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俺はお嬢様が恋をしたことに気付いていない  作者: 海原羅絃
第2部 第1章 進級と記憶とお嬢様
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第七話 朗報

 事態が収拾した後、俺は静まり返った駐車場スペースでの勧誘広場を急きょ駆け付けてきてくれた佐藤と田中に任せて体育館へと足を運んだ。

 佐藤と田中にあれこれ説明するのは少々手間がかかったけれど、理解させしてくれればこっちも何の問題もない。

 あの剣道部員もこれに懲りればもうあのような事はしないだろう。

 まあ、俺の視界に入っているところであるのならば。

 でも佐藤と田中の二人がいればちょっとした事態はどうにかなる・・・・・だろう。

 とりあえず由々しき事態が起こらないように祈るしかないな。

 そんなわけで俺は体育館へといったのだった。

 体育館は、生徒たちの熱気でふんぞり返りそうだった。

 夏にはまだ早い熱気。これで熱中症にならないのだろうか。 

 俺は一人体育館に設けられた通路を歩く。

 辺りを見渡せば、いろいろな部活が出し物をしている。

 まあ多くは実技演技だな。

 喫茶店をやっているところも多いけれどそれ以上に運動系の部活や文化系の部活は講堂のステージを使って実技演技もよい、パフォーマンスをしている。

 俺はそれに見入るものの用事があることに気付いて青春乙のメンバーの元へと向かう。

 体育館の隅に設けられた休憩所。

 今回、ここが警備員の休憩所となる場所。

 本来なら、これぐらい範囲が決められた場所ならば警備など二人ぐらいで済まされると思うのだが講堂以外の場所で裏勧誘をしている人もいる可能性が高いと生徒会長直々のアドバイスで校舎内もまわっている人もいる。

 ちなみに警備員は青春乙のメンバーに生徒会のメンバーがいる。

 俺はある程度の仕事を終えたことにしておいてこの場にいる。

 多分休憩所にいるのも数人だけだろう。

 とはいえ、残り時間は一時間と切った。ここから各部活勧誘するのに手いっぱいのはずだけれどこれって勧誘対象に入っていたっけ?

