十六話-006日目 カードの支配者<前編> ~帝国乱闘バトル<悟編>
@悟視点@
俺、パンレー、クレー、皿々、御衣、テーナ、黒天利、偽正者、局長、ゲニウス、東武、ネコ雄、殺人鬼の女、……そして最後に現れた、様子のおかしいぱっ狐。一か所に集まったというには、配置がまちまちではある。気絶している奴もいる。だがそれでも、総勢14人。これだけの大人数がぱっ狐&ゲージ連合の本拠地のビル前に居合わせている。
これは偶然か?偶然にしては並々ならない顔ぶれだ。だが、狙って集められる人選とも思えない。ぱっ狐の口にした祭典と関係あるのか?14人か。俺が悪役なら、人狼ゲームかデスゲームでの殺し合いを言い渡したいところだぜ。
「ぱっ狐!の偽物か?お前は何者で何が目的だ!その手のカードは封印解除のカードか!?」
「ワタクシはカードの秩序を司る神。邪神レッドガード。盗まれたカードを取り返すため、キャッシュカードを媒介にバリア内部にやってきた。だが1つ誤算が生じている。ワタクシが通ってきたワープゲートが何らかのトラブルにより消失していたのだ」
「なんだなんだ?」
レッドガードの言葉に、周囲の連中が辺りを見回している。レッドガードは口元に城赤の持っていたものと同じ裏面のカードを口元に当てて話をしている。あのカードで全員に声を届けているのか?
キャッシュカードで帝国に侵入する邪神の話は、ネトリアエッチから聞いたな。あいつの話じゃこのレッドカードがシクレットを倒すカギらしいが。黒天利のバリア1つ破れない実力なのに、本当にシクレットへの対抗策になるんだろうか。
消失したワープゲートは俺たちが通ってきたやつだよな。いつもの技とは違うが、多分あれはゲージの置いたゲートだろう。ゲージはさっき皿々に遠くまでぶっ飛ばされていたから、気絶して能力が途切れた可能性が高い。出入り口なし金庫の話で、皿々が名前を挙げたのもゲージとぱっ狐の2匹だったしな。
「ワタクシは困っている。よって祭典を執り行う。ルールは単純だ。バリアを除去した者にはワタクシが何でも一つ願いを叶えよう。最も貢献した1人だけ、願いを叶える」
「願いを叶えるだと!?」
じゃあ祭典で優勝してしまえば、封印解除のカードを使うことなく洗脳解除を願うこともできるのか!いや、城赤が『赤き洗脳』のカードを温存してるかもしれないし、この世から洗脳能力をなくしてしまう方がより確実か?なんにせよ、解決までの手間が一気に縮まることになりそうだ。
「おい!あんたが願いを叶える保証はあるのか」
「あっ。クレー」
「保証はある。ワタクシは邪神だ。即ち神だ。お前たち人間に神の体質を1つお教えしよう。神は約束を破ると消滅する。嘘も同様だ。だから、ワタクシが邪神であることが何よりの保証だ」
「ん?」
あれ。神にそんな体質があるなんて初耳だぞ。まあ俺が約束を破るとも思えないから、今まで気づかなかっただけの可能性もあるが。だとしても、邪神と神は別物のはずじゃないのか?
皿々の上にいるパンレーに視線を向けると、パンレーは皿々に何かを耳打ちしながら顔を左右に振っている。あの様子だとパンレーも奴の発言の違和感に気づいているらしい。
[ひゅん!ずばばぁっ!]
「ぐうぅっ!?」
レッドガードに視線を戻した直後、回転する曲刀が突如飛来した!曲刀は徐々に浮き上がるようにぱっ狐姿のレッドガードの両眼を切りつけ、空中に飛んでいく。あれは異電波刀!再びパンレーたちの方を見ると、正者が皿々の正面ではない位置に移動しており、上機嫌に笑っている。
「はーっはっはっは!てめえら全員に残念なお知らせだ!異電波刀の一撃を頭部付近で受けると記憶を失っちまうのさ!もはや奴に願いを叶えるための力はない!願いを叶えるという一生に1度あるかの大チャンス!その機会を俺様が見事に刈り取っちまったってわけだ!俺様がいる限り、てめえら全員を不可逆の泥沼に沈めてやるぜ!」
「残念ながら、ワタクシの記憶の大部分はカードで占められている。そしてカードに対する影響は、ワタクシのコントロール下にあるのだ。ワタクシは本来忘れ去られるカードの記憶を、裏ステドリーマーのカードで肩代わりする!チェンジ・デストロイ!」
「なにっ!異電波刀の電気信号遮断が通じないのか!?てめえ!」
「ワタクシの中から失われたカードの情報は400枚相当。そして裏ステドリーマーのカードは今や1億種類を超える。碌でもないカードが多数ある下らないカードゲームだ。弾除けにはちょうどいい」
こ、こいつ!ボケ役が作ったカードゲームを下らない呼ばわりしやがって!碌でもないカードが多いのは事実だが、俺が31億セルもつぎ込む位にはいいゲームだったぞ!
