第四十二週 批判されたいと願ってしまった!(水曜日)
週に一度は「しまった」と口にする系女子高生・紺島みどりは「今週のしまったちゃん」略して「こんしまちゃん」と呼ばれている。
高校一年生の 時間も終わり、今は春休みのさなかだ。
※ ※ ♢ ※ ※ ※ ※
水曜日の午後、天気はどんよりした曇天。
黒い上下を着たこんしまちゃんは一人でフラフラ~ッと町をさまよい、屋内公園のなかに入った。
ここで言う屋内公園とは、外ではなく建物の内側にある公園のこと……ッ!
屋根があるので日差しを防げる。
壁もあるので風すらさえぎる。
ブランコやすべり台などの遊具が設置され、地面には灰色の砂が敷き詰められている。
焦げ茶のベンチやテーブルも完備し、しかも空気は適温を保っている。
なお屋根は白いけど四方の壁はすべて透明。
四つの壁それぞれに二つずつ扉が取り付けられたかたちだ……!
こんしまちゃんはそのうちの一つをそっとひらき、静かに閉めた。
そして……こんしまちゃんがきょうこの屋内公園に来た理由は……ッ!
――ない!
強いて言うなら、なんとなくだろうか。
だが偶然にも彼女はこの屋内公園で顔見知りのクラスメイトを発見した。
透きとおるような肌を持った男の子だ。
厚めのパーカーとジーンズを着ている。
彼はテーブル横のベンチに座っていた。
テーブルに置いた灰色のノートパソコンとにらめっこしている。
集中しているみたいだったので、話しかけるかこんしまちゃんは迷った。
しかし透きとおるような肌を持つ彼が右後ろに首を回し、目を向ける……ッ!
「あ、こんしまちゃん。こんにちは」
「こんにちは……水戸目くん……」
ぺこりと頭を下げ、こんしまちゃんはクラスメイトの水戸目永志くんにあいさつを返した。
トテトテと歩き、テーブルを挟んだ対面のベンチに腰かけるこんしまちゃん……っ!
現在、屋内公園では子どもたち数人がキイキイとチェーンをきしませながらブランコをこいでいる。ほかに人はいない。
それを確認し、こんしまちゃんは身を乗り出して小声を出す。
「わたしはなんとなくここに来たけど……もしかして水戸目くんのじゃましちゃったかな……」
「そんなことないよ、こんしまちゃん」
水戸目くんも声を抑えて返した……っ!
「ぼかあ逆に助かった気分だよ。どうも行き詰まってたから」
「……脚本を作成してたのかな?」
こんしまちゃんは知っている……!
最近の水戸目くんが新しく自分の脚本を書いてネットに掲載していることを。
ちなみに、その脚本は文化祭でやったクラウという精霊の話とはいっさい関係ない。
「わたしが力になれることがあれば……水戸目くん……相談に乗るよ……っ!」
「サンキュー、こんしまちゃんっ!」
ブランコで遊んでいる子どもたちのノイズにならない程度の声で二人は言葉を継いでいく。
「でも実は……今のぼくが取り組んでいるのは脚本じゃあないんだよ」
「じゃ、小説のほう……?」
「う~ん。ぼく、まだ小説は書けないんだよねー。前にも言ったかな~、小説だと地の文がどうしてもイメージできなくてね。脚本形式じゃないと無理っていうか」
水戸目くんが目の前のノートパソコンのふちを右手でなぞる……!
「ぼかあ新しい文章投稿サイトを作りたいんだ」
「おもしろいこと考えるね……」
こんしまちゃんはノートパソコンの長方形の背中をじっと見た。
「すでにそういった投稿サイトはいくつもあるけれど……水戸目くんはどうして新しいプラットフォームを求めるのかな……」
「批判されたいから」
右手の動きをとめる水戸目くん……っ!
「今ぼくは重複投稿可能な複数のサイトで自分の脚本を公開しているわけだけどさ、なんか……みんな優しすぎると思って」
あごを上げ、白い天井に目をやる。
「ぼかあネットで作品を公開することはイコールたたかれることかと考えていた。ここの字や文法が間違っている、世界観の設定やキャラの描写に矛盾がある、そもそもおもしろくないしつまらない――そういったことを指摘されるのを期待してた」
水戸目くんのあごの裏側があらわになる。
当然のようにその部位も透きとおるような皮膚を有していた……ッ!
