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ラスベガス市街戦

セントジョージにて



「これも持っていってくれ!」


「奴らをやっつけろ!」


先行する戦車に向けて、菓子や飲み物を手渡す住民の熱気に、サミー2等軍曹は圧倒されていた。


「車長、もう戦車の中がチョコバーだらけです!」


この歓迎ぶりには理由があった。 


ここセントジョージは8年前に占領されて以降、日本の支配下に置かれていた。


占領後、日本軍は住民による暴動や反乱を恐れ治安維持部隊を駐屯させ、スパイ容疑や反日思想を持つ住民を次々と拘束した。


こうした強硬的手段に出た理由としては、駐屯部隊がビルマで治安戦を経験した59師団であることが挙げられる。


ビルマでは当たり前過ぎて問題にすらならないゲリラ相手のやり方を、そっくりそのままアメリカでもやったのだ。


スパイ容疑の掛かった者には、水責めや電気ショックといった血が出ず、証拠の残らない方法で「尋問」を行った。


国際法軽視な認識と前時代的価値観の元、実行された統治は現地住民の生活と文化を破壊した。


更には避難や死亡によって、住民が居なくなった住宅に、西米から志願者を募って別の人間を住まわせるという暴挙に出た。


西米政府は日本側からの要請に対し、ホームレスや貧困層の人間を送り込んだ。


タダで家が手に入り、仕事まで保証してくれるとの上手過ぎる話に住宅を持たない彼らは、最後の望みを賭けて志願した。


バスで送り込まれた彼らが目にしたのは、戦争によってボロボロになった家屋と、日本軍による厳しい統治だった。


日本はフィリピンでの失敗を忘れてしまっていた。


「なあ、俺達は戦車でバカンスに来たらしい」 


サミーはレイフ伍長にそう冗談を言う。 


燃料も食糧も全て住民が供与してくれたお陰で、補給部隊の到着を待たずして進軍することが出来ている。


戦車に手を振り、歓迎をする人々はカメラ越しだったならば喜びの声をあげているように見えたかも知れない。


だが、その場にいる人間には人々が怒りを湧き出しているように感じ取れた。


59師団は最悪の方法を置き土産を残して撤退していたのだ。


後の調査によると、59師団は159名の住民を虐殺していたことがわかった。


弾薬集積所でボヤが起きたことで、工作員による犯行が疑われた結果、無関係な住民を片っ端から処刑した。


なおボヤはタバコの不始末が原因との説が有力視されている。


焼かれた死体の山を見た中部米軍の兵士達は、住民と同じように復讐に燃えた。


「ラスベガスに向けて前進せよ!同胞を残忍で卑劣な日本軍から解放するのだ!」


そう声を張り上げた彼らに続かぬ者は居なかった。




ラスベガスにて



「ミサイル!ミサイル!」


航空支援の為に出撃した空軍機達はSAMに狙われ続けていた。


チャフを発射しながら低空へと逃れるアラワシは、重力に従いながらアフターバーナーを点火する。


なんてことだ!と編隊長は嘆く。


旧米空軍はこちらの空軍基地を叩くだけ叩いた後、それっきり姿を見せなくなった。


それは反撃に出た我々を誘う為の罠だったのだ。


PAC2の巨大な傘の中へ誘い込まれたことに気付かないまま、迎撃されていた。


「クソ!振り切れない」 


次に襲ってきたのはNASAMSと呼ばれるAIM120空対空ミサイルを地上発射型にした物で、そのシステムは日本軍機を叩き落とした。


「2番機が墜ちた!」


「ブレイクしろ!もっと潜れ!」


更に低空へと退避したアラワシを襲ったのは、M7シューティングガードだった。


編隊長機は鼻っ面にサイドワインダーを撃ち込まれて撃墜された。


「駄目か………」


落とされてゆく友軍機が空に描き引く黒い煙を見た日本兵は、士気を大きく落とした。


開戦から1ヶ月がたった今日、旧米軍は驚くべき速度で進撃を続けていた。


奇襲効果によって日本側は初動対応が遅れ、小規模な兵力で戦わなくてはならなかった。


対して旧米は大規模な兵力を持って都市を包囲し、頑強に抵抗する日本軍部隊を拘束、若しくは殲滅した。


「状況は?」


ラスベガス防衛の主力となるのは陸軍第29師団並びに西米軍の第8歩兵旅団である。


29師団の臨時司令部と設置されたこの場所は、つい数週間前は映画館として賑わっていたが、今は迷彩服の男だらけになってしまった。


司令部が敵の弾道ミサイルで壊滅したので急遽移転したのだ。


「偵察隊が敵戦車大隊と接敵、砲撃支援を求めています」


「伝えろ、砲弾枯渇に付き支援の余力無し、現状戦力で対処せよ」


「だそうだ」


無線を切ると、第29偵察戦闘大隊の16式はフリーウェイを移動する敵戦車へ照準を会わせる。


