熱血指導
「カタリナ、確かにお前が通っている学校の中で戦うならば、強い魔法をバンバンぶっ放すしてりゃ勝てるかもしれない。けどな、これが本当の戦場だったら通用しないぞ。敵は待ってくれないし、死にものぐるいで向かって来るんだ。
何の為に手足がある。考える脳がある。もっと動けよ、もっと考えろよ。敵を倒す為に、敵に殺されない為に。ただでさえお前等狙われてんだから」
「……で、でも、学園長だって私達と同じやり方よ!」
「そうね、私はそんな野蛮な戦い方しないわ。汗をかきたくないし、動くのも怠いのよね」
「ほら!」
何がほら! だよ。子供かお前は。
「それはこの人が接近されても対処出来る手段と実力を兼ね備えているからだろうが。ちんちくりんなお前と一緒にすんじゃねぇよ。後な、納得しないから言わせてもらうが、俺が今まで出会った強い冒険者達、特級冒険者、魔物に魔王。確かにどいつ等も強力な遠距離攻撃魔法を使っていたが、基本は殴る蹴る斬るの物理魔法が主体だったぞ」
「……う、嘘」
嘘じゃない、マジです。
異世界ファンタジーの癖にどいつもこいつも脳筋だかんな。
システィス達が使う魔法を見て、「あーやっぱり魔法ってこれだよなぁ」って感動するぐらいだから。
「でもヘイタさん、私達はこのやり方しか教わっていませんし、出来ないです」
「学校ってのは基本を教える場所だ。そこから創意工夫、昇華させるのは自分だろ。システィス、自分で自分の限界を決めつけるんじゃねーよ。他に出来る奴がいるんだから、出来ない訳ねぇじゃねえか」
「それは……そうですけど」
まだ納得していない二人の顔に、俺は両手の得物を突き付ける。
「ノコノコ戦場に出て死にてぇならそれでもいい。でも生き残りてぇなら自分から動け、覚悟を決めろ」
「平太さん、今日はやけに熱いですねぇ。いつから熱血キャラになったんですか?」
「ああ、ちょっとな」
今までの感じだと、また魔王が軍を引き連れてシルヴィア共和国に攻め入るだろう。ってなると戦争になり、今のこいつ等じゃ多分死ぬ。
それにシスティスの場合は、誰かに狙われている件もある。二人の生存確率を上げるなら、ここで鍛えるしかないのだ。
「お前等がその気なら、俺が戦い方を教えてやる……どうする」
「……やります、やらせて下さい!」
「……私もやるわ、ここまで言われたら引き下がらないッ」
いい眼だ、やっと覚悟を決めたか。
「よっしゃ、国に着くまで俺がビシバシ鍛えやるから覚悟しておけ。腕立て腹筋、基礎的な事を徹底的にシゴクからな」
「う……」
「えぇ……」
ふふふ、地獄を見せてやろう。泣いたって止めないぜ、俺は。
「ふふ、やっぱり面白いわ、この子」
おい学園長さん、俺を見て笑わないでくれるかな。
「あっ平太さん、また囲まれてますよ」
「え? あ、本当だ」
どれくらい厳しくイジメ……修行してやろうかと画策していたら、また海の魔物が出現した。
しかも今回は、システィスとカタリナが倒した雑魚ではなく、それなりに強そうだ。
魔物は船よりデカい、タコとイカとカニみたいな奴。実践で彼女達を鍛えるチャンスだったが、これらを相手にするのは流石に酷というものか。
仕方ない、俺がやるか。この際だ、盛大に焼いて食ってやろう。
と意気込んでいたのだが、それに待ったをかける者がいた。
「アレの相手は私がしましょう。貴方と生徒達に、少しは良い所を見せておきたいし」
前に掛かる髪をサッと後ろに払い、自信あり気に俺の前へと立つ学園長さん。
ほほー、そう言うんなら是非拝ませてもらおうじゃないか。
魔法学園学園長であり、特級冒険者の実力を。
どんな魔法を使ってくれるのかとワクワクしていたのだが、その期待は一瞬で消し飛ばされる。
何故なら、一度の魔法で、一瞬で戦いが終わったからだ。
「海竜の激流」
学園長さんが魔法を唱え、指パッチンした刹那、眼前の海から巨大な竜巻が三本立ち昇る。
激しく渦巻く三本の竜巻は、それぞれイカ、タコ、カニに襲いかかると、肉体を破壊し粉々にしていく。
竜巻が止んだ後海に残ったのは、バラバラにされた魔物達の肉片のみだった。
「……凄すぎる」
「これが学園長の魔法……」
「あっという間でしたねぇ」
「……」
ああ、そうだな。
確かに凄かったし、威力も申し分なかったよ。
でも、でもなぁ……なんか地味じゃね? もうちょいカッコいい魔法はなかったのかよ。それに一撃で全滅させたら他の魔法見れないじゃん。俺のワクワク返せよ!
