第十三話 荒ぶる気持ちは収まらず
朝目が覚めると横に鈴川が寝ていた。
・・・・・ああ、俺んちに泊まっていたんだっけ。
今もすやすやと寝息を立てている。
昨日はあれから何のイベントもなく俺たちは床に就いた。
いつもの鈴川なら何らかのイベントは自ら起こす奴なのに昨日に至っては何という事は何気意外だった。
とりあえず俺は時計を見る。
時刻は朝の七時。
鈴川を起こして飯を食べていつも通りの準備をすれば学校には間に合う。
間に合うけれど油断をしてはならない。
前にもこんなことあったような無かったような・・・・・・
まあ鈴川の事だ。どうせいつものように起こしてとか言ってくるからその間に準備をすればいい。
体をむくりと起こし、俺は部屋を出る。
・・・・・待てよ。
俺は自室を出て再度自分の部屋を見渡す。
部屋はそこまで散らかってはない。ただ漫画本が積み重なっていたり、ただただ好きで読んでいるラノベ系がそこらに敷き詰められている。
布団も、毛布と掛布団が綺麗に重なって鈴川の上にある。
いや、まずそこで鈴川が寝ていておかしくないか?
今まで気づかなかったけれど俺、鈴川と一緒の布団で寝ていたんだよな?
夏休みの時もそうだった。
確か一階の和室で布団が一式しかなくてとりあえず二人で寝る羽目に・・・・・・
今となってはだいぶ恥ずかしい事だったが。
・・・・・・・
「ううっ、さみっ」
肌で感じる寒さに耐えながら俺は一階へと下りる。
リビングに入ると、寒気がどっと押し寄せてくる。
さすがに暖房器具をつけていないとこれだけ寒いんだな。
俺はそばにあるストーブの電源をつける。
火が焚けるような音が聞こえるとすぐさま俺の足元に熱が来る。
「あったけえー」
俺は極楽の時間を過ごしているけれど今はその場合ではない。
朝ごはん朝ごはん。
今日はトーストでいいかな。
それからココアを作って・・・・・・・
俺は八枚スライスの食パンを二枚取出しオーブントースターへと放り込む。
その間に冷蔵庫から牛乳を取り出してマグカップに注ぎ電子レンジで温める。
あとは・・・鈴川を起こすだけだな。
俺はあたまを掻きむしりながら二階に上がる。
「鈴川、そろそろ起きろ」
「スーッスーッ」
「・・・・・・」
おい起きろ。
・・・・・・・
しょうがない・・・・・
俺はまだベッドで寝ている鈴川をさする。
このパターンだとおそらく鈴川はそろそろ俺の手を引きずってベッドへ入らせようとする。
俺は用心しながらと思いきや手をひっこめるなどの仕草をするけれどそんな素振りはない。
珍しいなぁ・・・・
「うん・・・・」
あ、起きた。
「おはよ、瀬原君」
「・・・・・お、おはよ」
なんか前回をパターンが違うようだったからびっくりした。
今日の鈴川変なような・・・・・・
「そろそろ飯できるから着替えてこいよ。あ、着替えちゃんとある?」
「あるわよ。心配しないで。それと今日は帰り遅くなるから夕飯要らないわ」
そうかそうか、夕飯はいらないならあとで余分に・・・・
「って今日も泊まるのかよ!?」
「冗談よ」
薄気味悪い笑いを浮かべながら鈴川は俺の部屋から出ていく。
にしても・・・・・本当に今日のこいつはおかしい。
そんな未来予知がいつ当たるかなんて俺は知るはずない。
だって未来は待つためにあるんだろ?
「せはらくーん。ジャムは何処なの?」
ああ、今日も一日忙しい。
◇
「はぁ!?付き合う事になった?」
俺の驚愕の声は朝の校舎内に響き渡った。
まだ朝の八時前。始業開始時間はそこから四十分以上とあるからまだ生徒の姿は少ない。
そのなかで俺は屋上で俊哉と話していた。
冬の屋上はたいそう不便だ。
ストーブはないし座るところがない。
座るにしても地べただ。そんなところでこんな冷たい床に座ろうなんて思わない。
「聞くところによると、古川さんがダメもとで告ったみたい。そしたら成功しちゃった☆みたいな?」
成功しちゃった☆じゃねえよ。
どうするんだよ俺たちの勝負。
あ、でも勝負って言っても単なる加賀の情報集。古川に至っては何の努力もしていないっていう風に聞いてたからどの道この勝負は無効になる訳なのか?
「まあ、無効になるな。あいつならそうするだろ。じゃなきゃ最初からそんなこと挑んでこないって」
「だよな」
フェンス越しからは登校する生徒で賑わう。
そのなかで、朝っぱらなのにも拘らず手をつないで投稿している男女が一組。
「ああ、すっかり手練れになっているな」
自慢げに言うな。
・・・・・・にしても。
なんか俺たちがやった事意味なかったしね?
だって情報収集って言っても何した?何もしてなくね?
