10・なんか不穏だと言われたんだが
只野の版画に帰ってくると目の前の広場では元能さま曰く零号騎による修練が行われているところだった。
遼の扇子というのがおかしいだけで、普通はああして修練しないと鉄虫を動かす事は出来ないと栄左衛門さまが常々言っている。
「動かそうと思うな、メカと一体になるんだ。感じるんだ。ソウルで感じれば自然と動く!」
なんか、いつも通りに叫んでいるあのお年寄りが元能さまな訳だが、今日も何言ってるのか分らん。
ふと、版画の中を見ると、もう一匹虫が増えている。栄左衛門さまによると宝塔を備えたらもっと扱いやすくなるらしいが、今の鉄虫では宝塔を備える力はないらしい。演陣を痔ー出るとかいうのにして、ぽんぷというモノも強化してやらないと無理らしい。
つか、宝塔って寺にある奴って慶が言ってた。あんなの付けたら虫が強くなるんか?
新たに作られた鉄虫はどうやら、がとりんぐを付けている様で、兜の形が少し違う。
「おかえり、どうやらマイナートラブルだけでテスト終えたらしいね。あ、これか?二号騎だよ。赤じゃねぇし三倍の速度ってのも無理だがな」
いや、何がツボだったのか分らんが、元能さまは一人笑ってる。栄左衛門さまは「ニュータイプ居ないでしょ」と余計に意味不明な事を突っ込んでいる。だから、それ何?
「バルカンは重いからチェーンガンにしたかったんだけどさ、手動ハンドルまわしてチェーンやギヤでってさすがにムリポでな、ショートリコイルかガスオペレーションで何とかしても良いけど、メタルリンクがなぁ~」
何言ってるか分らんが、どうやら、がとりんぐは重いから他の方法で軽い連発筒を造りたいが、何かが難しいらしい。どう?見事な翻訳だろ。
そんなわけで、二号騎のがとりんぐは初号騎の寸筒より可動範囲を拡げるために兜の形状を変え、人の配置も変えてあるらしい。
二騎の役割は鉄牛のそれと同じく、寸筒が狙撃、がとりんぐが面制圧を行うので、兵法は変わりないらしい。
二号騎を繰るのは零号騎で修練してきた女の子だった。
「どうだい?ペア組むのは女の子だぞ?」
栄左衛門さまがニヤニヤそう言ってくる。村でも男だ女だということなく野良仕事をしていたし、只野に来てからも俺たちのように蟲に襲われた村の人を引き取って居るので男も女も関係なく働いている。今更珍しくもない。
ただ、蟲狩りは基本的に体力勝負なので女は居なかった気がする。しかし、鉄虫に関しては、男か女かよりも扇子が優先すると、以前から聞かされていた。
「本来は、小ビットのパラメトロンじゃなくちゃんとしたユニット使えば、車の運転並みに誰でも扱えるんだけどな、悲しいかなLSIなんか作れないから、センスのあるクルーにコントロールしてもらうしかないんだ」
と、鉄虫を繰る特別な扇子が必要な事を元能さまも力説していた。たぶん、扇子ってのは、勘の異国語なんじゃないかと最近思っている。
それからは二号騎も加えて様々なてすとというモノをやった、冬が来て、次の夏まで掛ったが、遼も二号騎の千ちゃんも手足のように扱う事が出来るまでになった。まだ、そこまでは達してないが、他にも四匹ほど、新たに版画に鉄虫が加わった。繰る乗り手の半分近くが女だった。ちなみに、妙齢なアレみたいなのは他に居ない。慶みたいな奴とか、その逆はちょっと居るな。
一応、組として動けるようになり、足軽見たく、筒をもって地を行く蟲狩りも加えた大所帯が出来上がった。
「ねえ、不思議に思わない?ただ蟲を狩るだけなら鉄牛に寸筒やがとりんぐを載せても大丈夫。それどころか、指示を出して、筒を預けるという事にも長けてる。鉄虫、栄左衛門さま曰くの戦闘騎には、筒掛けや銃掛けも無いから、本来は蟲狩りに向いてないと思うんだけど」
何だかんだと全体で兵法訓練とかいうのをやった時の事だった。群を抜いて的を撃ちぬいていた慶が、帰り際にそんな事を言いだした。
「っても、今日の見りゃあ出来るだろ」
全体で動くソレは壮観だった。只野に近い山を使って、峠越えみたいな場所や山の斜面などを鉄虫で這いまわり、蟲狩りが鉄牛と共にその裾を抜けていく。まるで戦でもやるみたいな話だが、あのアオムシの村を考えれば、このくらいやってもやり過ぎとは思わない。普段は二匹の鉄虫と二頭の鉄牛、それに付き従う筒組が八組、後は壊れた時の部品持ちや弾を運ぶ荷駄鉄牛で組になるんだ。何か問題があったんだろうか?栄左衛門さまがそれを奇行正体とか言って一人で笑ってた。たまにその姿が怖いと思ったくらいだ。
「そりゃあ、アオムシ相手だから、必要ないとは言わないけど・・・・・・」
慶が何を言いたいのか、俺にはちょっとよく分からなかった。栄左衛門さまや元能さまが変人なのはもう、今更なんだしな。