しかし奴の口ぶり、まるで裏ドリのカード全てを記憶として保持しているような言い方だ。裏ドリはリリース直後でさえ300万枚ものカードの種類が存在していた。夢の力で自動生産してるらしいし、今なら1億種類は超えていそうではある。まさか、あらゆるカードを把握しているのか?
[ひゅんひゅん!ずばばぁっ!]
「ぐああぁっ!」
「えっ!?」
再び回転する異電波刀がぱっ狐姿のレッドガードを襲った!上から斜め下に異電波刀が落下していき、レッドガードの顔を切りつけていった。そのまま地面に落ちるかと思ってみていると、異電波刀は地面に触れる前に軌道を変えて、皿々たちを大きく迂回して正者の手元へと向かっていく。
あれは一体どういうことだ?明らかに自然な軌道じゃない。異電波刀が何らかの意思で動いているように見える。
「な、なんだ!?うおっ!」
正者の手元に向かっていった異電波刀の回転数は徐々に減速し、取っ手が正者の手の中に納まる。正者自身も想定外のようで、驚いた様子で戻ってきた異電波刀を見ている。
「……ちっ、俺様に何かを期待してやがるのか?ふざけんじゃねえぞ、武器の分際で!てめえも不可逆にしてやろうか!」
「よ、よさんか正者!異電波刀はお主の愛刀じゃろう!?」
「離せ!離しやがれ霧鷹ぁーっ!」
異電波刀を地面に叩きつけて何度も踏みつける正者。その行動を見かねたのか、局長が正者を背後から羽交い絞めにして止めに入る。霧鷹ってのは局長の名前か?
にしても正者の奴、急に武器にキレるとかいかれてるな。どうにもあいつ、他の正者と比べて情緒不安定な一面が色濃く出ている気がする。信仰の影響だろうか?
「ワタクシは再度、消去されるカードの記憶を裏ステドリーマーのカード情報で肩代わりする。シャッフルデストロイで肩代わりするカードの枚数は600枚相当。当たり所が悪かったか。だがワタクシの祭典に歯向かったのは悪手だ」
「それは、裏ドリのカード?」
「巨大金庫内でこの狐の体を乗っ取ったときに拝借した。貴様がネコを追っていた時にハマった穴。あの隣が金庫室だ」
俺の近くでレッドガードが取り出したのは、裏ドリで使われる何の効果もないキャラクターカードだ。
今、そのカードを取り出して何をしようってんだ?祭典とやらはもう始まってるのか?すでに周囲の連中は小競り合いというか、なんか言い合ってて戦闘始まりそうな雰囲気だけど。
「今から行うのは、カードを統べるワタクシの究極技法。チート・リプレイス。あらゆるカードはワタクシが望むカードへと成る。……このようにな!」
「そ、そのカードは!城赤やカード術師の持ってるカード!手品か!?」
レッドガードの掲げた裏ドリカードが、カード術師たちが扱っていたカードに変化する。しかもあの絵柄、いかにも高レアリティのカードだ!あのカードが本物ならば、カードを使用することで魔法攻撃やテレポートのようなカードに応じた効果を発動するはずだ。
「究極技法により宇宙の物理法則に干渉したのだ。相応のコストを要する。だが悲願達成のためだ」
「あ。もしかして俺たちの願いを叶えるためのカードか?」
「悠長な考えだ。よく聞け。このカードは呪術からマジックアイテムをランダム生成する効果を持つ。だがワタクシに掛かればカードによる生成物を詳細に指定できる。技法の名は、エクスラボラトリー。ワタクシが生成するマジックアイテムは、最小のエネルギーで最大の力を発揮する肉体の再現装置。オットーの写葬石を選択する」
「お、オットーだと!?」
「ワタクシは邪神。ワタクシの生命は呪術エネルギーの塊だ。ワタクシ自身の生命力を呪術エネルギーに変換すれば、オットーの肉体は我が器として蘇る。3割もあれば十分だ!ワタクシの生命から3割を写葬石に捧げよう!朽ちても鏡の如しオットーの肉体よ!ワタクシの器として全盛期の姿で蘇るがいい!」
[ごおおおおおぁっ]
レッドガードが写葬石を宙に放り投げると、石は不吉な黒い濃霧を発しながらゆっくりと地上に近づいてくる。暗黒の霧の中では石から塊が湧き出てきており、どんどんと人の姿を形作っていく。
やがて霧が晴れていき、見知った姿の人物が姿を現した。昨日倒したはずの強敵、オットーが再び俺たちの前で復活を遂げていた!