 俺の記憶によると新入生歓迎会のようだった気がするが。

 ・・・・・まあその辺は気にしないでおこう。どのみち俺らは警備する身だ。処罰の対象に引っかかればそれで処罰となる。

 警備員の休憩所へと行くと俊哉がいた。

 見るからにへとへとで今でも倒れるんじゃないかというくらい疲れ果てている。

 身に着けている物を外している。

 「お勤めご苦労さん」

 椅子に座りかけた俊哉に俺は声をかけた。

 遠くからではわからなかったけれど、結構な汗が額に浮かび上がっていた。

 「よう、お前はずいぶんと余裕なんだな」

 「ばっちり余裕。問題もちょちょいのちょいで片付けて来たよ」

 「こっちなんてもう問題なんていう騒ぎじゃねえよ」

 あきれ返ったように溜息をつく俊哉。

 このままため息を吐き続ければいつかは魂が抜けて肉体だけの状態になりそう。

 「そういや他の連中は?」

 「佐藤と田中はお前の持ち場にいっただろ。利華と春富は警備に回っていて大野は先生呼ばれてどこかに行った」

 という事はお前だけ休憩時間を貰ったという訳なのか。

 「でもなんでそんな汗だくだくなんだよ」

 「いや、いろいろあってな・・・・彼氏としての身を考えればかなり大変だという事は分かった」

 「は?」

 「いや、実を言えば食べ物に飢えた一年共が俺の利華を狙って押し寄せてくるんだ。しかも俺が彼氏と答弁してもあいつら一向に理解の意を見せようとしないんだぞ。

 理解してもらえるのに何分かかると思ってんだよ・・・・・・・・おかげで略奪愛とか言ってどこかにいっちまったし」

 最後の方は何を言っているのかわからなかった。

 意味的にだ。

 まず略奪愛はどうかと思う。健全な高校生としての意見と見れば。

 もう一度体育館を見渡すが、問題らしい問題は今は起きていない。

 この辺なら心配することでもないか。

 もし鈴川が賀川と同じ羽目になっていたらどうなっていたのか。

 俺の場合、説得させるのに彼氏だからという言葉は易々とは使えない。

 と考えればどうしようもできないのである。

 「まああとちょっとで終わるからそれまでの辛抱だ。とりあえず頑張ろうぜ」

 俺はそう声をかけるものの、俊哉は完全に脱力モードだ。

 あとでジュースでもおごろうかな。

 俺は体育館を出て外の空気を力いっぱい吸う。

 桜も満開となり駐車場やグラウンドに散っていくものもある。

 これが終われば月末にあるお花見くらいか。

 今年の生徒会は何かと楽しい事をやってくれるよな。

 俺は大きな伸びをして、部活勧誘会が終わるのを静かに待ったのだった。








 そのひ、俺は放課後にいつもの喫茶店に立ち寄っていた。

 理由は誰かに呼ばれたからだ。

 俊哉や、賀川などのクラスメイトならばこうして今机に一人ポツンと座っている状況になるはずがない。

 しかし、その呼び出し人物本人は未だに来ない。

 俺の集合時間ニ十分前を心掛けすぎたからなのか。

 細かに時計で時間を確認すると集合時間までのこり三分。

 ちなみに俺は誰に呼ばれたのかは知らない。

 だって下駄箱を開けたら一枚の紙切れが入っていたから。

 決してラブレターではないから用心なく。

 その紙きれは文面からと言い、便箋からと言いどこからどう見ても男仕立て(いいかたがむさ苦しい)のものだった。

 



 【本日の放課後、お話したいことがあるので最寄りの喫茶店までお越しください。

  時刻は本日の午後五時にて。遅刻するなよ☆】

 



