天罰
誰からの電話かはわからなかったが、たぶん舞さんが怪我をしたという連絡だと思われた。
最近、和人が自分に冷めてしまったのではないかと不安だった。
前より会えなくなったことや、夜連絡してもあまり返ってこないこと、一緒にいてもあまり笑ってくれなくなったからだ。
同棲の話も、喜んでくれると思った。
正直、今も不安だ。
それでも、待ってるくれるかと聞いてくれたことで少しだけ安心できた。
それに、和人と交わした唇はいつも通り温かかった。
「待ってるからね…和人」
結局眠れずそのまま朝になってしまった。
今日が休みだったらよかったが、あいにくきっちり朝から夜まで仕事だ。
でも休みの日だと和人からの連絡がきになって一日中そわそわしてしまうだろう。
それなら仕事をしていた方がいい。
いつも通り、仕事をこなそう。
しかし、和人からの連絡は仕事が終わってからもなかった。
何度かこちらから連絡はしたけど、返ってはこなかった。既読にもならない。
不安がまた押し寄せてくる。
もし…舞さんとまた戻ってしまったら。
その考えを頭から消したくても消えてはくれない。
ついこの間までは毎日笑って幸せに過ごしていたのに。
大丈夫だよね。戻ってくるよね。
何度も自分に言い聞かせた。
「夕夏ちゃん?」
「大島先生ーーどうして…」
「今日1日元気なかったから心配でつけて来ちゃった。ごめんね」
大島先生の顔を見たら不安だった気持ちが一気に溢れ出してくる。
駄目だと思っても次々に瞳から流れる涙。
「なにかあったんだね」
そっとハンカチを差し出した。
夕夏はそれを受け取ると小さく頷いた。
誰かに聞いてほしい。大丈夫だよ、って言って欲しい。
ただ1人で待つ時間はーーーとても辛い。
「少しどこかで話そうか」
***
お店に入ってからというもの夕夏は何も言葉を発せずにいた。
何から話せばいいのか。
そもそも何がどうなっているのか。
何も知らない。
「ビール頼むけど、夕夏ちゃんは?」
「…じゃあ、お願いします」
少ししてビールが二つテーブルに置かれた。それを乾杯はせずに口に含んだ。
今日はビールが美味しくない…気持ちがこんなんだからだろうか。
お酒が少し入ってようやく話せそうになり、少しずつ話し始めた。
最近突然彼が冷たくなったこと、かと思えばすぐにいつも通りになったこと、そんな時に元カノが怪我をしたという電話が誰かからかかってきて行ってしまいそれっきり連絡がないこと。
「今どこにいるのかもわからないの?」
「はい。もしかしたら明日連絡来るかもしれないし早とちりだと良いんですけど…」
「家に行くのは?」
「…怖くてできないです」
「じゃあ、日曜日までに連絡なかったら一緒に行こうよ。2人なら行けそうでしょ?」
「でも…」
「明日には連絡くるかもしれないし、万が一の時にってことでさ。あんまり思い詰めてると、どんどん悪い方向にいっちゃうよ?」
どうしてこんな私に優しくしてくれるのだろう。その優しさが今はすごく救われている。こんな時1人だったら耐えられそうにない。今目の前に大島先生がいてくれるから、私は少しだけ強くなれているんだと思う。
「前にも言ったけど…夕夏ちゃんが悲しい顔してたら放っておけないんだ」
「お人好し」
その日初めて笑うことができた。
信じて待とうと思った。きっと私の早とちりだって。明日の朝には普通に連絡がきて夜には泊まりに来ている。いつものように2人でご飯をたべて愛しあって朝は布団の中でおはようって笑いあう。きっとそんな毎日に戻ると思っていた。
だけれど、和人からの連絡は日曜日になっても来ることはなかったーーーーー




