第3話 魔王確定
終わった。
ようやく最近、アルマと図書館で勉強できるようになって、「誤解もまあ、悪くないかもな……」なんて思った。思っちまった。そう、あの瞬間の俺を全力で殴りたい。ド直球で。
今、俺は学院広場の片隅で腕を組んでいる。
壇上では、生徒会長セリーヌがキラキラしながら喋っていた。
「今年の魔法劇のテーマは、『魔王降臨の儀式』です!」
は?
「魔法劇は、学院の伝統行事のひとつ! 一年生が半年で学んだ魔法とその応用力、表現力、戦術構築力を、劇の形で上級生に示す“実技の集大成”です!」
熱く語るセリーヌと、大歓声の一年生たち。
待て待て、なんだそのテーマ!?
降臨? 魔王? 儀式!?
俺に喧嘩売ってんのか!?
「なお、配役はすべて、魔導抽選によってランダムで決定します!」
嫌な予感しかしない。
セリーヌが魔導カードを掲げ、淡々と読み上げていく。
「『封印を守る聖女』役は……アルルマーニュ・デュフォンマルさん!」
うん、まぁ、そうだろうな。
知性も気品も完璧なアルマに、聖女とか似合いすぎる。
なんかもう、立ってるだけで後光射してるし。
なのに次の瞬間。
「『魔王』役は……アレクシス・ナイトロードさん!」
……………………。
おい。
「ちょっ待て!! なんで俺なんだよ!!?」
叫んでも、誰も驚かない。
むしろ納得してやがる。
「やっぱり……!」
「これは運命か……」
「選ばれし器……」
いやいやいや、抽選だろ!?!?
ランダムって言ったじゃん!!!
俺、朝から何も悪いことしてねぇぞ!!?
そのとき、空気が一段階ざわついた。
「おやおや……これは、実に……興味深い!」
ヴィクトル教授、登場。
白衣は焦げてるし、瞳孔は開いてるし、
なのにテンションだけは爆上がり。
「魔法劇で封印の揺らぎを観測できるとは……! 」
「絶対に観測なんかさせねぇよ!!」
「論文三本は書けるぞ…!! あぁ、震える……!」
「震えるな!!! 何が始まるんだよ!!!!」
生徒たちも盛り上がってくる。
「演劇中に覚醒したら伝説じゃない?」
「むしろ“演出”にしか見えないから安全なのでは!?」
「まさか、封印を“劇中で”解くなんて……!」
誰か止めろォォォォ!!!!
俺は最後の希望を握りしめ、セリーヌに詰め寄った。
「なぁ……俺、降板していいよな……?」
セリーヌは一切の迷いなく、
「ダメです。」
崩れない生徒会長スマイル。
俺の未来、魔王確定。
演じるのは、世界の敵。
封印されるのは、俺。
その封印を施すのが――アルマ。
最悪だ。いや最強か?
いやどっちでもいいからやめろ。
そのとき、ふと横目で見えた。
リハーサル席で魔導ノートを見つめるアルマ。
無表情だけど、ほんの少しだけ、笑ってた。
……なんで、そんな顔で微笑むんだよ。
俺の妄想が走る。
劇のラスト、封印される“魔王”と、“聖女”が向かい合って――
「もう一度やり直しましょう」とか、「あなたを信じてる」とか、
そんなセリフを――
……あれ、なんか悪くないかも。
誤解されるのはもう慣れてるし、
だったらせめて、
誤解されたまま、アルマと演じられるなら――
「いや! でもやっぱ誰か脚本書き換えてくれぇぇぇぇぇ!!!!!」
俺の叫びは、学院の秋空に見事なまでに吸い込まれていった――。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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