魔王デュラン死爵
「ガッハッハッハッハッ!! 儂は魔王デュラン死爵である! お前がベルゼートを倒したという異世界の人間か。まさかこんな毛も生えてなさそうなガキじゃったとわな!」
「……」
……は、生えてるし、全然生えてるし。
っていうか、骨が喋ってんだけど、こわ。
俺は驚きながらも、今一度喋る骸骨を観察する。
こいつが魔王か……あんまし貫禄ねえぞ、嘘ついてねぇよな。
今回の魔王は、ゴテゴテしい鎧を纏った戦士風な骸骨だった。
全長は2メートルをゆうに超えているが、以前俺がぶっ飛ばしたベルゼートとかいうイケメン魔王ほど圧力を感じられない。骨なのに髭生えてるし、喋り方爺さんだし、魔王っぽくねえんだよな。
どちらかというと、奴が跨っている骨の馬の方がよっぽど恐いんだけど。顔恐いしめちゃくちゃデカいし鼻息で石とか吹っ飛ばしてるし。
ポチと戦わせたら絶対負ける。
というか、本当はこっちが魔王とかってオチじゃないよね?
骨爺をぶっ殺したら実は馬が魔王で、後ろから轢き殺されるとかあり得そうなんだけど。
「まあ、所詮ベルゼートは儂等魔王の中でも最弱じゃしな。別段負けてもおかしくはないがの。ガッハッハッハ!」
……つーかこいつ馬鹿っぽいんだよなぁ。
言動からして魔王っぽくないというか、三下っぽいというか。
まあいいか、違ったら別の奴を探して殺せばいいんだし。
俺はセレナと一緒にミリィの部屋で待機していたら、戦場に一際大きい力を持つ魔物の気配を感じ取る。気になった俺は、セレナにミリィを頼んで恐らく魔王である魔物へと赴くことにした。
剣を持つ骸骨の頭を踏み台にして跳びながら、魔物の群れの中を着々と進んでいく。
エリザさんとアルメリアさんがド派手に魔法をぶっ放している光景を横目に、漸く魔王らしき魔物へとたどり着いたのだ。
「名乗って貰ったところ悪いんだけど、もう一回訊くわ。あんたが魔王でいいんだよな?」
「じゃからそう言っておるだろう、お前には耳がついてないんか!? あっ、今のは儂には耳がついてないという骨ジョークじゃから、笑っても許すぞ」
「あっ、はい」
骨ジョークって何だよ、つい頷いちまったじゃねえか!
面白くもなんともねぇんだよ!
「どれ、儂がいっちょ揉んでやろうかの。ほれほれ、ボーっとしてないで早くかかってこんかい」
チョイチョイと手を動かして挑発してくる骨魔王。
えっつなんかノリが軽いんだけど……今から殺し合うってのに全然緊迫感が見当たらない。どうしよう、ぶっ殺していいのかな? 不安だし、一応訊いてみるか。
「お前等魔王って変身があるんだよな? 最初から本気出さなくていいのかよ」
「あ~~~ん、何だ~~て~~~?」
「…………(プチ)」
「ガッハッハッハ! 怒るな怒るな、これもただの骨ジョークじゃ」
いやそれ骨ジョークじゃねえし、爺ジョークだし。
「そうか、二段階目の変身を知っておるのか。お前の言う通り、確かに全力を出せば変身するぞ。だが、今は変身する気はないの。どうしても儂の素晴らしくカッコイイ変身を見たくば」
――儂に全力を出させてみろ。
おちゃらけた感じだったのが、一瞬で骨魔王の雰囲気が一変する。
なんだよ、やっぱりこいつが魔王であってるじゃねえか。
これほどまでに濃厚な重圧を放てる奴はそうはいない。
(はっ舐められたもんだな)
腰を落とす。両足に力を溜め、いつでも飛び出せる態勢を取った。
(だったら、すぐに本気を出させてやるよ)
地を蹴り、骨魔王へと疾駆。
刹那の内に肉薄すると、顔面に向けて右拳を放った。
「ヒヒィィィン!」
「なっ!?」
予想外の敵に防がれ驚愕する。俺の拳は、骨魔王が乗っている馬の頭に受け止められてしまったのだ。
何だこの馬、俺の攻撃に反応しやがったッ。
「ふん、我が愛馬コクオーが、忘れ貰っては困ると怒っておるわい。そしてこれが儂からのプレゼントじゃ、受け取れい」
「――ぶっ」
馬上からの拳撃。
お返しだと言わんばかりの骨魔王の拳を頬に受けた俺は吹っ飛ばされてしまう。
両手を地面につけてバク転を一回転すると、ズザザザッと砂を巻き上げ着地する。
「……ぺっ」
口の中に溜まった血を吐き出す。今の一撃で唇を少し切っちまった。
やっべー油断したわ、まさか馬に止められるとは思わなかった。そんなに強くねえだろと高を括っていたらこのザマだよ。
「こんなものか、ちゃんと母ちゃんのオッパイ吸ったんじゃろな?カルシウムが足りん、ちゃんと牛乳を飲まんか牛乳を」
「……」
