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俺はお嬢様が恋をしたことに気付いていない  作者: 海原羅絃
第5章 バレンタインと元彼とお嬢様
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第八話 追い求める理由

 「はて、どうすればいいものか」

 昼休み、俺はとにかく悩んでいた。

 悩みに悩みすぎて本来の目的を何か見失っているような気がした。

 とりあえずは獅子堂との勝負を引き受けたからにはそれなりの戦いをしなくてはならないだろう。

 でも戦いだろ?拳と拳のぶつかり合いなんて言っていたけれど実際は活せられた依頼を完遂してどちらか貢献したかを競いあう。 

 もちろん、情報収集などはすべて一人で行う。

 だから唯一の情報源である悪友の俊哉が今回に至っては使い物ならないのはさすがに痛い。

 「誰が使い物にならねえだ」

 頭をノートらしきものでひっぱたかられた。

 教科書の角やノートの角と行った場所ではなく丸められたノートで野球選手の如くバットを振り回す感じでやられた。

 スコーンって。

 お菓子かよ。

 「なんで俺の考えていたことが分かったんだよ」

 「おれだから」

 「そう言える根拠はなんだよ」

 どうせ他愛もない事を言うに決まっている。

 「俺が超能力者だから」

 「それはありえん」

 まず現代社会においてそのような人物は一体存在するのだろうか。

 存在したとしたら大ニュースで清水寺で開かれる今年の漢字では『超』なのか。

 超がつくほどのお嬢様。超がつくほどの非日常。超がつくほどの能力。 

 なんてことはないな。

 「結局はどうするんだよ」

 「どうするも何も自分で動かなきゃいけないだろ」

 いくら俺の情報網が薄くても俊哉の多圧な情報網には頼りきれない。

 「あー、やっぱり使えねえな」

 「また使えねえっていったよな?言ったよな?」

 「言ってねえ言ってねえ」

 とりあえず棒読みで俺は返事する。

 にしても加賀架の情報って言っても・・・・・・

 一体どうすりゃいいんだよ。

 「こういう場合っていうのは本人に直接話を聞くのもありなのか?」

 「有って言っちゃありなんだけれど俺的にはあまりお勧めしないな」

 「なんでだよ」

 俺は頬杖をつきながら聞く。

 食堂も授業開始までまだ十五分とあるのにもかかわらず多くの生徒が食堂から立ち去っていく。

 「だっていきなり『好きな人いる?』とか『あいつのことどう思う?』なんて聞けるか?」

 俺は想像する。

 放課後あたり、加賀と話をする。

 確かにその時話す話題と言ったらそれくらいの事くらいになる。

 ・・・・・・うん。俊哉の言うとおりこれじゃああからさまに怪しい。 

 やっぱり綿密に情報を収集すべきなのかな。

 「でも蓮司の考えもありだと思うぞ」

 「ホントか?」

 「でもかなりの危険リスクを背負う事になるぞ。それでも成功の天秤に傾く方にかけるんだったら俺は止めないぞ?」

 熟練したギャンブラーのように物事を言う。

 完全に失敗という訳でもない事は分かっている。

 だからこそやるのかもしれない。

 加賀の性格とかを考慮していけばどうにか話を持ち込めるかもしれない。

 「そうだな。やるだけやってみようかな」

 コップに残ったお茶を一気に飲み干す。

 すでに覚めてしまったそのお茶はすんなりと俺ののどを通ってはすぐに腹の底へと入る。

 はぁと息をはけば白いが俺の前を上へと揺らいでいく。

 「まあがんばれ。結果を楽しみにしているぞ」

 いつもは笑っている俊哉の顔が今日は一段と真面目に見えて俺は少しだけ目を見据えてしまった。








 放課後、俺は情報収集をすべく加賀架の元へと行った。

 獅子堂もすでに動き始めているかもしれない。

 あいつの行動も気になるところだけれど今は自分ですべきことに専念しなくてはならない。

 加賀がいるクラスは一組。

 確かバスケ部に所属しているって教室を出るとき大野に聞いた。

 今日は部活動が全面休みであるからもしかしたらまだ教室にいるかもしれない。

 その期待を弾ませながら俺は一年一組の教室へと行く。

 中に入るとそこには加賀かと思ったが違う人物だった。

 「おや、瀬原君じゃん」

 そこには獅子堂の姿が。

 「奇遇だね。君も本人から情報を得るためにここに来たの?」

 君も。ということはこいつも加賀本人に情報を得るためにこの教室に立ち寄ったのか。

 やっぱり考えることは一緒だったんか。

 「生憎だけれどそのために来た。でも例の本人はいなそうだな」

 「ああ、その本人なら今は屋上だよ」

 は?屋上?

