第七十一週 未婚指輪がはやってしまった!(日曜日)
昨晩の夢はとてもハッキリしていたから書きつけておくよ……!
半分明せき夢みたいな感じだったかな。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ♢
気づいたらわたしは体操着のまま横たわっていた。
シャツの前面に「し」という文字が大きく浮かび上がっている。
「またこの夢……」
むくりと起きて見回すと、あたりには石造りの建物が並んでいた。
当のわたしは路上の石畳で寝ていたみたい……。
「しまった……今回は体育館じゃないんだ」
「……たまったもんじゃない」
「その声は……」
立って振り向いたら、ウェーブのかかったくせ毛を持つわたしとそっくりの女の子がこちらを見つめていた……!
年齢は小学六年生相当。体操着のシャツには「た」と書かれている。
わたしは少し腰を落として目を合わせた。
「今週のたまったちゃん……略してこんたまちゃん」
「そう言うあなたは紺島みどりの主人格のこんしまちゃん……」
「また会えてうれしい……もしかして第二回人格バトルを仕掛けに来たの……?」
「貯留……ッ!」
驚くひまもなく、こんたまちゃんの半径六メートルが爆発した。
爆風に飲まれたおかげで、お互いの髪がもっとくせっ毛になった……ッ!
「そ、そのスキルは確か……たまりにたまった感情やらなんやらを爆発させる能力……!」
「不安がたまった……こんせまちゃんがなんかたくらんでいるみたいだから」
こんたまちゃんの指差す方向を見ると、大学四年生相当のこんせまちゃんが建物の一つに入っていくところだった。
こんせまちゃんも、わたしのなかに眠るこんしまちゃんシリーズの一人なので、見た目がわたしそっくりだよ……!
扉をノックしたところ、こんせまちゃんはわたしとこんたまちゃんをあっさり建物に入れてくれた。
椅子に座って向き合う……っ!
「……こんせまちゃん、ご機嫌みたいだね」
「分かっちゃうかあ……」
口角を持ち上げるこんせまちゃん。
「わたしはスキル『迫真』で真実に迫ったんだ……」
「前の人格バトルでわたしをボーッとさせた能力だね……」
「そう……自分に対しても発動できるようになったから、試しに使ってみると一つの真実が見えてきた」
こんたまちゃんにも目を向けつつ、言葉を続ける……!
「わたしたち人類は『未婚指輪』を作るべきだと……っ」
よく分からずフリーズするわたしたちにこんせまちゃんの顔面が迫る。
「ご存じのとおり結婚指輪は結婚した人がつけるものだけど……未婚指輪は結婚していない人またはだれともお付き合いしていない人がつけることになるよ」
「需要あるの……?」
「もちろん……たとえばこんなシチュエーションを想定してみよう……」
特定のだれかを恋愛的に好きになったとする。
でも相手に彼氏とか彼女とかがいたら積極的に近づくわけにはいかない。
そこで、フリーの身であるのなら、最初から「だれとも付き合っていない」と明示する道具を装備してもらう。
「……『自分は未婚でーす』『だれとも付き合ってませーん』とアピールするために未婚指輪が必要だと思うわけだよ。結婚指輪の有無だけで見分けるのも限界があるからね……この未婚指輪がはやれば、だれとも付き合っていない人同士がスムーズに結ばれる幸せな世界が到来する……!」
こんせまちゃんがポケットから二つの指輪を取り出した。
一つは黒く、もう一つは紫だ。
「指輪は二種類……黒いほうは『だれとも付き合っていないし、恋愛もしませーん』って意味を持つ。で、紫のほうが『だれとも付き合っていないから恋愛的アプローチどんとこい!』って意味だね……同じ未婚指輪だとしてもスタンスの違いは大切にしなきゃいけないからね」
「考えてるね……」
「いろんな人に未婚指輪を売りさばけば、わたしも億万長者……っ! ちょろ~……」
「……こんせまちゃん」
「ち、違うよー……わたしは未婚指輪でみんなと世界を幸せにしようって心に決めてるから……それだけそれだけっ」
なんかこんせまちゃんが焦っている。
「とにかく未婚指輪の販売準備はすでにできてる……こんたまちゃんもそれでいいかな」
「いちまつの不安……」
こんたまちゃんはこんせまちゃんの提案する未婚指輪に完全には賛同していないみたい。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ♢
未婚指輪が発売されてから、調査としてわたしとこんせまちゃんとこんたまちゃんは町を回る。
わたしのなかに眠るこんしまちゃんシリーズのみんなが登場人物だ。
名前も顔も似ているからややこしいけれど、そこは仕方ない。
みんな、町の住民という役になりきっているようで、お互いにほとんど初対面という感じである……っ!
