物は鉄の残骸を丸呑みしたのだった。そして丸っこい身体がバイクのような形に変形したのだ。
「?!」
理解できない状況が続いて、マーセは言葉を失った。
「どうだ?かっこいいだろ。ほら、パンは持ったか?持ったらオレに乗れよ。って気絶してるし…」
どうやらマーセはさっきの腹の1発や爆発の衝撃で気絶してしまったようだ。
不思議な生き物はパンとマーセを背中に乗せてオアシスへと向かった。




