その11
翌日の早朝、神仏無は「バクフ」の構成員を数人引き連れて既に閉鎖された空港跡地へ車を走らせた。空港跡地は建物こそ廃墟となっているものの滑走路そのものは残されていた。滑走路は所々アスファルトの間から雑草が生えているが、飛行機が離着陸するには十分な距離がある。
神仏無は空港跡地に到着すると腕時計の時間を見た。廃墟と化した管制塔は今にも倒壊しそうなほどボロボロになっている。一方で他の構成員たちは訝しげに辺りを見回していた。
「ショーグン、本当に此方で間違いないでしょうか?」
「…問題ない、はずだ。だが、予定時刻になってもまだ先方が来る様子がない」
「もしも罠だったら…?」
「私を信用してないのか?」
ごねる構成員に対して神仏無が苛立ちを露わにして睨み付けた。神仏無の凄みに怖気づいたのか、構成員が慌てて首を振る。神仏無は自分を落ち着かせるように長い溜め息を付くと再び腕時計に目をやった。
それからしばらくすると東の空が明るくなり始めた。そして朝の光の向こうから飛行機の両翼の光と共にエンジン音が聞こえてくる。目を凝らすと小型のプライベートジェットであることが分かった。
「遅刻だな」
神仏無はニヤリと不気味な笑みを浮かべる。何処となく余裕のある神仏無とは対照的に構成員たちはプライベートジェットに刻まれたシンボルマークに驚愕していた。
「ショ、ショーグン。あのマークはよもや…」
「間違いない。キングスカンパニーのロゴマークだ」
「何故キングスカンパニーのプライベートジェットが此処に来たのですか?!」
「サザンカめ…既にキングスカンパニーに潜り込んでいたか」
神仏無と構成員たちが話している間にプライベートジェットはゆっくりと降下し、着陸体勢に入った。管制塔はとうの昔に機能していないが、ジェット機は慣れた様子で降りてくる。そして滑走路に近づくと車輪を出して無事に着陸した。
「ゆくぞ、姫君のお出ましだ」
神仏無は到着したばかりのプライベートジェットへ一人歩み寄っていく。慌てて構成員たちも神仏無の後へと続いていった。神仏無たちがジェット機の近くまで寄ると、ゆっくりとハッチが開きタラップが降りた。神仏無たちの動きが止まる。
タラップから顔を覗かせたのは長い黒髪の美しい和装の女性だった。女性は若々しく、肌も艷やかで正に大和撫子といっても大袈裟ではない可憐な容姿をしている。女性の姿を見て、神仏無を除いた全員が息を飲む。
「久しぶりだな、サザンカ。変わりなさそうで何よりだ」
口火を切ったのは神仏無だった。サザンカと呼ばれた和装の女性はニコリと笑うと、タラップを降りて神仏無に軽く頭を下げた。
「貴方は大分変わったわね、ショーグン。随分痛々しいじゃない。生身の身体はほとんど無いんじゃないかしら?」
「フッ…名誉の負傷といってほしいものだな」
神仏無に対してサザンカは軽口を叩いてサイボーグと化した神仏無の身体のあちこちに触れた。構成員たちは余りにも恐れ多い行為に冷や汗をかいている。だが神仏無は動じることなく、サザンカと話を続ける。
「何故君がキングスカンパニーのプライベートジェットに乗ってきたんだ?今更何の用があってきた?」
「用件は二つよ。一つはキングスカンパニーとの取引のこと。先日の「ウロボロスの終末」事件のことは知ってるわね?」
「まあな。だが流石にこれ以上キングスカンパニーと取引を続けるのは危険だ。訳の分からない連中のせいで芋づる式に我々のことが知られたら脅威だ。やむを得ないが、キングスカンパニーとはこれまでだ」
「社長からの言伝で来たのよ。トリプルE社の数倍は払うから取引は継続してくれ、とね」
サザンカの言葉に神仏無は眉をしかめた。何処か足元を見られたような感じであからさまな不快感を示している。
「何故だ?「ウロボロスの終末」とやらのせいでキングスカンパニーは相当な痛手を被ったはずだが?」
「あれは不幸な事故よ。全ては社長が進めていたプロジェクトが不幸な方向へ転がっただけ。それに安心して。もう解決へ話は進んでいるから」
「何?」
「事故の当事者や責任者は既に消したわ。証拠も一切残していない。後は世論だけど「ウロボロスの終末」のせいにしてキングスカンパニーは一貫して被害者の立場になっているから」
「…なるほど。君がその片棒を担いだ訳だ。このプライベートジェットのことも納得した」
神仏無は嘲笑するようにプライベートジェットに刻まれたキングスカンパニーのロゴマークを見つめた。
「で?もう一つの用件は何だ?」
「此方の方が貴方にとって深刻よ。奴等が動き出した。これは警告よ」
「………まさかだが、心当たりがある」
神仏無の顔つきが真剣味を帯びた。サザンカは神仏無の耳元に近づくと一言囁いた。
「L.O.S.T」
「……全く。都市伝説の類いかと高を括っていたが、実在するとはな」
「気をつけて。奴等はずっと前から貴方を追い掛けている」
真剣に話す神仏無とサザンカを見て落ち着かないのか構成員たちはソワソワしている。だが構成員たちの心配を他所に神仏無はサザンカに笑みを返した。
「そんなこと今更関係ない。「ウロボロスの終末」だろうが、「L.O.S.T」だろうが、私の前に立ちはだかる者は何人たりとも始末するのみ」
「流石、それでこそショーグンね」
サザンカもまたニヤリと神仏無に笑い掛ける。だがその笑みは何よりも邪悪で冷たいものだった。そんな二人のやり取りに周りの者は口を挟める隙すらなかった。
更新が完全に停滞していてすみません。次回はなるべく間を置かずに更新する予定です