なかなかはやっているようで、未婚指輪をつけた人々をたくさん見かける。
黒い未婚指輪をつけた中一のこんあまちゃんに、同じ指輪のこんのまちゃんが近づいている。
(こんのまちゃんは今のわたしの見た目に一番近い「今週のまったちゃん」……最近知り合ったこんしまちゃんシリーズだね。ちなみに夢のわたしの見た目は高校一年生くらいでとまってる……)
ともかく、お互い「だれとも付き合っていないし恋愛もしない」ということが黒い未婚指輪から明らか……!
話す前からそれが分かっているから、二人とも安心して友達になれたようだ。
肩を組み、わっはっはと意気投合している。
建物のかげからこっそり様子を見ていたこんせまちゃんが小さく笑う。
「よしよし……黒い未婚指輪は大成功」
ついで町の広場に行くと、大学二年生のこんぬまちゃんと中三のこんそまちゃんがいた。
こっちの二人は紫の未婚指輪をつけている。「恋愛どんとこい!」というメッセージを込めた色だ。
未婚指輪という概念がそもそもなかったら、相手に付き合っている人がいるのか探り合いが始まりそうだけど、そういう過程をすっ飛ばしてこんぬまちゃんの告白をこんそまちゃんが受け入れた。
(わたしの夢のなかでわたしそっくりの人同士が恋愛してるのも変な感じだけど……)
「紫の未婚指輪もよし……と」
こんせまちゃんがほとんど声を立てずにほほえんで経過を見守る。
ここで、こんぬまちゃんとこんそまちゃんが互いにはめていた指輪を抜き合った。
わたしとこんたまちゃんが首をひねっていると、こんせまちゃんが解説してくれた。
「さっきまではだれとも付き合っていなかったから未婚指輪をつけていたけど……結ばれた今は未婚指輪を取らなくちゃいけない」
「しまった……言われてみれば。やっぱりよくできてる……」
「ふふ、売り上げも順調だし……これは本当に億万長者に迫りつつある……! じゃなくて、幸せな世界は目前……」
でもセリフの途中で言葉を切るこんせまちゃん。
目を細めて路地のほうを見つめるこんたまちゃんが気になったみたい。
「どうしたのかな、こんたまちゃん……」
「なんかもめてる……」
こんたまちゃんが路地へと走りだしたので、こんせまちゃんとわたしが追う。
路地では、中二のこんはまちゃんが小三のこんうまちゃんをつかまえていた。
相手の能力の発動を過剰に促すスキル「天網」によってこんうまちゃんの全身を地面にうめ、足を引っ張り上げたようだ。
また、小四のこんとまちゃんがそばでしりもちをついている。
「よかった……ぼう走がとまった」
「なにがあったの……?」
こんせまちゃんが慎重に尋ねた。
こんうまちゃんとこんとまちゃんは互いに紫の未婚指輪をしているけど――。
どうやら警察の役を担当しているこんはまちゃんが説明する。
「それがですね……こんうまちゃんは未婚指輪をしていますが、実はすでにお付き合いしている人がいたんです。こんうまちゃんに告白されたこんとまちゃんがそれを指摘すると……こんうまちゃんが口封じのためにこんとまちゃんをうめようとしました。よって本官はこんうまちゃんをつかまえたのであります……!」
本当になりきっているようで、このややこしい状況をみごとに把握しているみたい……っ!
さらに大学三年生のこんみまちゃんが姿を現し、こんうまちゃんと結婚していること(そういう設定)を明かした。
結婚指輪をしているこんみまちゃんが、こんうまちゃんを引きずっていく。
(未婚の人が恋愛的アプローチをさけるためにあえて結婚指輪をする例はあるかもしれないけど……結婚している人が未婚指輪をしていたら確かに問題になるよね……)
当然、こんうまちゃんの未婚指輪は没収された。
こんはまちゃん警察が去ったあと、こんたまちゃんがこんせまちゃんをじとーっと見つめた。
こんせまちゃんがむむむとうなる。
「これは予想外……未婚指輪を使って未婚を偽装するヤカラが出てくるなんて。評判が落ちたら売り上げも危ない……」
そこでこんせまちゃんは早急に手を打った。
対策手段は二つ……!
