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家族に会いに

「はい、ではこれで『鉄級下位』に昇格となります!」

「ありがとう、ユーリ」


 副マスターが言っていた『特別昇格試験』というのは、どうやら『銀級中位』以上の資格を持つ冒険者との戦闘試験のようだった。一対一での模擬戦闘を行い、その戦闘能力が認められれば、『鉄級下位』に昇級することができる。

 何でも、『銅級』は戦闘経験のない子供や冒険者を副業とする人間のためにある等級のようなもので、私のように登録前から戦闘能力を有する人間や、傭兵を経験していたような人間には相応しくないのだと。だから、そういった人間をすぐに『討伐依頼』等が受けられる『鉄級下位』にするための制度が、『特別昇格試験』なのだと。


 私の試験を担当してくれたのは丁度依頼を達成して帰ってきたばかりの『銀級上位』の冒険者で、若者のためならばと快く引き受けてくれた。問題があるとするなら、その冒険者の実力を見誤って、遠慮なく打ちのめしてしまったことくらいか。後で恨まれなければいいが。


「おめでとう、リリエル」


 試験を見学していたウィルが、冷たい飲み物を手渡し、祝ってくれる。その後ろには、呆れたような表情のヴィアーネと、呆れを通り越して諦めたようなサリアの姿があった。

 皆まで言わなくてもいい。言いたいことは分かる。でも私にだって言い分はある。あれでも手加減はしていたんだ。試験官である冒険者が魔法使いで、攻撃力に特化しているから防御魔法が得意ではないなんて、前情報にはなかったんだ。


「おめでとう。『銀級上位』の冒険者をあれほど軽々と吹き飛ばすとは思わなかったけど。王都ではこれが普通なの……?」

「普通なわけないじゃないですか。リリエルさんがおかしいだけですよ」

「おかしいとか言うな」


 私はこれでも、常識人である自覚はある。伊達に転生してないからね。この時代の知識こそ少ないものの、良識まで捨てた覚えはない。つまり、あれは単なる事故だ。


 それから、ウィルから貰った飲み物をエミリィと二人でちびちびと飲みながら、三人と雑談を交わす。しばらくして、飲み物が空になった頃合いを見計らって、ウィルは言った。


「で……二人はこれからどうするんだ? 俺たちは一度、家に戻るけど……街の案内が必要なら、俺たちが手伝おうか?」


 さて、どうしたものか。確かに街の案内をしてもらいたい気持ちはあるけれど、エミリィの家族と顔合わせをするなら、その間待ってもらうのは気が引ける。主要施設だけでも案内してもらおうか?


 いや、三人にも休息や装備のメンテナンスの時間は必要だろうし、これ以上連れ回すのも酷な話か。それほど急ぐ用事もないし、エミリィと二人、のんびり行くとしよう。


「ううん。エミリィの家族にも挨拶したいし、私たちのペースで散策するよ」

「そうですね。何かと寄る場所も多いですし」

「そうか。ま、冒険者としてこの街に残るなら、嫌でも顔合わせることにはなるだろうけどな」

「はい。今生の別れというわけでもないですし」


 エミリィはおろしていた荷物を背負い直し、準備を整える。今日のところは一旦、これでお別れだ。


「短い間だったけど、世話になったな。明日からも同業者としてよろしくな」

「お二人とも、今日はゆっくり休んでくださいね」

「何か困ったことがあったら、いつでも頼ってね。といっても、あなたなら心配ないでしょうけど」

「うん。こちらこそありがとう、皆」

「お世話になりました、『紅月』の皆さん!」


 そうして、私たちは『紅月』の面々と別れた。良い人たちと縁を作れたものだと、自分でも感心する。彼らみたいな人ばかりなのだとしたら、冒険者という職業は素晴らしいな。




 それからさらに数時間後。評判の良い宿で部屋を借り、荷物を預けた私たちは、エミリィの案内のもと彼女の祖父母の家へと向かっていた。商業区画から少し離れた場所にある小さな一軒家。そこに、彼女の家族は暮らしているらしい。

 

「ここです。長いこと帰っていませんでしたけど、変わりありませんね」


 帰らなかったというか、帰れなかったというか。他の従者から疎まれていたエミリィが簡単に休みを取れるはずもなく、この家に帰ってくるのは実に五年ぶりとのこと。私がもっと気を遣ってあげられればよかったんだけど、生憎、この記憶を取り戻したのは一ヶ月ほど前のことだ。それより前の気弱な私が、他の誰かに意見できるはずもない。


 古びた木の扉を懐かしむように眺めるエミリィ。彼女が扉を三度叩くと、中から痩せ細った女性が現れた。エミリィと同じ、茶色い髪の女性だ。


「はいはい、どちら様ですかね」


 女性はこちらを見上げ、そして、エミリィの顔を見るなり硬直する。


「おやおや、まあ……! エミリィ、元気だったかい!?」

「うん……久しぶり、おばあちゃん」


 二人は感極まって涙を流しながら抱き合った。ものすごい邪魔者感があるが、新しい雇い主として、この場から立ち去るわけにはいかない。


「あんたが帰ってくるなんて……そちらの方は?」

「私の今の雇い主で、リリエルさん。冒険者なの」


 少しの間抱き合ってから離れたエミリィは、一歩下がって私を紹介する。私は片手を腹の前に添えて頭を下げた。


「初めまして、リリエルです。アクアレアに移住してきたので、ご挨拶にと」

「あらあら、ご丁寧に……私はエミリィの祖母のカトレアと申します」


 カトレアさんは浅く頭を下げて名乗ると、『はて』といった風に、僅かに首を傾げた。


「リリエルさん……リリエルさんといえば、もしやエミリィがお仕えしていた貴族の方では?」

「ちょっと事情があってね。詳しい話がしたいんだけど、皆はいる?」

「いるさいるさ。ほら、中へどうぞ。リリエルさんも」

「はい、お邪魔します」


 カトレアさんに促され、家の中へと踏み入れる。きしきしと木の軋む音と、何やらわいわいと騒がしい子供たちの声。先を進むカトレアさんについて歩くと、小さな居間のような部屋に、エミリィの祖父らしき男性と、私の姿を見るなりぴたりと静かになった三人の男の子。


 なるほど。これがエミリィの家族たちか。

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