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変な星でツッコミ生活!?  作者: 神離人
本編:???days特星解明クライマックスストーリー編(part01)
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十七話-006日目 血と刀の収集家 ~帝国乱闘バトル<リアガリ編>

@リアガリ視点@


まだ調子が悪い。緑の男の持つ名刀を追ってこの世界に入ってから、明らかに血の渇望が抑えられている。瘴気に満ちた世界に入ったこともあるが、この世界はずっと酷い。


先ほどまで頭の中に直接響いていた声は、緑の男が名刀を投げてからは聞こえなくなった。その声も妙だ。狐女が遠くで直接話している声はかろうじて聞こえたが、私は理解できた。だが、頭の中に響いた声は同じ発音にも関わらず、私に理解できない言葉だった。


なぜ、わざわざ理解できない声を私に届けた?血が足りないのか?全くだ、わかるぞ。


[きいいぃん!]


風神刀・風仰ぎで、こちらから気が逸れていたドラゴンへ最速の一撃を叩きこむ。しかし我が名刀が奴の皮膚を割くことはなく、重量感のある爪で防がれてしまう。


並ではない反応速度だ。血が不足している状態で対峙していい相手ではないな。それに例え皮膚を捉えていても出血には期待できない。


少し前の戦いで、暗い衣服の少年との戦いで一太刀浴びせたが、奴は出血しなかった。この世界では出血どころか傷を負うことすらないのだろう。飢えに容赦のない世界だ。余計な交戦はせずに、さっさと名刀を回収しておさらばするのが賢い選択か。


飢えたら切る私の手癖が、それを許してはくれないが。


「あんた人間にしてはやるわね。見た感じ戦闘に全く集中できていないのに、あたいと腕力で張り合えるなんて。誇っていいわよ!」


[どかああぁっ!]


「ぐぅっ!?」


奴の爪が風仰ぎを払い除けた瞬間、胴体に凄まじい衝撃が伝わる。ドラゴンの尾の側面が私の胴体に深々とめり込んでいた。景色は急加速し、私とドラゴンの距離が遠ざかっていく。


[ずざざざざぁっ]


私は何とか地面に風仰ぎを突き立て、転倒寸前で踏みとどまる。だがダメージはとてつもなく大きい。私は立っていられず、風仰ぎに身を任せるように膝をついた。


金槌、いや鉄球を受けた時の感覚に近い。胴体の内部がぐちゃぐちゃになる感覚こそないものの、呼吸、めまい、痛み、意識の乱れで立つこともままならない。これで出血もしないのだから、反撃の糸口をつかむこともできない。


「皿々ちゃん!レッドガードと名乗ってた狐が雷之 悟と対峙しています!さっきから感じる物凄いエネルギーは奴の持つカードから出ているみたい!きっと封印解除のカードに違いありません!」


「ぱっ狐か。洗脳か憑依かされてるとして。あいつの知識とテレポート能力ならとっくに裏ステージ経由で脱出できるはず。でも逃げてないってことは。ふっ。レッドガードはぱっ狐の記憶を完全掌握することができないみたいね!呪術にエネルギーを割く余裕がないと見た!テレポートに不慣れなうちにカタを付けてやる!」


[どぉっ!]


ドラゴンは何かを話しながら空へと飛び去ってしまう。見逃された?それとも私など眼中にないとでもいうのか。


〔何をしているノロマめ。動物1匹狩れないとはあまりに不甲斐ない。我らに体のコントロールを渡せば一瞬で勝負はついただろうに〕


〔血はまだか。血がなければ貴様の体は妖力に蝕まれていくぞ〕


〔誰にも気づかれずに首をはねろ。そして犯人当てゲームを開催するのだ。集団戦最強の私に負けはない。犯人役で勝てねば血の妖刀を名乗る資格なし〕


〔黙らっしゃい!才能とデスゲームしか能のないシリアルキラーめ〕


くっ。妖刀の怨念共が騒がしい!今のダメージで思考に表出したのか!


……いや落ち着け私。こいつらは本能の赴くままに私の精神を追い詰め、体の主導権を乗っ取る。知性も理性も一切持ち合わせず、怨みと憎しみだけで私の心を蝕み続ける、飢えたケダモノ共だ。言葉に耳を貸しては怨念共の思う壺だ。


血だ。怨念共を黙らせるには、血を与えるしかない。


「ビル付近でドラゴンの傍にいる男。奴から名刀の気配がする。あの男を血祭りにすることで妖刀の血の飢えを満たすとしよう」


「待ちな。あんたには俺の相手をしてもらうぜ」


私の前に立ちふさがったのは建物で戦った少年だった。この世界に来て緑の男を見失った後、もう一つの名刀の気配を確認するために入った建物の中で、血の補給のために私は二足歩行のネコに切りかかった。そのときに邪魔してきたのがこの少年だったな。