「しっかし……いざ投稿してみれば、だれもそういうことを指摘してくれないんだよね~。まあ考えてみれば……同じ執筆者だったらタダでライバルにアドバイスして塩を送るマネなんてするわけないし、そうでなくても『そもそも指摘する時間がもったいない』『作者に逆恨みされるかもしれない』『だったら適当にほめるか黙るかしかできない』と思ったりしていろいろためらっちゃうわけで」
ここであごを引き、水戸目くんがうつむく。
「……なんか、ここにズレがあるっていうか。ぼかあ、みとめられたいわけじゃなくて批判を受けたいから脚本を公開してるのに。自分で探すだけじゃ限界があるし、アラがあったらどんどん言ってほしい」
はき出すように気持ちを吐露する。
「そうやって改善していきたいのに……」
「ちょっと気になるんだけど……」
こんしまちゃんは両ひじをテーブルに載せ、左手の甲に右手の平を置いた。
「水戸目くん自身は……ほかの作品を批判したことある……? 心のなかでじゃなくて……それを作者さんに直接伝えたことは……?」
「……ないよ」
肩をすくめ、目を上げる水戸目くん。
「やっぱりぼくも怖いから」
「傷つけるのが……怖いんだね……」
「というより今どき不用意にだれかの悪口をネットに書き込んだら、身元を特定されてお金まで要求されるわけだし。しかも自分は誹謗中傷のつもりじゃなくても相手にそう思われた時点で誹謗中傷は成立する。これを考えると作品の批判をすることだってリスクが高すぎるんだよ~」
両手でパソコンの上部をやや手前に引く。
「あ……言ってて気づいたけど、そういう自分を棚に上げて『どうして批判してくれないんだ』ってほかの人に一方的に文句を言うぼく自身も間違ってる……こういう態度はみとめられない……反省しないといけないね」
「えらい……ともかく、みんなと水戸目くんとの認識のズレをなんとかできればいいね」
ひじを支点にして、重ねた両手をゆらすこんしまちゃん……っ!
「たぶんだけど見る側としては……『この作者さんは批判を喜んで受け入れてくれる人かそうでないか』を考える……でも実際はそれを見分ける方法が分からないし、もし相手が批判を望まない人だった場合は傷つけてしまうおそれがある……だから結局批判しないほうがベターになる……」
ここで、右手の平で左手の甲をたたく……!
「そうだ……プロフィールに『自分の作品は批判していいよ~』って書くのは……?」
「一応それも考えたけど、二つ問題がある」
いったん水戸目くんは、ノートパソコンをぱたりと閉じた。
「まず『批判していい』って宣言はかえって警戒されるということ。ほかの人視点だとそのプロフィールを見ても『あ、じゃあ批判しよ~っ』って話にはならないし」
「まあ……言われてみればそうだね……」
「その文言は逆に『この作品が批判を受けるはずがない! できるものならしてみろ!』という自信のあらわれかもしれない。または『そう言うヤツに限っていざ批判されたら逆ギレするんだよな~』ってだれかに思われるかもしれない。もしくは『批判される前提のクオリティでこいつは作品を出しているのかな? なめてんの?』『あえてそういうことを言って「自分はほかのヤツらとは違うんだ」みたいにアピールしてんの?』『事前に「批判していい」と前置きしておくことで自分の受けるすべての評価が正直なものであると勘違いして、いい気になろうとしているんだ』『そもそも人をタダで校正作業に付き合わせようとしているの?』『突然傷つくのが嫌だから最初から自分のことを精神的に刺しているだけ』とか思われる可能性もあるよねー。そりゃぼくとしては、そういうつもりは……いや、実は心のなかはそういう打算まみれなんだろうか」
実際にそうなのかは定かでないが……ともあれ水戸目くんは続ける……っ!
「で、プロフィールに『批判していい』と書くのをぼくがためらう二つ目の理由は――投稿サイトの利用規約に反するんじゃないかと恐れているから」
傾聴しているこんしまちゃんのウェーブのかかったくせ毛を見つめる。
「どの投稿サイトでも、現実の人を傷つける書き込みはフィクションであってもノンフィクションであっても絶対にやってはいけないと規約にあってさ。だからこそ作品に批判も送りにくい」
「それで秩序が維持されているんだね……」
「うん。正しいし、必要なことさ。ただし作者が自分の作品への批判を容認した場合、それは『現実の人を傷つける書き込みを奨励している』と見なされるかもしれない。作者は言うだろうね、『それは自分の作品に限ったことだ。けっしてだれかれ構わず批判していいという意味じゃない』って。でもそんな作者の考えなんて知ったことじゃないわけで。一人の作者を批判していいという雰囲気が醸成されれば、その流れがほかの作者にまで広がって迷惑をかけるかもしれない。結果的に人を傷つける可能性があるなら投稿サイトの利用規約的に望ましくないんじゃないかとぼかあ考えてる」
言いきって、水戸目くんがごくりとつばを飲む……ッ!
