表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺はお嬢様が恋をしたことに気付いていない  作者: 海原羅絃
第5章 バレンタインと元彼とお嬢様
PR
63/80

第十四話 告白そして災厄

という訳で一年生編最後です。

終わり方は一言で言えば最悪です。

ええ、最悪です。

 二月十四日。本日は世間で言うバレンタインデーだ。

 女の子が意中の男の子に渡すあのイベント。

 それが今日だ。

 平日であるのならば学校で渡せるだろう。しかし休日だとどうだ?わざわざその人の家まで行く?それとも休み前、あるいは休みが明けてから渡す人もいる。

 けれど、バレンタインでは必ずその日に渡すという信念ポリシーが持っている人もいる。

 たとえば俺の周りの人。

 おそらくポリシーなどではなく、とりあえずその日に渡したいとうずうずしているかもしれないだけかもしれないが。

 とまあ、余談はこのぐらいにして。

 改めて本日はバレンタインデー。  

 女の子が勇気を振り絞って男の子にチョコを渡すという、チョコを上げない人や貰わない人にとってはただの休日でしかないが俺たちはある場所へと呼び出された。

 二月十四日。晴れ。

 俺は屋上にいた。

 別に珍しい事ではない。学校でも俊哉とはこうして今日みたいに暖かい日などでは屋上で昼食を取っていることも有る。

 しかし、今日は休日だ。

 校舎内に人の気配はない。

 おそらくここまで来れたのはある人物の手立てによってかもしれない。

 グラウンドにも、体育館にも人の気配らしきものは感じられない。

 という事は本日の笹野川学園は俺たちを除いて無人。

 休日の誰も居ない校舎内に入るというのはいささか調子が狂うけれどこういった好奇心も芽生えてもおかしくはない。

 でも、そんな好奇心は今全く芽生えてこない。

 小学生、小学生ならそのような気持ちが芽生えておかしくはない。

 でも俺たちは小学生ではなく高校生だ。

 今の状況を見て好奇心を湧き出せなんて命令されても無理に決まっている。

 「・・・・・・で、こんなところにお呼び出しして何の用でしょうか?」

 「・・・・・・・・・・」

 あ、無視ですか。

 屋上へと来て早五分。おれはようやくこの沈黙を蹴破った。

 にしてもまた冷めるというのは・・・・・

 現在、屋上にいるのは俺と鈴川とあと何故か獅子堂。

 赤いパーカーにダメージジーンズと行ったファッション。

 獅子堂は背中にえんじ色の二つ背負っている。

 あの中には何が入っているのだろうか。大体は予想できたけれど今は視たくもないものだった。

 そして俺を誘った当の本人、鈴川は後ろに手を組んで何やらもじもじとしている。

 なんだよ、用があると言っておきながら。

 ちなみに俺のほかにも俊哉と大野が例の二人に呼び出されてとりあえず違うところで待機しているらしい。

 でも今はこの沈黙をどうにかしないと。

 獅子堂もさっきから黙ったままだし。

 「あの、鈴川さん?俺をこんなところに呼び出しておいて何の用でしょうか?」

 「・・・・・・・・別にいいじゃない」

 いつもの黒のカラーでコ-ディネートされたドレス風の服を着ている。

 ・・・・・・ツン?

 いや、そんなわけない。こいつがそんなキャラ作れるわけない。

 こいつが短時間でそんなことできるはずない。

 幻聴だ。そうに違いない。

 でも、目が本気なのは確かなんだけれど。

 「私があなたを呼んだのは別にいいじゃない。どんな理由があったって」

 とか言って後ろで手を組んでいるところから赤いリボンらしきものがちらちらを見えていますが。 

 でもあんたを呼んだという事は実際に呼ばれたのは俺で獅子堂はそれにあとを・・・・いや、最初からここを選ぶって分かっていたのか。

 だとすればかなりややこしいことになりそうだ。

 「まあ、お前の気持ちも分からなくはないけれどさ。とりあえず・・・・・ほら、今日暖かいけれど風邪ひくとあれじゃねえか。だったらさっさと用事済ませちゃったほうがいいんじゃないのか?」

 俺がそんな風に自分なりのフォローをするがあっさりと切り捨てられてしまった。

 「何、玲音レオくんがいるから気まずいとでも思っているの?」

 「んなわけねえだろ?」

 だいたい獅子堂は関係ないだろ。

 それに・・・・・・・・

 「いつまでたったってそのままじゃ駄目じゃねえのかよ」

 「そうね・・・・・・いつまでも優柔不断じゃ駄目だよね」

 優柔不断という事はよりを戻すか戻さないかで迷っているということ・・・・・・なのか?

