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俺はお嬢様が恋をしたことに気付いていない  作者: 海原羅絃
第2章 遊園地とお嬢様
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第三話 悩み

 「いやあ、楽しかったなー」

 「結構充実していたね。またみんなで行く?」

 「そうだねー。夏休みとかどうかな?」

 「あ、それいいね!! プール行って、ここいって……」

 八王子フューチャーランドからの帰り道。

 一日フルで遊びまくった俊哉たちからは、疲れという文字が見えない。

 それに対して俺は、いろいろな意味で疲れた。

 あれから鈴川がジェットコースターにはまってしまい、三連続で乗る羽目になったのだ。

 それはそれで充実した。

 充実したのだが……

 「どうしかしました?」

 「え? ……いや、何でもないよ」

 「まさか、ジェットコースターを三回も乗ったのが……」

 「いや!! 大丈夫!! マジで大丈夫だから安心して!!」

 正直、今もはきそうな状態。

 そんなことよりもだ。

 一回目のジェットコースターに乗る前。

 鈴川のあの言葉が、今でも俺の頭の中をぐるぐる回っている。

 『私、思い出したんです』

 思い出したっていうことは、記憶のことだろう。

 何をまでとは聞かなかった。

 だが、間違いなく俺に関する記憶だ。

 鈴川の記憶は俺との思い出を筆頭に無くしている。

 もし、思い出したのだとすればそれは大きな進歩だ。

 だが、俺はこのことを聞き出せずにいた。

 「おーい、蓮司!! 早く来いよ!!」

 「ほら、瀬原さん。みんなが呼んでいますよ」

 気づけば、みんながかなり向こうにいた。

 知らない間に俺はあるくのをやめ、置いてけぼりの状態になっていたのだ。

 「今すぐ行く!!」

 駆け足で、俊哉たちがいるところまで行く。

 「何してんだよ」

 「悪い悪い。ちょっと考え事してた」

 「蘭がいるんだから、しっかりとみてなきゃダメでしょ?」

 「私なら大丈夫ですよ」

 「まあ、ジェットコースターで泡ふくような奴だからな」

 「お前、それは言っちゃダメだろ?」

 「ええ!? 何々!? 興味あるんだけれど!!」

 「うわ、春富!! お前は突っ込んでくるな!!」

 焦らなくてもいい。

 今でも、この状態はとても楽しいのだから。

 鈴川の記憶も、まだ、焦らないで楽しくみんなと過ごしていればいいんだ。




 「そうか。鈴川さんは元気なんだね」

 それから数日後のことだった。

 ゴールデンウィークを満喫し、都内では帰省ラッシュもそろそろ収まるであろうとき、俺はある人物から呼び出しを食らっていた。

 「まあ、あまり普段と変わらない面もあるけどな」

 「それを聞いて安心したよ」

 獅子堂玲央。

 鈴川の元カレにして、笹野川学園を数か月で去って行ったお坊ちゃま。

 どうやら、休日を利用してこっちに来たらしい。ずいぶんご苦労なことをしたんだな。

 こうして、都内にやってきた獅子堂に俺は呼び出されたわけで……

 近況やらなんやらを言わされている状況だった。

 「お前のほうはどうなんだよ」

 「僕のほうは特別にこういう事はないよ。まあ、暑いっていうことくらいかな」

 「東京も十分、今は暑いぞ」

 「それを言われちゃあ、何も言い返せないな」

 すまし顔で、彼はそういった。

 ほんと、こいつとはこうして話し合えるとは思わなかったな。

 思い返したくない二月のこと。

 よく考えてみれば、あれを巻き起こした発端は俺にある。

 あんな状況を作らなければ、鈴川は……

 「何を気難しい顔をしているんだ?」

 「別に。気難しくなんてないぞ」

 「の割には、まるで『二月にあんな場面を作らなかったら、鈴川は今頃』なんて言うこと考えていただろ?」

 「……」

 勘のいい奴は本当に嫌いだ。

 どうしてこう、ピンポイントでえぐってくるんだ?

 「それに関しては、僕にも責任があるよ」

 「どういうことだ?」

 「あの時、あの時期に僕が転校なんてしてこなければよかったんだ。最終的にはそうなる」

 「……そこまで言われると……」

 くそっ。言葉が見つからない。

 「だから、この話題はもうおしまい」

 「おしまいって……」

 「今は、安全に鈴川さんが過ごすのと、一日でも早く記憶を取り戻してほしいんだろ?」

 獅子堂の目は真剣だった。

 以前会った時とは違う。どこかこう、まっすぐ目標に向かっている眼だ。

 「あの日、主治医が言った言葉を覚えているか?」

 あの日……っていうと、鈴川が目を覚ました日か。

 「あの時、主治医の先生は『私たちも彼女の記憶が戻るまで、誠心誠意こめて努力する』と」

 「それがどうしたんだ?」

 「普通、そんなことは言わないと思わないか? 記憶をなくしているのはピンポイントで、君との思い出だけだ。別に生活に支障をきたすわけでもないし、亡くしたところで、彼女にデメリットはない」

 そうだ。実際、考えてみればそうなんだ。

 俺に関する記憶をなくしたところで、鈴川自身にデメリットはない。

 なのに、なぜ主治医はそこまでしようとするのか。

 「おそらく、鈴川さんが目を覚ましたときの君の顔を見て思ったんだろうね」

 「何をだ?」

 「君がどれだけ、鈴川さんを好きだったのかだよ」

 フラッシュバックした。

 鈴川との思い出がだ。

 いっぱい弄ばれ、いっぱい笑い、いっぱい楽しみ、いっぱい一緒の時間を過ごした。

 そうか……そういうことだったのか。

 「それで、主治医はこう決意したんだろうね」

 他の医者なら、こういう決断はしなかったと思うよ。と、小さな声で獅子堂が言っているのがわかる。

 「あとは、首を長くして彼女の回復を待つだけだね」

 「そうだな……」

 「君も、くれぐれも無理はしないでくれよ?」

 「え?」

 それは、何を意味しているのかさっぱり分からなかった。

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