「く、オットー!」
「残念。姿はオットーでも中身はワタクシだ。さあオットーのワタクシよ。鏡の呪術でワタクシを外に送り出すのだ。いくら結界の精度が高かろうと、オットーの呪術で越えられぬことはない。奴の鏡の呪術であれば、城赤の作らせたカードの最上レアリティを遥かに凌ぐ力がある」
「って、ちょっと待てよ!俺の願いを叶える話はどうなった!?お前の力がないとシクレットを倒せないって聞いたぞ!」
「もはやバリアの解除は不要だ。ワタクシの目的は貴様たちが封印解除と呼ぶカードだが、既に我が手の内にある。そして、このカードの存在を知る貴様たちを生かしておくつもりはない。ワタクシが脱出した後、オットーのワタクシが目撃者を殲滅して祭典は終わりとなるのだ!」
「なんだと!?騙しやがったのか!水圧圧縮砲!」
「ふっ」
[ひゅん!]
俺が水の魔法をぱっ狐姿のレッドガードに発射するが、弾が奴に届く前にレッドガードは瞬間移動で場所を変えてしまう。オットーの近くだ!ま、まずい!このまま逃げられる!
「どうしたオットーのワタクシよ。早くしなければ他の連中に感づかれる。早くワタクシを脱出させろ」
「……狐のワタクシよ。ど、どうやらオットーの呪術は発動できそうにない。鏡だっ!鏡がなくては鏡の呪術が発動できない!鏡のカードを用意しろ!」
「な、なんだとっ」
[きぃぃん!どかああぁっ!]
「うぐあぁっ!?」
[どがしゃあぁん!]
レッドガード同士で言い争っている間に、横から突っ込んできた皿々がオットーを突き飛ばす。オットー姿のレッドガードはビルの1階の壁をぶち破っていき、ビルの崩れた瓦礫の中へと勢いよく突っ込んでいく。
「雷之 悟!無事そうでよかったです!」
「やばそうな気配がしたから来てみたけど。あいつ知らない顔だったね。あたいの勘も鈍ってるのかもしれないわ」
「パンレー!皿々!隣のぱっ狐が邪神だ!邪神が封印解除のカードを狙ってやがる!」
[ひゅん!どかああぁっ!]
「うぐぁっ!」
ぱっ狐姿のレッドガードが瞬間移動をするよりも早く、皿々の尻尾がテレポート先の空中に向けて放たれていた。そして姿を現したレッドガードの胴体に、宙返りした皿々の尻尾が勢いよく叩きつけられた!
な、なんだ?今、テレポートの移動先に先手を打ったように見えたが。
「ぐっ」
[ひゅん!きぃぃん!]
ぱっ狐姿のレッドガードが見えない位置に瞬間移動すると同時に、皿々は空中に飛び去ってしまう。上を見上げると、ぱっ狐が上空をよろよろと飛んでいる。そこにジェット機のように皿々が一気に距離を詰めて突っ込んでいく。
[どがああぁん!]
「おっと」
上を見上げていると、ビルの中からオットー姿のレッドガードが姿を現す。手には大きめの鏡の破片を持っていやがるな。奴は辺りを見渡して鏡の破片を俺に向ける。
「狐のワタクシはどうした。正直に話せば、願いを叶えてやる」
「へっ。その手は通じないぜ、嘘つき野郎め!最初の神や邪神の説明のときから違和感を感じてたんだ。封印解除のカードは必ず俺たちが手にする!もうお前をあてにはしない!」
「ワタクシの誘導に感づいたか。やはりこの世界の物理法則は碌なものではないな。なぜこうもワタクシの意志に反するのか」
雲の上にいる邪神姉妹の姉からは、カードゲームの邪神がシクレット攻略のカギになると言われている。だが封印解除のカードは奪いやがるし、仕舞いには口封じの殲滅ときたもんだ。
邪神レッドガード、こいつは間違いなく敵側だ!手を組む必要はない!今すぐ倒して、ぱっ狐とオットーの体から追い出してやる!そして封印解除のカードもドロップしてやるぜ!