 「だったらお前の答えは聞かない。答えは聞かないから俺たちの姿を見てからにしてくれないか」

 なんでだろう、獅子堂てきの前だというにも拘らず今日はいつも以上に口が滑る。

 「もうお喋りは十分じゃないの?そろそろ本題に入ろうよ。蓮司君・・・

 ここへ来てからずっと黙りこくっていた獅子堂がついに口を開いた。

 本題。それは俺と獅子堂のいわゆる決着をつけることだ。

 「勝負は結局のところ無効。まあ、あれは予想してなかったことだしあれで勝敗つければ何かと分が悪いなって後後気付いてよかった気がするよ。だから・・・・・・・僕も君と同じような手を使おうかな」

 獅子堂は背中に背負っていたえんじ色の長細い袋を一個取り出し俺の元へと投げ渡した。

 俺はその袋を拾い、手触りを確認する。

 それは・・・・・長年触っていない懐かしい感触と淡い思い出がよみがえる。

 喉をゴクリと動かし中身を取り出す。

 そこから現れたのは新品のように竹の匂いがする竹刀の姿が確認された。

 「蘭、これから僕と蓮司君は戦いをする。理由は聞かないで。聞かなくていいからこの戦いで勝利した方が君の心のこもった赤い小包を貰うから」

 さりげなくキザなセリフをかます獅子堂。

 呼ばれたのは俺なのに偉い調子に乗ってんじゃねえかよ。

 「さて、やろうか」

 獅子堂は竹刀を構える。

 それはちゃんとした形でいかにも剣道の有段者と言えるような姿だった。

 対して俺は・・・・・・・

 「気分が変わった。お前をぶっ潰す!!」

 俺は昔の構えとはおろか、どこからどう見ても初心者ビギナーにしか見えない構えを取る。

 その姿を見た鈴川はどんな表情をしていたのだろうか。

 おそらく、目を逸らせていたのかもしれない。

 彼女にとってのバレンタインがこのような事態になるとは。

 謝るのはその後だ。

 俺は・・・・・・最初の一歩を思いっきり蹴り上げた。









 同時刻、俊哉は中庭である人物を待っていた。

 ある程度の予想はしていたものの、まさかこんなに早く来ることになるとは思ってもいなかった。

 笹野川学園は敷地がかなりある。

 まあ大学附属っていう事もあるがそれなりの面積だ。 

 高校だけで言っても一つのキャンパス分はあるのではないか。

 それだけこの学園は施設設備が充実しているという事になる。

 中でも中庭は相当な広さになる。

 正直なところ言うと、陸上競技ができるくらい広い。

 その中庭では昼休みなど多くの生徒がベンチなどで昼食を取っている。

 しかしその中庭は今では冬という気候に逆らえず、中央にある池は全面氷が張られている。

 その片隅で俊哉は何故かぼうっとしていた。

 「早く来すぎたかなー」

 親友である蓮司たちとは別々でこちらへ来たものの、まだ教えられた時間とは遠かった。

 それまで何をしていようか。迷った末に中庭をぐるぐる回ることにした。

 けれど、いくら中庭を歩いたとしても時間はそこまで早く過ぎない。

 まだ十五分とある。

 「・・・・・待ちきれん!!」

 いっそのこと迎えにってやろうかと思った。

 けれどこうしてじっと待っているのが紳士の果たすことではないのか?と迷い果てる自分に言いかける。

 こうしてソワソワしたまま彼女が来たらどうしようか。

 何せ初めてのバレンタインチョコなのだ。

 しかも休日の学校に来てまで。

 おそらく他の連中も学校にいるはず。

 しかし、そのほかの連中は今日は来ていない。

 蓮司たちはどうやった屋上を入ったのかはわからないがおそらく理事長の職権乱用によるものかもしれない。

 そんなことを考えていると、約束の時間、二時のチャイムが鳴り響いた。

 「くるくるくるくるくるくる・・・・・・」

 呪文のように唱えている俊哉はさっきまでとは表情がかなり硬くなっている。

 このままじゃ来ちまう!!その前に緊張をほぐさなきゃ。

 一度深呼吸をしようと立ち上がったその瞬間。

 「待った?」

 「わぁ!!」 

 突然声をかけられたものだから思わずビクッとなってしまった。

 それに対してきた彼女、賀川利華は不思議な表情をしている。

 「どうしたのよ。いきなり声を上げて」

 「いや、ぼうっとしていたからびっくりしてさ」

 お前とこうしてバレンタインを迎えるのが恥ずかしかったなんてとてもじゃないけれど言えねえ!!

 これ・・・・体持つのかな?