「建物の中で戦った少年だな。どけ。貴様に邪魔される筋合いはない」


「名乗り遅れたが俺はクレー。あんたに伝言だ。あっちの東武って人があんたに用があるってよ。でもあの人は悪の組織に長時間拘束されていて休憩時間が必要だそうだ。で、その間にあんたから妖刀の怨霊を追い出せって依頼されたのさ」


「向こうから私に用だと?名刀の所有者が一体なぜ……」


名刀の気配を発している謎の男、東武。私が追っているはずの男が、なぜか向こうから呼び出してきた。これは一体どういうことだ?まさか、私に名刀を譲渡してくれるのだろうか。


〔戯けたことを抜かすな。貴様のようなぐずにそんな都合の良い話などあるものか。大方、一目惚れかデートへ誘おうとする魂胆だろう〕


〔オスを信じるな。妖刀と怨念こそが貴様の血の伴侶なのだ〕


〔男が女を呼び出してやることなど1つしかない。恋心の赴くままにデスゲームに興じるのだろう。初夜・デスゲームを超えられなければ、血の妖刀使いの資格なし〕


〔黙らっしゃい!我らの命を狙うクレーこそ妖刀使いの夫に相応しい。彼は私が頂く。今ここで初夜・デスゲームを始めるがいい〕


妖刀共の意志が私の思考に流れ込んでくる。ま、まずい。奴のデスゲーム思考の影響が他の怨念にまで広がり始めている。このままではいずれ、この世界の住人も精神汚染されてしまう。


奴の影響が世界全体に波及したとき、辿る結末は1つ。純粋な殺し合いは消え失せる。代わりに延々と行われるのが、犯人探しと犯人候補の排除だ。私の渡航した世界の約半数が同じ末路を辿り、それらの世界は例外なく滅んだ。


〔手遅れだ。この世界に入ったときから妖刀の力を行使し続けていた。そう、とっくの前に一部の生態系には影響が出始めているんだ。やがて万物がデスゲームに参加する。だが安心しろ。集団戦最強の私が、今回もデスゲームを生き残るサポートをしてみせるさ〕


くっ、貴様の思い通りにさせるものか!私の手でデスゲームの悲劇は断ち切る!この世界の住人の命を貴様に握らせはしない!次こそは私が、全ての住人の血と命を刈り取ってみせる!


「クレーだったか。お前の血と命は頂く!」


「アタックバリア!」


私は風神刀・風仰ぎをクレーの体へと突き立てる。しかし、刃はクレーに達するよりも前に半透明の膜によって停止させられてしまう。あのときのバリアか。


この膜のバリア、建物内でも私の攻撃を止めた厄介な技だ。だが奴は建物でもう一つ、魔法を防ぐと言ってマジックバリアとやらで妖刀の力を打ち消した。使い分けを考えるに、アタックとマジックのバリアでは対応する攻撃が異なるということか。ならば!


「風切嵐!」


[ずばばばばばぁっ!]


「ぐううぅっ!」


私は風神刀・風仰ぎに妖力を分け与えて、刃を突き立てたまま妖刀の力を解放する。剣先から出現した風の刃は、クレーを囲うように奴の体中を切り刻んでいく。


はずだったが、クレーの体からは血の一滴も流れることはない。その苦しげな様子からダメージが入っていることは間違いない。だが血を流すような状態なのに流血一つしない。


まだ私はこの世界の物理法則に慣れていない。特にこの出血やケガをしない力は厄介だ。持続可能な戦いを心掛けなければ、先に私の方がエネルギー枯渇で参ってしまう。妖刀共による乗っ取りを避けるためにも、力を温存しなければ。


「いてて。物理攻撃と魔法攻撃の混合か。厄介だな!ブリザードキューブ!」


「ふん」


[きぃん!きぃん!]


奴の発射した氷のブロックを刀で弾きながら距離を取る。


私が警戒すべきは魔法をかき消すというマジックバリアだ。もしも私自身が触れてしまうと、恐らく妖刀の怨念共もまとめて消えてしまう。それは私が望むべき未来。だが、私が最も避けたい未来でもある。マジックバリアをこの身に受けるわけにはいかない!


