9・新しいおもちゃを貰ったけど、単調な日々が続いてる
実際に山岳地での訓練となったので只野の街を出て鉄虫を走らせる。馬の速足程度は出ているだろうか、かなり速く感じる。
注意深く地面を観察しながら遼に状態を伝える訳だが、こういう時は遼も鉢を開いて顔を出しているので事細かに伝えるほどでもない。
「何かすげぇぞ、慣れたら手足みたいなもんだな」
遼はそう言って喜んでいる。辛いのは慶だろう。鉢が無いからずっと中に閉じ込められっぱなしだった。
そのことを栄左衛門さまに言ったら、思い付いたように鉢を追加してくれた。今では鉄虫の横っ腹を開いて風を取り込めるようになっている。
「どうだい、Ⅳ号戦車みたいだろ?」
と、良く分からない事を言っていたが、デッカイ門みたいな両開きの鉢が付いたので慶も今はそこから顔を出している。鉄虫はそこまで大きくないからもう一人は乗れないと栄左衛門さまが言っていた。本来、この鉢を左右に付けて、双方から顔を出すのが習わしだとかなんとか、背織とかいうらしい。
「辰、酒器のと―おんが高い、ふらぷ開けてくれ」
遼は酒器というのが馴染んだらしいが、栄左衛門さまは演陣とかも言っていた。色んな呼び方があるのは紛らわしくないだろうか?
「おーけー、ふらぷ開く」
遼にそう返して取っ手を引いて確認する。後ろを覗くと側面の格子が開いたのが見えた。
「ふらぷ、解放」
遼に伝える。鉄虫はくうれい演陣とかいうのを心の臓として動いているらしい。演陣にはひんというヒレが沢山あり、そこにふぁんという丸い風車で風を当てることで冷やしているというが、手を触れられないほど熱い。本当に冷えてるんだろうか?
「酒器、とーおん安定した」
遼からそう返事が返ってきた。「おーらい」と返しておく。
コイツは鉄牛に比べて静かなのだが、それは枕が大きいからだという。起きてるのか寝てるのかよく分からんが、演陣は寝ているらしい。”ぽるせ”とか言うのと同じ構造と栄左衛門さまが言っていたが何のことかわからん。ぶら汁とかいう国では酒で動かすから同じだそうだが、そんな国、日ノ本にあんの?つか、他の国にも演陣あるんだったら、そこにも鉄牛が居るんだろうな。
鉄虫は田畑を抜けて小川を超えて山へと向かった。とはいっても、一里も離れてはいない。
「おい、一番あくちえたの油圧異常だ」
遼からそんな報告を受け、馬で付いて来ている栄左衛門さまに伝える。
「一番あくちえたの油圧異常です!」
そう言うと右前脚にまわってチラッと見て停止を指示してきた。
「アクチュエータのオイル漏れだ。一旦止まれ」
そう言うので、遼が鉄虫を止め、脚を折る様にして身を屈めさせる。
「あくちえた油圧かと、倉知かとー」
遼からそう報を受けたので、栄左衛門さまにも伝える。
「油圧かと、倉知加藤しました!」
倉知を切ると演陣の音が軽くなった。風を送る程度まで回転を下げて”あいどる”という状態にする。
しばらくすると鉄牛を従えた鍛冶師たちが到着したので、遼がとーおんを確認して演陣も加藤する。
俺たちは鉄虫を降り、栄左衛門さまが”えんじにあ”と言っている鍛冶師の人たちと一緒にあくちえたと呼ぶ筒を外す。かなり重い。
「あー、シーリングに問題ありか。まあ、仕方ないな。合成ゴム無いんだもんな」
そんな、良く分からないことを呟きながら指示を出す栄左衛門さま。
四半刻もすると、鉄牛で運んできた新しい筒と取り換え、一応完成らしい。油の桶を開けて量を確認して演陣を再始動させる。
演陣の始動は鉄虫の尻にある鉢を開いて棒を挿し込んで回すんだが、これがまたコツがいる。
ボボボと不規則な音を出した後、正常に始動してくれたらしい。正常に行ったら、遼が
「酒器、こんたーく」
と、何やらお気に入りのセリフを叫ぶ。
快調に回り出す演陣、俺たちは鉄虫に乗り込んで、再度山を目指す。
白石衆の土地らしい山の一帯を少し登り、そこから斜面を横に走らすのだが、体を保つのが難しい。遼は帯で体を縛って手足の動きを邪魔しないようにしている様だ。
「これで撃つのは難しいと思うんだけど」
慶がそう言ってるけど、そのうちそういう事もやるんだと思う。
とりあえず、今日やるべき山の中を這いまわる分には問題が無かった。鉄牛なら転んだり滑ったりするようなところでもうまく歩いて行けたように思う。九洞に掴まって何とか体が落ちないようにしていたが、鉄虫と腰を帯でつないでおく方が安全ではないかと栄左衛門さまが言っていたので次はそうしようと思う。
「うん、これなら大丈夫そうだな。まだ何度かテストして機体の様子も見る必要があるから、今日はこのまま速足で帰って貰おうか」
そういう栄左衛門さまの言葉に従って、只野まで戻って行く。帰りはあくちえたに異常が出ることなく帰りつく事が出来た。
なんとも平和で単調な日々だが、この鉄虫はこれがはじめてのカラクリなのだから仕方がない。