 案外これが心配だった。

 「で・・・・なんだ?」

 分かりきっている事なのになぜか用件を聞いてしまう。

 「分かっているのにそんなこと聞くなんておかしいよ」

 指摘されたことに気づき俊哉は冷や汗をだらだら流す。

 しまった。という表情はできない。

 いや、すでに顔に出ているかもしれない。

 「まあ、雰囲気づくりとでも言ったところだよ」

 とりあえず適当に誤魔化した。

 そんな愛想笑いを浮かべる俊哉を見て利華はくすくすと笑う。

 「何がおかしいんだよ」

 「いや・・・・・やっぱ俊君だなって」

 やはり俊哉。いつもの俊哉は自分ではわからない。

 けれど、第三者からは分かる。普段の自分はどんな自分なのかと。

 それを一番知っているのは中学校時代からの悪友である蓮司に彼女である利華。 

 おそらく俊哉の長所も短所もよく知っているのもこの二人だけなのかもしれない。

 「そうか・・・・やっぱ俺は俺か―」

 清々しく俊哉は空に向かって大きな伸びをする。

 「何それ。・・・ああ、そうそう。これ」

 手から提げられているバッグから赤い小包を出す。

 綺麗にリボンで装飾されているそれは紛いもなくあれであった。

 「日ごろお世話になっている俊君に感謝のしるしと誰よりも俊君が好きな私からのプレゼントです」

 素直にバレンタインデーだからと言えばいいのに・・・・・・

 俊哉は差し出された小包を受け取り、自分より背が小さい利華の頭を自分の胸へと預けた。

 「これからも・・・・・よろしくな」

 「うん」

 休日の中庭で静寂が流れている二人の上から暖かい日差しが射しかかった。










 さらに同時刻。大野は体育館裏で待っていた。

 もちろん人に呼ばれてだ。

 部活ならここで待つという理由もあり得るが、大野はどの部活にも所属していない。

 だからここで待つ理由などさっきのとおり人に呼ばれたから。

 携帯を開くと約束の時間五分前。

 何故だか微妙な時間帯に設定したのは彼女の趣味なのだろうか。

 でもいくらなんでも四十五分とかそんな極端な設定にしなくてもいいのにと大野はつくづく思っていた。

 学校内には誰も居ない事は既に把握済み。

 職員駐車場から近いこの体育館裏でも今日は日直の先生がいないことぐらい大野は計算の内だ。

 もっとも、それを前提として昨日の電話で場所を設定したのは大野なんだが。

 そうとしていれば約束に人がしかに入ってきた。

 普段は制服だけれど今日はきっちりと身のこなしをしている。

 委員長だから休日も外出の際は制服。というものはやはりここではないのか。

 「ごめん・・・・・・・結構まった?」

 急いで来たのか。彼女、春富瑠奈は息を荒くしていた。

 「いや、俺も五分前に来たところ」

 五分前行動をを心掛けている大野にとっては容易いことだ。

 「それにしてもまたえらい時間に集合したね」

 「その方がなんかいいじゃない?だってデートとかだときっちりとした時間じゃん?だったら中途半端な方がいいのかなーって」

 そのような考えがまず思いつくのは彼女しかいないだろう。

 「寒くないのか?」

 「全然。走ってきたから大丈夫だよ」

 とは彼女が言うものの、履いている靴は運動には適していないし幾らここまで走ってからが温まったといったってすぐに体が冷えてしまえば意味がない。

 大野はそんな強気で言う彼女の内面を読み、念のため厚着をしてきた甲斐があったのか、ひざ下まであるコートを彼女に手渡す。

 「大野君・・・・・」

 「大地でいいよ」

 大野大地。それが彼の本名。

 「はい」

 そう言われて渡されたのは小包。

 「これって・・・・・」

 「私は大地君のところが好きなしるしだよ。これからもよろしくね」

 可愛げ表情で瑠奈は言う。

 それに対して大野こと大地は・・・・・

 「おれからもよろしくね」

 温かな手が柔らかくそして包み込んだ。









 竹刀と竹刀がぶつかり合っていた。

 両者ともに譲らずまだぴんぴんだった。

 「なかなかやるね・・・・これでも僕、剣道の方はかなり有段なんだけれどね」

 「そりゃそうかい。生憎だけれど俺も元から運動神経はいい方なんでね」

 それでも右目の方はかなり来ている。

 右側からくる攻撃は相変わらず少しだけ反応が遅れる。

 それでもだいぶ凌いでいる方だ。

 「へえ、でもよく僕の胴を切り抜けられるよね」

 「だから元からの運動神経だって言ってんだろ」

 ホントは剣道やってたからなんて言えるわけねえ。

 こうして俺と獅子堂は勝負の方に集中しているけれど、みることしかできない鈴川はどうしようもない表情でいた。

 (なんでよ。なんでこんなことになるのよ)

