アシェリー
世界に四人しか存在しない特級冒険者であり、魔法学園の学園長であるアシェリーは、平太の戦いぶりを結界の中から眺めていて戦々恐々としていた。
たった一人で、敵を蹂躙していく。
竜ワイバーンモドキだけならこの光景を信じられる。
上級に達しないワイバーンだけなら、自分でも無双する事が可能だから。
だが、彼が戦っているのはワイバーンだけではない。
魔物の中でも最強種。
正真正銘の頂点に値する存在。
ドラゴン。
平太が相手をしているのは、そのドラゴンが大半。
しかも、その中でも上位に君臨するドラゴンばかりだった。
なのに、少年は魔法を行使する訳でもなく拳と足という純粋な体術のみで次々と撃退している。
どういう意図かは不明だが、決して殺さず気絶させ、己よりも遥かに巨大な体躯を持ち上げ海へと投げ飛ばしていた。
到底人間の成し得る技ではない。
彼は地上にいる全てのドラゴンを体技だけで蹴散らすと、空へと飛んでいった。
かと思えば次の瞬間、闇夜に流れ星が瞬いた。
降り注ぐ流星は、空中に漂うドラゴンを撃ち落としていく。
きっと、あの冴えない少年の仕業だろう。
1分も経たない間に、ドラゴンの大群が全滅した光景を目にしたアシェリーは、筆舌に尽くし難い思いを抱いていた。
「彼は、人間なのかしら……」
当然の疑問が浮かぶ。
これ程の所業、成し得る人間はいるだろうか。
勇者? 英雄?
いや違う、と彼女は即座に否定する。
"アレ"はそんなチャチな肩書きに収まる存在ではない。
人間という範疇は、唐に超越していた。
例えるならば、神。
そう思わしてしまうほど、平太の力は常軌を逸脱しているのだ。
「……!? 結界が破れるッ」
少年に恐れを抱いていると、突如結界に異常が発生する。耐え切れない威力の衝撃が結界を襲撃したのだ。
「くっ!」
維持し続ける事が出来ず、結界は破壊されてしまう。
ドラゴンの猛攻を防いでいた結界を壊した者は、四体の竜。それも人型であった。
竜の上位種には、偶に人型が存在する。それらは全て、特級を上回る強さを誇っている。
新たに出現した強敵に、国の兵士や冒険者達、アシェリーに緊張が走った。
「おいおい、他の奴等はあんなショッベェ結界を破れなかったのかよ。ドラゴンも堕ちたもんだ。つーか、何で俺らが家畜同然のカス共を相手にしなきゃなんねぇんだよ」
「同感だけど、落ち着きなさい。デュラガ様のご命令なのよ」
「油断はするな。一人厄介な魔導師がいる筈だ」
「…………」
黄、白、赤、鉄色の四体の竜。
その一体一体から、途轍も無い魔力の波動が溢れて出ている。
自分以外の味方では、絶対に敵わない相手。
(はぁ~、次から次へとやんなっちゃうわね)
胸中で重いため息を吐くアシェリーは、この戦いで己が死ぬ事を悟った。命を懸けなければ、この四体の竜と渡り合えない。
覚悟を決めた彼女は、魔法の詠唱を開始する。
「氷神の息吹」
特級魔法氷神の息吹。
全てを凍らす死の吹雪が、四竜を襲う。
「強い魔力だ。だが、この程度で我等を滅っしよう等とは片腹痛いわ」
フンッと小馬鹿にするように笑うと、ファイガは大きく息を吸い込む。
「ガァッ!!」
竜の十八番、ドラゴンブレス。
炎を操るファイガのブレスは灼熱の爆炎となりてアイシクルブリザードを迎え撃った。
衝突。
激しくぶつかり合った魔力エネルギーは、轟音を響かせた後相殺した。
爆発による煙が晴れると、四竜の眼前にピンク色の髪を靡かせたアシェリーが現れる。
「結界と今の魔法は貴様の仕業だな。人間にしてやる方ではないか」
「上位竜に褒めて貰えるなんて光栄ね。悪いけど、貴方達の相手は私がするわ」
「いや、貴様如き我だけで充分だ。フリゼ、イザーク、ボルボフ、お前達は他の人間共を始末しろ」
ファイガがそう言うと、イザークが俺にやらせろよと反対するが、フリゼに宥められたので文句を呟きながらも従う事にした。
「行かせると思う?」
「行かせられないと思ったか?」
「くっこの?!」
三体の竜の進行を妨害しようするが、ファイガに邪魔をされる。
顔面を狙った拳撃を、魔力障壁を張って防ぐ。
「ヌ……堅いな。これは意外と楽しめそうだ」
アシェリーとファイガの戦闘を皮切りに、人類と四竜による最後の死闘が始まったのだった。




