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8・オッサンが何言ってるかわからない件

 俺たちは呼び出しを受けて建物の一つへと向かった。


 ここの建物の多くは木ではなく鉄で、それも鋼で作られている事を知ったのは、ここに来てすぐの事だった。

 貴重なはずの鉄がふんだんにあることに驚いたが、それもそのはず、只野のすぐ近く、女体鉄山から鉄が持ち込まれ、筑豊から運ばれた輝石を焼いた骸炭によって溶かされ、様々な加工品が作られているのだと教えられた。詳しくは知らん。


「よくぞ参った。君らはなかなかの成績だったそうじゃないか」


 出迎えてくれたオッサンが大げさな身振りでそう言った。


「私は久米栄左衛門、知っての通り、白石殿とここを取り仕切る者だ」


 どうやらすんげぇ偉い人だった。


「ああ、跪くな、ここはそういう所ではない」


 そう言われたので、立ち上がった。


「遼と言ったか、えっと?」


 そう言って俺らに視線を流し、遼が手をあげた。


「君のテクニックはなかなからしいね。新たに作ったメカには君みたいなセンスが必要なんだよ」


 えっと、敵がどうした?目がなんだって?扇子なんか使えないぞ、遼には。謎ばかりだ。


「慶・・・・・・」


 慶が手をあげた。


「はは、まさにヒロインだね。男ってのが惜しい」


 広い?何が?


「君のセンスはこのメカにこそふさわしいと思う。コイツは遠距離からスナイプすることを前提にしているからね。もちろん近接でも使えるが」


 扇子はまあ、慶なら芸子くらいできそうだが、砂?いや、もういいや。


「辰、君もなかなかのセンサーを持ってるね。サーマルサイトもレーダーもないここではアイボールこそが最強のセンサーだからね」


 すまない、話しの大半が良く分からない、たぶん褒められたんだと思う。そんな顔をしてる。


「まあまあ、そんなクエッションマークばかりの顔もなかなか良いもんだね。若者はそのくらいで良いんだよ」


 全く分からないどこか異国の言葉を放ちながら俺たちを案内しだす栄左衛門さま。存在自体が奇天烈じゃないか、この人。 


 謎な異国の言葉を放ちながら案内された先には高さが八尺(2.4m)になる鉄牛?いや、違う、脚が6本生えている。


「これは新型の鉄脚だ、鉄牛とは違って虫をモデルに作ってみた。牛では斜面を縦横に歩き回ることはできないが、コイツならそれも出来るだろう」


 なるほど、虫を真似たのか、角があるのが何だかサイカチみたいだな。


「どうだい?カブトムシみたいだろ?と言っても、寸筒だから寸詰まりってな」


 カブトムシが何かよく分からんが、確かに、サムライの兜に見えなくもないか。サイカチの姿見というか、似てるだけで兜の形に作ったんだろうな。なんか、一人で落ち込んでいる意味が分からないが。


「最初はね、HESH(ヘッシュ)で作ろうとしたんだけど、アオムシ(カマキリ)相手にするにはオーバーキルみたいでね、口径と初速を勘案した結果、ホチキスのSA34をモデルに、寸筒を造ったんだよ。これなら俊敏なアオムシ(カマキリ)クロムシ()でも簡単に仕留められる」


 アオムシ(カマキリ)を仕留めるために寸筒を作ったのは分かったが、なんだって?まあ、考えたら負けな気がして来た。

 サイカチに似たこの鉄虫ならば、奴の鎌も通りはしないだろう。


「ちょっと高いが、そのタラップを登って乗り込んでもらう。そうそう、遼君は前のハッチだ。慶君と辰君は後ろのハッチから入ってくれ」


 鉢が無いが、この扉で良いんだよな?中に入るとかなり狭く、当然ながら薄暗かった。


「動かし方は鉄牛と大して違いはない。寸筒はそのままだし、辰君はそのキューポラから外を覗いてもらう。

 蟲と戦っていないときはハッチから身を乗り出してもらった方が良いかな。遼君のペリスコープからでは細かな地形までは把握できないからね」 


 もう、言ってることの大半が意味不明だったが、この覗き窓から外を覗くんだろう。蟲と対峙していないときには身を乗り出した方が良いと。どうやらちょうど良い足掛けがあるから苦しくはない。


 そんな、大半が異国言葉の説明を受けたが、だいたいは要領を得たので、今度は扇子をもって乗り込めばうまく行くんだろうと納得した。


 翌日は実際にソレを動かすことになった。栄左衛門さま曰く、鉢に付けられた管が声を遼に届けてくれるそうなので、それで話してみれば、確かに声が聞こえてきた。


 遼曰く、脚が六本なのに、四本の手足だけでちゃんと歩かせる事が出来るのがどうにも違和感があるそうだ。

 俺が一番驚いたのは、灯だ。油も蝋燭も無いのに明かりがともるギヤマンが備えられているのには驚いた。


「よし、五間(9m)先の溝に気を付けろ」


「おーらい」


 何だかんだで、走法のかけ言葉を覚え、それによって歩行は順調に出来るようになった。


 ひと月もすればだいたい乗りこなせて射撃も満足に出来るまでになった。


「よし、大体できるようになったな。そうだ、少し山へ行って走らせてみようじゃないか。スタックやスリップは無いと思うがね。鉄牛ならスリップするような傾斜でも持ちこたえるはずさ」


 その頃には栄左衛門さまの言葉も何となくわかるようになった。山の中で滑ったり埋まったりしないって意味だろう。何とか探して買った扇子を持ち込んだら、要らないと言われたのだけは未だに解せない。扇子が要るんじゃなかったのか?

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