・開拓5日目 裏の裏の裏のあるシスターとのお買い物
聖堂でホロ付き1頭立てのロバ車を借りて、買い物のために街へと出た。
そこでまず連れて行かれたのは市場ではなく、一帯の生産拠点である職人の街だった。
「どうしたの、ノアくん?」
「……いや、その姿を見ていると昨晩とのギャップがちょっと」
「酒場のこと? あのことは内緒にしてね。枢機卿と一部の人たちにしか伝えていないことだから」
「仮にあの酒場女と同一人物だと言われても、俺にはとても信じられないよ。その姿は全くの別人だ」
まず真っ先に確保したいのは精錬された金属だ。
これがあればクラフトを使って井戸を作れる。井戸があれば綺麗な水が飲めて、畑もそれだけ健康になる。当然料理も美味しくなる。何もかも良いこと尽くめだ。
そこでリンネさんに相談すると、市場で買うよりも職人から直接買うことを勧められた。
「なら、どっちが本当のアタシか、ノアくんにはわかるかしら?」
「……さ、さあ? まだ知り合ってそんなに経っていないし、そんなことわかるはずないよ」
酒場女もシスターも、どちらも仮面だとは言えない。
実は昨晩起きていて、荒ぶる鼻息に怯えていたと伝えたら取り返しが付かないと、そう俺の本能が叫んでいる。
「それにしても驚いたわ! まさか枢機卿と知り合いだったなんて!」
「ただの顔見知り程度だよ」
「嘘よ」
「本当。一応、ウィンザーラッド家は家柄だけは高かったから、こっちを覚えていてくれたみたい」
「ふ~ん……。でも、なんでそんな貴族様が、このアウクストリスにいるの?」
「それは秘密」
「秘密? なら教えて?」
「嫌だよ。絶対に言わない」
Sクラスの加護に慢心して、弟に負けただなんて言えない。
「あら、そこまで拒まれるとかえって気になるわ。確か枢機卿は『私ならSクラスの加護持ちを捨てたりなどしない』って言ってたわよね」
「リンネさんは記憶力がいいね」
「あれはどういう意味?」
「さあ?」
「もう、こっちは心配して聞いているの! 本当に、親に捨てられてしまったの……?」
「リンネさん、お節介って言われるでしょ?」
「はぐらかさないで」
「あちらではなぜか加護の力が発動しなかったんだ。それでこっち行きの船に乗せられた」
「そう……酷いお父さんね……」
「ありがとう、慰めになるよ」
そこでふと思った。
本当になぜ、こちらの大陸に渡ってきて急にこの力が使えるようになったのだろう。
世間の人はこういうのを運命だと解釈するだろうけど、理由が知りたい。
ところがしばらく考えに没頭していると、俺たちは一際大きな鍛冶屋にやってきた。
「おや、リンネさん。武器の納品なら来月のはずじゃなかったか?」
「ふふふ、今日はそっちじゃないの。この子がアイアンインゴッドが欲しいんですって」
「ほー、お使いか、偉いなぁ小僧! それで何本いるんだ!?」
「1本いくら?」
「250ルーンだな」
「なら100本買ったらいくらに負けてくれる?」
「おう、100本なら……ひの、ふの、み……100本っっ?!!」
投資をするなら金属だ。何に付けても必要になる素材なので、今度用途が増えてゆくはずだ。
「100本で2万ルーンくらいにならないかな?」
「お、おう……まあ、それでいいけどよ……。金あるのかよ、お坊ちゃん? それにそのロバで、インゴッド100本も運ぶつもりか……?」
商談成立。もう少し足下を見てもよかったけれど、まあ今後を考えるとこんなものだろう。
「こう見えて、このロバは神様の加護付きロバなんだよ」
「ふふふ……そうなんですよ」
大金貨2枚で支払いをして、インゴッドがホロ馬車の中に積載された。
「なぁ、そのロバ本当に大丈夫か……?」
「まあ見ててよ」
狭いホロ馬車の中に入り込むと、俺はインゴッドを指先でペチペチと軽く叩いた。
金属が銀色の光となって俺の中に消えてゆく。瞬く間に馬車は空っぽになっていた。
「おい、なんか光ってないか……?」
「気のせい気のせい。シスター・リンネ、お願い」
「では、またお会いしましょう」
「んなぁっ?! こりゃすげぇっ! このロバ、なんか馬車を光らせた上に! インゴッドの山と小僧を軽々と引いてやがるぞ!?」
「神だ、神のロバが現れた!」
「おおっ、ゴッドロバ! なんと神々しい!」
鍛冶屋の連中が口をあんぐりと開けて俺たちを見送る姿は、イタズラとしてなかなかに愉快な光景だった。
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アイアンインゴット ×0 /9999
→ ×100(購入) new!
ツルハシ ×0
→ ×1(ついでに購入) new!
ピオニー ×1
??????の魂 ×1 /?
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【所持金】52440 → 30120ルーン
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その次は木綿生地を買った。
続いて港側の風車の方に下っていって、そこで小麦粉を買い込んだ。
焼きポテトばかりの生活はバランスが悪くて不健康だ。
「どうなってるんだ、そのロバ……?」
「実はこれ俺の手品なんだ。それでは皆さん、ご機嫌よう」
「待ってっ、種明かしは!?」
「もちろんないよ」
鍛冶屋でやったのと同じ要領で小麦粉袋をインベントリに移して、俺たちは颯爽と風車を去った。