なんか今、こいつの言葉に少しだけ引っかかるものを感じた。けど戦ってる最中だし、考えたって出て来ないので一旦置いておこう。
この骨……ふざけた魔王だと馬鹿にしていたが、思っていたよりも実力が備わっている。なら俺も、少し本気を出すか。
「ほう、魔力が増したな」
まずはあの馬をなんとかしよう。いつまでも上から目線で喋られるのもムカつくからな。
「おらぁ!!」
「なんじゃ、さっきと同じではないか」
ああ、ワザと同じにしたんだよ。お前に攻撃すれば、お前を守ろうとして馬が防ごうとするからな。
そして俺の狙いは……馬だ。
「なななんじゃとっ!?」
俺の拳が馬の頭蓋骨を打ち砕く。すると馬の胴体はバラバラになり塵となった。
「さっきのお返しだ」
「ぷごーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
馬を失った事でバランスが崩れた魔王へと回し蹴りを放つ。俺の足は防御されることなく骨魔王の側頭部に炸裂。奴は絶叫すると吹き飛び、岩にめり込んだ。
「あースッキリした」
さっき殴られたの、ちょっとだけ根に持ってたんだよな。まあ、自分が油断したせいなんだけども。
「ビックリしたー、何じゃお前、さっきと全然違うではないか。卑怯じゃぞ」
「いや、卑怯とか無えし」
体が岩にめり込んでいる骨魔王が、ケロッとした様子で岩の中から出てくる。
あれ、今の蹴りは結構力を入れたんだけどな。無傷かよ、軽くショックだわ。
「ほれほれどうした。どうせ『ちょっと僕ちんが本気出せば楽勝だし』とか思ってたんじゃろ? ぷぷー恥ずかしい奴じゃなあ!」
「…………」
……上等だこんちくしょう。本気を出させてからぶっ殺してやろうかと思っていたが、もうヤメだ。あのふざけた爺ぃに、最近の若者はキレやすいという事を思い知らせてやる。
「後悔すんなよクソジジィ!!」
怒声を吐き散らしながら、俺は一瞬で間合いを埋め、必ずぶっ殺す気持ちで腹部に殴打する。
「ほげええええええええ!!」
骨魔王は俺の速度に反応出来ず、殴打をまともに受ける。鎧を貫いた拳はそのまま奴の背骨を破壊して突き抜けた。
さらに衝撃波によって、骨魔王の上半身と下半身を真っ二つにする。
「ふぅ……」
魔王を殺し終えた俺は一息吐く。
案外呆気なかったなと少し落胆していた、その時。
「どこへ行くんじゃ?」
「は?――ぐっ!!」
突然背後から声が聞こえ振り向くと、上半身と下半身がくっついた骨魔王が襲撃してきた。間一髪防げたが、衝撃によって軽く吹き飛ばされてしまう。
「おいおい、なんで生き返ってんだよ」
解せない、と困惑した表情の俺に、骨魔王は髭を触りながら馬鹿にした声音で、
「儂はアンデッド族の王じゃぞ。不死能力が備わっているに決まってるではないか」
「……知らねぇよそんなもん」
……なんだ不死能力って。卑怯だろ異世界ファンタジー。
「幾らバラバラにしたところで、儂の体はすぐに元通りになるじゃ。どうじゃ、無敵じゃろ! ガッハッハッハ!」
「ああ、そう」
あいつの体をどんだけバラしても無駄ってことか。痛覚も無さそーだし、面倒くせーなおい。
……だったら、元に戻れないよう一瞬で木端微塵にしてやるよ。いや、塵すら残らないほど破壊してやる。
「どうしたクソガキ! 儂のスーパーな能力に恐れをなしてしまったかの。もしかしてチビってしもうたかの?」
腕を限界まで引き絞る。
内包するエネルギーを拳に集中させ、一気に解放した。
「星皇拳――"羅喉"」
「ひょげええええええええええええええ!!?」
俺が放った凄まじい衝撃波は骨魔王を呑み込むと、奴の体を隅々まで破壊し尽くしてゆく。
砂埃が止み、視界が晴れる。骨魔王の姿は、どこにもなかった。
「……やったか」
今度こそ魔王を殺しきったと確信した俺は踵を返す。セレナとミリィの下に戻ろうとしたら、
「――どこへ行くと言っておる」
「ぐおっ!?」
巨大な足に踏み潰される。
押し付けられ、地に顔をつける事になってしまった俺は、胸中で狼狽する。
「だから言ったじゃろ?」
……おいマジかよ、塵すら残らず消し飛ばしたんだぞ。何で復活してんだよ。
「儂はアンデッドの王。この身を完膚なきまで滅ぼしたとしても――」
しかもこいつ、めっちゃデカくなってるし。力も増してんじゃねえか。
「儂が死ぬ事は、絶対にない」
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