 心の中の鈴川の気持ちはやはりこの事態にはなって欲しくなかったらしい。

 それもそのはず。事の発端は私にあるのだから。

 だから・・・・止めに行かなくてはならない。

 でも、止められない。

 あの二人の真っ直ぐな視線を見る限り彼女にはどうしようもできないのだ。

 今でも彼女の目の前では竹刀が風を切って音を立てている。

 「うりゃぁ!!」

 俺の振り回している竹刀は獅子堂の竹刀と激突する。

 俺もむやみに竹刀を振り回さない。

 ただ、前が見えていないだけ。周りが見えず、一点に集中しているだけ。

 それでも俺は竹刀を振り続ける。

 「そんなに・・・・むやみに・・・振り回していても僕には当たらないよ!!」

 俺の一瞬の隙を突いたのか、獅子堂は先革と呼ばれる部分でおれの腹を突き刺した。

 「ぐはぁ!!」

 その反射として俺は鈍い声を出す。

 同時に嗚咽感が体中を駆け回る。

 くそ・・・・・こんなところで。

 俺は再び立ち上がろうとするが体が言う事を聞かない。

 最低でも膝立しかできないのにここからどうしようもできないなんてそりゃあごめんだ。

 「もう終わり?・・・・・だったらさっさと・・・・!!」

 俺は目の前にいる獅子堂にめがけて竹刀を振った。

 もちろん獅子堂はよろめいたが俺が狙ったのは獅子堂ではなく、獅子堂の竹刀だった。

 こいつも握力はそこまで残っていないはず。だったらさっきの俺の喰らったのがトドメのはずだ。

 「・・・・・・まだ、終わってねえぞ」

 俺は竹刀を投げ捨て、獅子堂に殴り掛かる。

 拳に鈍い感触が伝わる。

 腕の骨が折れたかもしれない。だけど俺はそれに形振り構わず殴り続ける。

 「調子に・・・・のるなぁ!!」

 獅子堂の声が俺の鼓膜を突き破るように通ると今度は俺の右頬にその感触は伝わった。

 見えなかった・・・・・・ではなく見えない。元から見えない。

 あいつは俺の眼を知っていてさっきのとおり左ストレートを出したのかよ。

 だったら・・・・・

 「うあああああああああ!!」

 右拳に力を込める。

 獅子堂もよろめいていてガードもできない。

 俺は諸刃の剣の如く、殴りかかる。

 「やめてぇ!!」

 しかし、俺の拳は獅子堂の顔寸前で止まる。

 俺と獅子堂は荒い息を立てている。

 そして、俺たちの惨事を聞きつけて来たのか俊哉たちが屋上へと入ってきた。

 「もうやめてよ・・・・・二人とも。なんで・・・なんで私のためにそこまでボロボロになるの?」

 なんでかって?そりゃ・・・・・・

 「蘭の事が好きだからだよ」

 言ったのは俺ではない。

 獅子堂だ。

 こいつ・・・・・やっぱり本気だったか。

 まあ、本気じゃなきゃここまでしないか。

 「玲音レオ君。君の気持ちは嬉しいわ。でも・・・・私は・・・・・・・・」

 生暖かい風が吹き付けた。

