97. エスコート
読んで下さってる皆さん、本当にありがとうございます。
もう少しで第一部が終わります。どうぞよろしくお願いいたします。
「カテリーナ、そろそろ準備はいいかい?」
アレクシオスが、カテリーナの部屋の前から声をかけた。
「はい。今、参ります」
扉が開く。
そこには、騎士見習い用の礼服を身にまとい、貴族としての礼儀作法に則って装いを整えたカテリーナの姿があった。
丁寧に結い上げられた髪。
上品な装飾品。
そして、凛とした佇まい。
一瞬、アレクシオスは言葉を失った。
「ああ……」
目元がわずかに潤む。
「なんて美しいんだ、カテリーナ……」
「ちょ、ちょっと、お兄さま。恥ずかしいですわ」
付き従っていた衛士たちからも、思わず感嘆の声が漏れた。
「おお……」
しかしアレクシオスは感動の余韻に浸るどころではなかった。
「……これは、まずいな」
「えっ、何がですか?」
「これでは確実に注目を集めてしまう」
「ええ。魔人討伐の表彰もありますし、それは仕方ないのでは……」
「いや、そのような問題ではないのだ!」
アレクシオスは真剣な表情で言った。
「トーナメントのときですら求婚者が現れたんだ。今日など、何人出てくるか分かったものではない!」
「あの、お兄さま……」
「やはり今からでも遅くはない! 授章式を辞退して――」
「できません!」
アレクシオスの言葉は、カテリーナによって即座に遮られた。
「当日になって辞退したら、ルクサリス家が陛下に対して大変な非礼を働くことになってしまいますよ」
「あ、う、うむ……それは確かにそうだな。陛下の面目を潰す訳にはいかんな」
アレクシオスはしぶしぶ頷いた。
今回の式典は、宮廷大学の入学式と複数の表彰式を兼ねていた。
宮廷大学の入学式典。
魔導師コースと騎士コースの選抜者トーナメントにおける上位者の表彰式。
そして、突如現れた魔人を討伐した者たちへの表彰式とその後に起きた女神の奇蹟への感謝の儀。
そのすべてに関わり、その中心にいる人物こそカテリーナだった。
「私だって、目立ちたいわけではありませんのに……」
カテリーナは小さくため息をついた。
「ですから、お兄さま。きちんとエスコートしてくださいね」
「おおっ!」
アレクシオスの目が輝く。
「もちろんだとも! 責任をもってエスコートしよう!」
拳を握り締める。
「よし! 不埒な輩が言い寄ってこようものなら――」
「言い寄ってこようものなら?」
カテリーナはじっとアレクシオスの瞳を見つめた。
すると、アレクシオスは思わず目を逸らしながら答えた。
「……て、適度に距離を取らせる」
「……今、一瞬危険なことを考えませんでしたか?」
「そ、そんなことはない!」
アレクシオスは慌てて首を振った。
「私はユースティリアさまに仕える神官だぞ。私情で神聖魔法など使うはずがないだろう」
「本当ですか?」
「もちろんだ! 万が一の場合だけだ!」
「万が一でも駄目です! そのようなことくらいで、神聖魔法を使ったりしないでくださいね」
「……う、うむ」
カテリーナは満足そうに頷いた。
「それでは、お兄さま。お願いいたします」
そう言ってアレクシオスに微笑むのだった。
その笑顔に、普段は冷静沈着なアレクシオスも、頬がわずかに赤くなり始めていた。
思わず彼は、心の中で必死に祈り始めるのだった。
――ユースティリアさま。
どうか、どうか、カテリーナに悪い虫が寄り付きませんように!
普段は敬虔な神官のその祈りは、本日ばかりは私的なものとなっていた。
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