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俺はお嬢様が恋をしたことに気付いていない  作者: 海原羅絃
第5章 バレンタインと元彼とお嬢様
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第七話 女の子の悩み

 部室にて女性陣三人は話していた。

 他の部員が帰った後、後々来る鈴川を待つために三人は居残りで机で呆けていた。

 正直女性陣は瀬原に少々呆れていた。

 今の彼女たちの心境で瀬原を何か一言で表すとしたら『超絶朴念仁』なのか。

 今まで一緒にいた鈴川のもとに元彼の獅子堂が来てから彼は何一つ動こうとはしない。彼は鈴川が困っているのに気付いていない。

 もはやそのままよりを戻してしまってもいい位だと思っているのかもしれない。

 そんなことを想像していると、賀川と春富は虫唾が走りそうだった。

 しかも時期がバレンタイン。

 この三人も意中の相手に手作りチョコを渡そうと懸念しているのにもかかわらず厄介ごとに巻き込まれてしまうという事態に。

 こんな由々しき事態をどうにか収拾すべく今から対策を練るために三人は集まっている。

 先ほどの出来事からすでに十分近くたっている。

 運良かったのか、鈴川は用事があったため部活動に顔を出さなかった。

 もし彼女が部活に出ていれば先ほどの状況をどうつかみ取っていたのだろうか。

 それに賀川はずっと疑問に思っていた。

 先日の昼休み、瀬原とついつい口論してしまった賀川はあのあと偶然鈴川と会った。

 気づいたのは彼女を通り過ぎてから。

 気づいた瞬間、彼女の表情は分からなかったけれど確かに立ち止まって視線は瀬原の方へと向いていた。

 おそらく自分の言った言葉は耳に入っていただろう。

 その気持ちがずっと心残りしていて気持ちが悪い。

 でも今は目の前にある課題に集中しなくてはならない。

 「ごめん。遅くなって」

 部室の扉が開き、中から入ってきたのは待っていた人物鈴川蘭だった。

 ここまで急いで来たのか息が少し上がっている。

 「いいよ、そこまで遅い時間じゃないから」

 立ち尽くしている鈴川を空いている席へと促す。

 指定された席に座ると鈴川は大きなため息を吐く。

 元彼とどこかしらに行ってたみたいだからそれなりにつかれたのだろう。

 「いろいろと大変みたいね」

 「もう最悪よ」

 顔をうずく目る体制に入っている鈴川は賀川に現況を聞き出す。

 それに対して賀川はあきれたような答えを返す。

 春富も同情してうんうんと頷いている。

 「ったく、男子ったらどうしてこうめんどくさい事に首を突っ込むのかしら」

 「むしろお人好しなんじゃない?はぁ、どうなったらそんな人になるのよ」 

 悩みの種はそれなのか。

 本来ならば瀬原の話に持ち込まれるはずだけれどここまで来たらさすがにその状況に持ち込める感じでない事は分かる。

 三人しかいない広い部室にストーブが沸いている音しか聞こえてこない。

 「そういえばバレンタインのことも有ったね」

 沈黙を破ったのは鈴川だった。

 バレンタイン。女の子たちにとって一大イベントともいえる一年に一度の行事。

 現代なら女子同士のチョコ渡しも流行りだしているところだが男の子の気持ちを知らない女子にとっては最早バレンタインは単なるお菓子交換になる人もいる。

 しかしこの三人は違う。

 それぞれ思う人がいる。

 それぞれ思う人がいるからその思いを伝えるためにチョコを渡す。

