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・開拓8日目 ノア・ウィンザーラッド死なず

・ノア


 致死率8割の風土病、ネビュロスの呪いが発症したと知ったときは、もうダメだと覚悟を決めた。

 ところがピオニーが作った変な薬――もとい、いや、なんだろうかこれは?


 刻んだ雑草混じりのマッシュポテトみたいなのを食べて、気分が少しよくなってきたので寝てみたら、皮膚に現れていた症状が綺麗さっぱり消えていた。


「あ、余裕で立てる……。うわ、何これ、どうなってんだ……?」


 あれだけ俺を苦しめた高熱と、それに付随する体調不良が全て消えている。

 身体が軽くて、呼吸も正常で、上着を脱いで全身を確認しても腫れはどこにもなかった。


「ギャーッッ?! 起きちゃダメですよーっ、何やってるですかノアちゃーんっっ!!」

「え……何その格好?」


 ちょっと前までは意識が朦朧としていて、目のピントすら合っていなかったのでわからなかったけれど、ピオニーの姿が変わっている。

 なんとピオニーは額にサークレットと、腰に剣か何かをさしているように見える。


 ドット絵なので目をこらしても確信は得られないけれど、きっとこれはサークレットと剣だ。


「お洋服着てないノアちゃんがそれ言うですかーっ!?」

「そう! これ見てよ、ピオニーッ!」


「ギャーッ、裸のノアちゃんが迫ってくるですぅーっ?!」

「治ったっ、治ったよっ、ピオニーの変なマッシュポテトのおかげで、治ったよピオニーッ!!」


「まっしゅぽてと? 違うですよー、アレはー、ノアちゃん用の毒消し草です!」

「いやごめん、意味がわからないよ」


「えーーーっっ?!! わわわわわっ、ギャーーッッ?!!」


 ピオニーは俺の命の恩人だ。病気を治して貰えなかったら、幸せの全てを手放さなければならなかった。

 感謝の気持ちを込めて、ペラペラのドット絵生物を抱き締めた。


「ありがとうピオニー、君がどうにかしてくれなかったら死んでいたよ!」

「知ってるです」


「え……? 知ってる? 何を?」

「それにー、ノアちゃんの秘密も知ってるです、むふふー。あ、そんなことより、お洋服着るですよ」


 なんの話だろうか。どうもよくわからない。

 服を着ろと言うのでシャツに袖を通して、健康的な日差し降り注ぐ外に出た。


「ノアちゃん、ノアちゃん、ちょっとこっち見て下さい」

「何? それより俺お腹空いたんだけど?」


「今日から私はファイター・ピオニーです! この剣で、ノアちゃんを守りますよ! それとそれとですね!」


 ピオニーは腰の剣を天に掲げて、くるんと一回転した。

 するとピカッと光って、なんとあの日見た人間型ピオニーに変身した。


「なっ……?! そ、その姿……っ」

「へへー。なんと1日5分、この姿でいられるようになったのです! どやーっ!」


 彼女は銀のサークレットと銀の剣、それに丸いメタルバックラーを装備している。

 元が元なのであまりに強そうには見えなかった。けれど――


「君って、そっちの姿でいるときはどこの誰にも負けないくらい可憐だよ。正体のドット絵姿が残念だけどね」

「へへへ……そんなこと言っても、ピオニーはノアちゃんの本音をお見通しなのですよ。そうですか、可憐ですか、むふふふ……♪」


「ま、その姿はね」


 そう皮肉を言うと、ドロンと煙が上がってピオニーが元のドット絵に戻ってしまった。

 とても惜しい気分だ……。


「ノアッ、もう外に出て大丈夫なのか!?」


 平面化してしまった姿にため息を吐くと、そこにクラウジヤが飛んできた。


「クラウジヤ、君にも心配をかけたね。ありがとう、もう腫れも全部引いた」

「おぉぉ……奇跡じゃ……」


 彼女は俺の肌からネビュロスの呪いの症状が消えたことに驚いていた。

 一緒に生活しているうちに自分がノアに伝染したのかもしれないと、そう思い悩んでいたとしてもおかしくない。


「確かに。生きているのが自分でも不思議なくらいだよ」

「よかった、本当によかった……。心配したぞっ!」

「ノアちゃん、これからもずっと一緒ですよ。ずっと、ピオニーが悪い病気から守ってあげますからねー」


 クラウジヤが言うとおりこれは奇跡だ。ただの幸運でくくるだけでは片付かない、道理を超越した奇跡そのものだった。


 2人はあふれ出る涙に何度も目元を拭って、明日からも変わらない生活が続くことを喜んでいた。


「うん、ずっと一緒だ。また俺が死にかけたら助けてね」

「そこはー、極力死なないでくれると、嬉しいですよー? ホントにもう、大変だったですからねー……?」


「死にかけてごめん」

「いいんですよー。生きててくれたら、ただそれだけで……いいんですよ」

「もう死ぬなよ?」


「いやまだ死んでないってば」

「うーうん、ノアちゃんはー、死んだですよー?」


「いや、そんな、怖いこと言わないでよ……」

「ふふふー、冗談なのです」


「冗談に聞こえないところが怖いんだってば……」

「本気で言っているのやもしれんな」


「何を君まで。死んだ人間が生き返るわけないでしょ……」


 いつもとどことなくピオニーの雰囲気が異なっているところが、薄ら寒さとなって俺の背筋をふるわせた。


 しかしともあれ、こうなっては今日の予定を立て直さなければならない。

 今日の予定『死ぬまで堪える』は中止だ。


「じゃ、だいぶ遅くなったけど井戸を作ろうか!」


 これから俺たちは井戸を作る。

 そして水量が十分ならばプールも作って、病み上がりの身体で水浴びを堪能してやる。


 新大陸の汗ばむような昼の日差しの中、俺たちは止まってしまっていた一歩を踏み出した。


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