牢屋の中で
「何故こうなった」
暗闇の中、一人ポツンと呟く。
エルフの里に入ろうとした瞬間、恐い顔のダークエルフ達に捕らえられて、あれよあれよという間に檻の中にぶち込められてしまった。言い訳すら聞いてもらえないとか、マジでエルフ恐えーんだけど。
リリとポチがどうなってしまったかは不明だ。
っていうか事の問題はリリにあるんだよな。俺を捕まえたダークエルフ達は、結界が壊されたと言っていた。しかしリリは解除したと言っていた気がする。
どちらが本当の事言っているのかは分からないが、あの時忽然と姿を消したリリの方が怪しい気はするよな……どう考えても。
今思い出してみれば、リリってちょくちょく変な所あったんだよなぁ。
一人で行動している割には体力無いし、自炊も出来ない。でもエルフの里の場所は知ってたんだよなぁ……あー駄目だ、分からん。次に会った時に問いただしてみるか。
それより今は、これからの事を考えねば。
あらぬ誤解で独房らしき場所に閉じ込められてから結構時間が経つ。
今は夜だろうが、光が届かないから外の様子が分かんねえや。
足は平気だが、手首に縄がきつく締められている状態。
近くに見張りが一人、ダークエルフの男だ。
正直に言えば、こんなチャチな縄なんて破いて簡単に脱獄できる。
でもそうしないのは、後々の事を考えてエルフ達との関係をこれ以上拗らせたくないからだ。魔王が現れるまでどんくらいかかるか分からないし、可能ならば誤解をちゃんと解いておきたい。折角エルフと出会えたのに、このまま敵視され続けるなんて嫌だしな。
とは言ったものの、解決策は何も浮かばず、向こうから何か言ってくるまで待ちの状態なんだけども。
「にしても……腹減ったなぁ」
気づいたら昼から何も食ってねぇな。だからと言って飯をくれる訳でもないし、っていうか見張りのエルフに何度か話しかけているが、シカトされてんだよね。
「寝るか」
考えていてもしょうがないし腹も減ったから、俺は色々諦めて取り敢えず寝ることに決めた。
「……ねえ……おき……いよ」
「……うん?」
誰かに呼び掛けられた気がして、俺はゆっくりと目を覚ました。
「ねえ、起きなさいってば」
「……リリ?」
頭を振って寝ぼけた脳を覚醒させ、声が聞こえてくる方へと目を向ける。すると、檻の外側にリリが立っていた。
「やっと起きたわね」
「お前、何でそこに突っ立ってんだよ。っていうか、何で突然居なくなったんだ。お前のせいでこっちは大変な目に合ってるんだぞ。結界を破壊したってどういう事だよ、リリは解除したんじゃねえのか」
「はいはい、そういうのいいから。まずはアタシの話しを聞きなさい、アンタの質問はその後よ」
「…………」
強めに詰問するが、リリは手をひらひらさせて俺の問いに応えない。
つーかこいつ、前の時より口調や雰囲気が全然違うじゃねえか。こっちが本性で、今まで猫を被ってたのか?
口を閉ざして発言を待っていると、リリは「よろしい」と偉そうに頷いて、
「アンタは明日、ダークエルフ達に処刑されるわ」
「なんやて!?」
やっべ、驚きすぎて大きな声を出しちまった。しかも関西弁で。
見張りにバレてしまうかと危うんだが、見張り役が様子を見に来る気配が一向にない。
あれ、どうしたんだろう。
「見張りの心配なら必要ないわ。それよりも、アタシはアンタが助かる方法を教えに来てあげたのよ。フフ、アタシって優しいでしょ?」
「いやだから誤解を解いてくれよ、それで済む話しだろ」
正論を突き付ける。リリが言うようなまどろっこしいやり方で助けてくれなくても、ダークエルフ達との誤解を解けば簡単に終わる話しだろ、この件は。
けどそうしない、いや出来ないのは恐らくリリがダークエルフじゃないからだ。
まぁ、だからといってリリの本当の正体が分かった訳じゃないんだけども。
でも多分、こいつは俺の敵だと思う。
「そんなのじゃ面白くないじゃない」
「ああそう」
やっぱり、リリはダークエルフじゃないな。
今の発言で確信したわ。だってこいつ、まともに理由を言う気がないし。
だとしたら解せないんだよなぁ……何故俺をわざわざエルフの里まで案内してくれて、エルフに捕まえさせて、そして助けようとしているのか。
全然理解出来ん。一体こいつは何者で、何がしたいんだ?
目的が分からず困惑していると、リリは続けて、
「ダークエルフは【キョヌー族】って呼ばれててね、エルフの中でもおっぱいが大きい種族なの」
「続けて」
「早いわね……まあいいわ。それで、ダークエルフは胸が大きい事を何よりも誇りに思っているのよ。だからアンタがダークエルフ達の前で、どれだけ巨乳が好きなのかを聞かせれば、助かるかもしれないわ」
「……それは本当のことか、信じてもいいんだな?」
「ええ、勿論」
「分かった……」
「まぁ頑張りなさい。アンタが明日、どれだけ愉快で馬鹿な事を言うのか楽しみにしてるから」
そう言い放ったと同時に、リリの体は闇に溶けていった。
何の前触れもなく、不意に、当然に。
「……」
リリの正体は一体なんなのか、気にならん事はないけれど、今はそんな事どうでもいい。
何故なら俺は今、おっぱいのことしか考えられないからだ。
そして静かに、夜が明けた。




