その11
神仏無は両手の拳銃の銃口を真一文字と北條から自分に向かってくる月鏡へ反射的に向ける。上空の月鏡に気を取られたとはいえ、その瞬時の動きを二人は見逃さなかった。
「ショーグン!!」
「このモブ野郎がああ!!」
いつもの余裕は何処へいったのか。らしくないくらい怒りの感情むき出しの神仏無は両手に握った拳銃の引き金を弾こうとする。しかしそれよりも先に2発の銃声が響いた。銃声と共に神仏無が前のめりに体勢を崩す。
「がっ…!?な、何ぃ……?」
神仏無の両肩から血と白煙が噴き出す。真一文字と北條が放った銃弾がそれぞれの肩に命中したようだ。それでも神仏無は足掻きとばかりに月鏡に向かって一発を撃ち込む。銃弾は月鏡の頬を掠めたが、月鏡は怯むことなくそのまま神仏無へ体当たりした。凄まじい衝撃とジェット噴射の焦げる臭いが辺りに立ち込める。
「ぐううう!!」
「がはあああ!!」
月鏡と神仏無は同時に呻いて広場の奥の方へと吹っ飛んでいった。その様子を見て北條と真一文字は慌てて二人の元へと駆けていく。
「ユーシュー君!」
「月鏡さん!」
月鏡と神仏無は激突の衝撃で出来た小さなクレーターの中に倒れていた。黒煙が上がる中で二人が小さく息をしているのを確認すると、真一文字は急いで救急隊を無線で呼ぶ。
「ユーシュー君!大丈夫??」
北條が神仏無に覆いかぶさるように倒れている月鏡に駆け寄ろうとすると、月鏡は上半身をゆっくりと起こした。顔は煤だらけで真っ黒だが、何とか意識はあるようだ。
「ち、千奈津さん」
「良かった…すぐに救急隊が来るからね!!」
北條が月鏡に手を差し伸べようとする。月鏡が手を伸ばすと月鏡の後ろからククク…と神仏無の諦めに似た笑い声が聞こえた。
「……派手にやってくれるじゃないか…さすがの私もやられたよ。まさかタワーの天辺から此処まで追いかけてくるとはな」
「ショーグン…」
「…………チィ、仕込んでおいた頼みの高性能電磁パルス装置の起動装置はこのザマだ。今度ばかりは完全に私の負けみたいだな」
クレーターの中で倒れたまま、神仏無は衝撃でボロボロになった自身の右手を見ている。起動装置が壊れたことで、どうやら最悪の事態だけは免れたようだった。月鏡は北條の肩を借りるとゆっくり立ち上がり、神仏無を見据えた。
「貴様ごときに、私が敗北するとはな。………貴様は何なのだ?私にとっては只のモブ以下、イレギュラーに過ぎないはずなのに。何故こうも私を苛立たせる?」
「何を言っている?俺こそアンタに人生を狂わされたんだ。これでもまだ足りないくらいだ」
「フン、私こそ貴様に全てを狂わされた。貴様が千奈津を…私から奪ったから…」
「??千奈津さんを?」
月鏡はハッとして横の北條に視線を向ける。タワーで見た機械的な表情とはまるで違っている。北條の顔からは神仏無に対する怒り、軽蔑、失望、憐れみといった感情が折り重なっているように見えた。しばらくすると北條は右手に握った拳銃を未だ倒れている神仏無へ向けた。
「私は…貴方の、道具じゃないし、兵器でもない。私は一人の人間だから…」
「ククク…笑わせるな。何人もの命を奪ってきた癖に、今更善人面か?」
「…今までありがとう。ショーグン、さようなら」
北條がトドメの引き金を弾こうとした時、咄嗟に月鏡が北條の右手を掴んだ。照準を狂わされた銃弾は明後日の方へと飛んでいった。
「ユーシュー君!?」
「だ、ダメだ。千奈津さん、やめてくれ…もう沢山だ」
月鏡は北條の顔をじっと見つめて懇願する。これに驚いたのは神仏無の方だった。
「なっ…?どういうつもりだ?私を助けるとでも言うのか?」
「勘違いするなよ、ショーグン。アンタの思い通りにはさせないってことだ。千奈津さんにアンタを殺させることは許さない」
「……グッ…何だ?今度は英雄気取りか?偽善者が!モブ同然のカスが!!」
「その言葉、アンタに返してやるよ。アンタこそ裸の王様じゃないか。何がショーグンだ?「バクフ」だ?世界のパワーバランスを変えるだ?下らない!!モブとか言ってる俺たちを勝手に巻き込んで戦争ゴッコしたかっただけじゃないか、このゴミカス以下の偽善者野郎!!」
月鏡はそう吐き捨てると、呆然としている北條を促して広場へなだれ込んできた救急隊の元へと歩いていく。一方でショーグンというカリスマの化けの皮がはがれた神仏無は動けないまま月鏡に呪詛の言葉を吐いていたが、武装した機動隊に取り囲まれると、さすがに大人しくなった。救急隊によって神仏無が担架に乗せられると、真一文字が寄ってきた。
「…残念だよ、若彦。こう言う形で終わるなんてな」
「…フッ、良かったじゃないか…これでお前も出世できるだろ?」
「逆だ。身内がこうなった以上、私は公安を去る」
「フン、好きにしろ」
「……復讐をしたところで何も変わらないだろう。ひょっとしてお前自身どうしてこういう行動を起こしたのか分かっていなかったんじゃないか?目的と手段が迷走した結果がこれだったんじゃ…」
真一文字は神仏無に語りかける。しかし神仏無はクククと嘲笑うと、僅かに動く右手で中指を真一文字に向かって突き立てた。
「私からの答えはこれだ」
勝ち誇ったように笑いながら神仏無は救急車に乗せられていく。そして周りを武装した機動隊らに囲まれながら連行されていった。




