・開拓6日目 6×6 → 9×9の分厚く大きな土の家 - 広さ3倍 -
さあ待ちに待った増築に入ろう!
「おいノア、1人でしゃがみ込んで何やってるのじゃ?」
「もしや、お絵かきですかっ!? ピオニーも仲間にいれて下さい!」
「ちょっと惜しいけど違うよ、必要な数を試算しているんだ」
といきたいところだったのだけど、逆算してみると荒野の土が足りていなかった。
6×6の分厚い土の家を、9×9の大きな土の家に増築するには、荒野の土が97個必要だ。たぶん。
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荒野の土 ×41 /9999999
石材 ×153 /9999999
石炭 ×20 /9999999
ミミズ ×35 /9999
芋(野生種) ×34 /9999
木綿生地 ×49 /9999
ハム ×48 /9999
干し魚 ×50 /9999
??????の魂 ×1 /?
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足下の試算とインベントリ画面を照らし合わせてみると、土があと56個も足りていなかった。
「ほぅ、意外に教養があるのじゃな」
「えっへん! ノアちゃんはちっちゃいけど、とっても頭がいいのですよ」
「うむ、少なくともワシらよりは頭がよさそうじゃな!」
「ですね~♪ それにそれにっ、なんとノアちゃんはですねー……なんとっ、海の向こうの貴族様なのですよっ!」
「な、なんじゃとぉーっ?!」
「なぜバラすし……。荒野の土が少し足りないから集めてくるよ」
つるはしを肩にかけて、お喋りなピオニーたちに背中を向けた。
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荒野の土 ×41 /9999999
→ ×100
ミミズ ×35 /9999
→ ×40
芋(野生種) ×34 /9999
→ ×41
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切りのいいところまで集めると、西の丘から自宅の前に戻った。
ピオニーとクラウジヤは道路舗装や蒸留の仕事を引き継いで、うちとドワーフの家との間に白い玉石を敷いてくれていた。
「どうですかー、ノアちゃん?」
「今のところ目印程度じゃが、なかなかこれも悪くなかろう?」
「うん、とてもいい感じだ。できるならこれ、畑の方まで引きたいね」
「うむ、もちろんそのつもりじゃ。……じゃが、このような物を作ったところで腹が膨れるわけでもない。他の仕事を優先した方がいいか?」
「まさか。人はパンのみに生きるにあらず、だよ。これは文化的でとてもいい。あるとないとじゃ大違いだよ」
道。それは故郷にいた頃は特に感動するわけでもない、ごくごく当たり前のものだった。
だけどこうして何もない荒野に、玉石による素朴で美しい道が敷かれるのを見ると、色々と考えさせられるものがある。
道は人が楽に移動するためだけではなく、迷わずに人を導く役割を持っているのだとか、人は道と共に生きる生物なのだろうとか、色々だ。
「家を大きくするのじゃろ? ピオニーはそちらに返そう。白の小道と蒸留の方はワシに任せておけ!」
「はっ、そうでした! お家造らないといけないんでした!」
「これに夢中になる気持ちはわかるよ。あのドワーフは綺麗な石を選り分けてくれたね」
「へへへー、そうなんですよー。これなんて、つるつるの真っ白で、ずっと触っていたくなっちゃうくらい綺麗ですっ」
幼い頃、俺がこういう石を家に持って帰ってくると、父上は『未来の英雄が貧民のまねをするな』と俺を叱ったっけな……。
「それじゃピオニーを借りていくね。パッと終わらせちゃうから、完成したら見にきてよ」
「うむ、ワシも我が家の完成が楽しみじゃ!」
「さーっ、がんばりますよーっ、がんばりましょうねっ、ノアちゃん」
そうと決まったので、インベントリを出してピオニーに建材を渡した。
土台の方は開拓1日目に整備してあるので、さっきのドワーフの家造りと同じ要領で、家の外壁部分にキューブを1段ずつ並べた。
「あ、そっか。家の中に壁を残してもしょうがないね」
「じゃあ、ピオニーが外の壁を作りますから、ノアちゃんは中の壁をザクザクしておいて下さい」
「うん、ならそっちはお願いするよ」
「ふんすふんすっ、このピオニーにお任せあれ!」
ピオニーが次々と外壁を積み上げてゆくのを横目で眺めながら、俺の方はもう必要のない壁をツルハシで削った。
「でもなんだか変な感じだね。今日までお世話になってきた壁を、今は自分で壊してるんだから」
「そですね。でも創造の前には、破壊が必要なのですよ」
「なんだか君らしくないセリフだ。だけどその通りなのかも」
「つまりノアちゃんが壊す役、ピオニーが作る役なのです」
「いやなんかそれ、楽しい部分を君が独り占めしているようにも聞こえるけど……?」
「ふふふー、私はノアちゃんみたいにザクザク壊せないからしょうがないのです」
「ならゆっくり積んでよ」
「残念ながら……楽しくて手が止まらないのですっ」
口をつぐんでしばらく作業に集中した。角の部分だけを柱として残し、内側の壁を全て除去するとこちらは完成だ。
しかしその頃にはキューブ4段分の新しい外壁がピオニーの手により築かれていて、彼女は俺の背中の後ろで得意げに腰へと両手を当てていた。
「わーー、思ったより広くなりましたねーっ! 横に3つ増やしただけなのに、しゅごく広くなっちゃいましたよ!」
「以前の床面積は4×4の16。こっちは7×7-1の48。3倍あるね」
「ほへ……?」
「3倍広くなったってことだよ」
ピオニーに笑いかけながらざっと辺りを見回すと、気になる部分を見つけた。
それは西側の壁だ。この壁は隣の石造りのテラスと共有している。
「そこがどうかしたですかー?」
「……ここの壁は土ではなくて、石材に変えた方がいいのかも」
「おお、いいですねっ。石の壁が混ざってた方が楽しそうですねっ」
「そうじゃなくて、この上に石造りの2階を作るなら、ここだけ土じゃ強度が心配でしょ」
「ほうほう、そうなんですかー? ノアちゃんは考えてますねー」
「もしも家が潰れたら、俺たち死ぬかもしれないよ?」
「ピィッ?! 石にしましょうっ! ここは絶対、石にしておくですよっ!」
じゃあ壊そうとツルハシを振りかぶって、そこでやっぱり止めた。
そういえば先日、よくわからないパークとやらを手に入れたのだった。
パネルを表示させて、パークのタブを選ぶと簡単な説明が表示された。
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・オブジェクト置き換え
インベントリ内部のキューブと、使用者が触れたキューブを置き換える能力。
このパークをアクティブ化しますか?
・はい ・いいえ
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もしかしたらこの力を使えば、破壊せずに目の前の土壁を石壁に変えられるかもしれない。『・はい』を選択した。
変化はない。魔法のように念じるのだろうかと、土壁に触れて石になれと願ってみた。