「だから既存の投稿サイトだと……批判を受けるのは不可能ってことになる。これがもどかしい」
「……だから水戸目くんは新しい文章投稿サイトを立ち上げたいんだね……」
やわらかく、こんしまちゃんがつぶやいた。
水戸目くんはまぶたを半分ほど下ろし、見返す。
「そうだよ、もっと堂々と作品を批判できる投稿サイトがほしいんだ。ぼく以外にも需要あると思うんだけどなー。こんしまちゃんは、間違っていると思う?」
「分かんない……」
両ひじをテーブルに置いたまま、左右の指をからませるこんしまちゃん……っ!
「ただ少なくとも……既存の文章投稿サイトの在り方はなにも間違っていないと思うし……水戸目くんの望む投稿サイトが世間に受け入れられたとしても……それはみんなが安心して投稿・閲覧できるプラットフォームがすでに存在するからじゃない……? わたし、あんまり詳しくないから見当違いのこと言ってるかもだけど……」
「ありがとう、こんしまちゃん。はっきり言ってくれて」
閉じたノートパソコンの上下のあいだにある溝を、水戸目くんの右中指が前後にすべる……ッ!
「で、最初にぼくが言った『行き詰まってた』というのは……堂々と作品を批判できる文章投稿サイトを作るとして、具体的にどんなサイトにしたいかっていうイメージがまだふわふわしているという意味なんだよ~」
「現時点ではどこまで構想してるの……?」
屋内公園の透明な壁の向こうを歩く通行人に視線をやって、こんしまちゃんが問うた。
水戸目くんは右手でノートパソコンをパカリとあけ、画面を見つめる。
「こんな感じかな」
画面は白い。文書作成ソフトを横書きの状態でひらいているようだ。
そこに箇条書きで、水戸目くんの考えが並べられている……っ!
以下はそれを引用したものだ……ッ!
〈堂々と作品を批判し合える文章投稿サイトのイメージ〉
・読者も投稿者もサイト管理者も「批判し合っていい」という前提を了解した上で当該サイトを利用する。
・批判だけでなく、褒め合ったりしてもいい。
・あくまで批判は法律的・倫理的に許される範囲に限り、このラインを超えた場合は警告・アカウント凍結・閲覧制限などの措置を講ずる。
・批判をサイト全体で推進するために、高評価や閲覧数に基づく通常のランキングに加えて低評価や批判意見の数を参照した「クリティサイズ・ランキング」を設ける。
・終わらないケンカに発展してしまわないよう批判への批判は控える。
――引用は以上……ッ!
こんしまちゃんは全部に目を通し、ほほえんだ。
「けっこう……いいんじゃないかな……」
ついでちょっと沈黙し、また口をひらく。
「作品に書き込まれた批判は……みんなが閲覧できる感じ……?」
「公開するかどうか作者側が設定できるのがベストかな」
ノートパソコンの頭のカドに両手を添え、水戸目くんが小さくうなる……!
「うーん。あとは批判対象を明確化することも必要だろうね」
「対象……?」
「ぼくのイメージしたこの文章投稿サイトでは投稿作品への自由な批判が許される。でもそれはあくまで、このサイト内でのみ適用されることなんだ。ほかの場所で批判しようとする場合はそれぞれの場のルールに従わないといけない。また、好きに批判していいのは対象の作品だけ。関係ない作品の批判はご法度かな~」
「いい明確化だね……じゃないとしっちゃかめっちゃかになるもんね……」
ついでこんしまちゃんは両腕をひらき、左右の手の平をひざに置いた。
「ところで水戸目くん……クリティサイズ・ランキングなんだけど……」
視線でゆっくりと、パソコン画面の文字列を追う……っ!