 最後の文面はともかく、これは喫茶店・・・というかあまり人前や通りがかる人には聞かれたくない話なのか。

 既にコーヒーが三杯目に突入してしまう。

 店長はゆっくりしていってくれと言ってくれたけれどどうもゆっくりできるような状況ではないと悟りたい。

 ってか人待つのにコーヒー三杯飲むってどういう神経してんだよ俺は。

 コーヒーの残りを飲みほし、カップをソーサーに置いた瞬間入口のドアベルが鳴り響いた。

 中から入ってきたのは俺も見覚えのある人物。

 周りの人はあまり見かけない顔だから驚きの表情をしているけれど俺はこの人の顔、さらには名前までも知っている。

 笹野川学園生徒会長安里壮也。

 その本人がこの喫茶店に来ていた。

 待てよ、この線を考えていけば・・・・・・・ 

 生徒会長は俺の方へと歩み寄っていく。

 そして、カウンターにいた店長に話をしてから俺の方へと向く。

 何を話していたんだよ。

 気になる。

 「やあ」

 軽々挨拶されても返事に困る。

 ここは「やあ」でノリに乗った方がいいのだろか。

 いや、いくら生徒会長であるおかたにそんな失敬な言葉をかけるなんて度胸極まりもない。

 「ど、どうもです」

 とりあえず普通に応対することにした。

 「先輩ですか?俺をこの喫茶店に誘ったのは」

 言わずとも分かっていることをあえて聞く。

 「そうだな。俺はお前に頼みたいことがあってこの喫茶店に誘った。そう言ってくれれば納得できるか?」

 「つまりは、頼みごとがあるからこの喫茶店に来いと」

 「そのとおり」と言わんばかりに指をぱちんと鳴らす生徒会長。

 そして、ウェイトレスさんにコーヒー一杯を注文する。

 「いいね、ここのコーヒー一度でいいから飲みたかったんだよ」

 なぜか本題に入らず前置きに入ろうとする。

 よほど俺に頼むことが深刻なのだろうか。

 生徒会長の事だから・・・・・・・・・・・

 分からない。社交的な人とは聞いていたけれどそうにも見えない気がするんだけれど・・・・・・

 「で、俺に何の用ですか?」

 ためらわず俺は聞いてみた。

 お冷を軽く飲んで聞いていた会長は少し目を開いていた。

 コップを置き、テーブルの縁を指でリズムを刻む。

 その細かな音がBGMなのか話を始めた。

 「話を始める前に自己紹介からしないとな。俺は生徒会長の安里壮也。知っていると思うけれど」

 「俺は二年一組の瀬原蓮司です。今日の部活動勧誘期間中にあった部活動勧誘会で警備員をしていた一人です」

 付け加えた説明と言ったら生徒会長の安里さんは何かを思い出したかのように声を張り上げた。

 「そういやうちの剣道部員が迷惑かけたな」

 うちの剣道部員?という事は・・・・・・・・

 「まさか、あの騒動、安里さんたちと同じ部活に・・・・・・」

 「まあ、そうだな。あいつらに頼んだ俺が間違っていた」

 生徒会長でも軽率なミスっていうのはあるんだな。

 「でも、大丈夫です。事は既に過ぎ去った事なので」

 「まあ、そうだな」

 悟り開くかのように安里さんはウェイトレスから運ばれてきたコーヒーを飲む。

 この匂い・・・・・確かキリマンジャロだよな?

 先輩の口に合うのだろうか・・・・・・

 一口飲んだ安里さんは味がよくわかるように口を何度も動かす。

 そして、何の感想も言わずにカップをソーサーに置いた。

 「こんど生徒会主催でお花見会をすることになったんだけれど。青春乙でそれの手伝いをしてほしいんだ」

 「・・・・・・・・」

 いきなりの依頼に俺は戸惑いを隠しきれなかった。

 コーヒーの感想を言うと思っていたけれどまさか本題からだったとは。

 何というか予想していたのかはたまた予想だにしていなかったような頼みごとがきてびっくりした。

 なんとなくお花見会があることは聞いていたけれどまさか本当にあったとは。

 でもあれだよな?この辺でお花見するってなると朝の四時から場所取りとかするんだろ?

 その役目だけはさすがに引き受けたくない。

 「ちなみによくある早朝からの場所取りっていうのはないから安心して」

 「ほっ」

 しまった、安心して胸をなでおろしてしまった!?

 これじゃあ完全に墓穴を掘り返したようなものだな。 

 「それで、俺たちがすることとは?」

 「そうだね、確か瀬原君て料理作れたよね?」

 「まあ、それなりには」

 「じゃあ、お花見用のお弁当頼めないかな?適当なものあり合わせで詰めてくれればいいだけだから」

 本当にそれでいいのだろうか。

 一瞬唐揚げオンリーで済ませようかと思った。

 でも間違いなくそんなことしたら女子たちから怒りの鉄槌が下される。

 そんなことは小学生でもわかりきっている事だ。 

 「でも俺なんかでいいんですか?調理部とかでも頼める気がするんですけれど」

 「その辺はあれだ。借りというかなんというか・・・・・」

 ああ、この部活作った時の代償的なあれか。

 別に趣味やっている事だからいいんだけれど。

 「いいですよ。引き受けます」

 「おお、そうか。それだとこっちも助かる。じゃあ、詳しい事は情報屋の彼女に言っておくからよろしくね」

 それだけをいうと、千円札だけを置いてそそくさと喫茶店を出ていってしまった。

 ・・・・・・何者なんだあの人は。

 話すことだけ話して飲むだけ飲んで千円札だけ出して帰っていくとてつもなく珍妙な人。

 俺は唖然としていたその時、事は起きた。

 携帯が突如震えだし、マナーモードにしようとディスプレイを見ると俊哉からの電話だった。

 よほどのことでない限り電話を寄越してこない俊哉の事だから大事なのだろうか。

 またはただのからかいなのか。

 一応電話に出ることにした。

 『蓮司!!今どこだ!!」

 第一声からこの鼓膜が破れそうな声。

 少しは自重してほしいものだ。

 でも俊哉の事だからできるはずもない。 

 「で、なんだよ。今喫茶店なんだからあまり大きな声出さないで」

 『わりいわりい。・・・・・じゃなくて、朗報だ!!』

 朗報となれば彼にとって目で射抜くほどのランキングをゲットできたのだろうか。

 それはそれで聞きたくはない。

 しかし、その答えは全然違かった。

 『鈴川が目を覚ましたんだ!!』

 「え・・・・・・」

 一瞬の沈黙だった。

 俺は反射的に携帯を閉じてカウンターにコーヒー三杯分の値段の小銭を適当において喫茶店の道へと全速力で出たのだった。

 鈴川に・・・・会うために。

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