※ ※ ※ ※ ※ ※ ♢
こんせまちゃんのお店はおうちのなかにあるんだけど、リニューアルのあと小五のこんつまちゃんがやって来た。
「黒い未婚指輪をください……」
「では……未婚であることを証明してください」
こんせまちゃんがぴしゃりと言った。
未婚指輪の売買の際はお客さんに、結婚していない(この夢のなかでは「だれとも付き合っていない」とも拡大解釈される)証拠を提示してもらう――これが未婚偽装対策の一つ……!
事情を明かすこんつまちゃん。
「友達作りにつまったんです……わたしがだれかとお付き合いしているかもしれないと思われたせいでみんなからきょりをとられてる……この状きょうをなんとかしたいから未婚指輪がほしいんです」
「そんな思いをいだいているならあなたは未婚に違いありません……」
ちょっと緩めの判定で、こんせまちゃんが黒い未婚指輪をこんつまちゃんに手渡した。
わたしはほほえましいと思ったけれど、こんたまちゃんはいろいろため込んでいるようでほっぺたを膨らませている。
ちなみに未婚指輪をいくつ作ったかについては偉い人にきちんと報告しているので、盗まれたりした場合も在庫と照らし合わせてすぐに対応できる仕組み……!
こんつまちゃんが出て行ったあと、わたしたちはこんせまちゃんと一緒に再び町を見て回った。
高三のこんきまちゃんと高二のこんかまちゃんが紫の未婚指輪を互いの指から抜き合っている現場を目撃する。
これからお付き合いすることを示しているわけだけど……それを見た瞬間、こんせまちゃんが二人のあいだに割り込んだ。
「すみません……お付き合いしたからには未婚指輪を回収させてもらいます」
そう、これが未婚偽装対策の第二弾……ッ!
未婚状態が解消された人から未婚指輪を強制的に回収するのだ。これなら悪用を防げる。
「お預かりした未婚指輪は売主のわたしが責任をもって保管します……もし再び未婚状態になったときはお返ししますからご安心を」
本当にだれとも付き合っていない人にだけ未婚指輪をみとめる――このやり方を徹底すればとくに問題なさそうだね。
そのはずだったんだけど……。
数日後、こんはまちゃん警察が二人のこんしまちゃんシリーズをしょっぴいているのをこんたまちゃんとわたしが見かけた。
つかまっているのは、小一のこんだまちゃんと大学一年生のこんなまちゃん。
隣には小二のこんこまちゃんがトテトテとついている。こんこまちゃんはつかまっていないようだ。
わたしはみんなに声をかけて事情を聞く。
すると、こんこまちゃんが答えてくれた。
「こんしまおねえちゃん……きょうわたしはこんだまちゃんに『けっこんしよう』って言われたけれど、じつはこんだまちゃんはこんなまちゃんとけっこんしてたの……こまった」
あくまでそういう設定である。前と同じ事件が再発してしまったようだ。
こんこまちゃんとこんだまちゃんの指には、紫の未婚指輪がはめられている。
一方、こんなまちゃんがつけているのは黒い未婚指輪だ。
こんはまちゃん警察が肩をすくめる。
「このごろ同じような事件が多発しています……しかもこんなまちゃんは未婚を偽装するだけでなく……黒い未婚指輪をつけて『恋愛に興味ないよー』ってフリもしてました。でも実際は恋愛に興味アリアリで、あろうことかわたしにアプローチしてきたんです……『未婚偽装』にとどまらず『恋愛無関心偽装』の罪も上乗せされるため……こんだまちゃんよりも厳しい罰がくだされるでしょう」
「黒い未婚指輪も悪用されちゃったんですか……」
四人が去ってからわたしはこんたまちゃんを見る。
「でもどうして、すでにパートナーのいる人が未婚指輪を持っていたのかな。今はこんせまちゃんが対策をがんばってるから、未婚状態じゃない人が持ってるはずないんだけど……」
「これ以上は……本当にたまったもんじゃない」
こんたまちゃんが駆け出す。
慌ててわたしはついていく。
日が落ちてから路地に入ると、そのすみっこで露店をやっている人がいた。
石畳に敷かれたマットになにかが陳列されている。
わたしは目を見ひらいた。
「しまった……そういうことだったんだ」
マットに並べられていたのは未婚指輪だった。
黒も紫も取りそろえられている……! しかもどれも法外な値段だ。「どんな人にでも売ります! すでにお付き合いしている人にも!」と書かれた看板も立てている。
「あなたが、すでにパートナーのいる人にもこっそり未婚指輪を売りさばいていたんですね……」
露店の人はフードをかぶっていた。
指輪をマットで包んで逃げようとするその人にわたしはだきついた。
フードが外れる。
その正体は――。
わたしたちのよく知る人物、こんせまちゃんだった。
二色の未婚指輪を思い付き、販売し、その悪用対策までしていた張本人が黒幕だったわけだ。
「そんな、こんせまちゃん……」
「く……ここまで真相に迫ってくるなんて」
こんせまちゃんはわたしとこんたまちゃんの二人に抑えられている。
わたしは混乱していた。
「どうしてこんせまちゃんが……。未婚指輪でみんなと世界を幸せにしようって心に決めたんじゃなかったの……?」
「……それは」
ここで足音が聞こえた。
騒ぎを聞きつけたこんはまちゃん警察が路地にやって来たようだ。
観念したみたいにこんせまちゃんが息をつく……!