「あんたのことは特星本部の資料で見たことあるぜ。異次元空間や他の異世界で人を殺し回っているんだって?一体どうしてそんな真似をしているんだ?やっぱり妖刀とやらの仕業なのか?」


「答える筋合いはない。と普段なら答えるところだが。人を殺せないこの世界でなら自己紹介をしておくこともやぶさかではないか。私はリアガリ。人を殺す理由は幾つも抱えているが、あえて一番を挙げるとすれば、人間に対する復讐だ。少年、貴様は復讐を誓ったことはあるか?」


「復讐か。復讐は俺の代名詞さ。俺は過去に思い人にフラれてしまった。その復讐心で10年だ。闇の世界での修行に費やしたのさ。俺ほど復讐に時間を費やせる学生はそうはいないぜ」


「ふっ。温い復讐心だ」


「なっ!?10年の復讐心だぞ!どこが温いんだ!」


〔冷徹な戯け者にはわからぬのだ。10年の復讐心の重みがな〕


〔闇の世界。なんと甘美な響きか。闇に10年身を置くとは見事だクレー〕


〔…………黙らっしゃい!クレーに恋敵がいないならこの機に手籠めに、って。我が十八番の黙らっしゃい語録を避けただとぉ!?おのれシリアルキラー!〕


〔会話はデスゲームだ。同じ手が続けば対策もされる。闇の世界での修行もデスゲームだ。怨霊共が彼に好意を寄せる理由は1つしかない。デスゲーム勝者の貫禄さ。クレーは好かれるべくして好かれている。私と同じく好かれている。彼を殺して怨霊共の反応を見るのもありか〕


〔〔〔死ね!シリアルキラーめ!〕〕〕


「……シリアルキラーめ」


「え?」


「私が人間を憎む理由を教えてやる。私には血討獣という素晴らしい愛刀、いや身も心も捧げるべき最高の妖刀が傍にいた。私は血討獣のために1万人もの人を殺めて、血を捧げてきた。人の命を懸けるだけの価値ある偉大な存在、そのためにすべてを捧げてきたんだ。だがある日、1人の人間によって私は生きるべき道を失った。あそこにいる緑のコート男!奴だ!」


「まさか悟!?あんたも悟に復讐を誓ったのか!」


「その通り。その様子だと貴様もあのコート男、悟に復讐する気か。ならば尚のこと、私は貴様を倒さねばならない。今はまだ奴には生きていてもらわないと困る。……私は目的はな、悟以外の全人類を妖刀の餌食にして、妖刀の力で奴を血と屍の地獄を見せることだ。そして絶望した奴に言うのさ。貴様のせいで人類は妖刀の餌食になったとな!」


「な、なんだと!いや身勝手すぎるだろ!あんたと悟のために犠牲になる人のことを考えろよ!」


〔何度聞いても非効率極まりないな。人類殲滅を掲げるのであれば、デスゲームで同士討ちさせた方が手っ取り早いだろうに。集団戦最強の私に頭を下げればいいものを〕


黙れ。貴様ら如きに私の復讐を邪魔されてたまるか。これは私の復讐だ。


それに妖刀の力を怨念化して取り込むほど、私が怨念共を押さえつける力は強くなっていく。このまま順調に事が進めば、貴様らは終わりだ。貴様ら怨念共は肉体のコントロールを得る機会もなく封殺される。


貴様も例外じゃない、シリアルキラー。いつまで余裕の態度を崩さずにいられるかな。


〔肉体への存続をかけたデスゲームか。私の領分だ。探偵役はどいつにしようかな〕


狂人め……!だが今回見つけた名刀であれば、妖刀化・怨念化して力を取り込むことで、とんでもない妖力を得られるはず。まだ肉体の主導権は私にある。きっとできるはずだ。


「話し過ぎたか。だが恋の復讐心如きで私の復讐心に太刀打ちできやしない。同様に魔法如きで血の妖刀に太刀打ちはできない。血と命に裏付けされた力を思い知らせてやる」


「リアガリさん。俺はあんたという人をよく知らない。けど今のあんたが本当のあんただとは俺には思えないんだ。妖刀に惑わされてるだけなんだろ!俺が妖刀の力を打ち払ってやる!だから本当のあんたを見せてみろよ!」


「知った口を!」


[きいぃん!]


私は風神刀・風仰ぎの力で一瞬で間合いを詰めて、クレーに切りかかる。バリアを発生させる暇もない不意をついた完璧な一撃。


しかし私の刃は、クレーの手元に出現した分厚い爪の装甲に防がれてしまう。


「なっ!?その爪は!?」


「怨念祓いのクレークロー。あんたの血の呪いを打ち砕く、魔王の力だっ!」


[がきいぃん!]


「ぐっ!?しまった!」


クレーが爪を素早く切り返して振り上げたことで、私の風神刀・風仰ぎは宙に弾き飛ばされる。


あ、ありえない。この少年の腕力はどう見積もっても私には遠く及ばない。爪に気を取られていたとはいえ、私がこんな男に力負けして妖刀を手放すことなどある訳が……!


私は跳躍して妖刀に手を伸ばす。妖刀使いの私と妖刀が離れることなどあってはならない!