「弾種徹甲、目標、前方の戦車」


倉庫の陰に身を潜めながら砲撃を行い、先頭の車両に命中させる。


105mm砲弾は敵戦車の側面に命中し、車輪と履帯を弾き飛ばした。


2発目を撃ち込む時には、敵戦車の砲塔は全てこちらを向いていた。


無数の砲弾が飛来して身を隠していた倉庫に穴がボコボコと空く。


「後退しろ!バックだ!」


柳葉車長は直ちに後退した。


「友軍に合流する、近場の部隊は何処だ」


市街地では装輪式車両の方が機動力がある。


数敵劣勢を考慮しつつ、機動力で敵を翻弄する。


今はこれしか言えず、それしか策がない。


「なんだあれは?」


遠くに小さく黒い鳥サイズの何がが飛んでいるのが見えた。


その鳥が暫く空中を旋回していると、ロケット弾が着弾した。


「MLRSだ!」


クラスター弾が着弾した場所は友軍防御陣地が構築されていた場所だった。


角を何度か曲がり、攻撃を受けた場所へ急行すると、味方の対戦車陣地が壊滅していた。


「クソが!」


無線からは何処が攻撃されてるとか、彼処が壊滅したとかそういう報告しか上がってこない。


「ムジナ1、こちらCP送れ」


指揮所からの呼び出しに柳葉は答える。


「CP、こちらムジナ1」


「敵空挺がハリーリード空港に降下、規模は不明、対応されたし」


空挺!このタイミングで!?拳を握り締め、心の中で叫ぶ。


たった1両で、大量の兵隊を相手にしろと言うのか。


無茶だと分かっていたが、我々が行かなくて状況が好転することはないと頭で分かっていた。


「こちらムジナ1、了解!」


16式は敵の監視がある可能性を考慮し、幹線道路を避けて向かった。


その途中、ベラージオ噴水の前を通った。


光かなんかで色を灯す噴水ショーで有名な場所だ。


その背後にあるホテルが、流れ弾に当たったのか中で火災が起きていた。


恐らくこのホテルは全焼するだろう。


消防隊が来れば何とかなるかも知れないが消防は来ない。


街の北側で起きた大規模な火災を食い止める為に出動して行き、殆ど帰って来なかった。


この街に配属されて3ヶ月しか経っていないし、カジノはあまり好きではない。


それでも見知った場所が崩れるのは心が痛んだ。


「車長、輸送機が!」


ハッとして空港に目をやると、C-17が東の空へ尻を向けながら飛び立つ姿が目に写る。


「遅かった!」


既に積み荷を降ろした後に違いない。


金網のフェンスを突き破り、空港内に突入すると滑走路の近くに2両の戦車らしき車両が見えた。


その正体はM10戦闘車であり、厳密には戦車ではない。


特徴的なのは105mm砲と上部に取り付けられたトロフィーAPSだ。


「新型か?よし撃て!」


放った砲弾は外れ、敵の頭上を飛んだ。


「命中せず!」


「さっさと修正しろ!来るぞ」


敵の反撃で左タイヤが破壊され、機動力が低下する。


「煙幕、前方に散布!」 


滑走路を挟んでの砲撃戦は敵方の優位で進む。


陣地転換を行うが、動きを読まれていたのか何かが叩き込まれる。


エンジンに命中したらしく、装甲に穴が空き炎上している。


「なんだ畜生、脱出するんだ!」


機密保持の為に通信機を破壊しようとしたが、煙が充満する車内でそれは難しかった。


自衛火器として装備されていた89式騎兵銃を手に外へ出ると、砲手も咳き込みながら出てきた。


砲手にあいつはどうしたと尋ねる。


砲手は首を振り、操縦手が駄目であったことを伝える。


逃げ出す最中、西米軍の74式が撃破され路上に放棄されているのが見えた。


空港の守備隊は既に壊滅していたのだ。


「大丈夫か?頑張れもうすぐだ」


そう励ましながら市街地へ逃れようと走る。


ブーンと虫の羽音のような音が聞こえた。


そして突如身体が吹き飛び地面にひれ伏した。


「そうか……位置が把握されていたのはそういうことか」


FPVドローンに爆薬を搭載した徘徊型弾薬が2人の逃げる背中に命中したのだ。


この様子は軍の公式アカウントにアップされてプロパガンダに利用された。


それを見た人々は民族間の憎悪を爆発させたり、ドローン万能論を展開した。


映像がもたらす効果は絶大だ。


一人一人が静止画ではなく、様々な感情の動きを見せる。


逃げ回ったり、命乞いをしたり、死に地面へ倒れる過程を写し出す。


その映像で創られたプロパガンダは、より残虐で敵の士気を削ぎ、極論でしか語れない馬鹿を生み出す。


軍旗を掲げる旧米軍の車が凱旋するが如くラスベガスの街並みを駆る映像で、ようやく我々は悟ったのだ。


今、戦争に負けているのは自分達であると

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