87. 心の隙
ブックマークして下さっている皆さん、ありがとうございます。
読んで下さる人がいるのだと思うと、少しやる気が沸いてくるように感じました。
「――!」
魔人はセバスティアノスの視線に気づいた瞬間、足元に倒れていた受験生を掴み上げた。
「くっ、気づいたのか!」
戦闘の中で、彼が雷撃魔法の使い手であることを魔人は見抜いていた。
スピードでは避けきれない雷撃を防ぐため、瀕死の受験生を盾にしたのだ。
「……マズいね。人を盾にされちゃったら、毒のナイフも使えないよ」
ヨアニスも低く呟く。
周囲を一瞥した魔人は、一瞬、嗤ったように見えた。
受験生の身体を掲げたまま、翼をゆっくりと広げる。
逃げる気だ。
――その瞬間。
燃え残る炎の死角から、疾風のような影が跳んできた。
「ぬぅ!?」
魔人が咄嗟に剣を振るう。
だが――それより速く、鋭い剣先が伸びる。
――ブスッ!!
直撃は免れたものの、鋭い突きが魔人の翼を貫ぬいた。
「グォォォオオオオッ!!」
魔人は人質を放り捨て、思わず後方へ跳んだ。
だが追撃の手は止まらなかった。
――シュシュシュシュシュッ!
空気が裂ける音が試合場に伝わっていく。
踏み込み、さらに踏み込んでいく。
魔人が退いた分だけ、その剣士は踏み込んで距離を詰める。
雷光のように瞬く連撃が、剣で防ぎ続ける魔人を徐々に押し込んでいく。
「な、なんだあの速さ……」
それを目撃していた受験生たちは、その人間離れした速度に、呆然と立ち尽くすだけだった。
「おお……あれは!」
膝をついたマギストロスが声を上げた。
「……ルクサリス家の、カテリーナ殿のようですね」
フォロスが答えた。
「む……あの剣。高度な付与魔法がかかっておるっ!」
マギストロスは、剣から伝わる魔力の奔流を感じ取っていた。
「……もしかして、兄であるアレクシオス殿が準備されたものでは?」
フォロスには心当たりがあった。
全身から力がたぎり、スピードや膂力が倍以上になったと体感できた、凄まじいまでの身体強化魔法。
途方もない魔力と強さを持ち、ずっと憧れと、後悔だけが残っているルクサリス家の大聖女さま……。
その大聖女アナスタシアさまの血を濃く受け継いだ、神聖騎士団副団長のアレクシオス・ルクサリス殿。これほどまで強力で高度な付与魔法を扱える人間は、アナスタシアさまの子供である彼しか、思い当たる人物はいなかった。
「そうか、兄が妹のために……」
「ええ。彼は妹想いのようですから」
その言葉どおり、身体強化されたカテリーナの剣は圧倒的だった。
――シュシュシュシュシュッ!
もともと常人離れした突きの速度が、身体強化により、さらに引き上げられていた。
その突きを受け流せる魔人も驚異的だったが、それでも少しずつ、確実にその身体には傷が刻まれていった。
「マ、タ……コノ女、カ……ッ!」
魔人は焦っていた。
毒の影響を受け、大剣の衝撃を喰らい、攻撃魔法によって蓄積されたダメージがあった。
……そして今、突きの嵐。
魔人は追い詰められ、打開するための隙がないか探し続けていた。
――!! イマダッ!
嵐のような連撃の合間に起こった、ほんの瞬きほどの間だった。
「ブファァァーーーッ!!」
魔人の口から炎弾が放たれる。
だが、狙いは――
カテリーナではなかった。
「ぎゃああああああっ!」
倒れていた重傷の受験生へ、再び炎弾が襲いかかった。
「……!」
その悲鳴に、カテリーナの心が揺れ動いてしまった。
突きの速度が、わずかに落ちた。
――バサーッ!!
魔人はこの隙を逃さず、翼を使って大きく後方へ跳躍し、カテリーナから距離を取った。
「しまった……!」
カテリーナは歯を食いしばる。
炎の向こうで、魔人が嗤っていた。
「グフフ……甘イ……!」
剣の隙ではなかった。
それは心の隙だった。
カテリーナの持つ、その優しさ。
それこそが、魔人の狙いだった。
距離を取った魔人は再び翼を広げ、今この場から逃げ去ろうとしていた。
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