「もうあんたを妖刀に触れさせはしない!隔離浄化、クレートルネード!」


私の手が風神刀・風仰ぎに触れるあと一歩のところで、闇の風が私たちの間に割って入った。クレーの放ったクレートルネードが私と風神刀・風仰ぎを引き離していく。


あああっ!私の、私の振るうべき妖刀が去っていく!私が血討獣を失ったときのように!や、やめろ!違う!私は失ってなんかいない!私の戦いはまだ終わってなんかいない!あの瞬間を、あの出来事を思い出してはならない!私は妖刀使いリアガリ!主たる妖刀、血討獣の仇に復讐を成し遂げる者だ!


思考の混乱とは裏腹に、私の体を巻き上げる闇のトルネードは心地良いものだった。体はボロ布のように舞い、激しく吹き上げる風に翻弄されている。普通であれば快適とは程遠い。肉体にダメージも蓄積している。だがそれでも心地よかった。


妖刀を持つときに感じる責任・重圧から今だけは解放されていた。表層で焦る私とは裏腹に、どこかに眠る私の素性が呼び起されている気がする。


〔ようやく目が覚めてきたか、半人前め。だがこれが最後の罵倒になるかもしれんな〕


〔破滅の道に惹かれたか。よかろう。我ら怨念一同、共に同じ道を歩もうぞ〕


〔君がどんな悪手を打とうが構いはしない。後悔したければ好きにするがいい。私には関係のないことだ。集団戦最強の私が勝利し勝ち残る。この必勝パターンは揺るがない〕


〔黙らっしゃい!年貢の納めどきだ。探偵役として予言してもいい。奴は呪縛を打ち破るし、クレーは我らを解放する。妖刀使い・妖刀・怨念・妖力のいずれかの力が欠けていれば、貴様とて満足に妖刀の力を行使できまい。シリアルキラー!貴様の悪行三昧もここまでだ!〕


怨念共が私を呼んでいる。悟という少年に敗れて目指した復讐の道。その道を、妖刀使いの道を捨てて、貴様らと同じ道を歩めというのか?


私を道連れにする怨念の悪意。その可能性もある。


だがそんな疑念を吹き飛ばすかのように。トルネードの闇の風が、私の心に新たな復讐の道を切り開いていく。より強大な力への復讐心を、いやリベンジャー魂を後押ししている。


私の心が決まると同時に、トルネードの風が過ぎ去っていく。いや違う。私の体が雲よりも上に飛ばされたことでトルネードから解放されたのだ。闇の嵐が去り、周囲の景色が鮮やかに映る。雲の上に天上人が見えた気がしたのは、私の心が写した幻影だろうか。


地上は遥か下方にある。クレーは地獄の道を超えた先にいる。


「そうじゃない!仇を……!私のための仇を!血討獣の仇を討たなければっ!ぐううぅ」


間一髪のところで、私は先ほど心に宿した決意を覆した。


使命を再起させて、私は落下に抵抗を試みる。落下の衝撃などどうでもいい。狙いは私の頭上を回転しながら舞い落ちる風神刀・風仰ぎだ。あの妖刀の力で血のトルネードを発生させれば、私の心に侵食した奴の生温い闇を振り払うことができる!


肉体のダメージなど問題ではない。今、最も優先すべきは私のメンタルケアだ。血の渇望と復讐心を失えば、私は、きっと今の自分を失ってしまう!


「届けぇっ!舞ってでも手に取れえええぇーーーっ!」


[どかああぁっ!]


「があぁっ!」


決意を覆すほどの決死のあがき。私にできる唯一の抵抗は、妖刀には届かなかった。頭上に無理に手を伸ばした体勢での落下は、最大級の衝撃となって私の肉体を駆け巡る。


地面に叩きつけられた体が悲鳴を上げている。落下中、私はあれほど宙を舞い妖刀に近づくことを望んでいた。だが、地面に跳ね上げられて舞った体は、妖刀に手を伸ばす力さえも失ってしまっていた。妖刀との距離は間近なのに空中の頃よりも遠く感じられる。


[ずがぁっ!]


私の伸ばせなかった手の先を妖刀がすり抜けていく。そして宙を舞う私の下方から、妖刀が地面に深く突き刺さった音が聞こえた。


ああ、素晴らしい着地だ。宙を二度舞う私を単に優雅と称するならば、風神刀・風仰ぎは嵐と雷のような豪胆な降下だった。風の妖刀の力は伊達ではないということか。


待っていろ風神刀・風仰ぎ。宙で貴様ほど舞える私ではない。体のどこかを動かすことも難しい。だが必ず貴様を手中に収め、妖刀の力で傷と心を癒し、心身共に立ち直って見せる。


この軌道での落下ならば、妖刀の落下音の位置に右手が接触するだろう。妖刀に触れることは可能だ。


「私が再び使ってやる。風神刀・風仰ぎ!」


「おっと」


[どさぁっ!]