 「いろいろと取り込んでいるからなかなか集まる時間がないわね」

 「瑠奈って土日はバイトだっけ?」

 がっくりうなだれている春富に賀川は質問した。

 「うん、ファミレスでバイト。土日は自由にシフト変更できるから別にいいよ」

 「利華は?」

 「私は特別に用事はないからいいよ。どうせ暇だし」

 となれば今週の週末あたりにチョコづくりをすることがベストだろう。

 早めに作るのもあれだし焦って遅めに作るのも帰って分が悪くなる。

 「じゃあ、今週の土日でもいい?」

 「私はいいよ」

 「私もいいわよー」

 すでに二人は脱力モードだ。余程疲れたことがあったんだろう。

 鈴川も連日といろいろ立て込んだことがあったから疲労もそれなりに溜まっている。

 「でも蘭はいいの?」

 賀川から質問された。

 「何が?」

 何のことか分かるはずがない。

 「瀬原君の事」

 顔がこわばる。

 別に悪い意味ではない。ついつい反応してしまっただけだ。

 ただでさえ最近話していないとはいえ名前を聞くだけ何かと反応してしまう毎日が多い。

 授業中先生に名前を言われたときに思わず声を上げてしまった自分が何かと恥ずかしい。

 さすがにばれてはいなかったけれど。

 「別に普通だよ。いたって普通。普通」

 とりあえず普通を強調する。

 でも春富がジト目で鈴川を見てるからついつい表情が引きつるからかえって怪しい。

 「蘭嘘ついている」

 「え?私?う、嘘なんてついていないよ」

 二人を目を合わせないように逸らしながらなんとか誤魔化す。

 「そういえば蘭て嘘ついているときって目を逸らすよね」

 「え」

 不覚だった。

 自分では何度も友人である賀川から言われていたことが今ここでそんな場面で突かれるなんて思ってもいない。

 「話してないじゃん。今日だって昨日だって一言も顔を合わせていないじゃん」

 「まぁ今あんなことが起こっていちゃね」

 あんなこととは当然瀬原と獅子堂の対立。

 彼女もおおよその事は分かっているけれどこちとら口出しができない。

 「ま、私も私で少しあったから蘭のこと言えないんだけれどね」

 「やっぱり・・・・・あの時のって利華と瀬原君だったんだ」 

 わかっていた。

 賀川自身も予想はしていたことだからこれはこれでいい方だろう。

 会話の内容を聞かれていたらどうなっていたのか。

 「仲直りはしたの?」

 「利華がそんなことしたら今もこんなにピリピリしていないよ」

 春富の言っている事は最もだ。

 先ほども口論をしてしまった。

 あれは自分が不機嫌だったせいかもしれないけれどどのみち口論となってしまったのは変わりはない。 

 「あとは古川さんだよ」

 「古川さんて一組の?」

 名字にクラスまで知っている事は鈴川も知り合いなのか。

 「中学校は違かったけれど顔ぶれは何回かあったからね」

 奇遇だ。

 とりあえず鈴川とは顔を合わせたことがあるくらいの情報は分かった。

 「で、古川さんがどうかしたの?」

 「それがさ」 

 春富がさっきまでの出来事を一通り説明した。

 意見箱の中に紙切れが入っていて、もしかしたらと思ったらそのもしかしてで『青春乙』初めての依頼用件だった。

 その依頼のクライアントが今まさに会話に出ている古川さん。

 バレンタインの日に中学校時代から好きだった賀川架に告白したいとか何とかで一言で言えばさっさと告白しちまえよって言いたくて、そういう風にさせたくて一心に思っていたけれど届くはずがない事くらいわかっている。