 さっぱり意味が分からない。

 「いや、僕がこの教室に入ってきたときにはいたんだけれどちょっと野暮用ができたとか言って今さっき屋上へと行ったよ」

 という事は俺とすれ違いなわけか。

 おしいようなおしくないような。

 「その野暮用っていうのは?」

 「女子からのお呼びらしい」

 「・・・・・ああ、なるほど」

 女子からのお呼びという事はよくあるあれだろう。

 うん、よくあるあれだ。

 「お前もそれで呼ばれるんじゃないのか?」

 「あれ?僕言ってなかったけ?」

 何をだよ。

 獅子堂が女子から呼ばれないような手を施したところなんて見たことない。

 「転校初日に僕が蘭の事を好きだって確か言ったはずなんだけれど・・・・・」

 「ちょっとまて、それこそ野暮な事だろ。ってか俺は覚えてねえぞ」

 「だって初日の昼休みだかで女子たちが彼女はいるの?とか質問をしてきたからあっさり蘭の事が好きっていった」

 前にも感じたことがあるけれどやっぱり女子って男子と大して質問するクオリティは変わらないんだな。

 「ってかよくそんなこと言えたよな。鈴川は聞いていたのかよ」

 「いや、蘭はもう更衣室に行ってたらしいから知らない」

 ああ、そういえばその時は体育だったっけ。

 「つくづく女子もあまり可憐じゃないね。顔のいい男がいればそれに群がってくる。ああ、醜いね」

 「醜いのはどっちだよ」

 でもこいつの性格上普通に女子を簡単に手玉を取る奴だと思っていたのにこうやって罵っているなんて予想外だ。

 やっぱり人間は下手に外見だけで判断しない方がいいんだな。

 改めてそれを知った。

 「さて、そろそろお時間かな。僕らも行くとするか」

 時計を見ると俺がこの教室に入ってからすでにニ十分近くたっている。

 そろそろ加賀が屋上から降りてきてもいい時間だ。

 獅子堂は一組の教室を出る。

 俺もそれに続いて教室を出て屋上へとつながる階段を上る。

 「いいのかよ。敵と一緒に情報収集しに行って」

 もとは俺がついてきたようなものだけれど。

 「僕はそこまで気にしないから。どうせ共有する情報は一緒になる。そうすれば不公平なく勝負できるだろ?」

 いよいよどんな勝負なるのかわからなくなってきそうだな。

 「まあ僕はせいぜい勝負を楽しみとするよ」

 「拳と拳のか?」

 俺の質問に獅子堂は小さく笑う。

 なんだよ。狙っていたのか。

 俺たちが話している間に屋上へとつき俺と獅子堂は恐る恐る屋上の扉の隙間から外の様子を見る。

 「やっぱり例のあれか」

 「例のあれなんかよ」

 今日は妙に息がぴったりなのは俺の気のせいなのか。その眼で見たものはやはりあれであった。

 うーん、人の告白をコソコソとみているのは何かと信条に反するような気がする。

 「どうすんだよ」

 「とりあえず結果次第出向く」

 イエスだったら待機。

 ノーだったら突入ってか?

 「ちなみにイエスだったら待機。ノーだったら居座る」

 「ちょっとまて、今待機と居座るっていったよな?言葉の意味は同じだと解釈してもいいんだろ?」

 「さようで」

 じゃあ俺は完全に観客じゃねえかよ!!

 ここまで来た意味なっ!!