「あ。あああ……!」


私は完璧に風神刀・風仰ぎに触れる軌道で地面に到達するはずだった。しかし私が地面に接して妖刀を手にするよりも前に、落下する私をクレーが受け止めた。


私の腕は彼の肩にぶら下がっており、風神刀・風仰ぎを手にするはずだった右手は、彼の背中の辺りでぶらんぶらんと揺られている。クレーのすぐ傍にある取っ手まであと少しなのに、全身をどれだけ動かそうとしても動きそうにない。


「だ、大丈夫かあんた。ちょっと俺が想像してなかった体勢で落ちてきたから心配でさ。あの、ごめんな。あんたが強かったからつい大技を使っちまったんだ。やりすぎちまった」


「黙れ黙れ黙れっ。殺す。いや待てクレー。お前に本当に悔いる思いがあるなら、しゃがめ。私を抱えたまま前後左右は一切微動だにせず膝だけを曲げろ。機械より正確に真下にだ。は、早くしろ。1cm、いや2mmでいい!動かなくなった私の肉体の主導権は貴様にある。責任取って私の動きを肩代わりしろ。急げ急げ急げ……!」


「いいけど、その前にやることがあるんだ。この辺でいいか」


クレーは風神刀・風仰ぎの傍にある瓦礫を背に私を座らせる。座る力もないので私はぐったりともたれかかっている状態だ。


風神刀・風仰ぎの傍とは言え、2mmから数十センチまで距離を引き離された私は、腹いせにクレーに不満の視線を投げかける。視線を受けている本人は私の不満に気付いている様子はない。


なぜこうも私の思い通りに動かない。私が妖刀に触れたいことなど貴様は承知しているはず。


クレー、あのまま妖刀に触れていれば、私は貴様だけは生きたまま血の復讐の付き人にしていただろう。闇のトルネードの浸食などなくても私はお前を認めていた。妖刀の力で私の心をケアしたとしても、私のお前に対する思いは変わらない。


なのにお前は、貴様はどうして私の思いを否定するんだ。私が貴様と共に歩む道は、もう残されていないというのか?


「あんたも何度か見てると思うが、俺の使える魔法にこんなのがある。マジックバリアだ。このバリアであんたに取りつく妖刀の怨霊を消し去る」


「クレー。そうか。こういう結末になったか」


やはり貴様は、私を拒絶するというのだな。私の心に渦巻く血の渇望を、血討獣の敵討ちを、この私自身を、他の怨霊諸共否定する結末。私の考えていた結末の一つだ。


決して最高の結末ではない。だが最悪でもない。クレーを脅かす危険因子、シリアルキラーがまとめて葬られることを思えば、悪くはない。例え、今の私を形作るものがマジックバリアで消えてしまうとしても。私はこの結末を受け入れるさ。


一番大切なものが残るのなら、私はそれで構わない。体が動かず、血の渇望も復讐も叶わない今、次に私が望むのは、私の心を揺らした男の身の保証。クレーの生存だけだ。


「じゃあバリアで触れるぜ。リアガリさん」


「……違う。ま、待てクレー」


名前を呼ばれた瞬間、私の体を駆け巡ったのは違和感だった。


今、具体的にすべてを理解することはできていない。だが血と復讐によって覆い隠されていた私の理性が、クレーの行為の先を鮮明に予測していた。


このままでは、怨霊共が消えようが消えまいが、クレーはやられてしまう!


手先にあるマジックバリアを私に接触させるために、クレーは両手を伸ばして私にゆっくりと歩み寄ってくる。体の動かない私には、言葉で彼を退けるしか方法はない。


「逃げろ、クレー!」


「なっ」


[ずばあぁっ!]


私の叫びに反応して、クレーは後ろに身を引こうとする。しかし私は瞬時に回避動作を察知して、風神刀・風仰ぎを手に取り、回避直前のクレーを切り終えていた。


「なに、がぁ……っ!?」


クレーが私の攻撃を認知する隙を消し去るために、私は音もなく風神刀・風仰ぎを既に地面に戻し終えている。私の体勢は攻撃前と全く同じ状態だ。傍目に見れば、クレーが唐突にかまいたちにでも切り飛ばされたようにしか見えない。


私の攻撃時間は人が認知できないほど短い。あまりに早く精密な斬撃には、血が飛び散る隙はなく、刀に血が付着する猶予すら発生しない。


この特性を活かして真正面から相手を切り、1度敢えて犯人扱いされてから容疑を晴らす。これが集団戦最強である私の必勝パターン。そしてデスゲーム開始の合図でもある。


〔間に合わなかったか!くっ。すまないクレー。私がもう少し早く正気に戻っていれば……!おのれシリアルキラー!忌々しい最悪の怨霊め!〕


「勘違いも甚だしい。私がその気になれば、肉体の主導権はいつでも元に戻すことができた。それに私が怨霊だと。ふっ。真の主の存在すらも忘却するとは、見事に妖刀使いになり切れているじゃないか。だが本物には程遠い。デスゲーム性能と戦闘能力が皆無の貴様に、私の代わりは荷が重かったようだな!妖刀の怨霊風情が!」