俺がググッとした視線が加賀たちを見ていると、それに気づいた加賀は俺に向かって手を振ってきた。
それにつられて古川も。
お二人してようござんす。
忌々しい姿を見せおって。
「おっと?その顔はまさかの僻んでいるのかな?だとしたらだめだねー。もうすぐバレンタインが近いっていうのにそんなことしたら鈴川からチョコ貰えないぞ」
僻んでねえし。バレンタインも関係ないから。
でも俺が鈴川からもらうっていうその断定は何処から出て来たの?
「そんなのお前らの言動とかに決まっているじゃん」
「いや、鈴川の言動とかならともかくなんでお前等?俺も入っているの?」
「当たり前じゃん」という顔をする。
やめろ、むかつく。
最初は隠れていた陽も次第には顔を出して来てぽかぽかな気分になる。
俊哉は顔を出した太陽と共に大きな伸びをする。
「とりあえず、獅子堂との戦い頑張れよ」
「なんで俺ががんばるんだよ」
「じゃなきゃとられるぞ?よりを戻すって言っているくらいなんだからさ。お前の大事なお姫様なんだし」
お姫様のところをやたらと強調して言うのをやめてほしい。
まずお姫様じゃねえし。
「お前はそう思っているかもしれねえけど、獅子堂のやつは本気だぞ。もしかしたら前にいた学校にまた転校してそのついでに鈴川も引き連れるっていう設定かもしれないぞ」
確かによりを戻そうと言っているくらいなんだからそれを阻止しなければならない。
何としてもあいつのところへ行かせない。
知らない間に俺は両手の拳を握っていた。
「死ぬ気で行こうかな」
「その意気だ。強気な事しか言うんじゃねえぞ」
いくらでも言ってやるよ。
「そういえば、利華とはもう仲直りしたか?」
「仲直りどころか、喧嘩したような覚えはねえぞ」
食堂で起きたことは単なる口論だ。
真実を述べたまでの事。
「まあ気にするな。利華もあれですぐ忘れるやつだからさ。なんかあったらおれの方で言っておくよ」
「頼んだよ」
そうして、俺らが話を進ませていると、始業開始五分前のチャイムが鳴った。
「時間かよ・・・・・じゃあ頑張れよ」
頑張れって・・・・・どこをどう頑張るんだよ。
そんな風に思いながら俺は階段を素早く降りていく俊哉の背中を見届けるのであった。
◇
放課後、女子三人は最終段階に入っていた。
前までおまけとしていた古川は何故か、急な交際発覚により、このプランには辞退となった。
そんなわけで現在賀川宅。
下に弟と妹がいる賀川宅には現在どちらもいない。
受験生という事なのに勉強をせずに何をしているのかとつくづく呆れる利華自身であるが、弟と妹はすでに高校が決まっている。
どうやら今週の頭に結果が来たらしく、賀川家では大いに盛り上がっていた。
しょうじき、利華はパッとしなかった。
何故なら弟妹である二人が利華の通っている学校へと入学するのだ。
そうなれば利華も利華自身、それなりの行動が制限される。
特に彼氏である俊哉との時間。
これは限られたという訳ではなく、人目につくからという事でもない。
ただ単純にみられるのがやなだけだから。という心の中での自己主張。
親は知っているものの、なぜか弟妹だけは知らない。
いや、知られたくないのである。
そういう訳で台所ではそれぞれ目の前にあるものと格闘中である。
鈴川は鈴川で何か違う事に苦戦している模様だ。
心配だと思い、利華は駆け寄ると蘭はこう答えて来た。
「いや、結局誰に渡せばいいのかなって」
「そうね・・・・・まあどの道あの二人は対決することになるわけだから」
「蘭はいいの?止めなくて」
二人からの助言が通るものの、どう答えたらいいのかわからない。
「止める・・・・・っていっても私がどうしてもおそらく意味ないでしょ。だったら余計なことしないわ。私は男の子同士の正々堂々とした戦いなんだから」
強気で言う鈴川だけれどそれでも心残りなど何か心の奥で引っかかることも有るだろう。
けれど、それを我慢しているようにも思える。
鈴川の目の前には小さなチョコ。
決して自分の恋に気付いてくれない鈍感な男の子が買ってきてくれたチョコをもとに作ったオリジナルのチョコ。
あの時、「よりを戻そう」と言われても実感というものがなかった。
何を言っているのか、言葉の中身が分からずてんでこまいで彼のところへ行くことになった。
あの時は答えが出なかっただけ。
でも今は出ている。
私の気持ち。
「本番は明日よ。蘭ならできるわよ」
親友が声をかけてくれる。
それがどれだけ幸せな事なのか。
その幸せは一体どこまで続くのだろうか。
最終調整している少女たちはそれぞれの気持ちを整理しつつあった。
しかし、蓮司たちに起きる最悪な事態はまだ誰も予想できなていなく、蓮司は彼女からの気持ちを伝えられぬままに春へと突入する冬の物語が開いてしまう。
ここまでくればオンリーワンラブwwどうみても傾かないよね。
よりを戻すと言ったのは何のためか。
というわけで、次回、異例の最終回!!
・・・がちです。




