コミカライズ第三巻、発売記念番外 メロディアとディートリヒの、ナイトルーティン
夜、私が狼の姿になると、ディートリヒ様は毎晩のように散歩に連れて行ったり、ボール遊びをしてくれたりする。
なんでも、ディートリヒ様が犬だった時代も毎晩のように散歩をし、遊んでいたので、習慣のようなものらしい。
そんなわけで、私達は夜になると、一時間から二時間の間、庭で過ごしているというわけだ。
今日は、お昼から夕方にかけて、酷い雨だった。今は止んでいるものの、庭は水溜まりができているのだろう。
こういう日は、庭が乾くまでお預けとなってしまう。
しかしながら、今日は違った。
「メロディアよ、今日は雨だったが、外で遊ぼうか!」
「わう、わうわう?(大丈夫なの)」
「ああ!」
狼の姿になると、私は喋ることができなくなる。けれども、ディートリヒ様は私が何を言いたいのか、だいたいわかるらしい。声色や表情で判断しているようだ。
「たまには、どろんこになって遊ぶのも楽しいだろう」
「わう!(ええ)」
どろんこと聞いて、わくわくしてしまう。
狼の姿になると、思考が犬寄りになってしまうのだ。
ディートリヒ様は撥水コートをまとい、私は大型犬用の雨具が着せられる。
庭は思っていた以上に、水溜まりができていた。
最初は避けて歩いていたのだが――。
「メロディア、見ていろ」
そう言って、ディートリヒ様は水溜まりの中へジャンプした。
水しぶきが上がり、靴どころかズボンまで濡れてしまう。
洗濯メイドが見たら悲鳴をあげそうだが、どうしようもなく楽しそうに見えた。
「メロディアもやってみろ」
「わう!」
ディートリヒ様がしていたように、水溜まりに飛び込む。すると、水が面白いくらい跳ね上がった。
「楽しいだろう?」
「わうう」
「犬時代、雨上がりによくしていた遊びだ。メロディアにも教えようと思ってな」
「わう」
それで、誘ってくれたのかと納得した。
「メロディア、あっちに大きな水溜まりがあって――」
「ごっほん!!」
私達のあとに続いていたルリさんが、大きな咳払いをする。
あまり汚れるような行動をするな、と圧をかけているのだろう。
空気が読めるディートリヒ様は、「やはり、広場へ行こうか」と言ってくれた。
それから、私達は濡れた芝生の広場でボール遊びをした。
「ほら、メロディア、取ってこい!」
「わう~~~!」
濡れた芝はつるつる滑るので、いつもより早く走れるような気がする。
勢いあまってボールを取り逃したときは、いつもより遠くに飛んでしまうため、取りに行くのが大変だ。
それすらも、楽しんでいるのだが。
雨上がりの庭で、私とディートリヒ様はきっちり二時間遊び回ったのだった。
雨具を着ていたのに、全身びっしょりである。どろんこでもあった。
私はルリさんを振り返り、謝罪する。
「わううううう」
ルリさんは気にするな、とばかりに会釈を返してくれた。
「そうだ! メロディア、私が体を洗ってやろうか?」
ディートリヒ様のまさかの提案に、目が点となる。
「一緒にお風呂に入ろう」
「わ、わうううう(それだけはご勘弁を!)」
いくら夫婦とはいえ、一緒にお風呂に入るというのは恥ずかしい。
涙目で見上げると、ディートリヒ様は私の気持ちを察してくれたようだ。
「メロディア、すまない。無神経な提案だった」
「わう、わうう(どうか、お気になさらず)」
ディートリヒ様は「いいや!」と首を横に振り、私の前にしゃがみ込んだ。
「犬の姿であれば、共に入浴するのも問題ない、と思っているところがあった。私が愚かだった」
「わううう」
犬の姿でも、一緒に入浴なんて大問題である。
それに気付いてくれて、本当によかった。
「メロディアは私が犬の姿でいるときも、ひとりの男として接してくれたな。あれがいかにすばらしい行動だったか、今になって痛感する」
ディートリヒ様は犬の姿でも喋ることができたので、ひとりの紳士として接することができたのだろう。
私の場合は見た目も発する鳴き声も犬そのものなので、見方が変わってしまうのも無理はない。
「どんな姿であろうと、メロディアはメロディアだ。世界一愛らしい女性として、大切にしたい」
ディートリヒ様は泥だらけとなった私の前足を握り、優しく微笑みかけてくれた。
言葉にならないが、わうわう言って感謝の気持ちを伝える。
その後、私達は別れ、各々入浴する。
私はルリさんに全身磨かれ、きれいな犬になった。
今日はいい夜だった。ルリさんから体を拭いてもらいながら、改めて思ったのだった。