 「まあ静かにしてな。結果はどうあれ変わらないんだから」

 「なんでだよ」

 「ほら来た」

 視線を扉の隙間の方へと移すと女子生徒がこっちへ向かって走ってくる。

 俺たちは即座に近くの物陰に隠れる。

 勢いよく扉を蹴破った女子生徒は泣きじゃくりながら階段を駆け下りていった。

 ・・・・・・

 もしも俺たちがあのままそこに居たら間違いなく体が勢いよく階段をかけ堕ちていったかもしれない。

 その女子生徒を目で見送った後、俺と獅子堂は屋上で佇んでいる加賀の元へと歩き出した。

 よく見ると加賀本人は何処か困り果てた様な顔をしていた。

 そして近づいてくる俺たちに気付いたところでパッとした表情をする。 

 少し違和感を感じたけれどそこは気にしないことにした。

 「あれ、転校生の獅子堂君に噂の瀬原君じゃん。俺になんか用?」

 待て待て待て。獅子堂の呼び名は分かるけれど俺は何?噂の?その噂ってなんなんだよ。

 「決まってんじゃん。例のお嬢様と付き合っているっていう」

 ふいに獅子堂の眉が動いたのは俺の眼の錯覚なのか。

 とりあえず目を逸らしたことで事態の収拾はつきそうだったのは幸いだ。 

 「まあ用事っていうのは本当だよ。ちょっとお前に聞きたいことがあってさ」

 「へぇー、何?」

 興味津々そうな顔をする加賀。

 「さっきの告白も見ていたけれどお前って彼女いるのか?」

 実に単刀直入する質問だったのか?

 分からないけれどこいつらの反応を見ている限りそれなりだったらしい。

 しかも獅子堂は腹を押さえていやがるし。

 腹が立つ。

 「あー、あれ見てたんだ。うん、俺彼女いねえよ」

 よし来たっ!!

 これで俺の先取点のゲットだぜ。

 なんて勝ち誇った顔をしたが獅子堂は興味なさそうな顔をしていた。

 はいはい、空気読めなくてすいませんでしたね。

 「でも二人してどうしたんだよ。いきなり俺に変な質問してくるし」

 さあ、獅子堂今度はお前の番だ。

 いくら空気が読めなかったからって一応いい質問はしたつもりだ!!

 「君古川さんと同じ中学だったらしいね」

 「古川?・・・・・・・あー、実幸ね。うん。同じ学校だったよ。小学校も一緒。あいつずっとインキャラぽかったから彼氏出来るのか心配だったわー」

 全然心配そうないい方じぇねえ。

 ってかその彼氏候補にお前が入っているなんてまず本人が知るはずねえよな。

 「そうなのか」

 うーん、獅子堂にしては何かとさえない質問だったな。

 「悪いけれどさ。俺用事あんだよ。できれば話はまた後日でいいか?」

 「あ、俺たちなら別にいいけれど」

 「わりぃな」

 そう言いながら加賀は屋上へと出ていった。

 「案外膨らまねえもんだな」

 「ちょっと僕としては想定外だったね。まさかあんなにきっぱり言うなんて」

 そう言う風に頭を悩ませるお前も俺にとっては想定外だよ。

 「でもこれじゃあもうやる事がねえよな」

 勝負の続きも明日になるのか。

 バレンタインデーまで残り日数が少ない中、俺はどうやってこいつとの勝負に勝つのか。

 こいつと鈴川がよりを戻さないためにはどうしたらいいのか。

 でも待てよ?

 一つだけ気になることがある。

 何故鈴川と廻って獅子堂は俺を標的にしたんだ?

 俺のほかにも鈴川を推している生徒は多数いる。

 言いたくはないけれど中には先生もいることくらいわかる。

 なのに俺だけ敵視するなんてまずあり得なくないか?

 ありえたとしてもそれはおかしい。

 「なあ、獅子堂」

 俺は思い切って聞いてみることにした。

 万が一のことも有るから。

 「なんだい?」

 「お前はなんでそこまで鈴川を求める。なんで俺をそこまで敵視するんだよ」

 時が一瞬止まったかのように見えた。

 しかしそれは決して幻覚ではない。

 あらゆる情景が今俺の眼前で放たれている。

 俺はそれを受け入れることができるのか。

 「聞きたいか?」

 俺はこくりと黙ってうなずく。

 そして獅子堂はさっきの柔らかな表情とは裏腹にきりっとして何かをにらみつけるような形相で俺を見た。

 「蘭の初恋がお前だからだよ」

 それが、獅子堂こいつの返答だった。

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