「喰らえレッドガード!水圧圧縮砲!」
「水捌けの鏡。これでワタクシへの水系攻撃を吸収し鏡の部品に」
[ばりいぃん!どがあぁっ!]
「ぐうぅっ!?」
俺の放った水の魔法弾に対し、手に持っていた鏡の破片の面を突きつけるレッドガード。しかし水圧圧縮砲はいとも簡単に鏡を粉砕して、鏡の破片ごとレッドガードの顔面に直撃する!後方にそのまま転倒しそうになるが、膝をつくことで転倒を何とかしのいでいる。
先制攻撃成功だ!水系攻撃を吸収とか言ってた気がしたが、普通に鏡を粉砕できた。発動が間に合わなかったのか?
「うぐぐ。どうしたことだ。水捌けの鏡であれば水系攻撃を吸収するはず。この肉体の水捌けの鏡に関する記憶には確かにデータはある。む。こ、これはっ」
「どうした!?電圧圧縮砲!」
「くっ」
膝をつき独り言を呟くレッドガードに電気の魔法弾を発射する。レッドガードは片膝をついた状態でその場を飛び退き、魔法弾を回避した。もう問題が解決したのか、奴は余裕のある笑みを浮かべている。
「なるほど。オットーの呪術にはコピーガードによる対策がなされているのか。複製されても奴しか扱えない超高度な呪術形式。攻防共に、適切な向き・タイミング・知識・呪術の強さ・鏡への愛着で運用しなければ、性能を発揮できない仕様だ。体と記憶を奪えども、ワタクシが見様見真似で扱えるものではない」
へえ。オットーは色んなところから資金を横領して鏡の兵器を買ってたみたいだけど。そんなあいつにセキュリティ意識があったとは意外だぜ。おかげで今は大助かりだが。
「お前の言葉が事実なら、お前が奪ったオットーの肉体は何の使い物にもならないって白状してるようなもんだ!鏡の扱えないオットーに碌な技はない!この勝負貰ったぜ!」
「勘違いも甚だしい。追い詰められているのはワタクシではない。貴様の方だ」
「な、なんだと?」
「鏡の呪術はまだ使えない。ワタクシがこの力で帝国のバリアを超えるには練習期間が必要だ。アングル魔術もオットーの極めた技能だが、戦闘よりもスパイ活動向きだ。そしてもう一つ、オットーの記憶によれば、貴様たちとの戦いで奴が本格運用していない技能がある」
「3つ目の技能?……アングル武術か!」
「ご名答。オットーが極めた第3の力。カードテクに匹敵する戦闘適正技能、武術。しかしオットーが貴様たちとの戦闘で出し控えたのには理由がある。今、奴に代わり、ワタクシがこの力の本領を見せてやろう!」
「させるかっ!水圧圧縮砲!」
「勝手に処理を進めることは認めない!処理を技使用前までやり直してトレースアイディア・カード。貴様が手札に所持している技を取得できる。ワタクシは水圧圧縮砲を選択。水圧圧縮砲を5ターンの間ワタクシが預かる。さあ再開したまえ」
「うおおぉっ!?水圧圧縮砲!だと!?」
俺が水圧圧縮砲を発射してから奴に届くまでのわずかな間。その1秒にも満たない間に、俺たち以外の時間が停止したかのように周囲の光景が固定化される。俺の体もだ。そして奴が何らかの説明をした後、俺の体は水圧圧縮砲を発射する直前の位置と状態にまで引き戻されてしまった。
そして停止する間もなく、技を使おうとしていた俺の体は水圧圧縮砲を発射した。……はずだが、俺の水圧圧縮砲は魔法弾の生成すらされずに不発に終わる。
時間を戻して俺の技を封じる技!?なら他の技でなんとかするしかない!
