のじゃろり王女
「わらわはミリィ、エリザお姉様の妹で帝国の王女じゃ。ヘイタ、助けてくれてありがとうなのじゃ」
真紅の瞳に、鮮やかなスカーレットの長髪の小さな女の子--ミリィは、泣きすぎて腫れた目を真っ直ぐに向けてお礼の言葉を告げてきた。
まだ目元は腫れているが、彼女の顔は天使のように可愛らしい。きっと将来はえれー美人になると思う。
セレナに白い目で見られてから数分。あらぬ誤解を必死に解いた後、俺達は改めてミリィに事情を聴いた。
ミリィは六、七歳程度だと思うのだが、変な話し方を除けばその口調は子供とは到底思えないほどしっかりしている。帝国の王女だと言った時は何の冗談だと思ったが、あながち本当かもしれない。
彼女の話しを聞いたところによると、ミリィは夜自室で寝ていて、目を覚ましたらすでに麻袋の中に入れられていたらしい。
馬車の音や兵士が話しているのを耳にして、自分が連れ去られてしまったと気付いたそうだ。助けを呼ぼうにも縄で手足を縛られ、猿轡で声も出すことも叶わない。
もう終わりだと全てを諦めかけていたその時、俺に助けられた。
「本当にもうダメだと思ったのじゃ。じゃからヘイタにはとても感謝しておるのじゃ」
「気にすんな」
ミリィの頭の上にポンッと手を置き、優しく撫でる。すると彼女は「んふー」と気持ち良さそうな顔をしていた。
「ちょっ平太さん、マジで捕まりますよ」
「だから誤解だと何度言えば」
「ふん、どうですかねぇ」
半眼で睨んでくるセレナ。お前はどうしても俺をロリコンにしたいようだな。
「はーいミリィちゃーん、そんなむさ苦しい変態男なんて放っておいて私の所においでぇ」
「おいこら」
むさ苦しいとは何だ。俺はまだピッチピチの高校生だぞ、謝れ。
膝を下げ、両手を広げさあお出でと、聖母のような笑顔で促すセレナ。だがしかし、ミリィはチラッとセレナを一瞥すると顔をしかめて、
「嫌じゃ」
「え」
お断りする。
まさかの拒絶にセレナの笑顔が固まった。ミリィは隠れるように俺の背後に周ると、
「エリザお姉様が言ってたのじゃ、桃色の髪をした女は淫乱じゃから近づいてはならんと」
「ぷっ」
「……」
やっべ、吹いたわ。
「淫乱ピンクの側にいると、淫乱がうつると言っておったのじゃ。じゃから、わらわはセレナに近寄ることが出来ん。許してくれ」
「ぶほっ!」
「……ふふふっふふふふ」
怖っ!?
突然笑い出したセレナ。気のせいか、ゴゴゴゴゴゴゴッ!という擬音が聞こえてくるような。こりゃ相当怒っているな。
ミリィもセレナの姿を見てひどく怯えて俺にしがみついてきた。……どうしよう、セレナマジで怖いんだけど。
「ミリィちゃんのお姉様とは、是非ともお会いしてお話してみたいですねえ」
「ひっ!?」
「わ、分かった、分かったから。抑えろセレナ、お前マジでやべー顔になってるぞ。女神の顔じゃねえって」
「……それもそうですね」
まあまあとセレナを宥めると、何とか怒りを収めてくれた。
ふう、今の顔は魔王なんかよりも全然怖かったぞ。
「そ、そういやミリィ、お前さっき自分の事を帝国の王女だと言っていたけど本当なのか?」
話しを変える為ミリィに問いかける。確かに気品は備わっているが、ミリィの今の格好はボロ布一枚を羽織ったみすぼらしい姿だ。
屈強な兵士達に連れ去られた状況を察するに貴族のお嬢様かもしれないが、帝国の王女だなんて俄かに信じ難い。
「本当じゃぞ、わらわは正真正銘帝国の王女じゃ」
「そうか」
「ぬっ、信じてくれるのか?」
「まあ、本人がそこまで言うならな。それに、あっちで埋まってるおじさん達に聞いてみればいいだろ」
「素直に口を割りますかねぇ?」
分からん。まあ、別に答えてくれなくてもいいけどさ。取り敢えず聞くだけ聞いてみよう。
◇
「何も知らん、私達はその娘を連れ去れと言われただけだ」
「誰に?」
「答える訳がないだろう」
「あっそ。ミリィ、このおじさん達の顔に見覚えは無いか?」
「うーむ……ないのじゃ」
埋まっている兵士達を引っこ抜き縄で縛って問い詰める。しかし、予想通り堅い口は割ってくれなかった。ミリィも見た事ある兵士はいないという。
でもまぁ、大体分かるんだけどな。
「こんな立派な馬車に高そうな甲冑を着た兵士、拉致ったのは帝国の王女、んで、この先にある国といえばベルン王国だ。大方、ミリィを利用して戦争でもふっかけようとしたんだろ。ベルン王国の王女様が、帝国は何度も他国に戦争を仕掛けていたって言ってたしな」
「ほえー凄いですねぇ。平太さん、探偵にもなれるんじゃないですか」
「ヘイタは凄いのぉ」
関心したようにセレナが褒めてくる。対して俺の冴えわたる名推理を聞いている筈の兵士達は一向に喋る気配が無い。
……どうしよう、ドヤ顔で言っちゃったんだけど的外れだったら超恥ずかしいな。
「喋らないならいいや。取り敢えず、ミリィは俺達が帝国に帰そう」
「そうですねえ、ミリィちゃんをこんな所に置いて行く訳にもいかないですし」
「よ、よいのか!?」
「ああ、俺達の目的地も帝国なんだ。ミリィ一人くらい増えたってどうってことないさ」
「うぅ、ヘイター!!」
嬉しかったのか、ミリィが俺の腰に抱き着いて柔らかそう頬をスリスリと擦りつけてくる。何だこいつ、めちゃくちゃ可愛いな。
「平太さん、この人達はどうするんですか?」
「ほっとけばいいだろ」
こいつ等の目的はミリィだ。俺達がミリィを保護すれば、こいつ等は何もする事は出来ない。仮に襲ってきたとしても、その時はまた地面に埋めてやろう。
「つーことで、行くか」
「ですね」
「うむ!」
ミリィと手を繋いで、その場を後にする。
「貴様覚えとけよ、このままでは済まさんからな!」
縄に縛られている兵士が怒鳴ってくる。
はっ、やれるもんならやってみやがれってんだ。
お読み頂きありがとうございます