 「どうしてか私は瀬原君が好きなのよ」

 そう、それが・・・・・

 「「私(お前の)答えだった」





 「っててて、もっと優しくしろよ」

 「我慢しなさい。こうして手当してあげるだけでも感謝するのよ」

 はいはい、大いに感謝いたします。

 あれから、獅子堂は潔く負けを認めた後、屋上のど真ん中で寝息を立てて寝てしまった。

 とりあえず獅子堂の事は俊哉たちに任せて俺と鈴川は校門前で嬉し?恥ずかしながらも応急手当てをしていた。

 「まあよくもこんなにボロボロになるまでやったわね」

 「そう思っているのなら止めに行ってくれよ」

 「私は手は出さない人でね」

 そうかそうか。

 でも、今でも思えば竹刀を握ったのも久しぶりだなー。

 相変わらず右目はそのままだったけれどな。

 「まあ、これからは無理しない事だね」

 「ご忠告どうも。さて、そろそろ帰るとするか?」

 「そうね」

 俺は鈴川の手を借りながら立ち上がる。

 なんか運動不足でもないのに足の至る所が痛い。

 でも・・・・たまにはこういうのもいいのかなって。

 「何よ。変な顔しちゃって」

 「いや、お前が好きっていうなんて珍しいなって思って」 

 「あら、私にしては珍しかった?」

 「珍しいもまずお前がそんなこと言ったの初めてだろ?」

 「・・・・・そうね」

 今まで自覚していなかったのかよ。

 こうして話しているとなんだか今までとは違う緊張感に包まれるな。

 学校から出た一本道を通ると、大通りへと出る。

 信号はまだ赤のまま。

 「あ、そうだ」

 信号を待ちながら鈴川は思い出したように言う。

 「なんだよ」

 青になった信号を確認しながら俺は聞く。

 鈴川は俺の前へと先出し俺の方へと向きながら横断歩道を渡ろうとする。

 その刹那。

 キキーッっという金属同士が擦れる音が聞こえてきた。

 その方向を見ると信号が赤なのにも拘らず突っ込んでくるトラックが俺の視界に入ってきた。 

 スピードは緩まっている・・・・・でも。

 その咄嗟の反応が脳へ筋肉へと連鎖されていく。

 パァーーーン!!

 「鈴川!!」

 果たして俺の声は届いたのだろうか。

 俺の差し伸べた手は届いたのだろうか。

 盛大なクラクションが鳴り響くのと同時に車が電柱へと突っ込んだ。

 トラックは寸前のところで自らハンドルを電柱の方へと切り出したのだった。

 しかし、はみ出された荷物の下敷きには鈴川が。

 アスファルトには血が染みている。

 何が起こったのかわからなかった。

 でも、反射的に鈴川と叫んだことしか覚えていない。

 俺は、一瞬の出来事にただ呆然と立ち尽くし、後悔しているだけであった。


 ~第6章 バレンタインと元彼とお嬢様 完~



 ~一年生編<終>~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