メイド女神
「こらセレナ、この紅茶不味いわよ。何度言ったら分かるの」
「ふぇぇん、学園長厳しすぎますぅ。そんな細かい味なんてわかりませんよぉ」
(仮にも女神が顎で使われてら)
学園長さんに姑の如くいびられているセレナに、哀れみの視線を送る。
セレナは今、学園長さんの専属メイドをしていた。
しかし、ただのメイドではない。
最終兵器である、『絶対童貞殺すメイド服』を纏ったスーパーメイドであった。
言わずもがな、セレナは爆乳である。そんな女神が『絶対童貞殺すメイド服』を着たビジュアルインパクトは壮絶に尽くした。
見慣れている俺ですら、セレナから目が離せない。
「平太さん見すぎですぅ。というか目が血走ってて怖いんですけど」
「いやいや無理だって。そんなに見られたくなきゃ脱げばいいじゃん」
「は?」
ちょセレナさん、恐いよ、冗談だって。
ってこんな事をしてる場合ではない。俺は学園長さんに呼びつけられて、放課後に学園長室に来ていたんだ。一体何の用件なのだろうか。
「学園生活はどう? 楽しんでる?」
豪華な椅子に座っている学園長さんが、紅茶が入ったカップをかちゃりとテーブルに置きながら尋ねてくる。
俺は今日起こった事を振り返りながらこう答えた。
「楽しいといえば楽しいですよ」
「へー、カタリナさん達からの報告ですと、自己紹介で盛大にスベッていたと聞きましたけど」
……バレとるがな。あいつ等、俺の黒歴史を無断で広めやがって。
「平太さんはアホですねぇ」
うるさい、お前にだけは言われたくないわ。
「あいつ等が色々とカバーしてくれるから何とかなってます。それと、学園長さんの推薦っていう効果がかなり効いてますね。お陰で初日からイジメられる事も無かったです」
本当助かったわ。シカトされても仕方ない程やらかしたからな。
「それは良かったわ」
「まぁ、魔法学とか薬学とかはちんぷんかんぷんですけど」
「講義の方は聞き流していいわよ。貴方はシスティスの近くにいてくれればいいから」
「分かってますって、任せて下さいよ。それより敵さんの動きが段々露骨になってきてて、一々相手をするのが面倒なんですけど。そろそろ大元をぶった切りません? 学園長さんは知ってるんですよね、あいつを狙うやつ等の正体を」
「…………」
「黙ってるのは肯定してるようなもんですよ」
「…………」
「知っていても手が出せない相手ですか。うわっダル」
この人はシスティスを大切にしている。彼女の為なら、どんな手を尽くす事も厭わないだろう。
アトラティウスには仕事で来ているってシスティスに言ったらしいが、恐らく心配して来たんだと思うし。
そんな彼女が、自ら行動せず守りに入らざるを得ない相手。
元大貴族、魔法学園の学園長、世界に四人しかいない特級冒険者。そんな大層な肩書きを持つ彼女が手を出せない相手なんて限られてる。
俺は重いため息を吐きながら、こう言った。
「先に言っておきますけど、俺はずっといる訳じゃないですよ」
「分かっているわ。ただ、ここにいる間はあの子を守って頂戴」
「……はぁ、了解です。んじゃ俺はもう行くんで。セレナ、あまり迷惑かけないようにしっかりやれよ」
「代わって下さいよ平太さぁん。メイドの仕事って結構大変なんですよぉ」
馬鹿野郎、俺にそのメイド服を着ろっていうのか。誰得なんだよ。
学園生活二日目。
今日は午前中に講義を行い(全く分からなかった)、午後は訓練場で魔法戦闘の授業だ。
魔法戦闘は主に、的に向かって魔法を放ったり、先生に指導してもらったり。
このクラスの担当はクルス先生だった。見た目の雰囲気が柔らかく優しそうだっから、荒事には向いてないと思っていたので驚きである。
後は、生徒同士の模擬試合。
そして俺は、何故か昨日助けてもらったイケメンのアルフレッド君に模擬試合を申し込まれている最中であった。
「ヘイタといったな。学園長に推薦されたとヌかしていたが、僕は信じない。それに気に喰わない。僕と決闘しろ、貴様の化けの皮を剥がしてやる」
ん? 何で俺は入学早々喧嘩を吹っかけられているんだ?