「手札にない技を使用してしまうとは。ルール違反だ。罰として貴様には、イエローカードと1ターンの間の行動禁止のペナルティが付与される」
「うぐ。またかっ!くそっ!」
別の技を発射しようとするが、再び周囲が固定化される。他の技を使おうとした俺の体も身動き一つとることはできない。そして奴の宣言が終わると周囲の景色は元に戻った。だが俺の体は固定化されたままで口くらいしか動かせない。
何かがおかしい。俺の信仰の体には呪術は通じないはず。なのにどうして、奴の技は普通に俺に対して効いているんだ!?
「一体何が起こっているんだ……?」
「オットーの体に宿る省エネ適性。この補正により本来ワタクシがコスト不足で使用できない力を行使した。それでは戦闘再開だ。ワタクシはアングル武術の究極奥義を宣言!この奥義は、ワタクシの体が極めた技能をコストに肉体エネルギーを大幅強化できる!」
「なんだと!?」
「ワタクシはアングル魔術をコストに選択。コストにした技能は適正すらも失う。2度と使用できない。オットーは万に一にもこの究極奥義を誤射しないように、アングル武術の使用を控えていた。今はワタクシだからこそ安全に扱えるのだ」
「くっ。他人の体で好き勝手しやがって!」
「ルール違反の罰則によりこのターン中、貴様に対応の権利はない。今、ワタクシが行使中の戦闘ルールでは外部介入も不可能。ワタクシの肉体は究極奥義によるパワーアップを確約している!うおおおおおおぉっ!」
レッドカードの体から人が発するものとは思えない強烈なエネルギーが溢れだす。封印解除のカードから感じたのと同じ力だ!なら奴の体から溢れているのは呪術エネルギーか!
奴の呪術エネルギーがピークに達すると同時に、俺の体の固定化は解除される。呪術エネルギーはレッドガードの体に吸収されて奴の肉体が脈動する。溢れるようなエネルギーはなくなったものの、今度は奴の全身から溢れる威圧感が急激に増していく。
状況は最悪だ。レッドガードの肉体はこれまでと遜色ないように見える。だが奴の力があの邪神姉妹を圧倒的に凌駕していることを肌で感じる!攻撃をしかければ一撃で葬られる気がする!
「素晴らしい力だ。やはりカードゲームの頂点を嗜むにはリアルファイトが一番いい。カードプレイの実力で勝負が決まってはスポーツと大差ない。番外の力、腕力や資産力での決着にこそカードを扱う魅力が詰まっている。さあ、カードゲームの醍醐味を力で味わい尽くすとしようか!」
「くっ。いかにも邪神らしい考え方だぜ。だがこの戦いは城赤の奪還、場合によっては奴との決着の中間点だ!カードを巡る俺たちの真剣勝負に、お前の歪んだ考えは通用しない!来いよ邪神野郎!戦闘にカードの理論が通じないことを教えてやるぜ!水圧圧縮砲!」
[どかあぁっ!]
俺が水圧圧縮砲でレッドガードのヘッドショットを狙う。しかし奴は片手で水圧圧縮砲を受けた。普通の相手であれば指の一本でも痛めそうなものだが、奴は平然としている。
「ようやく貴様のターンは終わりだ。ワタクシのターンが始まる前に、ワタクシはターン制ルールを破棄する。維持コストは支払わない。貴様を守るルールはもうない!」
[ずばぁっ!]
「うぐあっ!?」
突如肩に鋭い痛みが走る。痛む箇所に目を向けると、コートと肩に開けられた穴が目に入った。ビー玉サイズのものがコートと肩を貫いていったかのような穴だ。俺は慌てて肩というか腕の逆側も確認する。そちらにも穴が開いており、何かは貫通していったのだと理解する。
ば、バカな!高耐性のコートだけじゃなく、肩まで貫通しているだと!?特星では不老不死オーラでよほどの攻撃でもなけりゃ肉体に傷がつくことはないはず!俺の攻撃でさえ、エクサバースト以外では肉体に傷を残すことはできないってのに!奴の攻撃はそこまで威力が高いのか!?
「ぐっ!ふ、不老不死オーラを貫通するなんて!」
「オットーの記憶にこの星のデータは残っている。貧弱な保護効果など、ワタクシの力には通用しない。ワタクシが指で空気を弾いただけで貴様はもう虫の息だ。ワタクシが直に貴様に触れれば、カードを引き裂くように貴様の肉体を引き裂けるだろう。貴様の首をドローする」
「げっ!?水圧分裂砲!」
「空撃散弾!」
[ずばばばばぁっ!]