「低評価や批判意見を参照するこのランキングがあると、上位に食い込むためにわざと文章内で誤字とかのミスを連発して……批判意見を稼ごうとする投稿者も出てくるんじゃ……? その場合、サイト内の作品のクオリティが担保されないリスクがあると思う……」
「あ~ね。といっても毎回のようにわざとミスを大量に含ませていたら『これがこの作品のデフォ』って思われて結局のところ批判されなくなるんじゃない?」
水戸目くんも、こんしまちゃんに向けた画面を左からのぞき込む。
「通常のランキングは集計期間における『閲覧数』かける『評価の値の平均』で決定する。評価は三段階。ログインしている人が作品のエピソードごとに評価することができる。だれが評価したかは特定されない。星が一個だと評価の数値は○・五、二個だと評価値は一、三個なら評価値は一・五。たとえば閲覧数一万で評価平均が一・二五なら一万かける一・二五で一万二千五百ポイントになる。でも評価数が十に満たない場合は評価平均は公開されず、その値を一として計算する……でないとたまたま最初に星一個の評価をつけられた人が不利になっちゃうからね」
パソコン画面を再び自分のほうに戻し、キーボードを操作する。
「クリティサイズ・ランキングのほうは集計期間における『批判意見の数』と『星二個をつけられた回数かける二』と『星一個をつけられた回数かける三』の合計を参照する。有効な批判意見および低評価の数は集計期間において一人につきそれぞれ一回まで。同一作品の異なるエピソードに同じ人が星二と星一をつけた場合は星一として処理する」
水戸目くんはなめらかにキーボードをあつかい、ほとんど音を出していない……ッ!
「閲覧数とは直接的には関係ないから、このクリティサイズ・ランキングはサイトにログインしている人が中心になって作成するランキングと言えそうだね。批判意見の数が十、星二個の数が二十、星一個の数が十五だったら、十たす二十かける二たす十五かける三でクリティサイズ・ポイントは……九十五。なお特定の作品が通常のランキングとクリティサイズ・ランキングとの両方に載りそうになったときは通常のランキングのほうが優先され、クリティサイズ・ランキングからは除外される……こんな感じかな」
「おお……っ、具体的だね……」
ひざに手を置いたまま、テーブルの上で前のめりになるこんしまちゃん……っ!
照れながら、水戸目くんが言う。
「もちろんいろいろガバガバなんだろうけどさ、まずは具体化しないと批判を受けることもできないからね~」
「ただ……これはほかの文章投稿サイトにも言えることなんだろうけど……」
こんしまちゃんのあごと、ウェーブのかかったくせ毛が焦げ茶のテーブルをなぜる……!
「……『みんなからの批判を堂々と受けることができるプラットフォームができたー! わーい!』って思ってそのサイトに投稿しても……閲覧数が低かったら批判意見も書き込まれず評価もされず……通常のランキングどころかクリティサイズ・ランキングにも載れないわけだよね……ランキングに載れた人はそこから新規の人が流入して好循環に入れるけど……載れなかった人はランキングからの流入もないから……ますます閲覧数が減って『あ~……批判すらされない……期待外れ……』と思って萎えちゃって……サイトから去るんじゃないかな……そうなれば利用者が減って結局はランキング上位作品の閲覧数と評価も低減……投稿サイト自体が衰退していくことになりそう……」
「……確かに。ぼかあ気づいてなかったよ」
キーボードから手を離し、水戸目くんが目を閉じる。
「となるとランキング以外からも利用者が作品にアプローチできるようにする必要があるね。閲覧数・批判意見・評価の数がゼロに近い作品をランダムにピックアップしてトップページに表示したらいいんじゃないかなあ。あとはログインしている場合、批判意見の書き込み・評価・閲覧によってポイントがたまり、それを消費すれば有料作品のエピソードを読むことができる! ってシステムにするのもよさそう。まあもちろん一日に獲得できるポイントは制限されるべきだけどねー。で、閲覧数が百未満、批判意見が十未満、評価の数が五十未満の作品を閲覧・批判・評価した場合は別枠でちょっと多めにポイントが付与されるって感じにしたら……」
「批判される機会が増えて……そのサイトを利用する意味も出てくるね……っ」
両手に作ったこぶしを、こんしまちゃんがテーブルの上に出す……ッ!
「堂々と作品を批判できる文章投稿サイトの構想がかなり具体的になってきたね……でも一番の課題は」
すう~っと息を吸い、水戸目くんの透きとおるような顔面を見つめる……っ!
「どこまでが批判でどこまでがダメなのか……基準を明確にすることかな……」
「そだよね~。『それぞれの裁量に任せる』って丸投げしたら恣意的な判断が横行するし」
水戸目くんはまたパソコンをぱたっと閉じ、眉根を寄せた。
ここでこんしまちゃんは、こぶしをほどいて乾いた拍手を鳴らした……っ!
