表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/64

・開拓5日目 帰ろう

 こうして俺はインベントリいっぱいまで物資をかき集めて、帰りはホロ馬車の中に隠れてポート・ダーナの東の門を通った。


「通してくれるかしら?」

「ああ、貴女も大変ですね、シスター・リンネ。どうぞお通り下さい」


「ありがとう。今回はちょっとそこまでだから、すぐ戻るわ」


 顔が利くというのは本当だった。

 シスター・リンネは枢機卿の協力者で、鍛冶屋で武器を作らせたりと、シスターの業務から著しく逸脱した仕事をこなしていた。


「しゅごいですね、リンネさん! 今の見ましたか、顔パスですよっ、顔パス!」


 インベントリからピオニーを外に出してあげると、第一声がそれだ。


「そうだね。たった半日でこちらが欲しい物資を取りそろえてくれただけでも、生半可な有能さじゃないよ」

「ふふっ、かわいい2人にそんなにおだてられたら照れちゃうわ」


「かわいいは余計だよ」

「私はわかりますよ! ノアちゃんは、ちっちゃくてかわいいです!」

「……フフ、そうね♪ アタシもそう思うわ……フフフ♪」


 シスター・リンネの返事は、場違いな恍惚と愉悦が入り交じっていて少し怖かった。

 裏があり、そのまた裏があり、さらに裏がある。まるでタマネギみたいなシスターだ……。

 しばらくするとロバ車が止まり、外に出てみるとそこは森林の中だった。


「この辺りでいいかしら?」

「十分だよ」

「ありがとうございます、リンネさん! おかげで帰ったら、美味しいパンが焼けちゃいますよ!」


「焼き肉パーティならぬ、焼きハムパーティだってできちゃうな。……ありがとう、シスター・リンネ」

「いいのよ。ただ……ん、んん……」

「どうかしたですかー?」


「ふふふっ、ちょっとだけ、2人に付いていきたくなっちゃったわ♪ こんなにかわいい子たちと別れるなんて、とても寂しいわ……」

「ひっ……?!」

「ひ? 今、ひって言ったですか?」


 男なら本来喜ぶはずの美人の抱擁に、俺は情けない悲鳴を上げていた。

 鼻息が荒い……。抱擁が長い……。年上の成人女性がグリグリと豊かな胸部を顔の下に押し付けてくる……。


「そっちで暮らせなくなったら、いつでもアタシのところにきていいのよ? あなたの面倒は、アタシが見てあげるわ」

「あ、ありがとうございます……。そうならないようがんばりますので、そろそろ……は、離して……」

「次はピオニーの番ですよっ! カモーンッ、リンネさーんっ!」


「ピオニーちゃんっ!」


 シスター・リンネは俺を解放すると、ためらうことなくドット絵生物ピオニーを抱き締めた。

 彼女は多少おかしな部分もあるけれど、とても愛情深い女性だった。


 俺たちは彼女に別れを告げて、いつまでも見送られながらポート・ダーナの街を離れていった。

 いつまでもいつまでも、彼女は俺たちを見つめて振り返らなかった。


「はーー。素敵な人でしたねー」

「そうだね。本気で俺のことを心配してくれた人、あの人がこっちで初めてかもしれない……」


「えーーーーっ?! えーっ、えええーーっ?!」

「なんだよ、急に?」


「私はっ!? 私もノアちゃんのこと心配してますよーっ!? ノアちゃんがちゃんと荒野で生き残れるのか、心配で助けてきたですよーっ!?」

「……ああ。ごめん、確かにそうだね。ピオニーにも助けられっぱなしだ」


 ピオニーが人かどうかは、かなり判断に迷うところだけれど……。


「へへへー、わかったのなら別にいいですよ。さあ、お手手繋いでいきましょう!」

「それはガキっぽくて嫌」


「平気ですよー、ノアちゃんと私ならー、微笑ましい以外の感想は出てこないですよー?」

「はぁ……」


 俺たちは遙かなる自宅を目指して、太陽を背に西へと続く街道を歩いていった。

 ……どうしてもしつこいので、仕方なくピオニーと手を繋ぎながら。


「な、なんだあれはっ?!」

「絵が! 子供が絵と手を繋いで歩いているぞっ?!」


 ただ、ピオニーの足が疲れるまでずっと、とはいかなかった。

 しばらくすると正面からキャラバン隊が通りがかり、ピオニーと俺を発見して叫び声を上げた。


「大変ですノアちゃん、絵が歩いてるんですって!」

「いや、あのね? 彼らはピオニーのことを言ってるんだと思うよ……?」


「へ? ピオニーは、厳密には、絵じゃないですよ? 生きてますよー?」

「向こうはそうは取らないだろ……」


 残りの旅は結局、食事以外はピオニーをインベントリに入れっぱなしのマラソンの旅になった。


――――――――――――――――――――――

 アイアンインゴット  ×100/9999

 木綿生地       ×50 /9999(購入) new!

 小麦粉        ×200/9999(購入) new!

 ハム         ×50 /9999(購入) new!

 干し魚        ×50 /9999(購入) new!

 砂糖         ×50 /9999(購入) new!

 精製塩        ×50 /9999(購入) new!

 オリーブ油      ×23 /9999(購入) new!

 ツルハシ       ×1

 ピオニー       ×1

 (食べ物に囲まれてピオニーはとても喜んでいる!)

 ??????の魂   ×1  /?

――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――

【所持金】32820 → 2120ルーン

―――――――――――――――――――――


 ついつい食べ物が増えてしまった。余剰分はグレイアークで卸して少し稼ごう。

 発展したポート・ダーナでの生活を捨てて、あの何もない土地に戻る必要があるか?


 そう聞かれたら少し迷うところだけれど、きっとある。

 あそこには俺たちの作った家があり、蓮の咲く池があり、実りを結ぶ畑がある。

 俺たちは住みよい我が家に帰らなければならなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