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・開拓6日目 クラウジヤの願い

 青銅のクワや手斧では複数回叩く必要があったけれど、ツルハシならばたった1振りだ。

 これまでの苦労が嘘のようにサクサクと石材を回収していけた。


「パチパチパチ……おつかれさまです、ノアちゃん」

「ふぅ……っ。これで地表の部分は全部掘ったことになるね」


「なんだか面白いですねー。ちょっと前までここに石の小山があったのに、なーんかまっ平らになっちゃいましたねー♪」

「知らない人がここを見たらビックリするだろうね」


「クラウちゃんを連れてきたら楽しそうです。あ、これからどうするですか?」

「ここからは露天掘りかな。珍しい鉱物がもっと手に入るといいんだけど。お……」


――――――――――――――――――――――

 荒野の土   ×38  /9999999

      → ×41

 石材     ×3   /9999999

      → ×107

 銅鉱石    ×3   /9999999

 石炭     ×14  /9999999 new!

 ミミズ        ×35 /9999

 芋(野生種)     ×34 /9999

 木綿生地       ×50 /9999

 ハム         ×48 /9999

 干し魚        ×50 /9999

 アクアマリン     ×3  /9999 new!

 ??????の魂   ×1  /?

――――――――――――――――――――――


 期待を込めてインベントリを確認すると、なんとアクアマリンが3つも入っていた。

 すぐにパネルを操作して手の内に取り出して、それを空に掲げるとピオニーが隣にすっ飛んできた。


「なんですかっ、なんですかそれっ?! キラキラの水色のっ、お空を閉じ込めたみたいな石ですねっ!?」

「アクアマリン。水夫たちには船酔い除けのお守りとして、結構人気のあるやつだね」


「あっあっあっ、3つもあるですかっ!?」

「多分、大きな塊を掘り当てていたのかもね。だけどこれでインベントリがいっぱいになっちゃったから――」


「はいっ、そういうことなら任せるです! アクアちゃんはお家に。えっと、あとは……どーこーを、倉庫の前に持ってけばいいですかー?」

「そうだけど……。ねぇ、ピオニーってさ……」


「はいはい、なんでしょー?」

「本当に俺の心読んでいたりしない……?」


 彼女が慣れた様子でパネルを操作して、銅鉱石×3を自分のインベントリに。アクアマリンの結晶3つを俺の手から受け取った。


「ノアちゃん、そういう顔してたです」

「俺、そんなにわかりやすいかな……。まあいいか、じゃ、それお願い」


「はい、お任せを。それにしても、はぁぁ……っ、キラキラのピカピカで、吸い込まれちゃいそうですね……」

「一応言うけど、石に夢中になって転ばないでね」


「えへへ、保証はちょっとできないです。はー、きれーー♪」


 ピオニーに運搬をお願いして、俺は一段足元を削り取るとそこに下りて、石切り場の露天掘りを進めていった。

 ピオニーのアップグレードにはあのアクアマリンを2つ使おう。


 これでお気に入りのジェードとブルーベリルを消費せずに済んだかと思うと、作業の手が喜びに加速していった。


 いや、ところがしばらくすると……。


「ノア、ちょっといいか……?」

「あれ、クラウジヤ……? 採集に行ったんじゃなかったの?」


「うむ、ちょっと貴様に言いたいことがあってな、ワシだけ引き返してきたのじゃ……」

「ふーん、どうかしたの?」


 手を止めて振り返ると、クラウジヤは戸惑った様子でこちらから視線を外した。

 ブロードアクスを杖にして、よっぽど言いにくいのか渋い顔だ。


 彼女の落ち着いた水色の髪は、普段のパワフルな雰囲気に反して海のように清らかで、こうして静かにたたずんでいると不覚にもちょっとした美人に見えてしまう。


「言いにくいこと?」

「すまぬ、なかなかこう、喉から出てこぬのじゃ……」


「なら待つよ」

「うむ……」


 石材集めを再開すると、クラウジヤの喉から感嘆の声が漏れた。

 流し目を送ると、彼女はこの不思議な光景に見とれている。


「なんともビックリじゃな……。1つ切り出すだけで大仕事の石材を、そうもたやすく掘り出してしまうとはな……」

「同感だよ、こんなのデタラメだよね。……あ、ところでそろそろ急がないと、ピオニーが戻ってきちゃうよ?」


「うっ、そうじゃったな……」

「それだけ歯切れが悪いってことは、つまりは新しい頼みごと?」


「んなっ、なぜわかるのじゃ……っ!?」

「勘で言ってみただけだよ。状況的に他に思い付かないし」


 最初出会ったときは、人の家を乗っ取るなんて図々しいやつだと思った。

 だけど実際は逆で、クラウジヤはとても遠慮深かい人だった。


「頼み……頼みがあると言ったら、そなたは不快に思うじゃろうか……?」

「まさか」


「本当に、本当か……?」

「図々しいとは思わない。とにかく言ってみてよ」


「うん……」


 彼女は子供みたいに弱々しい声でうなずくと、しばらく黙り込んだ。


「ワシらにはぐれた仲間がおる……。その仲間をじゃな、今ここに残っているドワーフの男が、探しに行きたいと言っておるのじゃ……」

「ああ、それで歯切れが悪かったんだね」


 仲間を呼びに行くということは、ここにもっと多くのドワーフが住むということだ。

 加えて俺はヒューマンで、彼女たちはドワーフだ。助ける義理も理由もない。さぞや言いにくかっただろう。


「なあ、ノア……」

「何?」


「ワシらは足手まといにはならぬ……。助けてもらった恩は、必ず返すつもりじゃ! じゃから仲間を、仲間が見つかったら、ここに……ここに置いてやってくれ……。お願いだ、どうか頼む……」


 クラウジヤは誇りや虚栄心を捨てて、石の大地にその額を擦り付けた。

 名誉よりも仲間の幸せを優先した。それだけの力がノア・ウィンザーラットにあると期待してくれた。


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