「じゃ……わたしが具体的な批判意見の事例を挙げるから……水戸目くんはオーケーかアウトか答えてみて……あくまで水戸目くんが構想している投稿サイト内でのことだよ……」
穏やかで落ち着く声と共に、手をぺちぺちさせる……!
「最初の例……『この作品には一個だけ誤字があります。たぶん』……」
「……アウトじゃないの?」
目をぱちくりさせ、水戸目くんが答える。
「具体的に『この部分が間違っている』ならオーケーだけど、『たぶん』で指摘されたら意味が分からないし。とはいえバンされるほどのことでもない気がする」
「ふむふむ……なら次の例……」
ぺちぺちをやめ、こんしまちゃんは両手の甲を自分のほおに押し当てた。
「……『これAIに書かせたんですか?』……」
「アウト。もし作者がAIを使用していなかったら名誉棄損になりかねない」
「じゃ『つまんな』の四文字……ほかに、どこがつまらなかったかは書かれていない……」
「ぼくはいいと思う。作者に対して懇切丁寧に説明してあげる義務はないからね。……あ、それだったら誤字へのあいまいな指摘も本当は許容すべきなのかも……」
「作者への嫌がらせの可能性もあるかもよ……?」
「別にいいんじゃない? 一の嫌がらせを気にしていたら、ほかの有益な十の批判も受けられなくなる」
水戸目くんがまたまたノートパソコンをあけ、キーボードをたたく……っ!
こんしまちゃんはそれをじーっと見ながら批判意見の事例を続ける。
「四つ目の例……『七十二時間以内に修正しないと住所と本名バラします』……」
「もうアウトを超えて通報案件じゃ?」
「どんどんいくよ……『これって○○のパクリですよね?』……」
「まあ類似の指摘であって過度な難癖じゃないならオーケー」
「……『作者さん疲れてるの?』……」
「あおりっぽくもあるけど本気で心配されているパターンもあるからたぶんオーケー」
まあこんな感じで問答をくりかえし、批判意見の基準ができあがっていった。
水戸目くんが新たに箇条書きをしてそれをパソコン画面にまとめてくれた。
〈想定している文章投稿サイトでみとめられる批判〉
・誤字、脱字、衍字、文法および言葉の誤用の指摘。(衍字とは文章にまぎれ込んだ不要な字のこと。たとえば「おはようございまうす」の場合は二番目の「う」が衍字となる)
・表記揺れの指摘。(たとえば一つのエピソードのなかに「レモン」「れもん」「檸檬」「lemon」という表記がそれぞれ出てきている場合などにこの指摘は成立する)
・同一作品のテクスト間における矛盾の指摘。(たとえば以前に説明された世界観やキャラ設定、出来事、時間や場所との不一致。魔法がない世界なのに急に魔法を使いだしたり赤髪設定のキャラのビジュアルが「黒髪」と表記されていたり「ケガで右手を動かせない」とされたキャラが右手で箸を持ったり時間や場所が説明なしに飛んだりした場合にこの指摘は成立する)
・科学的・歴史的な事実に反する文言の指摘。(たとえば「月の重力は地球の五億倍」とか「明智光秀を討ったのは今川義元」とかそういう文言が確認された場合にこの指摘は成立する。直接的な言及がなくても科学的・歴史的におかしい描写が挿入されることも。ただしわざと事実とは反することを書き、ぶっとんだ世界観やキャラ設定の描写とするパターンもある)
・強引または不快な展開や設定の指摘。(たとえば伏線なしに主人公がいきなり超人になって窮地を脱したり作者が雑に人気キャラを退場させたり切羽詰まった場面なのにキャラ同士がダラダラ会話を始めたりした場合にこの指摘は成立する)
・描写、説明不足の指摘。(たとえば感動シーンを用意してもキャラの掘り下げが足りなくていまいち感動できなかったり場面が飛び飛びでなにが起こっているのか意味が分からなかったり主人公の目的が不明確だったりする場合にこの指摘は成立する)
・伏線未回収の指摘。(たとえばメインキャラのその後がほったらかしにされたり作中で重要だったはずのアイテムが出てこないまま最終回を迎えたり「あのときぼくらは知るよしもなかった。のちにあんな大きな事件が起こるなんて……」という意味深なセリフがあったにも関わらず結局事件が起こらなかったりした場合にこの指摘は成立する)