〔黙らぬかシリアルキラー!私以外がこやつへ暴言を吐くことは許さん!貴様と言えどもな!〕


〔道は閉ざされた。我らは永遠に妖刀使いの呪縛からは逃れられぬのか〕


〔黙らっしゃい!この世界の力によりクレーはまだ息絶えてはいない。希望を捨てるな。私たちはクレーの温かい闇と彼自身に対して心を許したはずだ。シリアルキラーの思い通りにはさせない!あいつにクレーを殺させはしない!〕


〔そうか、思い出したぞ。私の正体も怨霊。私は奴に拾われ、妖刀化させられた血討獣の怨霊だ。私は最初から奴に従わされていた。その頃はまだ自我があった。だが自身の本体を用いてコートの男、悟と戦い、本体が破壊されてしまい私は狂ったんだ。妖刀使いの誘いに乗り、血と復讐に心の全てを捧げてしまった。それが私の正体だ。……くっ。何という浅ましい真実だ!もう私にはクレーに合わせる顔がない!〕


「1つ断っておくが、私も貴様たち同様にクレーを愛している。志は同じだ。愛しているからこそ私はクレーを殺す。デスマッチの初犠牲者こそが私の最上級の愛情表現だ。これまでの世界でも一番気に入った奴を最初に殺してきた。気になる相手程早く手に掛けたくなる。貴様らも妖刀の怨霊ならば共感できるだろう?」


〔そうだろうな。貴様はそういう人間だ。残っている怨霊のメンツを見ればわかる。私も含めて、貴様を忌み嫌う怨霊ばかりが残されている。それもデスゲームで悪目立ちする癖の強すぎる怨霊ばかりだ。気に入った怨霊から犠牲にした結果が、今のこんなメンツというわけだ。そうだろうシリアルキラー!〕


ほう。他の能力はともかく、私になりきるだけあって推理能力は秀でているじゃないか。妖刀・血討獣の怨霊か。他の怨霊共よりも興味を引かれる怨霊だ。


まあ、本命の理由はまた別にあるのだがな。だが着眼点も推理の組み立てもいい。よかろう。次に怨霊共の間でデスゲームをすることになったら、貴様を優先的に最初の犠牲者にすることを検討しよう。


私は優れた才能を持つ名刀には敬意を表する。私の心を揺るがす人間と同様にな。


「さて。私と怨霊共が愛するクレーよ。人生初の愛しき男よ。命を捧げる時間だ」


私は立ち上がり、風神刀・風仰ぎを手に取る。愛するものの命を絶つために。


〔できっこない。私がいくら切っても誰も出血一つしなかった。いくら貴様と言えども、この世界でクレーの命を奪うことはできない!〕


この世界、いやこの星から発せられる力は確かに脅威。私と言えどもただではクレーの肉体を切ることはできなかった。これらの情報だけならその推理は妥当だ。


だが、向こうで件の悟という男が体に穴を空けている。


対峙する人物は、レッドガードと名乗る自称邪神から生み出された石、が変形した人間もどき。奴は私をも上回る速度と攻撃力で空気の弾を飛ばしていた。奴のカードによる攻撃や時を遡るような技には何らかの魔法的な力に近いものを感じたが、空気の貫通弾は純粋な身体能力で射出されている。貫通の条件は魔法的な力ではなく単純な攻撃能力だろう。


結論を言おう。血すらも流れさせないこの力には、耐久上限がある。


〔耐久上限だと!?だが貴様の一撃でクレーは切れなかった!〕


そうだ。耐久上限の値を仮にあの人間もどきの空気弾とする場合、素の私では耐久上限の突破にわずかに届かない。ならば話は簡単だ。妖刀の力を上乗せして、クレーを一刀両断してしまえばいい。一刀両断で足りないなら、粉々にして私の血肉として取り込んでしまうまでだ。