「ぐあああぁっ!」
大量の水の魔法弾を発射するが、レッドガードの同時指弾きの連打で射出された空気によりすべてかき消されてしまう。
いや、それだけではない。俺の体の至る所に奴の空気の弾がヒットしている!
「ぐうぅ。か、体がぁ」
俺の体全体から、体積が1割くらいなくなっている気がする。特星の不老不死オーラのおかげで出血はしていないが、体を動かすために全身にダメージを感じる。
……へへっ。だ、大丈夫だ。人間の体は6割が水分だと地球の授業で聞いた覚えがある。1割損失ってことは10%。水分がその内の6%なら、俺の体は実質4%しか損失してないぜ!
「ま、まだだ!まだやれる!」
「貴様のタフさは認めよう。だが無駄な足掻きだ。カードゲームに精通したワタクシに最強の肉体。最強のコンボが成立している。この布陣を切り崩す方法など存在しない!首狩りドロー!」
一瞬で俺の真正面に詰め寄るレッドガード。気づいた時には俺の首元に奴の片手が迫っていた。気づいた時点で距離は数センチ。回避しようと考えるよりも前に、俺の首から上はもぎ取られるだろう。くっ、ここまでなのか!?
[ひゅん!どかああぁっ!]
「ぐうぁっ!?」
次の瞬間、俺の背後から何かが飛び出し、視界の端を通り過ぎる。そして打撃音と共に、俺に迫っていたレッドガードの手が遠ざかっていった。奴はぶっ飛ばされていた。
視界に映っていたのは細い脚だ。レッドガードの喉元に足が突き刺さっているかのような状態。すぐに引っ込んだ脚を目で追うと、バク転で地面で着地する人物が視界に入った。テーナだ。レッドガードを蹴り飛ばしたのはテーナだった!
「あっ。ごめん。邪魔しちゃったかな?」
「い、いや。正直、あと一歩遅かったらやられてたと思う。助かったよ。でもどうしてお前が?」
「黒天利から頼まれてね。でもちょっと前まで何故か介入できなくて。あ、あと私もあなたに相談したいことがあって」
テーナが途中介入できなかったのはレッドガードが原因だ。奴が言っていたターン制バトルのルールとやらには、他者が介入できないという効果があった。その力が働いている間、テーナによる戦闘介入を何らかの力が防いでいたのだろう。
相談の方は何だろう。こいつの兄は雑魚ベーだからあいつ関係の話かな?
「相談?いや待った。今は話を聞いてる余裕はなさそうだぜ」
「えっ?」
「き、貴様ら。よくもワタクシの肉体を手荒に扱ったな。ゆ、許さん。ここまでカードゲームを冒涜されて、黙って見過ごすワタクシではないっ!げほっ」
喉元を押さえながら、ふらついた足取りでレッドガードが歩いてくる。一見すると隙だらけだが、下手に間合いに入れば瞬殺される気配を感じる。そして何もしなくてもいずれ襲い掛かるという警告を、レッドガードの肉体が俺たちに発しているような気がする。
「気をつけろテーナ!あの野郎は支離滅裂な言動だが、強さは化け物級だ!だが主人公の俺がいるからには必ず勝ってみせる!」
「うん。大丈夫だよ。私は本物だもん。お兄ちゃんと結ばれるためにも負けてられない!」
「ワタクシこそがカードゲーム。いずれは宇宙の物理法則を支配するルールとなる。この戦いもカードゲームの延長戦に過ぎない。覚悟しろ!プレイヤー気取りの盤面荒らしなど、ワタクシの支配する世界には不要!ワタクシの盤面を荒らす手駒は徹底排除する!」
俺とテーナの2人はレッドガードと対峙する。武術による戦闘能力、究極奥義で人の限界を超えた肉体、邪神としての呪術や能力と、とんでもない力の数々を持つ邪神。
だがなんとしても、ここで食い止める!鏡の呪術が使えない以上、こいつはいずれバリアを生成する黒天利を殺害して、エネルギー源である封印解除のカード共々、外に脱出を図るだろう。武術を極めたこいつに、一般人の黒天利が太刀打ちできるとは思えない。犠牲者は敵一人で十分だ!……ん?黒天利は俺が救って……守ってみせる!
……敵を犠牲者扱いする流れでもない気が。体に穴が開いて思考が混乱してるのか?まあいいや。決着をつけてやるぜ、レッドガード!