「これ以上しらばっくれたら罪が重くなるかあ……分かった、話すよ。わたしは結局みんなの幸せよりも自分の欲のほうを優先しちゃったんだ……」
自白した内容を要約すると――。
未婚偽装を対策する名目で未婚指輪を表向き簡単には手に入らないようにしたのは、違法に購入しようとするお客さんに高値で売りつけやすいようにするため。
未婚状態でなくなった人から預かった指輪を露店でこっそり売ってたみたい。
作ったほうを密売したら在庫と照合されたときに一発でバレちゃうから預かり物に手をつけたんだって。
相手が未婚偽装や恋愛無関心偽装をやることが分かっていても……そこにつけ込んで『こっちも危ない橋を渡っている』と説明してさらに値をつり上げたそうだ。
「うう……世界の表と裏から未婚指輪を売りさばいて億万長者になるわたしの夢が……」
しかしこんはまちゃんに連れて行かれそうになったところで、こんせまちゃんが暴れてまた逃げ出した。
こんしまちゃんシリーズの能力使用は一週間に一回と決まっているけれど、すでに夢のなかではそのくらいの時間は経過している。
現時点で、相手をボーッとさせる「迫真」をこんせまちゃんが撃てるということ。そのスキルによってこんはまちゃんを無力化したのだ。
でも、スキルの再使用ができるようになったのはこんせまちゃんだけじゃない……っ!
こんたまちゃんもだ。
そのこんたまちゃんが爆発した。
「またまた貯留……ッ!」
半径七メートル以上を爆風が包み、こんせまちゃんも吹き飛ばした。
かなりたまっていたみたいで、威力も前より増している。
宙に浮いたこんせまちゃんを、わたしはなんとかキャッチした。
スッキリした顔のこんたまちゃんを横目に、こんせまちゃんが乾いた息を漏らす。
「どうやらこんたまちゃんはわたしの悪だくみを直感していたからこそ……こんしまちゃんをこの場所に呼んだみたいだね。たまった不安もすべてはき出したようでなにより……」
わたしを見上げてまばたきする。
「売主のわたしの罪が暴かれた今、黒い未婚指輪も紫の未婚指輪も全回収および販売中止待ったなし……はやりも終わり。……でもこれは本当に未婚指輪が悪かったのかな? 未婚指輪をあつかうわたしの視野と心がせまかっただけかもよ……」
このあと正気に戻ったこんはまちゃんがこんせまちゃんを連行していった。
もちろんこんせまちゃんは今回わたしが見ている夢のなかで悪役を演じているだけ。実際に悪いことをしたわけじゃない。そこはちゃんと押さえておく。
……横に立つスッキリした表情のこんたまちゃんにわたしは聞いてみる。
「再販……できるかな」
「たまになら……」
これもあくまで夢の話だ。
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☆今週のしまったカウント:三回(累計二百九十六回)
次回「第七十二週 修学旅行をサボってしまった!(火・水・木・金曜日)」に続く!(十月二十三日(金)十九時から二十三時五十九分のあいだに更新)
本作「今週のしまったちゃん」をお読みくださりありがとうございます。評価やブクマ、感想等も励みになります!
それにしても、明せき夢も言うほど自由ではないのかもしれませんね~。