しかも俺を地獄の淵から助け出してくれた救世主アルフレッド君に。
突然の申し出に戸惑っていると、側にいたシスティスとカタリナが「また面倒起こしやがって……」みたいな顔をしながらやって来た。
おい、これでも俺、お前等を教えてる立場なんだけど。そんな冷たい態度取らないでくれるかな、泣いちゃうから。
「アルフレッド、やめときなさい」
「うん、怪我じゃ済まないよ」
「ハンッ、カタリナにシスティスか。貴様等、昨日からヤケにこいつに肩入れするじゃないか。弱みでも握られたか? 安心しろ、死なない程度に加減はしてやるよ」
「いや、私はアンタに対して言ってるんだけど……」
カタリナが呆れた目でアルフレッド君を見る。それにしてもこいつ、随分強気な発言だな。ちょっと聞いてみるか。
「なあシスティス、このイケメン君は強いの?」
「……強いです。このクラスだけじゃなくて、中級生全体の中でも一番です。上級生と混じっても、上位に食い込めると思います」
ほーん、だからあんなに威張り散らせるのか。納得ですわ。
横目で他の生徒を確認すると、遠巻きに見ているだけで接触せず、可哀想な眼差しを俺に向けてくる。
イケメン君とはあまり関わりたくなさそうだ。
「システィスでもあいつに勝てないのか?」
「悔しいけど、模擬戦では一度も勝ててないです」
「成る程。じゃあシスティス、俺の代わりにイケメン君をぶっ飛ばしてくれよ」
「ええ!? ちょヘイタさん一体どうい」
喫驚するシスティスを放っておいて、俺はアルフレッド君にメンチを切りながらこう言い放つ。
「ならこうしようぜ。俺と戦う前に、システィスと戦ってもらう。んで、こいつに勝ったら俺が相手をしてやろう」
「何……?」
「は……アンタいきなり何言ってんのよ」
「そうですよヘイタさん、どうして私が……」
勝手に進行する俺に、困惑するシスティスが問いかけてくる。そんな彼女に、俺は真剣な声音で、
「何をやる前から負ける気でいんだよ。いいか、俺はお前に戦い方を教え、少しの間だが鍛えてやった。今のお前なら、とっつぁん坊やにだって負けはしない」
「……本当ですか?」
「……ああ」
うん、多分ね。
「それに、いつまでも誰かに守ってもらおうなんて甘い事考えるな。自分で切り開けるようになれ。これはその為の一歩だ」
「……はい!」
そう言うと、システィスは力強く頷いた。
彼女の意思を確認した俺は「行ってこい」と華奢な背中を押す。
「アルフレッド君、お願い私と戦って」
「……いいだろう、そいつに何を吹き込まれたかは知らないが、身の程を教えてやる。いいですよね、クルス先生」
「え? う、うん、いいですよ。二人が合意なら全く問題ない、生徒が切磋琢磨してくれるのは嬉しいからね」
クルス先生の言葉を皮切りに、アルフレッド君とシスティスが対峙し、他の生徒達は自分の訓練を中断して集まってくる。
どうやら皆、二人の試合を観戦するようだ。
俺も少し離れた所で弟子システィスの戦いを見守っていると、カタリナが近づいてくる。
「突然何でこんな事したのよ」
「対人戦として、システィスの実戦をするにはイケメン君が丁度良い相手だと思ったからな、利用させてもらった」
「鬼ね」
「何言ってんだ、お前もだぞ。システィスにも伝えたが、いつまでも甘ったれんなよ。死にものぐるいで強くなれ」
「……」
「お前がただの学生なら、俺も強くなれなんて無茶な事言わねーよ。でもお前は、システィスの"友達"だろ?」
「……」
黙っているカタリナに、俺は続けて、
「システィスはこれからも危険が迫り続ける。あいつと一緒に居るってことは、お前にも危険が降りかかるだろう。それが嫌ならあいつから離れればいい、それだけの話だ。でも、お前がシスティスと友達で居続けたいなら強くなれ。自分の身を守るのは勿論、あいつを守れるぐらいにな」
「……アンタに言われなくても、分かってるわよ。見てなさい、絶対アンタより強くなってやるから」
「ふっ」
俺は、唇を尖らせるカタリナの頭にそっと手を乗せて、
「楽しみにしてるぜ」