〔や、やめろぉ……っ!私たち妖刀の力を、愛する者を切るために使うだと!これほどの屈辱はない!貴様のような人間の醜い欲望のために利用されるのは、まっぴらだ!〕


貴様たち妖刀は、妖刀使いに使われる身。怨霊になろうともその点は変わらない。道具の用途を決めるのは道具自身ではなく、使い手の役目だ。私の決定が覆ることはない。


私は妖力を溢れさせて、風神刀・風仰ぎの破壊力を増強させる。妖力が刀に伝わる瞬間ごとに、空間を歪ませるほどの力が風神刀・風仰ぎから発せられる。


これであの空気弾に匹敵するに足る妖力が、刀に満ちた。よく見ておくがいい怨霊共。私たちの愛したクレーを私たちの力で葬り去る。デスゲームの開始に心震わせることだ。


〔……くくく。わしはそのガキを愛した覚えはねーけどな。特等席でよーく見てやるぜ!〕


「なに?」


私の内部から聞こえる、聞き覚えのない年老いた男の声。私のデスゲームを見下し笑う、子供のような感性を持つ、張りのある老いた声だ。


予期せぬ事態に私は攻撃の手を止める。


「何奴っ!」


「ようやく本体が姿を現したか。見事な働きだった、クレー」


「き、貴様は東武っ。気配もなしに私の背後を取るだと!?」


いつの間にか背後にいた東武が私に声を掛ける。


バカな。私はこの男の持つ名刀の気配を感じられる。刀を置いてきたとしても、私は生命や物体の動く気配にも敏感だ。ましてや妖刀の力を解放中の今、生命の動く気配をより一層強く感じることができるというのに。なぜ、背後のこの男からは何の気配も感じられない!?


〔なぜ気配を感じないのか知りたいってよ。わしも全容まではわからねー。てめえが説明しな東武!デスゲーム主催者に種明かしするのはお約束だ!拒否するならわしはこっち側につくぜ!〕


「おのれ正者め……。いいだろう。早い話、貴様の持つ風神刀の性質だ。その刀に妖力が満ちる音は微細な物音をかき消し、純粋な風と妖力の音を奏でる。だから俺の近づく物音はかき消されていたんだ」


「この刀にそんな仕掛けが?なんということだ……」


「使い手の集中力を高める目的の効果だろう。だがリアガリ。お前のデスゲームのスタイルを踏まえると、妖力解放は恐らく非常時、デスゲーム外でしか使わない。ならばデスゲーム時と違い、妖刀使用時はデスゲームの証拠集めのために環境音を拾う必要もない。切れば解決するからな。お前は妖力解放時に刀の音色を気にしない。妖刀の能力を測るための音と、敵の近づく音にだけ集中している。……そう俺は予測した」


「き、貴様。よくも私の素性を知ったような口ぶりで語れるものだな」


〔クレーには盗聴器を仕込んだ粗品を前払いで渡していたのさ。そして東武は魂を狩る魔刀。怨霊共の会話は領分だ。つまり、てめえらのコントは全て筒抜けだったってわけだ!〕


「東武自身が、魔刀だと!?」


ではこの世界には、刀が人間に化ける技術が存在するというのか。そんな力は過去のデスゲームで使われたことがない。


いや。類似した生き物がいた可能性はある。だが私は、異世界に着いたら気に入った相手を見つけ、そいつを殺してデスゲームを開始するのが日課だった。身近な人物に疑いを掛けさせ、争わせ、私を容疑から外して高みの見物をするのが定石だった。


私は、個々の生態をデスゲームの用途以外で気にかけたことはない。妖刀に対しても概ね似た傾向にある。その結果、今、私の素性をこんな奴らに逆手に取られてしまっているかもしれないのか。くっ。この私がデスゲームの情報戦で後れを取ったというのか!?


お、落ち着け私。まずは東武に気配の秘密を吐かせるのが先だ。行動するのは情報を集め終えてからでも遅くない。今は探偵役を気取らせておき、最後に私が盤面全てを覆せばいい。


そう、私の今置かれている状況もまたデスゲーム。デスゲームの最高実力者である私にとって、あらゆる苦難はデスゲームの攻略に等しい。今は、人生初の危機的状況だ。だがここを乗り越えれば、私はまた一つデスゲームの流派を我が身に取り込むことができる。


東武!正者!私が貴様たちに出会ったのは単なる偶然ではない!貴様たちに勝利したとき、私は人類最強のデスゲーマー人間となる!私の妖刀の力が、このために私たちを巡り合わせたのだ!


〔おい東武。気配に感づいた理由だ。早く話しやがれ。狂人の戯言は聞くに堪えねえ〕


「リアガリ。お前が俺の名刀としての気配を感知していることは見当がついていた。怨霊との会話でな。戦闘熟練者として生物の気配に鋭いであろうことも警戒していた。だから俺はお前がトルネードに巻き込まれている隙に、俺自身の肉体の生命を断ち切ったのさ。生と死を司る特殊能力で屍人間として動くためにな。屍のままクレーの近くにある瓦礫に身を潜めたのだ」


