表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

偽装の余白【第5章:余白に残るもの】

 2025年10月15日、神谷圭吾は沈黙を続けていた。

 出版社は装丁大賞の受賞取り消しを検討し、複数の契約は打ち切られた。

 業界内では「神谷は終わった」という声が囁かれ始めていた。


 神谷は、自宅の書斎にこもり、過去の作品を見返していた。

 その中には、遥の作品を模した装丁もあった。

 彼は、初めてその作品を前にして、真正面から向き合った。


 「これは、私のものではなかった。」


 その言葉を、誰にも聞かせることはなかった。


 一方、三浦拓真は、遥の遺族から一冊のノートを託されていた。

 それは、遥が大学生活の中で綴っていた創作ノートだった。

 装丁案、色彩設計、文字配置の試行錯誤——そして、日記。


 三浦はページをめくりながら、遥の声を聞いていた。

 そこには、彼女の創作への情熱と、孤独と、希望が詰まっていた。


 佐伯遥の遺稿(2025年9月25日)

 |作品を作ることは、私にとって生きることだった。

 |余白は、沈黙じゃない。

 |誰かに語りかけるための、私の声だった。

 |もし、誰かがこのノートを読むなら——

 |私の作品を、私の名前で呼んでください。


 2025年10月20日、週刊誌『現代視点』は続報を掲載した。

 三浦の署名記事には、遥の遺稿の一部が引用されていた。

 記事の末尾には、こう記されていた。


 「彼女の作品は、誰かの栄光のためにあったのではない。

  それは、彼女自身の魂のかたちだった。」


 SNSでは、遥の作品が再評価され始めた。

 大学では、彼女の展示作品が常設展示として保存されることが決まった。

 小さな展示室の白い壁に、彼女の作品は再び貼られた。

 今度は、しっかりと名前が添えられていた。


 神谷圭吾は、業界から姿を消した。

 だが、遥の作品は残った。

 それは、誰にも奪えないものだった。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