独裁の前触れ
太平洋の何処かにて
「命令を受託、総理並びに統合参謀総長の承認を確認」
金庫から発射コードの書かれた番号表を取り出し、一言一句間違いのないよう読み上げる。
「7-4-と-2-2-は-ぬ-9-1-5-8」
「7-4-と-2-2-は-ぬ-9-1-5-8」
数字と平仮名を組み合わせた11桁の文字列を読み上げると、発射体制に移行する。
駿河級戦略原子力潜水艦「南海」及び「相模」の両艦は、海面から30mの部分でピタリと静止する。
「艦長より達する。これより本艦は目標へ向け弾道弾による攻撃を行う。警戒を厳とし、不備のないよう勤めよ」
原潜の乗組員達はいつも訓練か実戦であるかは知らされずに、発射を行っていた。
そうすれば、より実戦に近い状態での訓練が出来る上に躊躇わずに任務を遂行出来る心構えを持てた。
だが今日は艦長の言葉使いが違っていた。
訓練でミスを洗い出せ、我々が扱う兵器にミスは許されない。
そういつも言っている艦長が、この日に限って不備のないよう勤めよと言ったのだ。
「3、2、1、用意」
キーを差し込み、同時に回した。
ランプが待機から完了の青色の表示に変更される。
「発射管内の注水完了、解放します」
白色帽子のお洒落なノーズコーンを被ったSLBMが今、顕になる。
「発射せよ」
轟音、海域に噴射の声を鳴り響かせながらミサイルは宇宙目掛けて飛び上がった。
オレゴン州にて
私の名はカトラー、以前は金融関係の仕事をやっていた。
実のところほぼ違法なビジネスでヤバい連中の金ばかり扱っていた。
稼ぎの悪い仕事で生きて来た親や兄を馬鹿にして、成金人生を楽しんでた。
そうしてたらソイツらよりも、もっとヤバい連中が乗り込んで来て殺されそうになった。
自分の指を切り落としたことあるか?痛いなんてもんじゃなかった。
その襲ってきた中でも特にイカれてたのが、塗り立てのペンキよりも白い女だった。
奴らの目的は今でも良く分かっていない。
金の動きを掴んで何を知りたかったのか、自分なりに覚えてる範囲で顧客の事を調べてみた。
だが答えなど見付からなかった。
不審死やら莫大な利権を得たとかそういう話は一切出てこなかった。
精々、顧客の1人のチャイニーズマフィアが路上で射殺体で発見されたことぐらいの良くある話だ。
ロスから逃げるようにオレゴンの田舎に帰った後は、5年ほどは自堕落な生活を送っていたがいい加減働けと言われ渋々働いている。
建設現場や道路工事の仕事転々として今はwedライターをやっている。
兄貴には呆れられ嫌味を言われたが、それでも生きてられるなら良かった。
あれはドラッグをやり過ぎて見た幻覚なんじゃないかと時々思う。
だが確かに自分の指には繋いだ痕があり、10万ドルの手切れ金の一部は地元の銀行に保管されている。
自分が思うに、あれは別世界からやってきた意思の集合体なのだろう。
人が大勢死なない世界に向かっていると言っていた。
それはつまり、人が大勢死んだ世界も知っているという意味にも捉えられる。
今日、旧米が占領していた土地に日本軍が発射したミサイルが着弾した。
中に小型の核爆弾、テレビの専門家は低出力戦術核弾頭と呼んでいた。
それが砂漠の無人地帯で爆発して大騒ぎになっている。
日本のトップが暗殺された報復らしい。
停戦して8年前の元の国境に戻るかもとか、そういう話も聞こえて来ている。
この世界が果たして、人が大勢死なない世界になっているのかという疑問がある。
それがこの誰にも読ませない告白文を書いている理由だ。
カトラーは書き記していたコピー用紙をシュレッダーに掛け、PCに向かったキーボードを叩き始めた。
締め切りまであと8時間、そろそろ本腰を入れよう。
石原家墓前にて
駅から車を走らせること1時間、そこから少し歩き、ひび割れた手すりのない階段を登ること115段、ようやくその場所に辿り着ける。
その墓に佇む女、ナスタチウムは黒いコートを羽織り立ち尽くしている。
私ならこんな場所を選んだりしない。
殺風景だし、放置林が邪魔して見晴らしは良くない上に山上にあるから墓参りには面倒な立地だ。
だが何故、死者達が生前ここに埋めてくれと頼んだのか来てみれば分かる。
この上なく静かだ。
ナスタチウムは枯れ花を取り除き、墓前に花を添える。
さざ波のように揺れる木々は穏やかで何処か暗い。
既に退役して職務を離れていた石原は、靖国に祀られることはなかった。
あの全滅した小隊の中で唯一生き残り、唯一その名を刻まれなかった男だ。
彼は確かに戦った。
どんな戦闘や思想であれ、国家と守るべき人々の為に戦ったんだ。
私は私の元で倒れた戦友達の為に死ななければならない。
信念を信じる者達が損をしない国家を造る。
例えそれが全体主義だろうが、軍事独裁主義だとしても構わない。
私がやらないといけないんだ。
既に2回の爆発が起きている。
3発目、4発目の爆発は我々の頭上で起きるかも知れない。
「ねぇ石原、わたし政治家になるよ!」
「状況を理解しない人々の頭上で、100回目の爆発が起きるようにする!」
「それが一番いい妥協案って言われたから!」
愛国者は太陽に跪き願い、悲鳴を上げた。
最後までご覧に頂きありがとうございます。
感想や誤字修正をして下さった方々もありがとうございます。
架空戦記物は初めて書いてみたので荒い点もあったかも知れませんが、書いてて凄く楽しかったです。
次回作は悪役令嬢物でもやろうと思います。