 けれど賀川たちはこの依頼を引き受けることができなかった。

 具体的に言えば引き受ける気になれなかった。

 「確かに自分の恋を他人と協力して叶えるなんてあまりにも虫が良すぎるわね」

 「多少の協力はありがたいだと思うけれどそれが逆に苦になることが多い」

 「そうそう」

 つまりは自分の恋路は自分で歩んでいけという事になる。

 実に趣深い解釈であるがそう言っている彼女たちはどうしようもできない。

 「はぁ、ほんと意味わからないよね」

 「恋ってそんなに憂鬱なのかな」

 会話している二人の前で鈴川は顔が全てふさがるくらいまで腕の中に蹲っていた。









 部活が終わってから俺は獅子堂に屋上へ来いと召集された。

 行かなくもいいかなと最初は思ったのだけれど後のことを冷静に考えたうえで俺は最終的にはいくことにした。

 部活の最中に鈴川とどこかに行っていたみたいだけれどそれはもういい。

 でもその事をもし聞いたとしたらどうせあいつの事だから情報漏洩をするに決まっている。

 部室から屋上までは結構遠いからつくづくエレベーターが欲しい時である。

 歩きで行くと足がパンパン。走ればかなりの痛みが出てくるはずだ。 

 さて、獅子堂からどんな言葉が街受けているのか。

 楽しいようで焦燥感に包まれそうな感じだ。

 屋上へと入ると柵際に背中を向けて立っている獅子堂の姿があった。

 さっきまで風は吹いていなかったのに今は結構な強さで吹き付けている。

 屋上だからなのかはたまた酷寒の終わりを告げる風なのかあたってみると予想以上に生暖かかく夕方の風とは思えなかった。

 俺は獅子堂の元へと歩いていく。

 足音に気付いたのか獅子堂は俺の方へと振り向いた。

 「で、何の用だ」

 「今日はずいぶんと機嫌がよさそうだね。何かいいことあったの?」

 「以前も言ったかもしれないけれど無駄な前振りは止せ。本題を早く言ってくれ」

 「そうだね」といいながら青空に描かれている飛行機雲を見ながら空を仰ぐ。

 「決断はできた?」

 「言っている意味が分からない」

 「とぼけないでくれ。勝負の決断はできたのかって聞いているんだよ」

 「なんで俺とおまえが勝負する前提になっているんだ?」

 「だって蘭の争奪戦でしょ?」

 まるでお宝を奪われた人物とお宝を奪った怪盗みたいな関係性を持たれているような気がする。

 わかっているけれど鈴川はお宝なんかではない。

 グランドからは野球部の声が聞こえる。

 さらに昇降口付近では下校中の生徒で賑わっている。

 俺たちの間で沈黙が流れ始める。

 俺はずっと獅子堂の顔を見てこいつが何をたくらんでいるのか。何がしたいのか考える。

 けれどこいつの顔はこの前とは違う表情をしている。

 にっこりと嫌みと貪欲、更に見たものに憎悪感を与えさせようとしている俺の前で見せている顔とは違く、真剣なまなざしだった。

 「それで、どうするわけ?このまま僕との勝負を放棄して蘭を貰ってもいいの?」

 「断る」

 「じゃあ、潔く引き受けなよ。僕と・・・・真剣勝負をしようよ」

 どっからどうみて悪党っぽいセリフを吐きやがるな。

 ここで勝負を受けずに時が過ぎたらどうなるのか。 

 俺と鈴川の関係は一体どうなるのかそれは神のみぞ知ることだ。

 そして俺が勝負を受ければどうなるのか。

 勝てば今まで通り、あるいはそれ以上に鈴川と良好な関係を築けるのか?

 選ぶのは二択。

 それ以外の選択は『逃げる』のみ。

 ここで勝負を引き受けずにこいつに鈴川にやるのか勝負を引き受けて鈴川との関係を取り戻すのか俺の合理的な判断が問われる。

 「受けてやるよ」

 俺は言った。

 この勝負受けてやる。

 「そうこなくちゃ」

 獅子堂はさっきの表情とは一変しいつもの厭味ったらしい顔でそう答える。

 「勝負の内容は加賀架の情報を集められるだけ集める。もちろん自力で。そして一番貢献できたひとを古川さんに選定してもらう」

 えらい簡単な勝負内容だな。

 「そんな単純でいいのかよ。鈴川争奪戦だろ」

 「そうだけれどまだ勝負内容は一つと入っていないよ」

 なんだよ。もう一つあるじゃねえかよ。

 「二月の十四日。ここで僕は君と戦う」

 「はぁ!?」

 戦うってなんだよ。

 いわゆる決闘か?

 カードゲームで?

 「残念ながら拳と拳のぶつけ合いだよ」

 「さりげなくかっこいいこと言うなよ!?」

 「それでも、受けるんでしょ?」

 うう、

 思わず後ずさってしまう。けれど、もう迷わないと決めた。決めたものにはもう手は付けない。

 「やってやるよ。何があろうとやってやるよ!!」

 ズビシ!!っと俺は人差し指を突き立てて獅子堂に勝利宣言を下してやった。

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