〔くくく。擬人化した肉体が死ねば、刀としての命や力も失われるってわけか。だから邪魔な怨霊が引っ込むまで気づかれずに隠れ続けることができたと〕


「くっ。私の能力は対策されていたのか」


〔その後はてめえも知っての通りだ。怨霊が引っ込んだタイミングでわしがてめえに憑依したのさ。てめえの妖刀はもう機能しねえ。つーか東武。この嬢ちゃんの肉体はわしが契約通りいただくけどよ。嬢ちゃんに一言断らなくていいのか?〕


「必要ない。その体は問答無用で引き取ってもらう。契約を破れば命はないぞ。異世界を滅ぼして回るシリアルキラーよりも、異世界で暴れる迷惑系居住者の方が幾分かマシだ」


〔けけけっ。わしなんかより余程嫌われてるじゃねえか。嬢ちゃんてめえ、とんだ大悪党だなあ!まっ、あくどい生き方をしてれば下種に絡まれることもあるってこった!ここが腕の見せ所だぜ!てめえのデスゲームの腕前とやらで、わしらから生存を勝ち取ってみやがれ!〕


このクズ共、私の体を取引材料に手を組んでいるのか。


いやそれよりも問題なのは。既に私の内部から、妖刀の怨霊共の存在が失われいるようだ。正者の声が聞こえてから怨霊共の声がしていない。奴が侵入した際に、葬られたのだろう。


怨霊共が居なければ、私は新たに妖刀の力を解放することができない。既に解放済みの力は取り消されることなく維持されている。私に残された残弾は、クレーを殺すために解放した一撃のみだ。


この一撃で私の運命が左右されるかもしれない。この世界で私が他者を殺すには、妖刀の力を上乗せしなければ威力が足りない。残る一発で誰を殺すか。ここをしくじれば、私に生存の道はない。最強のデスゲーマーとしてここで負けるわけにはいかない!


〔ご察しの通り、怨霊共はわしが喰らい尽くしてやったぜ。奴らがまた表出するとてめえの体に干渉できねえからな。そして、もう一つ。てめえはとっくに詰み状態だぜ!〕


「なっ!?くっ!」


[ずばああぁっ!]


唐突に体を駆け巡る、肉体のコントロールを奪われそうな感覚。私は最後のあがきとして、目の前の東武を切断するために刀を振りぬいた。


危機意識による動作のおかげだろうか。本来であれば、この世界の守りをも貫けるほどの完璧な一撃を放つことができた。東武の胴体を2つに分けると確信した一撃。


だが、私の刀はクレーの時を遥かに上回る異質な質感によって防がれた。バカな!私の見立てでは、死なない力を突破するのに十分な威力があった!な、なぜ切れていない!


「なぜ切れていないんだ。と言いたそうな表情をしているな。くっくっくっ。特星の不老不死オーラ突破を狙ったのなら無駄なこと。この星にある不老不死オーラの石を授けたのは、この俺様なんだ。当然、俺はその力を上回る不老不死の手段を使用している」


「ぐううぅ!わ、私は、肝心な場面で……読み違えたというのか。集団戦最強の……この私がぁっ!」


読み違えたのは、東武の不老不死の耐久力だけではない。私がこの体の主導権を奪われるというこの状況もだ!誤算だった!


私は怨霊共を我が身に取り込んできた。時には適性を見極めるために肉体の操作を怨霊に委ねることもあった。特にあの血討獣の怨霊。奴はなぜか私自身になりきる稀有な思考と性癖の持ち主で、憑依の性能も優れていた。そんな怨霊からでさえ、私はいつでも肉体の主導権を取り戻すことができた!


なのにどうして。この正者という霊は、私の体をこうも容易く奪っていく!?おのれ正者!貴様の方が私よりもデスゲームに祝福されたこの体に相応しいというのか!?ありえない!


〔既に脳の一部以外は奪取しちまったぜ。くくく。てめえとわしの差は人生経験さ。人生二週目直前を迎えたわしが、20代そこらの小娘に負ける道理はねえな!わしの活躍を肉体の奥底から眺めてるこった!あばよシリアルキラーっ!〕


私が維持していた最後の肉体の主導権が断たれる。


私が意識を手放す直前、正者の最後に放った捨て台詞。シリアルキラーである私に向けた別れの言葉。その言葉の中に、正者だけでなく怨霊共の怨むような声が混ざっている気がした。


奴らは正者の中に生きていて、私の無様な姿をあざ笑っていた。肉体の主導権を賭けた私と正者のデスゲーム。今まで奴ら怨霊に課してきた類の勝負に、私が負けた。その姿に、奴らは歓喜しているのだ。


おのれ正者……!おのれ怨霊共……!デスゲームの忌まわしき生き残り共め!私は必ず貴様たちを追い詰め、その顔を血と絶望で染め上げてやる!切って殺すだけの楽な最期など与えない!生者も勝者も私だけの証だ!貴様らに渡してなるものかっ!

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