「あら? 私の魔法は勇者様のお眼鏡にかなわなかったかしら」
「そんな事ないんですけど……」
迫力は満点だったんだけど、ビジュアルがね……海にグロいの撒き散ってるし。
「なっ、今度は何よ!?」
「きゃ!」
「あた!?」
口には出せないので胸中で不満を垂れていると、また大きな揺れが発生した。
今度の揺れはさっきの比ではなく、立っているのも辛い。システィスとカタリナは堪えていたが、セレナは転んで頭を打ち悶絶していた。
おいセレナ、お前の頭に乗っていたスラ太郎が吹っ飛ばされて船から落ちそうだぞ、早よ助けんかい。
「あちゃあ、この魔物はちょっと骨が折れるわねぇ」
「……蛇?」
新たに現れたのは、見た目が蛇というかウツボの魔物だった。
が、ただのウツボではなく、超巨大なウツボだけど。
どれだけ大きいのか。エルフの里でぶっ殺した万年亀よりは小さいが、遠目からだとそれほど違いはない気がする。
「あんな魔物見た事も聞いたことも無いわよ……っていうか魔物なの?」
「あれを倒せるの?」
「海の主、海竜ダイダロス。滅多に現れない、特級の魔物ね。自分の領域を荒らされて怒ったのかしら」
へー、あのウツボって竜だったんだ。
「強いの?」
「強いわ。ダイダロスに会った不幸な船は軒並み沈むっていう逸話があるし」
「勝てそう?」
「勿論……ってカッコよく返したい所だけど、陸だったら兎も角、海だと分が悪いわ。ちょっと手こずるかも」
「えっ!?」
「……」
学園長さんでも厄介な魔物だと聞いて驚愕する二人。そりゃそうか、学園長さんが手こずる魔物に自分達が勝てる訳ないし、彼女が負けたら死んじまうもんな。
……よし。
「じゃあ次は俺の出番だな」
「「えっ!?」」
「……やれるのかしら? 貴方が勇者なのは分かるけど、死んでも責任取れないわよ」
彼女の疑問に、俺はヒラヒラと手を振って、
「余裕余裕、ワンパンでぶっ飛ばしてくるよ。これから鍛えるこいつ等に、少しぐらい威厳を見せとかないとな」
気楽な言葉を返して、デッキの手摺りの上に登る。
「ヘイタさん、危険ですよ!」
「アンタ落ちるわよ! 早くそこから降りなさい!」
「……」
心配してくれる二人を無視して、俺は足裏に力を溜め込み、一気に解放する。
ドンッと衝撃と共に手摺りが破壊され、俺の身体は空へと駆け上がった。
そして――、
「よぉ、ブッサイクな顔してんなぁお前」
「キュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
「悪いけど、今回は遊んでる暇はねぇ」
お前と戯れるより、あいつ等をシゴク方がずっと楽しそうだからな。
だから――吹っ飛べ。
「星皇拳――"羅喉"」
「ギュオオオオオオオオオオッ!」
俺が放った羅喉と、ダイダロスの口腔から発射された水のブレスが激突する。
が、一瞬の拮抗すらなく。
水のブレスは掻き消され、羅喉を喰らった海竜は遥か彼方まで吹っ飛んでいった。