・作品のクオリティを上げるためのミス以外の指摘。(たとえば展開自体に問題はなくても話のテンポおよび世界観やキャラ設定の開示が早すぎたり遅すぎたりする場合に指摘が可能。キャラの魅力を引き出すためにこういった特徴もあったほうがいい、世界観の設定にダークな部分も盛り込んだほうがいい、ひらがなやカタカナ、漢字の頻度、語彙のレベルや描写の程度、セリフと地の文の割合および配置の仕方、一章の分量、一つの段落の文字数と行数と文の数、一つの文の長さと読点の数、言葉の順序、数字の表記を調整したほうがいいなどの指摘も考えられる)
・ほかの作品や現実の出来事との類似点、相違点の指摘。(たとえば別作品や実際の事件などを連想させる場合にこの指摘が成立する。同一作者の別作品が挙げられることもある)
・ネット上の投稿形式に関する指摘。(たとえば一つのエピソードの文字数および場面転換の回数、更新頻度、投稿時間、どの程度空行を作るか、段落の最初やクエスチョンマーク(?)とエクスクラメーションマーク(!)の直後に空白を設けるか、どの言葉にどのくらいルビを振るか、三点リーダー(…)やダッシュ(―)は二つ並べるか、冒頭で前回までの話を振り返るときどの程度詳細に記載すべきか、各エピソードのなかでいつも起承転結を明確にすべきか、エピソードの最後はどのような切り方であるべきかなどの項目が気になった場合にこの指摘をおこなえる)
・法律または倫理に反する事項の指摘。(たとえば閲覧する読者にとって望ましくない過度な暴力描写、著作権侵害、他人の情報の勝手な開示、現実に存在する個人や団体へのヘイトや中傷や誤解を引き起こしうる文章、規約から逸脱するレベルの宣伝行為、読者への脅迫等がみとめられた場合にこの指摘が成立する。なお、この指摘に関してはクリティサイズ・ポイントとして加算されない)
♢最後以外は、作者がなんらかの意図をもってそれをおこなっている可能性があるので批判を受けたときに修正するかは個々の判断となる。
♢批判する場合は具体的にどの部分を指摘しているのか明確にすること。たとえば「○○○○○から始まる段落に誤字がある」とか「主人公がライバルと戦うシーンの冒頭に描写ミスがある」とか指摘するといい。
♢ぼく自身の考える新しい投稿サイトにおいて批判は奨励されるものの、それは作者や個人に対する攻撃にならないし、それを攻撃のきっかけにしてもいけない。
〈想定している文章投稿サイトでみとめられない批判〉
・作者を始めとする現実の人格や団体への攻撃・邪推・脅迫等を含む批判。(たとえば個人情報をバラしたりAIで書いていると根拠もなくくりかえしたり書くのをやめないと○○するぞと書き込んだりした場合はアウトになる)
以上……ッ!
なんとか水戸目くんの想定する文章投稿サイトにおける批判意見の基準ができあがった。
屋内公園のなか、焦げ茶のテーブルを挟んでベンチに座るこんしまちゃんに水戸目くんがお礼を述べる。
「行き詰まっていたのに、だいぶまとまったね。これならぼくもみんなも安心して作品を批判し合うことができそう! まだまだガバガバだけど、あらためてサンキュ、こんしまちゃん! このあと、なんかおごるよ~」
「どういたしまして……だけど批判意見の基準も、みんなが批判を受ける方法も、ランキングの在り方も……そういったことについて、ちゃんと具体案を出していたのは水戸目くん自身だよ……」
ウェーブのかかったくせ毛を両手でいじり、こんしまちゃんが微笑する。
「だけど……その投稿サイトの名前はどうするの……?」
「名前?」
水戸目くんはノートパソコンの電源を切って、透きとおるような顔で笑い返す。
「こんしまちゃんは、なにがいいと思う?」
「批判するのが前提だから……クリティサイズ・キングダム……っ!」
「いや、それはさすがに……」
「しまった、ダサかったね……」
ふふっとこんしまちゃんは声を漏らした。
それから二人は公園を囲む透明な壁と白い天井を見つつ立ち上がる。
思ったよりも時間は経っていなかったようで、まだブランコでは子どもたち数人がチェーンをきしませながら遊んでいる。
※ ※ ♢ ※ ※ ※ ※
☆今週のしまったカウント:一回(累計百七十八回)
次回「第四十三週 さまよってしまった!(土・日曜日)」に続く!(四月三日(金)午後七時ごろ更新)
いつもお読みいただきありがとうございます。今年度の六月から始めた本作ですが、一週も休まずに投稿できました。これもひとえに読者の皆様のおかげです。来年度もがんばります!
それにしても外だけでなく地下や屋内にある公園もいいですよね~。




